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わたくしとは無理でも、AVでは・・・? 【#2 Feeling good ever! 〜お相手はポルノ依存症〜】

 五歳年下の恋人のタケシさんと最後まで愛し合えない。

そのことを悩んでいた淑女研究家のわたくしは、ダイエットや勝負下着に頼ったものの、成果は出ず。

しかし、やっとその原因が判明したのです。

原因はわたくしではなく、


風水なのです!


殿方にとって重要な台所が北西にあるのを確認したわたくしは、大きく頷きました。
自分以外に原因があることを見付け、喜びのあまり夢中でピンクのシーツやトイレマットを検索します。


いや、でも待って?

親指でどんどん商品をカートに入れながら、わたくしは我に返りました。
勝手に部屋の模様替えすることは、以前書いた‘結婚を焦る女性がするNG行動、十三項目’のうちの一つ、‘自分の物を少しずつ部屋に置いてマーキングする女’と酷似しています。

結婚を焦る女性は男性を引かせる行動を取りがちです。淑女のみなさまは気をつけましょうね、という内容の記事を思い出し、わたくしは青ざめました。

いくら精力がおつきになっても、このことが原因で振られてしまっては意味がございません。


わたくしは携帯を右手で弄りながら、どうしたものかと頭を捻りました。
せっかく自分以外に原因を突き止めたというのに。ここで諦めるわけにはいきません。


タケシさんのお部屋の代わりにホテルに宿泊するのはどうでしょうか。
風水的にピッタリなお部屋をあらかじめ予約しておけばいいではありませんか。
名案だと喜んだものの、寝具やインテリアまで理想通りのホテルを見付けるのは大変なことに気付きます。


インテリアをこちらで用意するのはどうでしょう? いや、でも、寝具、バスマット、石鹸置き、スリッパなど、ホテルに宿泊する度に持っていく必要があります。

部屋をグルグル回りながら考えていたわたくしは、どうしても避けたかった結論にたどり着きました。


わたくしのお部屋に風水を取り入れ、タケシさんを呼ぶ。

これが一番自然ですが、今のお部屋に引っ越してから三年間、一度も掃除したことがないのです。

汚部屋を片付けるためには、風水でコーディネートする以前に、どれくらいの時間と体力を使う必要があるのでしょう。

他に方法はないものか、と検索を続けていると、パートナーのEDに悩む女性のブログに目が留まりました。

‘性に悩むすべての男性を勃ち! なおらせる奇跡の祈祷師’、

とタイトルが付いたブログに目を通すと、祈祷師のお陰で六年四か月振りにパートナーと夜の営みができるようになった体験談が書かれております。


思わずブログに張られていたリンクをクリックすると、その祈祷師とやらのホームページに目を通しました。
携帯の待ち受け画面に設定するだけでEDが治るという画像や動画が11111円でダウンロード可能のようですが、効き目はあるのでしょうか。

ダウンロードするか悩んでいると、‘お母さま’、‘着信’の文字が携帯電話にディスプレイされました。

どうせ、ロクでもないご連絡に決まっています。

鳴り続ける携帯電話から目を逸らすと、デスクの上で開きっぱなしになっているタケシさんのノートパソコンに視線が留まります。

恋人のパソコンや携帯電話を勝手に見ることは、‘幸せなパートナーでいるための十三カ条’に反する行為です。

またもや、以前自分で書いたコラムの内容が思い出されましたが、風水云々の前にタケシさんに性欲があるのか、恋人のわたくしには知る権利があると思い直しました。
鼻から息を吐くと、パソコンを起動させるべくタケシさんの誕生日や携帯番号など、思い当たる番号をどんどんパスワードに入力していきます。


「シャァッ」

タケシさんの仕事用メールアドレスのアットマーク以前の文字を入力してログインに成功したわたくしは、思わずガッツポーズを取りました。

パソコンの中身は、所有者の頭の中と同じです。
さぁ、見せていただきます。

スペインのトマトをぶつけ合う収穫祭、ラ・トマティーナの赤一色に染まった町や人の画像が映し出されたパソコンのトップ画面と向き合ったわたくしは姿勢を正しました。

画像や動画が保存されたファイルを探すと、仕事で撮影したと思われる、お見合い写真や宣材用と思われる画像が沢山保存されております。

わたくしのビジネスプロフィール写真もタケシさんに撮影して頂きましたが、構図やポージングはもちろん、画像処理が施された写真はどれもよく似て見えます。
写真にも、撮影する側の趣味、趣向が反映されるのでしょう。
わたくしは、なんとなくいい気持ちがしないままフォルダーを閉じると、地名の付いたフォルダーに視線を移しました。

‘東京’、‘京都’、‘沖縄’、‘テキサス’、‘カリブ海’。

タケシさんは以前、海外などで作品を撮っていたと聞いております。
わたくしが赴いたことのない地を沢山訪れていらっしゃるタケシさん。
彼の目で世界を見ると、いったいどんな風景が広がっているのでしょう。
世界中の国や都市、地名が付いたフォルダーを見ながら、わたくしはタケシさんが今まで出向いた異国の地に思いを馳せました。

♯1から♯22まである‘カリブ海’のファイルから、試しに♯2を開いてみると、画像ではなく、映像が流れ始めます。

天気が悪いのでしょう。
わたくしが抱くカリブ海のイメージとは違うグレー色の空と海を背景に、白のロングドレスを着たアジア人女性が一人砂浜を歩いております。

タケシさんの作品は写真でしか見たことがなかったわたくしは、映像の中の女性を凝視しました。

スタイルのいい童顔の女性は、タケシさんの元恋人のモデルと似ている気がします。
フェイスブックを駆使して調べた女性のプロフィール写真を思い出し、わたくしは胸がザワザワしてきました。

息を詰めてパソコン画面を見つめていると、女性がロングドレスの細い肩紐をずらし、服を脱ぎ始めたではありませんか!


