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閉店のお知らせ

こんにちは。

株式会社フェリーチェの青池と申します。
東銀座にイタリアンレストランを3店舗経営しております。

いつもはFacebookやInstagramを使って、お知らせや告知をしてきたのですが、今回は長文になるのでnoteにて初めて投稿します。

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大変残念なお知らせですが、この度弊社3店舗のうち、
「トラットリア・ダ・フェリーチェ」は7月31日(金)のランチタイムを以って閉店。「ラ・ボッテガ・デルマーレ」は現在休業中ですがこのまま再開することなく閉店となります。

残る「ラ・ボッテガイア」ですが、こちらの店舗をこのままの屋号で営業するのか、1号店で今年10周年の節目を迎えた「フェリーチェ」の屋号を引き継いで営業していくのか、それとも全く違う業態に変更するのか、いづれにせよ現在「ラ・ボッテガイア」がある物件(中央区銀座3-12-15細谷ビル1F)のみ賃貸借契約を維持し、なんらかの活動を行っていくつもりでいます。

4月8日の緊急事態宣言発令に基づき、全店舗とも4月と5月をほぼ休業し、5月27日より営業を再開しました。

銀座という繁華街、オフィス立地では休業前の様子を見てもかなり苦戦を強いられることは覚悟しておりましたが、想定以上にお客様の足は戻らず、また数か月先すらも見通せなかったため、このままでは経営が成り立たなくなると判断し、断腸の思いで閉店、事業の縮小という結論に至りました。

これまで贔屓にしていただいたお客様には突然のご案内になってしまったことを大変申し訳なく思います。この場を借りて、お詫び申し上げます。

3店舗共にお客様との時間を少しでも長く取って、皆様にこれまでの御礼を直接お伝えができれば良かったのですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、そのような機会を設けずして去っていくことをどうかお許しください。


撤退に至った経緯

今回の決断に至るまでの経緯を時系列でお伝えします。

多少プライベートなことなど脱線もしますし、また今回のことを忘れないために書き残しておきたいという意味合いも強いので、決して読みやすい文章ではないかと思いますがご了承ください。

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2020年2月中旬ぐらいから弊社3店舗にも、新型コロナの影響は徐々に出始め、2月末には次々とご予約のキャンセルが続き、3月にあった団体様のご予約や貸切などは全てなくなっていきました。

皮肉なことに、2010年2月に創業し、1号店「トラットリア・ダ・フェリーチェ」をオープンしたのが、2010年の3月5日。ちょうど10周年の節目のタイミングで、新型コロナウイルスが日本にもじわじわと侵食してきました。

​そんな折にも拘わらず、3月2日に私の友人たちが「ラ・ボッテガイア」に集い、10周年のお祝いパーティを開いてくれました。予約がどんどん減っていき、かなり精神的にも参っていたころです。参加してくれた友人たちからはたくさんの元気と勇気をいただきました。その時の心情をFacebookの投稿でこのように綴っています。


私のメッセージに応じて、3月はたくさんの知人・友人・常連さんたちがお店に足を運んでくれました。そのおかげで、私が普段店に出ている「ラ・ボッテガイア」は連日のように満席が続きました。この界隈では一番賑わっていたのではないかと思えるほどでした。ただし、他の2店舗については通常時の65%ぐらいの売上になっており、かなり厳しい状況となっていきました。

3月末には緊急事態宣言の発令がいつ出るのか、というようなことをちらほらと聞くようになり、週末には東京都の外出自粛要請、そして近隣県からの東京への移動自粛要請が出されるようになりました。弊社は全店舗共に日曜定休のお店ですが、緊急事態宣言発令前の2週については土曜日を臨時休業としました。

通常営業だけではかなり苦戦を強いられておりましたが、各店舗で新たに始めたテイクアウト販売や、前年にリリースし本来は店頭受け渡しのみだった「テリーヌ・ショコラ」の通販なども始めるようになったのもこのころです。お客様からは「がんばれ!」「コロナに負けるな!」のエールとともにたくさんのオーダーをいただきました。後先考えず、やるだけのことはやってみようと矢継ぎ早に始めたところ、テリーヌ・ショコラの生産が追いつかなかったり、テイクアウト用の容器が品薄で手に入らないなんてこともありました。

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4月に入ると、街からは人通りも消え、予約が入ることはほぼなくなりました。界隈の飲食店も休業に入るところが少しずつ出てきたのを覚えています。また各店舗の店長からは、仕入れを今後も続けるのかどうか(お客様がいらっしゃらないのに、どのぐらいのメニューを用意しておくべきなのか)と相談されるようになったのもこのころです。いよいよ我々も休業すべきなのかどうか、迷っていた矢先に、政府から緊急事態宣言の発令がありました。私は緊急事態宣言が出ても、もうしばらくは営業を続けるつもりでおりましたが、あることがきっかけで即休業に入ること決断しました。

