薬学部卒の底辺から上澄まで~女子に人気の国家資格を取ってみた話~

 2023.4.24 追記
 別記事がちょっとバズったことに伴い、一時的に非公開にしていた本記事ですが、2か月くらい経ってたぶんほとぼりが醒めたので戻させていただきます。

 こんにちわ、同人女です。いつもは「同人女の戯言」という、同人活動に命がけで生きている女の限界記事を書いています。
 このたび友人からリクエストを頂いたので、私の卒業した学部、「薬学部」の内部の話と、その後の進路について私の知ってることを書いてみたいと思います。個人の体験なので、かなり偏りがあると思います。参考になるかどうかはわかりませんので、娯楽程度にお読みください。

 薬学部といえば、理系学部にもかかわらず女子率が高く、ニュース記事によれば「親が女の子におすすめしたい学部」の上位に食い込んでいるらしい学部です。もしかしたらこの記事を読んでいらっしゃる方にも「薬剤師っていいよな」と思っている方がいらっしゃるかもしれませんし、親御さんに「将来は薬剤師が安泰よ」と言われて育った方もいるかもしれません。
 薬学部卒として本音を言います。
 嘘ではありません。薬剤師資格は、現代日本において、女性が持ってたらスーパーハイパースペシャルウルトラ便利安定将来安泰のお役立ち資格のひとつです。

 取れればね。

 なんかね、世間の人はしばしば薬剤師のことを「学校に行けば資格取得できて、結婚したあとは子供が保育園に行っている間だけ調剤薬局で高時給でパート労働できる、お嫁さんにぴったりの花嫁修業資格☆」みたいに思っているらしいんですけど(特に親世代以上に多い誤解です)いや……うん、中の人的にはそこまで楽じゃないぞ……みたいに思うところであります。

 まず、ちょっとだけ私の話をします。私は医者の家の娘でした。父方は、先祖代々医者です。詳しくは知らんのですが、江戸時代はどっかの藩の典医(お殿様の主治医)をやってたくらい由緒正しい医者家系です。旧華族でもあり、ちょっと聞いた感じいろんな昔話がクソド派手です。しかし、そういう一族だったので、私の父親は窮屈さを感じ、次男であることをいいことに東京の医学部に進学することで地元を脱出、看護師と駆け落ちし、私が産まれました。祖父母とは絶縁まではしていなかったものの、折り合いは良くなかったようで、孫である私は祖父母に片手の指で数えるほどしか会ったことがありません。
 そんな感じだったので、私個人に「医者になれ」とか「医者と結婚しろ」というプレッシャーがかかったことはあまりなかったのですが、しかし同時に、「あまりにもみんな医者だから医療に従事する以外の生き方についての情報がほとんどない」という環境でもありました。
 そのため、私の進路はほぼ「医療」一択でした。個人的に医療に関心があったかというと特になかったのですが、情報がない未知の業界に飛び出してゆく勇気は18歳の私にはなかったです。

 幸か不幸か、私の頭は理系でした。数学に魅力を感じ、化学生物が大好きでした。でもって、運よく英語もできました。もう10年以上前のことなので細かい数値はウロ覚えなのですが、駿台の全国模試の総合偏差値が65くらいだったと記憶しています。一番の得点源である英語が75、理科は65前後、数学はムラがあって、気が乗れば偏差値100を超える全国1位(満点)、調子が乗らない日は55くらいで両親に「ちゃんとやれ」と叱られるくらいの出来でした。ちなみに、文系科目には一切の興味が持てずにぱっぱらぱーでした。
 数3Cを履修していたこともあり、周囲はたぶんみんな「コイツ医学部行くんだろうな」と思ってたと思います。
 しかし、受験はモンスターです。(後から判明したんですが私の世代はちょうど医学部が女子の点数を勝手に減点したとかで訴訟が起きた感じの年でした。まあ、実際私が試験でしくじったのか変な減点喰らったのかは知らんのですが)
 高3の時、医学部専願で受験し、志望校全滅。
 1浪するにあたって、医学部専願はリスクが高いと考え、他学部も受験する、という流れになりました。
 そして、合格通知が来た大学の中に、ヤツがいました。
 当時新設だった、慶應義塾大学の薬学部薬学科です。
 19歳の3月、私は「そこらへんのちょっとした私立大学の医学部」と「慶應の薬学部」という二つの進学先を天秤にかけて悩むこととなりました。
 いや、だってほら、慶應って、慶應だし……。ね!? 鶏の頭を取るか、牛の尻尾か。女医と薬剤師では、どっちの生き方がいいのか、みたいなことで家族会議になりました。

