スーパーコンシェルジュ 9-①

 9、晴れ舞台
 
 ①
 年度末も近づいたころ、店長から「政策発表会に出るように」という話が来た。って言っても、もちろん嶺谷マネージャー経由なんだけど。
 政策発表会っていうのは、全然知らなかったんだけど、毎年年度末に来年のそれぞれの部署を発表する、本部と店長、それからお店でもそこそこの中間管理職の人たちがそれなりに参加する、そういうことをやってるらしい。
 
 そう言えば食品のマネージャーとか、行ってた……かな、とかチーフはどうだっけ、とかその程度の記憶しかなくて、吉野チーフに聞いてみたら、吉野チーフは参加したことないって言うし。
 嶺谷マネージャーはもちろん出席したことはあるんだけど(もともと、野分店に来る前は本社の販売企画にいたということだから)、なんていうか、雲の上?
 
 嶺谷マネージャーも出席はしたけど、発表なんてしたことないっていうのに……
 店長曰く、各店のいくつかの部署で「成功事例の発表」というのがあって、それに3人で出て発表しなさい、ってことだった。
 
 持ち時間は一店舗15分で、今回は私たちのほかにはもう2店舗ほど発表するらしいんだけど、店長が言うには、堅苦しい発表ばかりだとアレだから、気分転換にフレッシュな空気を入れるためにするようなものなんだとか。そんなこと言われても、ねぇ。
 そもそも想像もつかないけど、嶺谷マネージャーがこの件を聞いて以来、結構ナーバスになっている所をみるとやっぱり大変なことなんだろうなぁと漠然と思う。
 
 なんせ3人で15分ってことはそんなに時間もないし、資料とかも最低限でいいから「実感」を話せ、と店長から言われてるので、ここの所、森川さんや宮原さんと顔を合わせるとその話になる。
 宮原さんはブログとその反響について話そうかなって言ってた。資料と言うかスライドにはいくつかの記事と、それに実際に寄せられた声みたいなものを発表すれば、5分とかすぐかなって。
 森川さんは部署の連携とか、本部との連携とか、そういう縦と横のつながりのことを話したいって言ってた。この仕組みになってから、売場内の情報共有がすごく進んでるってのが実感としてあって、それがお客様サービスの向上にもなってるっていう気がしてるって、そんな話。
 
 じゃぁ、私はなんだろう?
 具体的に話すには経験談とかになるんだろうけど、……なんとなく、そういう場所に来る人が聞きたいのはそういうことでもないような気がする。なんとなく、だけど。そうじゃなくて、もっと私たちの「強く思ったこと」「感じたこと」そういうことを聞きたいんじゃないかな。
 
 当日は、嶺谷マネージャーに連れられて、会場となっている、公共のホールへと向かう。本部の会議室とかでやるのかなと思っていたけど、それにしては人数多そうだし、その人数が入る会議室なんてあるのかなと思っていたけど、まさかこんな大きなホールを借りてるなんてことも知らなくて、それも新しい発見だった。
 
 午前中は本部の社長から始まって、販売企画部長、商品部長、それから商品部のバイヤーマネージャーという順番で、来年の政策についての発表があった。一応聞いてたけど、分かる話もあれば、難しかったり、凄いこと言ってるのかも知れないけどちんぷんかんぷんな話もあったり。やっぱりこういう所でもそれぞれの人の性格というか、タイプと言うか、そういうのって出るのかな、とかちょっと他人事みたいに聞いていた。
 
 それから昼食。昼食が終わったら、いよいよ肝心の「店舗成功事例の発表」ってことになる。昼食は近くのちょっと上品な定食屋みたいな所に店長が嶺谷マネージャーと一緒に連れて行ってくれた。
 「今日はどうした、みんな、静かだな」
 店長が茶化すように言うけど、みんな口には出さないけど緊張してるのがお互いに分かる。
 まだ「出ろ」と言われて何話そうかなんて思ってるうちは良かったけど、実際にあの広い会場と錚々たるメンバーを見て緊張するなという方が無理だと思う。
 
 ランチなのに1000円ちょっとする和定食で(自分たちだって普段はこんなもの食べてないんだぞ、いつもの頑張りに対するご褒美だって店長からは釘を刺された)きっと美味しいに違いないんだけど、っていうか美味しいのは間違いないんだけど、どうもイマイチいつもみたいに感動を味わえないのはやっぱり緊張してるってことで間違いない。
 
 「お疲れ様。ここ、いいかな?」
 突如斜めから現れた男性に声を掛けられた。
 向かいには店長と嶺谷マネージャーが座っていて、その隣り。
 「あ、お疲れ様です。どうぞ。……大分終わりかけてますが」
 「いや、それは気にしなくていいよ」
 
 店長と嶺谷マネージャーはよく知った顔と言う風に会話を交わす。襟にはリバティマートの社章がついてるから、社内の人、だとは思うけど。
 「こちらが野分店のコンシェルジュさんたちかな?」
 「……はい」
 ちょっと戸惑いがちの私たちの顔を見て、嶺谷マネージャーが慌てて
 「人事の三田村部長です」
 と教えてくれた。
 
 人事部長? と言われて、ちゃんと顔を見て、あ、と気づく。最初のあいさつの時に壇上に居たのはなんとなく記憶にあった。
 「かしこまらなくていいよ」
 三田村部長がゆっくりと笑った。
 

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