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4月1日土曜日、社会人7年目

6年ぶり

「2023年4月1日(土)」
4月1日が土曜日にあたるのは、2017年以来のことだった。
ネットで「4月1日が土曜日だった年」とかで検索すれば、その検索通り該当する年を知ることが出来る。
が、私は検索しなくてもすぐに思い出せた。

自分の誕生日すら何曜日だったかなんて覚えてないのに、
4月1日の土曜日だけは忘れられない。

その日のことだけじゃなく、その日からの事が頭から離れない。

新生活が始まった日

「2017年4月1日(土)」
学校卒業後、正社員として就職した日だった。事務職だった。
あえて、自宅から離れた都会にある会社へと就職した。
一番の理由は、退勤後に遊ぶため。
ゲームセンターでUFOキャッチャー1万円分やってみたり、
当時すでに好きだったお笑いライブを見に行ったり。
とにかく都会で遊びたい!なんか大人っぽいじゃん!
とか思っていた。
もちろん面接ではそんなこと言わなかったけど。
ていうか、大人っぽい、のか?

…遊びの話は置いといて、4月1日に戻ろう。

早朝4時起き

会社が遠い&入社式に遅刻するわけにはいかない。
ということでこの日は余裕をもって朝4時に起きた。
夜間学校に通っていた私にとって、あまりにも早すぎる時間。
Oha!4を見ながら支度。ZIP!のオープニングを見て出発。

出発してから気づいたけど、あまりにも早く出過ぎた。
途中、乗り換えの駅で1時間ほど時間を持て余してしまった。
駅のホームのベンチでひたすら本を読み続けていた。
カフェで時間をつぶそうという考えはなかった。都会のカフェがなんだか怖くて入れなかったのだ。

緊張の入社式と違和感

駅のホームで時間をつぶして、ちょうどいいぐらいの時間に会社へ着いた。
ここで待機するように、と応接室へ案内され、他の新入社員と入社式の始まりを待っていた。
新卒だけでなく中途採用の人も多かった。会話をして緊張を解いてるひともいたが、自分にはできなかった。
ただ会話を作り笑顔で黙ってうなずいて聞いてることしかできなかった。

入社式自体は短時間で終わった。
その後は各配属部署ごとで入社手続きと研修が始まった。
入社手続きの書類を一通り書き終えて、上司に提出してから、30分近く別室で待った。この時間がとても長く感じた。
無音。ときどき部屋のないところから壁をコン、と叩くような音(ラップ現象?)。
最初のうちは、同じ部署に配属された新卒社員と話していたが、お互い緊張していて話が弾まず、途中からお互い無言になった。

無音で何もしないでいると、こんなことが思い浮かんだ。

「ここで働きたくないなぁ」

単純に働きたくないなぁ、じゃなくて、ここで働くの嫌!と思った。入社初日からこんなことを考えてたら終わりだ。
でも直感で何となく、違和感を感じていた。
よくない雰囲気と、自分に合わない空気を感じ取っていた。
会社見学の時点では感じられなかったものだった。

何となく、じゃなかった

その後、研修の日々が1か月続いた。
この研修期間だけは楽しかった。
というのも、この期間は事務職がほぼ無く、会社の理解を深めるために他の部署で楽しい仕事をさせてもらっていたから。
そこにいた上司も皆面白くて優しい人たちばかりだった。

楽しい研修期間が終わって、元の自分が配属された部署へ戻ってきた。
研修期間にいた部署はにぎやかだったが、
配属された部署は、シーンとしていた。

事務職専門の部署だったからこんなものか、と思ったが、あまりにも静か。電話以外でしゃべってる場面はほとんど記憶にない。
上司にわからないところを聞こうにも声をだしづらいなと感じていた。
新卒社員と「ラジオとか音楽とかかけてほしいよねー」と話していた。
今思えば、そんな音の流れてるオフィスのほうがめずらしいだろうけど。
学校を卒業したばかりで一般的な環境もわからずにいたから、そんなことを思っていた。

静かさにもいろんな種類があるけど、
ここでの静かさは、暗くて重苦しかった。

そして入社してから2か月、3か月、日が過ぎていくごとにその暗さと重さは増していって、
会社全体に何となく流れていたよくない空気が、自分にまとわりつくような感覚になった。

壊れていく自分

気づけば、他の新卒社員や派遣社員が定刻で帰っている中で自分だけ残業を強いられる日が多くなった。

上司に対して、他の新卒社員が「すみません」という言葉を使っても何も言われてなかったのに、自分が「すみません」というと「そんな言葉ありえないよ、申し訳ございませんでしょう」と注意された。

