スーパーコンシェルジュ 5-②

 ②
 「ま、まずは基本、てことかな」
 「基本、ですか」
 「そう、例えばヨーグルトは牛乳から作られている、とか」
 え? いや、基本ってそこですか。
 「えっと」
 「それは知ってる? っていうか、そんな馬鹿にしたような顔しない」
 「いや、そういうわけではないんですが、その」
 「牛乳で出来ているってことくらい知ってるって?」
 「えっと、そんな感じです」
 
 「じゃあ、分かりやすく、……元食品だったよね、味噌で行こうか」
 「はい」
 「味噌は何から作られてる?」
 「大豆と、麹と塩と……」
 「どうやって」
 「えっと」
 
 うわ、なんか適当にしか分からないや。待てよ……
 「茹でた大豆をつぶして、麹で発酵させて……」
 「豆味噌とか、米味噌とか、あるよね」
 「あります」
 「この違いは?」
 「材料の違いです」
 「材料が違うと、何が違うの?」
 「えっと、味?」
 「ぴんぽーん。と、当然、味が違えばモノによれば用途も変わってくるよね」
 「ですね」
 
 「じゃぁ、全く同じ材料だったら、同じ味?」
 「いや、減塩とかあるし」
 「それは塩分減らしてるんだから、厳密に言えば、同じ材料じゃないでしょ」
 「あ、……製法?」
 「そうそう」
 「製法によっても、味が変わるってことですね」
 「だね。そのものずばりの製法ってこともあれば、たとえば今の味噌の話だと『熟成期間』ってのも製法の中に入るかな」
 「あぁ、8年熟成とかありますね」
 「そうだね」
 
 「それをまとめて、基本」
 してやったり、の顔で須山バイヤーが笑う。
 えっと、材料と製法を知ること。
 「一般食品も日配品も、まぁそういう意味では兄弟みたいなもので。色々なものがあるけど、基本的には同じもので色んな種類がある場合は、その材料と製法のバリエーションの違いで、そのために似たようなものでも色々なものが置いてあるっていうことなんだな」
 「あー、だから塩があんなにあるわけですね」
 「塩?」
 「つねづね、なんであんなに塩があるのかと思ってたんですが、産地が違うから味が違うってこの前バイヤーに教えて頂いて。そんな違いが分かるのかと思ったんですが、まぁそれはそれとして、塩の場合は『材料が違う』っていう意味なんですね、多分」
 「かもね」
 いや待てよ、天日塩とか、そういうのは、いわゆる「製法」の違い、かな? そうしたら味噌と同じことか。材料が違ったり、製法が違ったり。
 
 そうかぁ。材料と製法のバリエーション、かぁ。っていうか、無限にあるじゃん!
 「だから基本ってのは、材料と製法をまず知ること、って意味であってますか?」
 「そういうこと」
 
 「ヨーグルトだと、牛乳の種類と、発酵のやり方?」
 「ん、と後は最近よく違う違うって色んなのが出てるのは、乳酸菌の種類。まぁこれも製法のうちかな。いや、種(たね)だから材料かな」
 「ジャージー乳使用っていうのは、材料である牛乳の種類が他と違いますよってことですよね」
 「そうそう。で、じゃぁジャージー乳っていうのはどういう乳なんだ、っていうその特徴を知っておくと、そのヨーグルトの特徴もきっとそれだろう、とかね。たとえば乳脂肪分が多い、とか。で、それを知っておくと、今度はジャージー乳使用プリン、とあった時に、このプリンは濃いめの味わいです、とか」
 「応用っていうか、上級編?」
 「そう。特徴が出ない材料にこだわってもしょうがないわけだから、わざわざそれを謳ってるってことは、それがその商品の『アピールしたい部分』ってことだよね。ほら、これで佐藤さんも一つ、ヨーグルトに詳しくなった」
 爽やかに笑った。
 
 大分分かってきたぞ。材料にこだわってるっていうのは、どうして材料にこだわるかって言うと、それによって味が変わるからで、製法にこだわるっていうのは製法によって味が変わるからで、……ってことは、そこがその商品が他の商品と違うって所なんだよな。
 だから目の前の商品を説明するときには、それが何をアピールしてるのかっていうことを、製法か材料のどっちかから、うまく噛み砕いて説明すれば、多分……間違ってないはず。
 
 「で、その色々な種類によって、味が変わるから、料理とか相性とかそういうことが派生するってわけ」
 「わかりました」
 「わかったの?」
 「いや、分かったというか、とりあえず、膨大なえっと……情報? 組み合わせ? が出来るって言うことで、なんだか途方もないってことがよぉく分かった、というか……」
 
 「あぁ」
 須山バイヤーは軽く笑った。
 「俺でもこうやってバイヤーです、って偉そうに店舗巡回とかしてるけど、正直、何をどんだけ知ってるかと言われるとめっちゃ怖いよ。ゴールなんてない気分になる」
 後半は、ちょっと独り言めいた口調だった。

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