メンバーとは笑顔で「また元気に会おう!」と再開を誓って、またキャリアが浅いスタッフには課題を出し、一時休業に入りました。私に示唆を与えてくれたMくんとは営業再開後、毎日一緒に仕事をしていますが、彼の笑顔を見るたびに、この時の判断は間違っていなかったと今では自信を持てるようになりました。

4月8日の緊急事態宣言発令後、私以外のスタッフは全員ステイホームとなりました。私は一人お店に自転車で出勤し、たくさんのオーダーをいただいたテリーヌ・ショコラを焼いてお送りしながら、同時に街の様子やお客様の動向などを日々チェックする毎日がスタートしました。

休業後すぐの4月10日は私の誕生日だったのですが、飲食業を生業としてから、自分の誕生日を初めて家族と一緒に過ごすことができました。本来であれば歓送迎会シーズン真っ只中の金曜の忙しい夜ですが、この日ばかりはゆっくりと幸せな時間が流れていました。大変だったこれまでの期間をそばでいつも支えてくれたのはやはり家族でした。

4月も後半になると、銀座界隈のお店はほとんどがクローズ。一部営業しているお店も東京都の営業自粛要請をしっかり守り、20時閉店。近隣のイタリアンのお店の方から話を聞くと、ランチはまだわずかに売上が立つものの、ディナーは1組のご来店があるかどうかとのことだったので、我々がお店を開けていても同じ状況だったのは間違いありません。

銀座からこんなにも人がいなくなるのかと、そんな街の光景をよく目にしました。

ちなみに4月はテリーヌ・ショコラなどの売上があるものの、通常時の11%まで売上が落ち込みました。

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5月4日には東京を含む特定警戒都道府県は緊急事態措置の延長が決まり、我々は休業を延長することにしました。ただし、周りの飲食店さんはGW明けぐらいから次々と営業を再開し始め、ランチどきにはある程度の人出も見受けられるようになりました。

私も、従業員そしてお客様の感染リスクが低く、一時期の脅威がもう去っているのであれば、しっかり感染対策をして早期に再開したほうが少しでも今後のアドバンテージが取れるのではないかと街の風景を見ながら、気持ちが焦り出していました。

緊急事態の延長か解除か、日々刻々と変わるアナウンスに営業再開を私の一存では決められず、最後はスタッフ全員にヒヤリングをして決めることにしました。

全てを汲み取れたわけではないですが、多くの意見を鑑みて、緊急事態が解除されるまでは休業を継続することにしました。東京以外から通勤し、家族がいるスタッフが多い弊社ではまだまだコロナの脅威が去っていないことを実感した瞬間でもありました。

5月末まで延長されると思っていた緊急事態も予定より少し早い5月25日に解除の宣言があり、翌日の5月26日に我々も約1ヶ月半ぶりに再結集しました。

10時から全員でミーティングを行い、この期間にどのように過ごしてきたかなど、近況を報告し合いました。新型コロナ感染防止策や今後の営業スケジュール、営業時間などを共有し、最後に私からペライチの資料を皆に渡して、会社、そしてお店存続のシミュレーションを説明しました。

もし通常時の売上の4割で推移していくようであれば、あと3か月で撤退。仮に7割ぐらいまで戻ったとしても、ようやく年を越せるかどうかということを皆に財務状況を見せながら現実を理解してもらいました。

「さあこれから!」
と集まった皆には酷な話だったかと思いますが、なんとか7割の売上まで戻せば、年を越して次の景色が見られるかもしれないから、後悔のないようにやるだけやってみようと伝え、ミーティングは解散。翌日からの営業に備えて、各店舗で仕事に入ってもらいました。

そして5月27日より営業を再開。
久しぶりにお客様をお迎えでき、「待ってたよ!」「また通いますね!」「再開おめでとう!」と温かい言葉をたくさん頂戴しました。

また仲間たちと一緒に仕事をする喜びも改めて感じることができ、1日通して営業した日は久しぶりに心地よい疲れが残りました。

5月はしっかり営業できたのが数日のみということもあり、通常時の94%減の売上と4月より更に落ち込みました。


再起をかけた6月がスタート。
席の間隔を空け、これまでの7割ぐらいで席が埋まる状態にもかかわらず、ランチの営業は良くて通常時の半分。
ディナーに関しては毎日数組のご来店。2名様が多く、当たり前ですがこの時期に集団でのご来店は見込めず、また店舗によってはノーゲスト(お客様がゼロ)という日も続きました。

東銀座という立地の特性上、メインのターゲットはオフィスに勤務するお客様なのですが、その方たちの多くはテレワークや分散出勤が進み、会社にいらっしゃるのは週2~3回。