 んで、私は慶應の薬学部に進学しました。

 でね、なんでこんな自分語りをねちねち書いたかっていう話なんですが。
 大学は慶應です。もともと理系です。1浪とはいえ、医学部併願で、数3Cと理科2科目を履修して、全国模試でも数学で1位を取る程度には勉強のできる高校生でした。
 大学で6年間死ぬほど勉強し、挙句、薬剤師国家試験を2浪しました。
 もちろん事情は色々あって、病気したりとか、卒業したあとは浪人生にならずに就職したので(国立大学の医学部の大学院で研究員やってました)仕事しながら国試の勉強も平行してたとか、多少は情状酌量の余地があると思ってるんですが。

 薬剤師はね、便利な資格なんですよ。
 取れれば。
 ほんと
 取れれば……。

 簡単に取れると思うなよ。

 大学入学した日、日吉のキャンパスで「入学おめでとうございます!皆さんにシラバスを配りましたが、今から半年で、数3Cと物理生物は高校修了レベルになってもらいます。高校で履修していなかった科目が多い人は大変だけど頑張ってね! あ、化学はみんなやってると思うので残りの時間割は全部化学です」って言われて、空気がフリーズしたことをよく覚えています。
 時間割は真四角。土曜日までびっちりで週休1日。そして一年後期からは実習がはじまり、毎日のようなで夜まで拘束される。だから薬学部生はみんな慶應生でありながらサークル活動なんかとてもできずコネクションとかとも無縁だったし、勿論バイトなんてとてもできないから全員貧乏で、貧乏過ぎて高校時代の友達と飲みに行った時なんか、2000円の飲み代が払えなくて友達に借り、大学がそもそも6年間あるから昔の友達が就職して羽振りが良くなってもまだずっと貧乏、なんかそんな学生生活でした。
 ちなみにこの「貧乏」っていうの、国立の理系大学に6年通った配偶者に行ったら「慶應で? なんで? お金持ちが行く学校でしょ?」って言われたんですけど、慶應の薬学部は、6年でざっくり1500万くらいの投資を求められます。学費は出せるけどそれだけでカツカツ、という状態になっている学生は普通にいっぱいいました。私だって親は開業医だったし、都内に実家があったので一人暮らしの必要もなかったし、奨学金をもらうほどではなかったので十分裕福な方だったけど、それでも月々のお小遣いなんて1円も貰ってなくて、財布の中にはいつも1000円しか入ってませんでした。まあ、お金がなくても遊ぶ時間なんてなかったからいいんですけど。
 この1500万に絡んだ話なんですけど、私が国家試験浪人したきっかけ、実習先でのパワハラと奴隷労働が原因でした。薬学部は5~6年生で現場実習が合計6ヵ月かそれくらいが必修なんですが、実習先はマジで運なので、ハズレを引いたら地獄をみます。大勢に取り囲まれて「私たちの言うことを聞かなかったらお前はどうなるんだ」と頭上から口々に怒鳴られて「卒業できません申し訳ございません、学費も無駄になるし親に迷惑をかけてしまうので助けてください」と必死に謝ることを強いられたのも、「あなたは今日一日ここでブチ切れてるクレーマーの患者に謝罪し続けてください別に報告とかはいりませんので」と受付で人身御供にされたことも、胃潰瘍で大量出血して下から血便が出ても病院にもかからずに実習先に向かい白衣に着替えて働いたのも、特段私が可哀想だったわけではなく同じ扱いを受けて鬱病になって倒れていく学生が山ほどいたことも、そりゃまあ生きてりゃ苦労することはあるしブラック企業に勤める人間もいっぱいいるんだから過度に自分を憐れむ気はないんですが、でも、薬剤師免許が簡単に取れると思ったらマジで大間違いだぞという一言に帰結していく。

