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魅せる技術 【♯8 Feeling good ever! お相手はポルノ依存症】

勝負下着や風水、祈祷師に頼り、思いつく限り全力を尽くしてタケシさんに挑んだ夜。

わたくしは、アダルトビデオに敗北いたしました。

しかし、


ここで終わらせると思って?



「次回のコンテンツ記事は、これでいかさせてもらいます」

‘AV女優から学ぼう! 男性を虜にするテクニック’

と、ホワイトボードに大きく書くと、淑女研究家のわたくしはスタッフの皆さんへ体を向けました。

第一話から読みたい方はこちらから▼


「千春さん、なんか目が怖い」
誰かが呟くのが聞こえましたが、わたくしはそれを無視すると企画書を配りました。

「ターゲットはズバリ、セックスレスで悩む女性、でございます」

わたくしの発言に、皆さまザワついておりましたが、かまわず言葉を続けます。
「いくら淑女を目指すわたくし達とて、サラダを取り分けたりモテ服を着るだけが愛されることではないことくらい、わかっているはずです。淑女とて、いや、淑女だからこそセックスで男を落としたっていいでしょう?」

「千春さん、下ネタ系嫌いじゃありませんでしたっけ?」

熱っぽく語っていたわたくしは動きを止めました。
確かに、下ネタは苦手でございます。

「いいえ」

わたくしは自分に言い聞かせるようにスタッフに答えました。

「これは下ネタではなく、性の問題でございます」


そうよ。これは、生きる上で大切な、大人のための性教育なのです。

「恋人を求めるシングルの女性からセックスレスでお悩みのご夫婦まで、幅広い女性に役立つ実践的かつ大胆な内容にいたしましょう。男性のファンタジーを日々叶えている日本のポルノは秀逸で、世界中の男性の夢を叶えているのよ? ここから学ぶべきことは多いはずです」

「中国でも日本のポルノ、人気あります」
「ほら! ね?」
中国から来たインターンが賛同してくれたことを受け、わたくしは力強く続けました。
「日本のみならず、世界中の殿方の夢を叶える日本のアダルトビデオに焦点を当てるのは実にいい考えだと思うの。ねぇ、そうじゃありません?」

連日連夜、寝る時間を削りアダルトビデオ研究をしていたせいでしょう。いつもよりテンションが高くなっていることに、わたくしは自分自身で気付きました。

「この企画はオラクル・ド・ボーテとも絡ませるつもりですか? だとすると、セックスに悩む女性が化粧品の広告をクリックするには、少し導線が弱い気がしますが」
「企画書の四ページを開いて下さい」
わたくしは冷静な香織さんの質問に答えるべく、新商品のボディクリームについて記載されたページを開くよう、指示いたしました。

「今回の商品は当初、オーガニック処方のアンチエイジング用ボディ化粧品として発売する予定でしたが」

わたくしはそこまで言うと、一瞬間を置き、ホワイトボードに‘塗るだけで治る、セックスレス’という商品のキャッチコピーを書きました。
「今回は、セックスレスに効く全身用乳液として売り出す方向で決定しました。このことは先方にも了承済みです」
「女性のコンプレックスは金になる」と言っていたくらいです。
ターゲットを“セックスに悩む女性”と変更したところ、峰岸さんはすんなりその案を受け入れました。

「“AV女優から学ぶ”とありますが、うちが取材するのですか? それとも、その業界に詳しいライターに記事を書かせるのでしょうか?」
「聞いてくれて、どうもありがとう」
わたくしは質問したスタッフにお礼を言うと、外に控えているルナさんに聞こえるよう、大きな声で名前を呼びました。

「ルナさん、カッモォン!」

わたくしの掛け声と共にドアが勢いよく開き、ピタピタのタイトスカートに胸元が開いた白いシャツ。パンプスに付いたピンヒールを鳴らし、ルナさんが颯爽と会議室に入ってきました。

「ルナだよ?」

黒縁メガネを少しずらし、上目遣いでポーズを取ったルナさんが、ロリ声で自己紹介いたします。

「今回取材させてもらうAV女優の姫野ルナさんでございます」
ルナさんは、ドイツ人と日本人のハーフです。グラビア女優として芸能活動した後、AVデビューした話題の女優さんなのだとか。

「ね? 可愛いでしょ?」
わたくしがルナさんを紹介すると、スタッフの皆さん、状況が把握できない様子で硬直しております。
「なるほど。もう女優さんにはアポを取られていたんですね」
香織さんが目をシパシパさせながら呟きました。
「オラクル・ド・ボーテは紳士用化粧品も揃っています。今回、ルナさんをフィーチャーすることで、今までターゲットに入っていなかった新しい男性ユーザーを獲得するだけでなく、商品購入にも繋がるはず。つまり、コンバージョンアップの可能性も期待できる。さらに、ですね? ルナさんは得意の英語、ドイツ語、トルコ語、日本語を使って情報を発信し、海外にも多くのファンを持っておられる。つまり、外国籍ユーザーも獲得できるわけです」
「さすが千春さん」
わたくしのお話に、スタッフの皆さんが感心したように頷いていらっしゃるのを見て、わたくしは細かく突っ込まれないように先を急ぎました。

「早速ですが、第一回目の‘男性をその気にさせる方法’について、今からわたくしが直々に取材することになっております。ということで、皆さん? ルナさんが緊張してしまいます。出て行ってもらえます?」

今回の企画はお仕事として、もちろん成立させるつもりですが、タケシさんとの問題が発端でございます。
わたくしはこれ以上質問が出ないよう、スタッフの皆さんを会議室から追い出したのでございました。

「女性だけの会社なんですね」
スタッフの皆さまが出ていくのを見計らったかのように、ルナさんは口をお開きになると、手入れの行き届いた指先でテーブルの上を撫でております。
「女性のニーズに応えようといたしますと、必然的にスタッフの皆さまも女性になってしまうのです」
「ふぅん。そう考えると、うちの業界とは真逆かも」
ルナさんはイスに座ると、物珍し気に会議室に置いてあるインテリアや本棚など見まわしてございます。

トルコ人のお母さまと日本人のお父さまを起源に持たれているルナさんは、日本人の肌より少し青みがかった白い肌をしておられます。高い鼻、長い手足、薄い茶色の瞳、少し赤身がかった茶色の髪。

この方が、本当にあの方なのでしょうか。

映像の中で見た、乱れたルナさんの姿を思い出します。
映像よりも、実物の方が遥かに魅力的なのです。

わたくしは実物のルナさんを見て、努力は持って生まれた骨格に敵わないことを実感いたしました。

「では、今回の企画内容について、早速ご説明させていただいてもよろしいかしら」
「‘男性をその気にさせる方法’ですよね? 見せる技術には自信があるんで、任せてください」

見せる技術?
ルナさんの口から飛び出した予想外の言葉。

わたくしは意味がわからず、ルナさんの美しいお顔を見つめたのでございます。





つづく▼ 「職業としてのAV女優」


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ラジオなんかでも喋っちゃったりなんかしちゃってます▼


「性、ジェンダーを通して自分を知る。世界を知る」をテーマに発信しています^^ 明るく、楽しく健康的に。 わたし達の性を語ろう〜✨