スーパーコンシェルジュ 5-④

 ④
 森川さんから、打診を受けたのは須山バイヤーの話を聞いて、一週間ほど経ったころだった。
 「佐藤さんって、森川バイヤーとも、話してみない?」
 なんで住生活のバイヤーと、と思ったんだけど。
 「食器とか、調理器具とかって、食生活にも関係あると思うし、日用雑貨とかも教えてくれるかもよ?」
 「いや、確かに関係あるけど……」
 何推し? とか思ったんだけど。
 「ってことで、一緒に話とか聞かせてもらうと、嬉しいかなと思うんだけど」
 「え?」
 
 「家だと遠慮しちゃって、あまり仕事の話出来なくて、でもこの前の日配品のバイヤーさんの話とか聞いてると、すごく羨ましくて」
 なんで遠慮しちゃってるの。思わず苦笑。
 「えー、うち、関係なくてもバリバリしてるよ」
 「うん、バイヤーになる前はしてたんだけど、バイヤーになってからは忙しそうだし、疲れてそうだし、家に帰ってまで難しい話とか、どうなんだろう? って思ってなんか遠慮しちゃうの」
 「あー、ま、本社とかは確かにきついかもね」
 一度潤ちゃんに「潤ちゃんもバイヤーとかになることってあるの?」って聞いたときも、複雑そうな顔してたしなぁ。
 
 「わかった」
 森川夫妻と私って、なんだか色んな意味で気を使いそうだけど、この前の須山バイヤーの件で、やっぱり色んな人に色んなことを聞くってことはすごく力になるなぁって実感したばかりだし、聞いてみたいって気がないでもない気がするから、お願いすることにした。
 
 実現したのは7月も後半に入ってからのことだった。やっぱりバイヤーさんって忙しいんだな、なんて思いながら、予定されている会議室へと向かった。
 「失礼します」
 「あ、お疲れ様です」
 時間の5分前に入ると、まだ森川さんは来てなくて、バイヤーさんだけ。席を立って、軽く頭を下げられる。うわ、やっぱ結構身長高いし、イケメンだなぁ。
 ここに森川さん来るのか、と思うとちょっといたたまれない気持ちになるのを無理して考えないようにして、森川さんが来るのを待った。
 「少しは、慣れて……というか、つかめてきた感じですか?」
 場の空気をつなぐように、森川バイヤーが言葉を掛けてくれる。
 
 「……そうですね、慣れたというか、日々はパニックにならずに過ごせてますけど、果たして求められてることに近づけているのかって考えると……甚だ不安と言うか、自信はないです」
 そう答えると、バイヤーは可笑しそうに笑った。
 「みんな、そんな感じですね。でも試行錯誤のプロジェクトだから、そんなものじゃないですかね。正解はないっていうか」
 「そうなんですよね~。それが余計に不安になっちゃって」
 なんてことを話してると、時間ぎりぎりに森川さん到着。
 
 「じゃ、始めましょうか」
 といったん仕切り直したものの、何から聞こうかと言う感じ。
 「一応今日の主役は佐藤さんってことでいいのかな」
 「はい」
 そう答えたのは森川さん。こらー。そこで引いてどうすんのよ、と思ったけど仕方ないかな。
 「えっと、これっていうことじゃなくて、漠然としてるかも知れないんですけど」
 「いいよ」
 「森川バイヤーは、リビングキッチンっていうことで、食器とか扱っておられますよね? 私も今まではあんまり考えたことがなかったんですけど、テーブルセッティングとか、食の資格とかの勉強の中で出てきちゃって、……そういう勉強と言うか、されたことってあるんでしょうか?」
 「あー。少しは。実の所、そういうのって、すごく奥が深いよね。キリがないとか思わなかった?」
 「思いました。テキストみたいなものにはフランス料理の歴史とかから書いてあるし、和食だって色んな流派? とか系統? みたいなのとかあるし。資格取るんだったらそういうの必須みたいなんだけど、じゃぁそれが目の前のお客様にどれだけ必要なんだろうと思うとそれはそれで悩むし」
 「だよねー」
 「たとえば私100均の食器とかつい衝動買いとかしちゃうんですけど、で、買ったときには結構満足して使ってるんですけど、同じようなデザインでリビングキッチンにあって、値段とか何倍も違うわけじゃないですか。それの理屈もよく分からないし」
 「あー。ま、言われるね。特に最近は料理雑誌とかでも100均の食器でも十分かわいいみたいな特集とかもあったりするしね」
 後半、森川さんに視線が向く。
 「でも、お客様、私にテーブルセッティングのこととか聞かれることって、実際ほとんどないんですよね」
 「え、そうなの?」
 「うん、値段の違いはどうしてか、とか聞かれたり、どうやって使うのかって使用方法は聞かれるけど……」
 
 「値段はね、さっき佐藤さんも言ったけど、100均とかでもそこそこ可愛かったり、サマになったりする商品があるから、結構厳しいよね」
 「何が違うんですか?」
 「うーん、モノによって違うんだけど、グラスとか陶器だと、使ってみると分かるんだけど、材料が結構違ってて、……それが使用感に繋がってるっていうのはあるかな」
 「材料? ……ですか」
 
 デジャビュ。
 「それと、製法?」
 言ってから、森川さんと顔を見合わせる。この前の須山バイヤーの話は、森川さんにも結構話してる。
 「材料と製法のバリエーションが、えっと……使用感につながる?」
 「そうだね。ま、デザインって言うのも結構大事になるんだけど」
 デザイン、という観点は須山バイヤーにはなかったな……でも食器とかって、そうだよな~。
 「あと、デザインは機能性ともかなり密接に関わってくるかな」
 「そうですね」
 
 とりあえず、食品は主に材料と製法、ってことだったけど、デザインかぁ。機能性っていうのも食品ではあまり考えなかったけど、食器とか調理器具だと確かに大事かも。
 でも食品で習ったことが、住生活でも同じ視点で考えられるっていうのは、ちょっと新鮮な驚きだった。

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