 これ医学部の話じゃないですよ。年収で言えば医者の半分とか1/3の給料になる人が多い、薬学部の話ですよ。なお、私は慶應だったので医学部生とも交流があったのですが、医学部は学生の間は私達より余裕がありそうな学生生活を送っているように見えました。彼らは研修医になってからが本番だと思うので、比較する気はないんですが。
 ただ、研修医の時の多忙さは薬学部を上回るだろうけど、学費を人質に取られてないのは羨ましいな~と思いました。

 ちなみに私を恫喝した病院は、「そうだよね」とニヤニヤ笑いながら気持ち良さそうにその日の夜に即決で私を実習中止(落単)に追い込みました。大学側も唖然としていましたが「あまりにもクソ病院なのでここで戻したらあなたが死んでしまう」という判断で単位取得を保留にして特例で進級させてもらいました。お金貰って実習生受け入れてやることそれだからね。H野市立病院な。一生忘れないからな。(あ、恫喝以外のクレーマー人身御供病院と血便出しながら通った病院は別の病院なので誤解なきよう願います)
 学校通えば取れる資格。そうかもしれません。でも、ブラック企業はやめても白紙になるだけで済みますが、ブラック実習は「耐えなければ5~6年間の学費と苦労が消滅し薬剤師資格はもらえず、22~3歳で高卒職歴なしの人間が出来上がる」という地獄への入り口です。それで潰れる学生は沢山います。舐めたら痛い目見るよ。

 慶應くらいならまだいいけど、へんなFランの薬学部は3割くらいの確率でしか卒業できないんですよ。7割の人間はついていけずにドロップアウトする。私はFランの薬学部に行ったことがないので内部で何が起きるかは知らないんですけど、「慶應でも運が悪いとそんなことになるよ」とは言うことができます。つらい。

 薬学部はかなりのレベルの頭脳を求めてくる学部です。試験も普通に難しいです。薬剤師国家試験は、人によっては「理系最難関の試験」と言われることすらある。その上で、実習という運ゲーがあり、運ゲーに負ければ心身がやられる可能性があり、学費は高く、約18歳から24歳までの貴重な6年間のモラトリアムを奪い取っていく。新卒の時点でほぼアラサーになります。浪人留年したら確実にアラサーです。
「薬剤師国家試験に合格できるくらいの、頭脳と、金と、時間と、運の良さがあったなら、たぶんもっと他の学部行って別の人生歩んでてもだいぶいいセンいける」と思います。マジで。コスパは良くないよ。

 はー、悪口半分くらいぶちまけてすっきりした。

 世間の人はしばしば薬剤師のことを「学校に行けば資格取得できて、結婚したあとは子供が保育園に行っている間だけ調剤薬局で高時給でパート労働できる、お嫁さんにぴったりの花嫁修業資格☆」みたいに思っているらしい、って最初に書きましたが(これ、調剤薬局で薬剤師やってるときマジでそう思ってる人に子供の進路相談されたり、もしくは学歴マウントおじさんに罵倒されたりするんですよ……お前なんか専門学校だろ!俺は慶應だぞ!って言われたときの慶應卒薬剤師の気持ちを想像してください)「学校に行けば資格取得できる」の部分だけでもこんだけ悪口言えます。

 まだ悪口言います。
 いや、待って。ちょっといいことも言おうかな。

 えっとね、高時給。
 これは、だいぶ本当です。
 私が卒業した時の話ですが、ちょっと薬剤師不足の時期だったこともあり、某ドラッグストアチェーンでは新卒薬剤師の年収600万を謳っていました。今は減っちゃったらしいですけどね。
 それでもたまにネットニュースとかの記事で比較されるようなアメリカとかの薬剤師に比べたら全然年収低いですし、6年大学行ってソレ? とは思うけど、まあでもアメリカとは業務範囲違うしな。日本国内の中ではマシな方だと思います。

