見出し画像

バットマンとメディアの引用(BATMAN(2016) #86)

 トムキングのシーズンがひと段落してから、はや2ヵ月。そろそろジェームス・タイニオン4世期(日本での愛称はタイⅣ)も一冊レビューしたいなと思い、筆をとる。

 ベインの支配をキャットウーマンと共に終わらせたバットマン。ただその代償はあまりにも大きかった。アルフレッドは死んでしまい、その結果、バットファミリーの絆は崩壊すれすれの状態。その上隙を突いたかのように嗤うバットマンがゴードン本部長を洗脳。更にゴッサムはベインの支配から未だ復興しきれていなかった。そんな折、バットコンピューターがダークウェブにて腕利きの暗殺者たちがゴッサムに集結していることをつかんだ。そしてその暗殺者たちの中にはデスストロークもいたのであった……。

 最初に強力な暗殺者たちを仕向け、これから起こる壮大な話を物語る見事な話の組み方なのだが……。

 ゴッサムに集結する暗殺者……そしてその中にいるデスストローク......。 どこかで聞いたことがあるような……?


あ、これバットマン:アーカムオリジンじゃん(日本語だとビギンズでしたね)

画像1

(アーカムシリーズおなじみのディテクティブモード)

 そうタイⅣのバットマンは実のところ、過去のバットマンのコミックス作品からの引用ではなく、過去のバットマンのメディア(アニメ、ドラマ、映画、ゲーム)からの引用が圧倒的に占めるのである。

 例えば、リドラーとペンギンが仲良くしているのはドラマGOTHAMからの引用だ。そして部下同士で次々と殺害させて最後に生き残った部下を自らの手で殺す。これは映画DarkKnightからの引用であるのだ。更に上記で上げたようにいくつかの新しいバットマンのガジェットもアーカムシリーズ出身のものだ。

 バットマンのコミックスから他のメディアへの輸出は多くとも、輸入というのは非常に珍しい。それも本誌となると非常に珍しいことだ。もちろん、バットマンの歴史の中で他メディアからの輸入はある。最も顕著な例としてはハーレークィンだ。

(彼女のアニメもシーズン2が決まったらしい。よかったね)

 彼女は元々、アメリカで放送されたバットマンアニメイテッドシリーズで登場したオリジナルキャラクターなのだが、そこでのダイナミックなキャラクター性が人気を博しコミックスへと輸入された経緯がある。(ウィキペディア情報によると、初の本格参入はノーマンズランドとのこと)しかし、直近で任されたライターの多く、グラントモリソン、スコットスナイダー、トムキング、はやはり過去のコミックスからの引用を多用しており、他のメディアからというのはめったになかった。特にバットマンのようなビックネームであると、その分、過去のコミックスのストーリーを持ってきて、現代の話に落とし込むというのはある意味、ヒーローコミックスでは王道ともいえるのだ。

 それに対して、私が主にタイⅣは彼なりに自分自身のバットマンの歴史に大きな変化を試みようとしているのではないかと思う。正直なところ、他のメディアからの引用というのはヒーローコミックスにおいて、非常に諸刃の剣的な部分がある。それというのも、ヒーローコミックスと他のメディアというのはある種で敵対的な関係になることもあるのだ。

 特にこれが顕著なのはMCUやDCEUやアローバースだろう。他のメディアというものはたびたび、元となった作品に幾つかのアレンジを加えたり、設定を変更をしたりする。それ自体は、別に間違ってはいない。ただし、時にその設定の変革が致命的なダメージを扱うキャラクターたちに与えることがあるのだ。例えば、最近なんかだと「ハーレイクイン華麗なる覚醒」なんかがそうだ。元々はBirds of Preyというバーバラ・ゴードン(バットガールもしくはオラクル)とブラックカナリー(ダイナ・ランス)が中心となって様々な女性ヒーローたちが集結しゴッサムで悪と戦うチームものだった。しかし、メディア化する際にBirds of Preyはハーレイクインのついでの扱いになり、もともとヴィランであり、コミックスでも未だヴィラン扱いであるハーレイのものとなったのだ。(さらにコミックスでもHarley and Birds of preyなんかをだしたりしてるし……)いわゆる世間でいう所の悪改変というものが、しばしば行われており、場合によってはコミックそのものにも悪影響が出る恐れがあり、既存のコミック読みのファンたちは非常にそういう悪改変を嫌っている節がある。(私自身、悪改変には思う所はむろんあるのだが……MOSとかMOSとか……)

 ただ他メディアはそういった悪影響だけでなく、大きな恩恵をコミックスに与えることもある。それこそバットマンは先のハーレイクインだけでなく、アダムウエスト版バットマンもその一つだ。アダムウエスト版バットマンといえば60年代に登場したヒーローコメディドラマものの金字塔であり、アダムウエストバットマンからバットマンを知ったという人も数多くいる。それだけでなく、ことバットマンに限って言えば映画、ドラマ、アクションフィギア、ゲーム、などなど多種多様なメディアにアイコン的に登場し、多くのファンを獲得したのも、また、事実なのだ。むろん近年のバットマンの形を作ったのはまず間違いなくコミックスのバットマン、「Dark Knight Returns」によるものだ。それでもその後のフランクミラーのバットマンに影響を受けた他のメディアは数知れず、そしてその他のメディアからバットマンに参入したファンも数多くいるのだ。

 そういった意味でバットマンは他メディアのレガシーを取り込み始めたのはある意味自然なことかもしれない。ただし、これは上記に書いたようにそのレガシーをコミックスに輸入することは非常に劇薬である。もし、利用を間違えてしまえば多くのコミックスのファンを失望させるような展開にもなりうる。それでも私はタイⅣの勇気を支持したいと思う。



 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?