スーパーコンシェルジュ 7-①

 ある日、一般食品のバイヤーからメールが届いた。
 「この前ちょっと話をしていた展示会の話だけど、行ってみる?」
 そんな内容で。
 平日なんだけど、もうシフトは決まっている時期だった。
 
 「この日、なんですが」
 「行って来ればいいよ。大丈夫」
 吉野チーフは二つ返事でオーケーをくれたんだけど、なんとなく申し訳ない気分になる。
 「何、気にしてるの?」
 笑われる。
 「いや、いいのかなと思って」
 
 「休みは休んでるじゃない。大丈夫よ」
 「……そう、ですよね」
 
 考えてみれば、私が休んでも回るようにサービスカウンターはシフトを組んであって、今回の件は別に遊ぶために急遽休みが欲しいというわけでもなくて、れっきとした勉強の場としていくわけだから、そんなに気にすることもないのかもしれない。
 頭ではそう理解できるのだけれど、なんとなく気になるというか、申し訳ない気分になるこれは、どういう気持ちなんだろう。
 「その分、また新しいこと勉強してきてくれて、教えてもらったり、役立ててくれればいいよ」
 吉野チーフはそう言ってくれた。
 
 「ありがとうございます」
 お言葉に甘えて、行ってくることにする。今まで経験のない世界だから、ちょっとそれに不安を持ってしまっている、っていうのもあるのかな。うーん、自分の性格的にそれもないわけじゃないかも知れないけれど、あまりそういうんでもない気もするし。自分的に行かなくていい言い訳を探してるような気がして、心を入れ替えた。うん、だめだ、こんな弱気になってたら。
 
 当日、向かったそこは、普段から色々なイベントに使われている公共施設だった。こういうビジネスにも使われているんだと初めて知って、ちょっとびっくりする。
 「ば、バイヤー、これってどうすればいいんですか?」
 「ま、とりあえずはついて来な」
 軽く笑って、人ごみの中に進んでいくバイヤー。普段は広々とした空間なのに、今日はパーテーションで仕切ってあって、メーカーさんたちのブースになっている。
 店頭……という言い方が正しいのかどうかはわからないけれど、入口には売場みたいに半円のテーブルやさいころ型のボックスなどに商品がきれいに陳列してあって、値札がついていないこと以外はお店みたいだった。
 
 バイヤーもとりあえずはあいさつしないといけないメーカーさんがいくつかあるみたいで、その中のいくつかにおつきあいしたけど、後ろで話を聞くことは出来ても、商談内容とかは大半がちんぷんかんぷんで。
 「雰囲気、分かったか?」
 少し退屈してるのがばれちゃったかな。
 「えっと、多分」
 首元には吊り下げ型の名札を付けている。でも何か分からない肩書で、バイヤーに「どちら様で?」と聞かれたメーカーさんも「あぁ、そうですか」と軽く流すメーカーさん、一方で「へぇ、どんなことをされてるんですか?」とあれこれ聞いて来たり、「だったらこういうのはどうですか」と積極的に色んなことを勧めて来て下さるメーカーさん、とさまざまだった。
 
 こういう所でも温度差があるんだなぁと、改めてそんなことを思う。でも何人かの方には名刺をいただいたりしたし、もちろんその中には野分店担当でありながら顔を知らない方とかもいたりしたのでこれから何かあったら連絡出来るかな、とかそんなことを考えてみたり。
 もちろん、食品担当だった時からの営業さんも何人もいらっしゃって「あれ? どうしたんですかー」とか声を掛けてもらって嬉しかったりなんていう経験も出来た。
 
 「なら、ちょっと個別に行こうか。自分の見たいもんもあるやろしな」
 「いいですか?」
 「一時間くらい? とりあえずそこで一旦もう一回合流して、その先は状況次第、ってことで大丈夫か?」
 「はい、大丈夫です」
 「じゃ」
 
 バイヤーと離れると、急にいろいろ不安になった。バイヤーと離れて、私のことを分かってくれる人なんているんだろうか、っていうか、いないだろうな、という不安。
 でも、バイヤーが回ってるのはいわゆるNB(エヌビー)と言われる大手さんが中心で、私的にはもう少し地域の小さくてもちょっとこだわった商品なんかを扱っているメーカーさんを回ってみたかったから、よかったことにする。
 
 回ってると、一区画「地産地消」コーナーみたいな所があった。
 こういう所はやっぱり気になるよね。バイヤーは来れないか、来てもあまり時間が取れないんじゃないかという気がして、こういう所こそちゃんと私が見てみよう、なんてそんなことを考えた。
 「こんにちは」
 そこそこ忙しそうな感じだけど、すぐ気付いて声を掛けて下さった。聞いたら日本海の方で「藻塩」を作ってるっていう業者さん。藻塩かぁ。
 片手にちまっと載るくらいの袋で、500円ほど。じっさい野分店でも一品扱っているけど実は買ったことがない。
 
 「しょっぱさがまろやかで、うまみがあって、おいしいんですよ」
 藻塩の造り方、みたいないかにも手作りのボードの下で、小さなラップにくるまれた白ごはんを試食させてもらった。
 「こっちがいわゆる食卓塩で作った方、こっちがうちの塩」
 「え? これ、塩だけですか?」
 びっくりして、思わず確認する。普通に食卓塩の方だって美味しいんだけど――それは多分、お米自体も美味しかったんだろうけど――藻塩のおにぎり、おいしいよー。
 「そうですよ。米の甘みが生きるでしょう?」
 「はい。びっくりしました」
 そこから、もう少し説明とか聞いて、パンフレットとサンプルをもらった。「お米に合う塩」かぁ。たとえば「豆腐に合う塩」とかそういうのもあるのかな。そんなことを漠然と思う。最近冷奴を塩とオリーブ油で食べるのにはまってるんだよね。

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