 あと、薬剤師の時給の魅力は、正社員の年収ではありません。パート時給です。パート時給が普通に2000円くらい貰える。条件を厳しくして、派遣とか他店舗応援(ラウンダー的な)とかソロ勤務可とか締め作業できるとか積み上げていくと、派遣で4000も夢じゃないと思う。
 もちろん4000貰おうと思ったら本当になんでもできる万能応援型薬剤師にならなくちゃいけないですけど。実力さえあれば時給4000のパートができる、っていうのは魅力的だと思います。

 で、しかも。
 これは悪口半分なんですが、薬剤師は、給料が上がりにくい職種です。
 新卒で600万貰えるっていうと好待遇ですが、50歳まで勤務したらそれが1200万になる的なことははまずありません。下手したら死ぬまで600万です。だから、一つの企業に勤め続けて勤続年数を稼ぐ旨味は、一般的な職種に比べると少ないです(あくまでも少ないってだけですよ)
 また、キャリアが途切れていても「実務経験〇年あります」と言えば好条件で採用してくれる職場も多いです。
 実際に私が目撃した例ですが、とある国立大学病院で「子育てでブランクがあるのですが見習いからやり直せますか、と相談にきた女性薬剤師を、薬剤部長が「いいよ、来週から普通に来て」と即決で正職員採用していました。
 で、パート時給が高く、勤続の価値が薄いとなると、「パート勤務になっても損をしにくい」の方程式が成立します。
 たとえば新卒から30歳まで正社員で働いて、31歳からパートで3年(しかもこのパートも時給高め)、35歳で転職して再度正社員。みたいな生き方をしても、「給料が下がる」ないし「キャリアのリセットを食らう」という現象が、起きません。まあ若干はあるけど、他職種に比べればかなり少な目です。
 つまり、産休と育休に非常に優しい。
 薬剤師は割と気軽にパートと正社員を行ったり来たりしますし、休職とかブランクにも抵抗がない人が多いです。そういう背景があるから、企業も「そこらへんの融通が効くようにしとかないと人材が流出してしまう」と考えるため、制度が整備されていく、という好循環もあります。
 「子供を持ちたい女性にとっておいしい資格」というのは、嘘じゃないです。それだけのために薬学部に通う価値があるのか? というところは個々の価値観によりますが。

 ちなみにこれ、女性限定のメリットだというわけではなく、男性薬剤師も恩恵にあずかるようで、ときどきめちゃくちゃフリーダムな人がいます。1年のうち、半年薬剤師して残りの半年は物価の安い海外の南の島みたいなところでのんびり過ごし、また半年薬剤師~みたいな人生満喫コースを楽しんでる人(40代)と遭遇したことがあります。ひとつの会社で必死に勤続する必要がないから、そういうこともできるらしいです。
 転職は割と売り手市場な上に条件が均一なので「薬局長とケンカしちゃってやめますって啖呵切った、次の週には転職先見つかって来月から勤務開始って言われてる~」みたいな状況を作りやすいです。「次がないからブラック労働だけど耐えなきゃ」みたいなことには(一部の例外を除いて)なりにくく、そうなると待遇悪くなったらスタコラサッサと逃げ出せます。実習の時だけは逃げられないけど、そのあとの人生の難易度は下がります。

 とはいえ一応、35歳以上の大手チェーン正社員再就職はしんどいという噂も聞くのでご注意ください。

 なんて美味しいことを言うと、そういうことができる人は「使える」薬剤師だけじゃないの? という疑問を、抱く人もいると思います。たぶんまともな人ほど「そういう自由なことができるのは実力者だからだよ」と思うと思います。