これ以上、見てはいけない気がいたします。


わたくしが映像を停止しようとすると、二人の男性が女性を取り囲み、ビーチを背景におっぱじめました。
 

こ、これは、プライベート映像? それとも、アダルトビデオでございましょうか。


映像を急いで止め、わたくしは頭を整理しようと試みました。


野外、しかも複数でされるのがタケシさんはお好きなの?

想像していなかった形で発見した映像に混乱します。
息を整え、もう一度映像を再生すると、映像の中の男性がタケシさんじゃないことが確認できました。
ホッとして映像を眺めていると、盛り上がりを見せる三人の背景に「焼き蛤」と日本語で書かれたのぼりが見えました。

フォルダー名をもう一度確認するも、やはり‘カリブ海’、♯2と名前が付けられております。

明らかに日本の海なのに、タケシさんはなぜ“カリブ海”と名付けたのでしょうか。
‘カリブ海’♯6を見てみると、スポーツジムのプールのような場所で、競泳水着姿の女性と筋肉質な男性が交わる映像が保存されております。
試しに‘京都’フォルダーを開くと、和装姿の女性が乱れる映像が保存されておりました。

もし、この地名の付けられたフォルダーすべてにアダルトビデオが保存されているのならば、タケシさんは、もの凄い量のAVを所有していることになります。

わたくしは首を捻りながら‘京都’フォルダーを閉じました。

タケシさんは、アダルトビデオのカメラマンなのでしょうか。

それとも、アダルトビデオがお好きなだけ?

インターネットを開き、パソコンにブックマークされたサイトを一つずつチェックしていきます。

デザイン事務所やインテリアショップ、タケシさんが尊敬しているとおっしゃっていたカメラマンのホームページなど。ブックマークされているサイトはオシャレなものばかりで卑猥なサイトは見つかりません。

インターネットの閲覧履歴調査に着手し始めると、どこからか軽快なラテンのリズムが聞こえて参りました。
アメリカのテレビドラマ、‘セックス・アンド・ザ・シティ’のテーマソングです。


「もしもし千春さん? 今日の会議、忘れてませんよね?」
携帯から響くスタッフの冷静な声に、わたくしは現実に引き戻されました。
「もちろん忘れておりません」
わたくしは携帯を頭と肩で挟み、履歴に表示されたアドレスに目を通しながら答えました。
「十一時からでしょう?」
「十時です」
しまった。
「ですからあのー、アレです。今回の化粧品と連動できそうな企画を、そちらでまとめておいてください」
「わたし達だけで進めていいのですか」
「もちろん。まさか、わたくし抜きで進められないわけでは、ございませんよね?」
わたくしはスタッフにキビキビと指示を出しつつ、表示されたホームページアドレス横の時間帯を調べました。
 

一番最近の閲覧履歴は3月20日、7時58分。

大型ホームセンターのホームページでした。今朝、タケシさんが仕事で必要だと言っていた商品を調べていたことを思い出します。
次の履歴は3月19日20時17分。
履歴をクリックすると、品位の欠けるサイトが表示されました。
「シャァ!」
「どうかしました?」
「いや、ごめんあそばせ。こっちのお話です。とにかく今、事務所に向かっ……」
スタッフの質問に適当に答えながら、わたくしはあることに気づきました。
「千春さん?」
 閲覧時刻を見たわたくしの思考が一瞬停止していると、携帯電話から心配そうなスタッフの声が聞こえてきました。
「今日って、何日でしたか?」
「20日ですけど」
「ですよね?」
スタッフの回答に頭を傾げながら、履歴に残った日付と時刻をもう一度確認します。
3月19日20時17分。
昨晩、わたくしがタケシさんのお部屋に着いた時間も、これくらいでございます。
スタッフの電話を切ったわたくしは数秒の間、放心状態で履歴を見つめていました。

恋人を抱けないのに、一人でコトを致してるってこと?
わたくしという恋人に会う直前でさえ?
わたくしとはお勃にさえならないのに、こちらのアダルトビデオだとお元気だと。


そういうことでしょうか?


万が一、タケシさんがアダルトビデオのカメラマンだったとしても、考えれば考えるほど納得がいきません。

わたくしはタケシさんのアダルトビデオ購入履歴が記されたページを携帯電話ですべて撮影し、‘カリブ海’、‘京都’、‘東京’、‘テキサス’などと書かれたフォルダーの中身も時間が許す限り調べていきました。


第3話へつづく▼

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