他の新卒社員が分からないところを聞いたときはニコニコして答えていたのに、自分が聞きに行くと眉間にしわを寄せて「はい…」と嫌そうな反応をされた。

「いわれたことは付箋を貼るとかメモするとかして」
ある時上司にそう言われたが、すでに実行していることだった。
一度聞いたことを何度も聞かないようにするために。実際、同じことは聞かないようにしていた。
(でも上司には見えてないのかもしれない、もっと見えるように書かないといけないのかな。)
デスクやパソコンのモニターに、付箋を積極的に貼るようになった。

しかしなぜかミスが増えていった。
自分で自分の入力したものを再チェックしたうえで上司に提出していたが、その自分の再チェックに強い不安を感じるようになった。

自分の行動や仕事に自信を持てなくなっていた。

2回、3回、4回…ひたすら見返す。
ミスがないことを確認して上司に提出する。
それでも不安でビクビクしながら他の仕事に移る。
しかし不安は的中して、上司から呼び出されてミスを指摘された。

(あれ・・・?)
自分の異常にはうっすらと気づいていたが、
それよりも、自分が完璧な仕事をこなせないことに対して、苛立ちと悲しみを感じていた。
(もっとちゃんと書いて覚えないと)

完璧にできない自分が許せない

デスク上の付箋とメモが増えていく。
でもミスは減らない。
出来たと思っていても出来ていない。

自分がご飯を食べること、楽しむことにすら罪に感じていく。
朝食はもともと飲むゼリーしか食べていなかったが、それさえも吐きそうになって喉を通らなくなった。昼食もおにぎりから飲むゼリーに変化し、夜ご飯は一口食べるのが精一杯になった。

他の新卒社員と外へランチに行ったときは何とか食べれた。
その時に言われた。
「上司さ、ゆらこちゃんへの当たり強くない?」
あ、私の感じてることは間違ってないんだ、と思った。
その新卒社員は上司から嫌な顔をされていない。うらやましかった。

(きっと自分が完璧じゃないのがいけないんだ。)
そう思って自分を責め続けることには変わりなかった。

片耳がだいぶ聞こえにくくなり、耳鳴りも頻繁にするようになった。
夜は疲れてるはずなのに眠れなくなった。
訳もなく涙が止まらなくなることが増えた。
電車に乗ることもつらくなった。よく頭が痛くなった。

オフィスに響くタイピングの音や、ペンを置くだけのほんのわずかな音でさえも、自分の神経を削っている音のように思えて、耳障りになった。

(気が狂いそう。もう狂っているのか。
ミスが減らない。自分のことが許せない。)

ある日。
小さい引き出し、電話機、受話器、パソコンのモニターの縁、キーボードの余白、デスクマットの下が、付箋やメモで埋め尽くされていることに気が付き、強い絶望感に襲われた。あと少しで貼るスペースがなくなりそうなぐらい貼られていた。

こんなに書いてるのに出来ていない、間違っているといわれる。
同じタイミングで入社した新卒社員は新しい業務を任されていた。

自分は迷惑ばかりかけて何の役にも立っていない。

他の人が出来ていることが出来ない。
出来ないことをこの先ずっと続けていくのか、ここで。

入社から4か月が経っていた。

消えてしまいたい

夏。新卒社員が定時で帰ったあと、上司以外に派遣社員の人と自分が残って仕事をしていた。

仕事の終わり際にもミスをした。
どうしてそんなにできないのか、と上司が険しい顔をしながら私にいろいろ言ってきたが、恐怖と耳鳴りであまり聞こえてなかった。

ひととおり言い終えて、最後に上司が険しい顔のまま言った。
「私はあなたのために言っているのよ」
嘘つけ、と思った。このころは、もう誰の言うことも信じれない状態になっていた。

1時間ほど残業して退勤。
もうこの場所から逃げたい、来たくない、と思っていた。

この日、初めて派遣社員の人と帰りが一緒になった。

最初で最後の救世主

その派遣社員さんは年上で、とても柔らかい雰囲気の人だった。
退勤時間が同じタイミングになったのはこの日が初めて。

そんなに話したこともなかったが前向きな言葉をから話していた。
「上司の当たりが強い気がしていて、メモとったりとかもしてるんですけど全然できないんですよね~。ごはんもあんま食べれなくなっちゃって、私ができないのがいけないんですけどね~アハハ」
笑顔で明るく話した。もうすぐ分かれ道だし、軽く済ませなきゃと思った。

しかし派遣社員さんは何かを察したようで、
「ちょっとカフェに寄り道していかない?」
と言ってくれて、近くのカフェに立ち寄った。

具体的に話した内容は覚えていない。吐き出すのに必死だったのだろう。
自分は一時的に泣いたような気がするが、相手まで悲しそうな表情をさせてはいけないと思い、なるべく冗談を交えたり、笑顔を絶やさないようにして話続けていた。
派遣社員さんはずっと優しい笑顔でうなずいてくれて、私がネガティブなことをいったときはそれを否定して前向きな言葉をかけてくれた。

