スーパーコンシェルジュ 9-③

 ③
 食後のコーヒーを三田村部長におごっていただいて、午後の部へと入った。
 3店舗が発表するのだけど、そのトリを野分店が務める。そして……私たちの発表順序も宮原さん、森川さん、そして私……ということで。私が本当の本当に最後になってしまった。まぁこういうのに「大トリ」とか関係ないかもしれないけどさ。
 
 最初の店舗はクリンリネスの業務改善の報告。二つ目の店舗は衣料服飾品の部門をまたいだ提案コーナーの報告。そして最後、私たち野分店はコンシェルジュ制度によるお客様対応の報告、と名付けられている。
 一店舗15分と言うことで、先の2店舗は一つの内容を数人で発表したけれど、私たちがやっていることはあまり一つにまとめられない(業種特性があるから)ということで、5分ずつの発表になる。
 
 宮原さんはブログによる情報発信と、それに対するお客様や社内の従業員の反響を。森川さんはコンシェルジュ制度に対するフロアと本部のバックアップ体制、および従業員の意識の変化について。そんなことまで言うなんて聞いてなかったけど、私が須山バイヤーにあれこれ話を聞いたエピソードとかもちょっと話したり、一つ前の店舗とも少し共通する内容があったりして、ほぼ滞りなく終わる。
 そして私。
 
 「私がコンシェルジュになったのは……今だから言えるのですが、本当に突然のことで、なるまで……というか、実際になってからも、自分でも全然ぴんと来ない時期が長くて、本当に試行錯誤の連続でした」
 
 話すことの内容とか、そういうことはあまりつじつまとか、カッコいいことを言おうとか、そんなことは考えていなかった。ただ、私が感じたこと、心の底から思ったこと、そういうことを伝えることで、この……コンシェルジュの仕事が広がって欲しい、という願いが伝わればなって。
 「店長と話をしても、言っておられることはとてもよく分かるのに、じゃあ何をすればいいんだとか、どういうことを勉強すればいいのかとか、そういうことも全然ピンと来なくて、ネットをただ探したり。
 でも、それでも何も分からない。正解がない、道しるべがない、それがこんなにキツイんだなーってしみじみ思ったのも、その頃です。とにかく、情報が多い」
 
 「でもふと気づいたんです。お客様もそうじゃないのかなって。今私たちももちろんだし、リバティマート以外の小売業も、メーカーも、飲食店も、例えば食だけとってみても、ありとあらゆる人たちが『情報発信』をしてる。そういう中で、もう洪水みたいになっちゃってるっていうか」
 
 最初の考えれば考えるほどの混乱を思い出す。そんな中で助けてもらったのは、会社であったり、お客様であったりのサジェスチョン。
 「そういう情報に押しつぶされそうな中で、それを選んで発信していく……情報のセレクトショップみたいな……リバティマートの食品フロアがそういう存在になれれば、お客様も安心してお買い物に来れるんじゃないかなと、そういうことを考えました」
 
 「ただ、それを選ぶにはやっぱり私自身の知識とか経験とか、そういうものに裏打ちされてないとむつかしいなって。でもそう考えたら、色んな方の色んな話を聞くのも、なんとなく方向性が見えてきました」
 なんとなく、日々の業務をしてた。なんとなく、色んな情報に触れてた。それじゃぁ多分流されるだけで、お客様ならそれでもいいのかも知れないけど、私たちは食品のプロだから、それじゃダメで。
 「さっき森川さんからも少し発表がありましたが、本部の商品部のバイヤーさんにもたくさんのことを教えて頂きました。店内の食品売り場の方はもちろん、他のフロアの方にも。それから、宮原さんや森川さんと言った他のコンシェルジュの方にも」
 
 口にすると、胸が詰まるほどの感謝の想いが湧いてくる。行き詰ったら、誰かが助けてくれた。一人じゃないから、頑張ろうと思えた。みんなの期待を背負っていると思えたから、投げ出そうと思わなかった。
 こんなにも、助けられていた。
 「本当に、たくさんの方に助けていただいたんです。この場を借りて御礼を申し上げます。本当に、本当にありがとうございます」
 頭を下げた。感無量ってこういうことだろうか。泣きそうになった。でも、これで終わるわけには行かない。私が、本当に伝えないといけないこと。
 
 「今の自分に満足しているかと言えば、それは全く満足していません。でも、やれることはやってきたかなと思っています。そして、願わくば、もっとこの仕組みが広まって欲しい。日々の仕事の中で、最初に申しあげたように、お客様は困っているのだと思います。だからリバティマートがそのお客様を助けてあげようと思ったら、こういう形が一番なんじゃないかな、って」
 
 言葉にはしないけれど、以前感じた不安というか、怖れ。もしかしているかもしれない、リバティマートに期待して、そしてがっかりさせてしまったかも知れないお客様。
 それでも、リバティマートに来てくださってるお客様。これからも来て下さるであろうリバティマートに期待してくださっているお客様。
 今までの償いは、これからのそう言ったお客様の期待に応えていくことだと思うから。
 
 「だから、私はこの仕組み――コンシェルジュが、どの店にも、どの業種にも広まって欲しいと思います。今、この瞬間も困っているお客様をお手伝いするためだけじゃなくて、――それはもちろんしないといけないんですが――『リバティマートなら』って期待して来て下さるこれからのお客様のために。もっと豊かな生活を送りたいと思っているお客様のために、そうすることで、リバティマートが本当にお客様にとって必要な店になると思っています」
 
 伝わったかな。伝わってるといいな。私は深く一礼をして、壇上を離れた。

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