 甘い。

 これは業界の悪いところでもあるのですが、「薬剤師資格があればなんでもいい」と思っている経営者は、少ないながらも、います。
 どことは言いませんが、某チェーンは「薬剤師資格さえあれば雇う。断ることはまずない」と言っていました。(※今もそうかどうかはわかりません)
 そのチェーンのとある店舗では「調剤を全部断り患者を追い返す薬剤師がいる」と評判でした。でも、治安がゴミカスクソの掃きだめみたいな地域だったので、「夜間に店舗に座っていてくれるだけでもいないよりいい」という理由で、その薬剤師はクビになっていませんでした。
 正気か? と思ったけど、マジなんも仕事してなかったらしいです。
 同じチェーンの別店舗で、やはり夜間のパート薬剤師なんですが「患者からお金を貰わずに薬を渡す」というパワープレイをするアホがいましたが、おとがめなしで、店舗の管理薬剤師(店長みたいな人ですね)が代理で始末書を書いていました。キレてましたが、まあキレてただけでした。
 そのパワープレイ薬剤師と私は交代でその店舗の夜間ひとり勤務をしていたのですが、患者から「もう一人いる薬剤師さんは怖すぎて、処方箋出すだけで舌打ちされるからあなたのいる曜日にしか来れない」と言われました。確かに閉店の5分前に30分以上かかるヘビーな多剤一包化を持って来る、薬剤師が嫌がりそうな患者さんだったのですが、とはいえ私は夜間バイトで高時給貰ってるし、患者さんが毎日働きながらご年配の親御さんの介護をしていて、その時間帯にしか来れないことも知っていたので、さすがに舌打ちはしないなあ、と思ったものです。
 ちなみにそのパワープレイ薬剤師はたしかジャズの演奏者で、昼間は音楽やってるとかなんとか言ってました。あと、親が医師法違反したから刑務所にいるとか……。あんま話さなかったから詳しくはないですが。
 あとね、頻繁に寝坊して遅刻するので店が定時にオープンせず、エリアマネージャー(だったと思う)が車飛ばして薬剤師を家に迎えに行くのが常態化してる店舗とかもあったと思う。すごすぎる。

 なお、仕事しない薬剤師がいた「治安がゴミカスクソの掃きだめみたいな地域」で仕事する機会もあったんですが、結構強烈でした。店の看板が盗まれる・破壊されるなんていい方で、患者の受診理由が「人間に噛まれた」だったりとか、wikipediaに載ってるレベルの有名な半グレの人が普通に患者として現れたりとか、ホームレスが洗面台を占領して歯磨きをはじめたりとか、ゲイの人がナニに使うのか「キシロカインゼリーをよこせ」と暴れたりとか、向精神薬を詐欺ろうとするいかついアロハ姿の強面が偽造処方箋持ってきたりとか、交通事故に遭って見るからにぼろぼろのお姉さんに自賠責の窓口負担金の話をしたら「私今自由にできるお金がないんです」と泣きながらどこかに電話をかけはじめたりとか、そりゃ患者全部断りたくもなるわ、っていうエリアでした。
 ちなみに、薬局長はものすごくいかつい自衛隊(薬剤官)上がりのおじさんで、それでも月イチくらいでアルソックの警備員呼んでました。

 日本の医療は万人に平等なので、綺麗な職場・綺麗な患者ばっかりじゃないです。たとえ学費1500万払える家庭の人間だったとしても、そういうとんでもねーところで働くこともあり得る業界です。
 私もいろんなところで働きましたが、こんなにいろんな人がいるのか……っていうくらい変な人にたくさん遭遇しました。薬剤師も変だし患者も変だよ。

 あ、なんでお前そんなこの世の果てみたいな地獄のドラストで働いてたんだよってツッコミたくなると思うんですが、私も私で大学院で研究員してたら研究のストレスで心身ぶっ壊しまして、「統合失調症です!薬飲んでるから夜はたぶん仕事できます!失業保険の範囲で雇ってください!」という「一般企業だったら絶対無理な状態」で働いてた感じです。そんなでも、時給は2100円でした。
 まともなドラストの薬剤師さんには申し訳ない限りですが、ドラスト、特に夜間のドラストにまともな奴はいないんじゃないかという不安が消えません。だってわたし、言われたんですよ。「失業保険なくなったら正社員にならない? 雇うよ」って……(ホラーのBGM)

