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古くからある生活の「動き」〜頭上運搬

ヒトの祖先である霊長類が樹上生活をやめて地面に降り、二足歩行がはじまります。
アフリカ大陸から自由に世界へ移動していくわけですが、生きていくのに必要なものを運んだことでしょう。
ものの運び方には、持つ、担ぐ、背負うなど色々ありますが、原初的な方法で頭上運搬があります。
頭上運搬とは、頭の上に物を載せて運ぶことですが、ヒトが原初の頃から行われた理由として「複雑な運搬具を必要としないこと、野獣など外的に襲われたとき、荷物を放り出して逃げるに適していること」1)と推測できます。
今でも、アフリカやインドのマーケットではみられるようです。

上の映像をみてみると、なんとも自然な感じであり、身体には強ばりがなく荷物を運んでいて余裕を感じます。

アスリートやダンサー、武道家の鍛錬された「動き」も感動しますが、
生活の中で培われ、しっかり根ざされた身体技法も、無理がなく美しさがあります。

この頭上運搬ですが、日本でもかつて各地に存在してました。
頭の上に壺を掲げた埴輪は出土されていますし、大原女は薪を頭に載せて京都に運んでいました。
沖縄では1980年代半ばまでごく日常でみられた光景のようです2)。
以下にtwitterからの引用を載せましたが、赤瓦を頭に載せ華麗に屋根を歩き作業をしていました。


明治時代の大原女『京都府写真帖』(1908年〈明治41〉)


頭の上に載せた物が傾いたり、こぼれないように安定して保つには、身体の方をしなやかに動かさなければいけません。
骨盤帯や体幹の安定はもちろんですが、胸椎が柔軟に動き、肩の力は抜けて、顎は引かれ、視線は水平面で正面を見ることになります。
動きながら重力と仲良くし、微細なコントロール、身体全体で動くことが必要になります。
無駄な力を使わないためには、余計に筋肉の力で支えるのではなく、骨が重力線に沿って長軸方向にダイナミックに安定して使えていることが重要です。骨は長軸方向への圧迫に対し最高の強度を示します(3)。

雑誌Natureによると、東アフリカのルオ族とキクユ族の女性を対象にした研究から、自分の体重の20%までの重さであれば、余分なエネルギーを消費せずに運べることが分かっています(4)。

しかし、スマホやディスプレイを眺めることが日常になった現代人が頭上運搬には注意が必要です。
無理に行うと、首や肩に不快な負担をかけるでしょう。

例えば、本を頭の上に載せて立ってみるを試してみると面白いです。
本を安定させようと、無理に頭を起こそうとすると首の後ろに違和感を感じるかもしれません。俯いて近い距離の小さな空間を凝視することが習慣になっていれば、過剰に働かせている後頭下筋や頚椎にさらに負担を強いることになるかもしれません。
でもちょっと慣れてきたら、身体のいろんなところに意識を向けてみると面白いです。

自分の足のどこに体重を載っけているのか?
骨盤の傾きはどうか?
床からの反力がどのように背骨を伝わっているのか?
本の重さのベクトルは自分の身体のどこを通っているのか?
無駄に緊張しているところはないか?

そのような問いかけをしながら、自分の「からだ」とコミュニケーションしていくとコツが掴めていきそうです。

もし、安全に試してみたいのならば折りたたんだタオルでやってみると良いかもしれません。お風呂で湯船の中で試すのもよいでしょう。

最後に

今では物を運ぶのに、リュックサック、キャリーケース、ショルダーバッグが主流です。頭上運搬で山手線に乗ったり、通勤するのは難しいかもしれません。

実際に頭上運搬をしなくても、頭には思考という荷物が載っています。
中に労働からやってくる固い思考もあるでしょう。
でも、地に足がついていて、骨格を良いアライメントにできれば、レンガを取りこぼしたりせずしなやかに進んでいけそうです。バングラディッシュのレンガ運びの達人のように。



<参考文献>
(1)川田順造(2014)「<運ぶヒト>の人類学」,岩波新書.

人類学者の視点の深みと面白さを感じました!凄い!

(2)三砂ちづる,【第3回】「トゥジと頭上運搬」『少女・女・母・婆 〜伝えてきたこと、つないできたこと、切れてしまったこと〜』

『少女・女・母・婆』の連載は27回あり、後半はnoteにあるのですが、頭上運搬についても詳細に考察されていてとても参考になりました!

(3)Donald A.Newman(2005)「筋骨格系のキネシオロジー」,医歯薬出版.

  私が持っているのは初版のですが、現在は第3版が出ています。


(4)GMO Maloiy et al(1986)Energetic cost of carrying loads: have African women discovered an economic way?.Nature.


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