何となく覚えてるのが、「働き方は人それぞれだから、正社員で働くことが必ずしもいいことだとは限らないよ。私だって派遣としていろんな場所で働いてきたから」と言っていたこと。自分は考え方がカタいところがあるので、その言葉だけでも救われたというか、気づきを得た。

たぶん1時間ちょっとは話していた。
カフェを出て、派遣社員さんにお礼を言って、
「無理しないようにね。お疲れさま!また明日ね」
と言って派遣社員さんは帰っていった。

しかしその「明日」に会うことは無く、
翌日、予約していた心療内科に行き、
翌々日、退職する旨を電話で伝えた。
急に出た退職の話だったからか、上司には引き留められたが、
今までの厳しい態度が噓のように、急に優しい口調で引き留めてきたことに怒りがこみ上げた。

もう社会常識的にありえなくてもいいから、
すべて言って別れようと思い、冷静な口調で、
「病院で診断書をもらいました。休養が必要だと言われています。あなたたちにストレスのはけ口として扱われることに疲れました。もう耐えられません。」
と伝えて振り切った。

その場にいる人にしかわからないことだし、受け取り方も人が違えばまた異なっただろうけど、少なくとも私にとっては不快でしかない環境だった。

新生活のスタートから4か月半。
社会の歯車になり切れず、
それから約半年間、引きこもりになった。

新社会人としてのスタート、失敗

まさかこんな早く仕事を辞めることになるとは。
当時、自分自身でも驚いていた。
せめて一年間は続ける、それで大丈夫そうならさらに一年…。
そんなふうに考えていたのに、4か月?半年も続かなかった。
学生時代にやってたアルバイトのほうが長く続いていた。

「周りの大人に申し訳ない」という気持ち

就活中、たくさんお世話になった学校の先生に対して、
申し訳ない気持ちになった。

就職が決まって、卒業の時も、
あんなに祝福をもらっていたのに。
期待させておいて、こんな結果になってしまって…。

今思えば、そんな申し訳なさなんて感じる必要なかったと思うが。
とにかく病みすぎて負の感情に支配されていた。

順調じゃないのは自分だけ?

同級生の近況が気になって、同級生のTwitterを見てみたら、
みんな好きなこと、やりたいことに対してまっすぐに頑張っていて、
仕事を辞めてる人なんていなかった。

みんな華やかな新生活。

自分は、自室で電気もつけずに真っ暗なまま過ごしている。

「こんなことになってるの、自分だけだ」

心療内科に通い、かなり弱めだという心の薬を飲んでいた。
でも弱くても結局眠気が襲ってきて、昼夜問わず眠り続けた。
いつからか夜は眠れなくなって、深夜から昼にかけてゲームをし続けていた。
社会の役に立つことなんてひとつもしていない、何も生まない無意味な時間。
幸いだったのは、働いていた間にお金を使いたがらなかったのでそこそこの貯金があり、自分のことはある程度何とか出来ていたこと、ぐらい。
でも好きだったはずのお笑いは見れなくなっていた。

自分だけが堕ちていく。
社会からハブられる感覚。

なんで自分ばかりがこんなに不幸なんだろう。

ゲームをしてない時、起きてる間、気を抜いたらそんなことを考えていた。
家庭環境や、過去の学生生活など、不幸要素を並べてみては、自分のことを嫌いになっていった。

今のところ、人生の中で一番暗い時期だった。

社会人7年目になって思うこと

それから6年たって、いろいろあったけど社会人7年目に突入した。

自分が不幸だと感じる理由は、好きなことをやりたい!という気持ちに素直になれず逃げ続けていたからだろうと思っている。

まだ初心者ではあるけど、告知画像制作とか、動画制作、Webデザインとページ制作、Vtuberのキャラ制作、お笑いライブのスタッフ…いましていることは全部好きなこと。自分の意思で決定して始めたことだ。楽しい!

それでも新卒当時の気持ちが忘れられないのか、
毎年、春になってスーツ姿の新入社員らしき人をみると、心が苦しくなって目をそらしてしまう。

なんだろう、この感覚。

社会人1年目だった自分と照らし合わせてるのかもしれない。
希望に満ち溢れたような、キラキラした姿を見ると、
当時の自分より順調な新生活送ってたらうらやましいなと思ったり、
その輝きが社会の中でつぶされないでほしいと願ったり、
複雑な気持ちになってしまう。

しかし他人の事を考えてる場合ではない、自分の人生に集中しないと!
と思って気にしない努力はしているけれど。

真っ暗だった過去。忘れることはできない。
でもこれから先の未来を明るくすることはできるはず。

今からでも遅くない。
目の前の事を頑張って楽しい人生って思える道をつくっていきたい。



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