またランチは召し上がったとしても、ディナーをオフィス近くで召し上がるという方は本当に少なく、会社によっては会食が制限されているところもあるようで(逆に郊外や住宅街の飲食店はご家族連れで混み合っているところも多いと同業者の方から聞きました)、お客様が少ない理由も十分納得できました。私がお客様の立場でも、家族のいる自宅から繁華街までわざわざ足を運んで外食しにいくようなことは、やはりないのではないかと思います。事実飲食店で働く我々ですらも、外食の機会は減っています。

ただ手をこまねいているわけにもいかず、少しでも集客に結び付けばと思い、YouTubeで「Ao's トラットリア」というレシピ動画を始めてみたり(こちらはWebメディア「クウネル・サロン」で取り上げていただきもしました)、テイクアウトや通販の強化のために、新たにそうざい免許や期限付きの酒販免許を取得して活路を見出そうとしましたが、大きな穴を埋めるには及ばず、毎日苦しい展開が続きました。


また6月に入ってすぐ、2店舗でスタッフが1名ずつが37.5度以上の発熱をし(営業再開後より毎朝検温し全員で共有する中)、1週間ごとに自宅で待機するという事態にもなり、1店舗については再開後10日間営業をして再び休業に入ることになりました。

これまでであれば、良いか悪いかは別として(良いわけはないのですが..)、多少の発熱があっても本人が動けるということであれば、ピーク時に無理のない範囲で仕事をしてもらって乗り切ってきましたが、withコロナの時代にはそうはいきません。

発熱を含め、少しの体調不良でも出社を控えてもらう必要があり、そうなった途端に我々のような小さな店ではまともに営業できなくなる可能性が今後も十分出てくることが事実として判明しました。

発熱した2名のうち1名は風邪、もう1名はマイコプラズマ肺炎でした。診断が出るまで、また出てもなおPCR検査をしたわけではないので、新型コロナに感染した可能性が全くないとは言い切れず、出勤して欲しい(出勤したい)のに、彼らの出勤を認めるか否か、体調不良者が出た場合の扱いがとても難しいことが同時に分かりました。

6月半ばを過ぎてお客様は少しずつ増えてきたものの、劇的に変わるようなことはなく、売上は低迷したまま。いよいよ6月下旬にはどう頑張っても通常時の4割すら越えないことが見えてきました。

営業を再開してみてわかったのは、
・新型コロナが収束するまで、街(オフィス)に人が戻らないこと
・外食の機会が激減していること
・席数を減らした状態では仮に満席になったとしても採算が取れないこと
・従業員の体調不良=即休業になる可能性があること
・万が一新型コロナに感染した場合はスタッフはおろかお客様の健康に被害を及ぼしかねないというリスクは何も変わっていないこと
・そして我々が生き延びていくための売上には到底及ばないこと
でした。

このころの私の口癖は
「どうしよう…、どうしようかな…」
をひたすら繰り返すのみ。

しばらくは赤字を垂れ流してでも希望を捨てずに耐え凌ぐのか、それとも取り返しがつかなくなる前に、撤退、縮小するのか。でもその場合、雇用はどうする?みんなの生活は?そして撤退する費用も決して少なくはありません。続けるも地獄、退くも地獄です。

「もう少しがんばってみるか…」
「いや、前みたいにはもう戻らない…ここは撤退だよな」

と振り子が揺れるように、
その時々、瞬間瞬間で考えが行ったり来たり。

ですが、日を重ね、毎日のお客様の予約状況をみるたびに、私の考えは撤退に傾いていきました。

そして、私を8年間支え続けてきたくれた一番の古株のJさんが

「タカさん(私の呼び名)、もうこれ以上続けるのは難しいんじゃないですかね。我々のことはいいですから、会社とタカさんだけはなんとか生き残ってください。皆はオーナーとして最後まで戦ってくれたことに感謝していますよ」

と、迷い悩んでいた私の心を軽くしてくれて、次の進むべき道に踏ん切りがついた瞬間でした。


えっ、いきなり2店舗も⁈さすがに閉店は早いんじゃないか、もう少しやってみてから判断しても良いのでは?と思われる方も多いかと思います。借入を増やし、当面凌ぐことももちろん考えましたが、新型コロナがいつ収束するか分からない現状ではただただ負債を増やすことになり、また新しいことにチャレンジしようにも、先に固定費の支払いに消えていくのは明白で、おそらく投資する余地はないでしょう。

政府からの給付金や助成金、東京都からの協力金はすべて申請しました。国からは「会社を存続させて、ちゃんと雇用を守ってくださいね。そのための助成金ですからね。経営者の皆さん、お願いしますよ」というメッセージが込められている大事な大事なお金だとは思いますが、私は早々に楽な道を選ぶことにしました。

