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ワンタヌキアーミー3

前回の話

Σ国とΩ国の戦争は、誰も予想していなかった15年目に突入。
「あと少しで終わるはずだ」を何年も繰り返し、ただ疲労だけが積み重なっていく。
国も民も、兵も将も、みな平等にくたびれていた。

Σ国のタヌキ投入作戦は、「使えるものならタヌキにも縋りたい」という、無限地獄による狂気の発露だったのかもしれない。もし運よく狸の化け術でΩ国を翻弄することが出来れば、この苦しみから解放される。そう思った軍の気持ちを、誰が責めることが出来るだろう。

それが出来るのは巻き込まれた化け狸1匹だけだ。縋られた側にとってはたまったものではない。作戦成功によって予想以上の称賛を浴びながら、狸は脱出の機会をうかがっていた。爆弾付きの首輪を外し、山へと帰るために。

Σ国の秘密兵器となった狸は、次第に兵士との関わりを増やしていった。無論、内通者を作るためである。狸にとって、関係者を作るのは簡単だった。愛想を振りまき、でっち上げた身の上話を明かせば、人々は堕ちた。それは殺伐とした戦争の中で癒しを求めていたためか、摩耗した人間性を取り戻そうとしたためか。いずれにせよ、好都合だった。

「お父ちゃんは猟師に撃たれて死んだっす」「可哀想にな……」
「山はええとこっす。土はふかふかだし、美味しい餌もいっぱいあるっす。あったっす……」「ごめんな……」
「オイラ、いつうちに帰れるんすか?」「……」

ひたすら情に訴えた。やがて機会が来れば、誰かの良心が、この首輪を外してくれるはずだ。そう信じ続けた。

そしてそれは、予想より早くやってきた。Ω国軍が、狸の居る地点を襲ってきた。この攻撃は予測されていたものであるが、敵の兵力は予測されていたものではなかった。これには先のタヌキ投入作戦が影響している。Ω国は狸に化かされたことなぞ知らない、故に敵の戦力を多めに見積もり、油断なき状態で襲撃したのだ。

知らず知らずのうちに兵力の水増しをしていたΣ国軍は劣勢に追い込まれ、一人また一人と銃弾に倒れていく。蹂躙の最中、一人の兵士がコンピュータを操作する。その胸には致命傷。残された命を、彼は狸を逃がすために使うことを決意したのだ。そして、狸の首輪は外された。

狸は自由の喜びをかみしめ、直後に自分の置かれている状況を整理した。敵軍の襲撃の中、脱出するのは得策ではない。どこかの物陰に隠れ、やり過ごすのが良いか。直後に飛来してきたミサイルは、そんな甘い考えを一撃で吹き飛ばした。下手に隠れれば瓦礫に押しつぶされるか、自分ごと更地にされるか。そのどちらかだ。とんでもない状況で首輪を外してくれたなと、恩知らずな言葉が漏れた。

狸は走り出す。この状況で逃げるのは至難の業だ。向かう先は決まっている。武器庫(葉っぱ置き場)だ。

【続く】


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