 こんなこと言っちゃアレなんですが、いくら時給がいいっていったって、そんなわけのわからない社会性ゼロのパート薬剤師の面倒を見るのが正社員の仕事かと思うと怖くないですか? 私は怖かったです。ほんと、資格取得の難易度と業務内容が見合わないよ……。
 でも、敢えて持病のある薬剤師を雇ってる薬局はチェーンに限らず結構ありましたね。ワンマン社長の店舗とかで、出世の見込みもなく、昇給の見込みもなく、淡々と同じ仕事を繰り返すだけで「身の丈に合っていて十分」だと思ってるような「弱い人」の方が都合がいい、みたいな考えのところ、いくらでもあります。
 底辺の話になっちゃった。以上の話は、ぞっとするような話でもあるんですけど、「自分が弱者になったとき」を想定すると「セーフティーネット」だと感じると思います。実際に体調を崩したことのある私はメリットだと思ったけど、人生にそこまで保険をかける必要があるかどうか、は個々人の価値観次第です。

 底辺の話したから上澄みの話します!
 底辺ドラストから、私は製薬系業界の会社員に転職しました。ちょっと狭くて特殊なところなので具体的にどこで何やってるかは書けないんですが、まあ業界的には薬系です。頭脳労働をしています。
 どうやってそんな転職を成功させたのかと言うと、こうです。

① 私は国試浪人をしていましたが、浪人している間に国立大学の大学院の研究助手(学位必要ないゆるいやつ)をやっていました。
② その後病気をして、底辺ドラストを3年ほど彷徨いました。
③ 「大学院の契約期間が切れたあと実務経験3年積んでました」っていって企業に潜り込みました。

 物は言いよう~~~~~!

 底辺ドラストの労働環境はマジで底辺でしたが、べつに誰もそんなことを咎めません。そりゃまあ立派な大学病院とかで勤めてたわけじゃないんですが、大手チェーンのドラッグストアではあるんです。問題ない。私はとくに聞こえがいい大学の看板がついているのと、新卒で偉そうなところに潜り込んだので顕著ですが、わりとキャリアのリセットが利きます。落ちたら落ちっぱなしみたいなことはないです。

 転職に際して、薬学部卒が、医学部卒や看護学部卒と随分違うな~と思ったのは(※医学部と看護学部の話は親戚や友人からの情報を参考にしました)現場から離れた進路が無数にあるところでした。
 医薬品や化粧品等の製薬会社でも、研究開発とか、MR(医薬品情報担当)とかは、パッとイメージできるところではありますが、この世には医薬品の広告とか説明文書みたいな書類を作ってる人もいますし、現場の仕事で忙しいお医者さんや薬剤師さんの代わりに論文を探す人、医薬品で事故が起こった時に国に報告を行う業務をやってる人、治験コーディネーター的なもの関係(もしかしたら昔はこういうの製薬会社が一手に引き受けてたのかもしれないけど、今は委託って形で外部に居を構えてる会社もいます)別に敢えて薬学部卒じゃなくてもいいかもしれないけど「現場経験ある人がいたらちょっとうれしい」みたいなところはいっぱいあるみたいです。業種にもよりますが、あんまり給料は変わらないか、現場よりちょっと下がるかなっていうくらいです。
 「現場嫌になったから会社勤めになるわ~」みたいな進路を選びやすいのは薬学部のいいところだねって現場系の医師・看護師には言われます。

 で、そういう業界も流動的な薬剤師業界と地続きなので、「新卒一括採用」とは限らないところが多く、30代後半くらいでも「現場経験積んでから来ました~」ってドアを叩いても入れる余地があります。たぶん……、まあ、そこまで間口は広くないですが……。

 今の私の仕事は「会話していた開業医の先生があとから調べたらなんかすげー経歴のすげー大学の名誉教授でどひゃー」みたいなことが割と頻繁に起きるもんですから、会社としても「頭脳での殴り合いができそうで、現場経験もある人間」を採用している感があります。
 薬剤師として仕事をすると「薬剤師資格持ってるなら学歴とかあんまりこだわらずに均一な待遇」っていう扱いを受けることも珍しくないのですが(最たるものが前述の底辺ドラストです)一般企業は一般企業なので学歴諸々を重視される要素も普通にあります。勉強ができる人が、勉強する力とか、学力と知識でのし上がっていく余地も大いにある。気がする。なので高学歴とか資格プラスアルファの武器を獲得した薬剤師は、敢えて現場を選択せずに企業で戦うっていう選択肢もあるのかなって思います。

