スーパーコンシェルジュ 9-②

 ②
 「日替わり御膳一つ」
 決めてきたのだろう、簡単に注文を済ませると、三田村部長はこちらへ向き直った。
 「どの方がどの部門の方かな?」
 「あ、自己紹介を……」
  嶺谷マネージャーが慌てて言った。
 
 「衣料服飾の宮原です」
 「住生活の森川です」
 「食品の佐藤です」
 私たちが声にする度に、三田村部長はさきほどと変わらない笑顔で、ゆっくりとそれぞれの目を見ながらうなずいた。
 「木谷さん、どの方も雰囲気がいいね。いい感じに行ってるんじゃないの?」
 「そりゃもう、一週間、ハゲるほど考えて決めた人選ですから」
 
 部長に褒められたことと、店長のその言い方に思わず笑ってしまう。それをきっかけにして、一気に場の空気が和んだ。
 「僕と木谷さんは同期なんだよ」
 「そうなんですか?」
 「今回の件は、木谷さんから『やりたい』という話があってね、なんていうか、悔しかったな……。出来ることなら、僕が店長だった時に僕がやりたかった、と思ったくらいだよ」
 なんとも返事のしようがなくて、なんとなく空気に合わせてうなずく。
 店長はすこし苦笑いするような顔で、黙って聞いていた。
 
 「まぁでも出来なかった、ということは事実だし、木谷さんがやりたいというのを聞いたとき、やっぱり思ってることは一緒だったんだなぁと少し嬉しくもあり、って言う感じでね。だから木谷さんには一つだけ、譲れないお願いをしたんだ」
 「お願い?」
 「頼むから、よくよく考えて人選をしてくれ、とね。この業務は個人の能力にゆだねられる部分がかなり大きいと思ったから、野分店の中で『この人以外は考えられない』という所まで考え抜いて選んでほしいって」
 それが、私たち……?
 
 「少なくとも間違いではなかったということが、今こうやって皆さんにお会いして分かった。今日も発表をしてくれる、という。本当に良かった、と思っている所だよ」
 「ありがとうございます」
 三田村部長もまた、この業務に思いがあって、そして少なくとも期待をしてくださってたんだということがひしひしと感じられる言葉だった。
 
 「仕事は、楽しいかい?」
 三田村部長が私たちの顔を交互に見ながら尋ねた。
 「はい」
 「楽しいです」
 3人とも、そこに異存はなかった。楽しくて、やりがいを持ってやれている。最初は戸惑いもあった。楽しいばかりかと言えばそうでもないような気もするけど、でも誰かに聞かれればためらうことなく「楽しい」と言えるくらいには楽しめていると思う。
 私ももちろんだし、他の二人もそう思っているだろうということは断言できる。
 そして多分、他の二人もそれぞれにそう思ってくれていると思う。
 
 「そうか、それが一番だからね」
 「楽しいことが、ですか?」
 「そう、楽しいことが。楽しいって言うのは、面白おかしいっていう意味じゃないだろう?」
 「そうです」
 「やりがいがあって、日々やりたいことがやれている時に、人は仕事を楽しいと感じると思っている。今回の人事は指名制だったから、本人の能力ももちろんだったけど、それ以上に本人がその仕事を楽しいと思ってくれるかどうか、それが一番心配だった」
 「指名制だと、そうならないんでしょうか」
 「いや、もちろんそんなことはないよ。でも僕は基本的に仕事って言うのは『その仕事をやりたい』と思ってくれてる人にやってほしいと思ってるんだよ。その方が本人の意欲が違うし、そうすると当然同じ仕事でもそうでない人がやるのとでは結果も違うし、ってことで、なるべく『やりたい』という人にやってもらうのが一番だと思ってる。だから今回の仕事も公募制みたいなことも考えなくもなかったんだ、ただ」
 「リバティマートの中では、誰もやったことのない仕事だったからね」
 
 突如入ってきたのは木谷店長だった。
 「私はこれを一番適性のある人にやってもらいたかった。公募制にすると、そういう人が尻込みしてしまうってことはあるだろう? だから公募制には反対したんだ」
 「そうだったんですか」
 嶺谷マネージャーが隣でしきりにうなずいていた。
 「適性っていうのは、なんなんでしょうか」
 
 小さいことは、いくつか心当たりはある。でも食品フロアの中で一番私に適性がある、と言う風には思えなかったので、思わず尋ねてしまった。
 三田村部長と店長が一瞬顔を見合わせた。
 「言わなかったかな、好奇心と、挑戦する心。それから情熱とプライド」
 
 今度は私たちが顔を見合わせる番だった。最初の二つ、うーん、三つ目まではともかく、プライドを持ってると言われるとなんとなくそうかな? という気持ちになる。他の二人も何を考えているのかまでは分からないまでも「あまり釈然としない」という顔だった。
 「自分では分からないかな。でも確かにあなたたちにはそれを感じるよ」
 そう言ったのは三田村部長だった。
 
 「私も、そう思います」
 嶺谷マネージャーもそう口にした。
 「日を追うごと、月を追うごとに、あぁ、この人たちで合ってたんだ、と思うことが増えて」
 そうだったんだ。まぁ、最初は嶺谷マネージャーも不安そうだったもんなぁ。
 「店内に、こういう力を持った人たちがいたんだ、ということが嬉しかったし、もっといろんなことが出来るんじゃないかって、そんな風にも思えて来て、私までワクワクをもらったりして、そんな風だったんです」
 
 嶺谷マネージャーのそんな言葉を聞くのも初めてだった。
 みんながそれぞれに試行錯誤しながらやってきた、でもそこに道は出来たんだなぁとそんなことを思った。

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