もっと大変な状況にある企業さんやお店もたくさんあるでしょう。そんな中でも必死に雇用を守られている経営者の方がほとんどではないかと思います。同じ状況下にも関わらず、閉店しているお店がまだ少ないのがその証です。

そのような皆さんに比べれば、まだまだチャレンジできること、そして余力があるのにもかかわらず、今回このような結論に至ったのは、ただただ私の覚悟のなさ、そして経営者としての力不足に尽きます。

料理雑誌『dancyu』に「東京で十年。」という井川直子さんの連載がありますが、2010年3月にオープンした「トラットリア・ダ・フェリーチェ」はたくさんの方に支えられて、移り変わりの激しい東京のど真ん中で10年と少し営業することが出来ました。

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32歳で脱サラをして、飲食店の経営など全くわからない素人の私が、人生をかけてスタートした夢の場所でした。幸い多くのご縁に恵まれ、順調に2店舗目バルスタイルの「ラ・ボッテガイア」、3店舗目富山のシーフードを使った「ラ・ボッテガ・デルマーレ」とそれぞれコンセプトの違うイタリアンをドミナントで出店し、たくさんの方に愛されるお店を作ることが出来ました。

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山あり谷ありの10年でしたが、閉店や撤退を考えたことは一度もなく、この先も15年20年と続けていけるかなと漠然と思い込んでいました。

勢いのままに、起業のきっかけも含めて、この10年を振り返りたくなりましたが、それではいくら時間があっても足りないので、また別の機会に。

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店舗というのは不思議なもので、時間が経てばもちろん経年劣化で物理的には朽ちていくのですが、これまで一緒に仕事を続けてきたスタッフの努力や苦労が店の隅々まで染み渡り、その上からお客様と共有した時間が更に積み重なって、逆に味わいを増していくような気がします。

その雰囲気を纏った空間に身を置くと、たくさんの思い出が蘇り、やはり悔しくて悲しくて泣けてきます。私は開業以来ずっと現場に立ってきたので、自分のお店で食事をする機会はほとんどなかったのですが、他の誰よりも私自身がお店のファンであり、また産みの親としてどの店舗も愛おしくて仕方ありません。閉めた後の喪失感はどんな感じなのでしょうかね。

なんだか湿っぽい話になってしまいましたが、下を向いてばかりではいけませんね。うちのスタッフは皆すでに前を向き始めています。
事業は縮小しますが、命まで取られたわけではありません。私を含めて皆が8月から新しい歩みを始めるだけです。

今後はというと
1つだけ契約を残した12坪しかない小さなお店で、本当の生き残りをかけてリスタートします。これまで通りやっていたらどのみち撤退です。スモールダウンしたことで、挑戦できることが増えます。なので、やれるだけのことをやってみます。

まずは少しだけ芽が出てきた「テリーヌ・ショコラ」や「チーズケーキ」をよりたくさんの方に召し上がっていただくべく、通販や小売りなどの物販を拡充していきます。ぜひまだの方はお試しください。

他にも、ワインの販売や、出張料理、ケータリング、料理やワインのレッスンなど何が出来るかわかりませんが、わずかな可能性をも閉じることなく、チャレンジしていこうと思っています。

私が10年前起業する際に定めた理念は
お客様に幸せな時間と空間を提供し、お客様が最も愛するレストランを目指す」ことでした。

これからは「レストラン」という枠には捕らわれず、お客様がいらっしゃる場所に幸せな時間と空間を提供できるようなサービスを目指していきます。

ちなみに、
「幸せ」はイタリア語で
「FELICE(フェリーチェ)」

そうです、弊社の社名です。

小さな小さな会社ですが、
一人でも多くの方に「幸せ」をお届けできるように、
初心に返ってゼロからスタートします。


最後になりましたが、
皆さまの支えなしには、新型コロナなど関係なく、ここまで続けてくることは到底不可能でした。長きに渡り、我々の店舗を愛していただき、本当にありがとうございました。

そして、今まで一緒に戦ってきてくれた全てのスタッフの皆さん、そしてご家族に感謝します。皆さんとの日々は私にとっての宝物です。本当にこれまでありがとうございました。

1日も早い新型コロナウイルスの収束と、また平穏な日々が訪れることを心よりお祈り申し上げます。

令和2年7月12日
株式会社フェリ―チェ
青池 隆明


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その後について

■閉店の日のことを綴りました。
【ご報告】7月31日閉店致しました」(2020年7月末日)

■1店舗をリニューアルして再開しました。
営業再開のお知らせ」(2020年9月12日)

■閉店してから3ヶ月経った心境を語りました。
宜しければご覧下さい。(2020年10月末日)



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