 わからんけど。私は高校卒業時点では比較的勉強ができる方ではあったと思うんだけど、持病もあるし、上を見上げれば国立大卒も博士も数えきれないくらいいっぱいいるので、「みんなすげーなー」と思いながらほのぼの会社員ライフを満喫しています。残業がないのと、ネイルしても怒られないのが弊社のお気に入りポイントです。

 そうそう、ここまで話をしていない「病院薬剤師」というジョブについてなんですが、私は唯一病院薬剤師だけは経験がなく、業界にキャリアとかのぶっちゃけトークできる友人もおらず、「学生時代病院薬剤師に血便出るまでしごかれた」というネガティブな記憶しかないので、敢えて言及を避けています。
 ただ、仕事してると「大手有名病院にいる病院薬剤師たまにすげー人いるな…頭いいんだろうな…」とは思います。全然根拠なくて体感だけなんだけど、鋭い人はやっぱり大手有名病院が多い気がする。国立大学の医学部附属病院とか。あと、ガンならここ! とか、産婦人科ならここ! みたいな感じで全国的に有名なところとか。ちょっとこわいこともあるけど(現場の人ってキビキビしててこわいよね)みんな頭が良くてかっこいいです。

 話のネタが尽きてきました。つらつら思いつくままに書いてるので、章立てとかもしてなくてすみません。読みにくいよね。
 あと、薬学部の関連の進路といえば、私が印象深く覚えているのがMR(医薬品情報担当)です。MRにもいろんな人がいますが、ここでは「トップクラスのエリートMR」の話をしたいと思います。えっとね、白い巨塔とか、海藤薫の小説とか、医療ドラマに出てくるイメージがある、あの、ああいうMR。
 そんな人とどこで出会ったのかというと、新卒の頃です。私は某国立大学の医学部の大学院で、研究の補助をしていました。だったんですが、ある時教授秘書さんが結婚し、結婚した次の瞬間旦那さんが地方へ転勤を命じられるという「大企業あるある」に見舞われ、教授秘書が欠員になってしまいました。
 有名大学の医学部の教授秘書なんて、ほんと女子の中のエリートしかなれないんですよ。やめることになった秘書さんも、どこかの女子大出身で、ミスコンで優勝したとか素敵な経歴があって、モデルみたいに背が高くて、お顔は美人で、おしゃれで、語学堪能で、人当たりもよくて、てきぱきしてて有能で、マナーとかにも精通してて、いわゆるガリ勉理系女の私から見たら「同じ女ですみません…」みたいな方でした。
 その秘書さんが、言いました。「次の秘書が見つかるまで、中継ぎをお願いしたい」って。私に。
 ……嘘ォ。
 嘘じゃないんだ、研究室に所属してる20代の女が私しかいなかったんだ。
 おかげで私は母に縋りついて泣きそうになりながらデパートに行き、一生着ることがないと思っていた洒落たブランドのワンピースとハイヒールを買って、髪を巻いてネイルをして精一杯オシャレ秘書に擬態する羽目になったのですが(その話はその話で面白いんですが薬学部とは一切関係ないので割愛します)そんな経緯で、私は何故か1年ほど教授秘書の代理をやっていました。
 でね、教授室に座ってるとね。
 来るんですよ……MRが。
 正真正銘、有名大学の医学部の教授にアプローチすることを許されたエリートの中のエリートです。

 マジすごかったです。
 私はあまり異性に関心があるタイプではないのですが、後にも先にもあんなに何もかもを兼ね備えたすげー男達を間近で見たことはありません。モデルかなんか? みたいなレベルで長身で頭小さくて顔立ちが端正で、前職は五つ星ホテルのホテルマンですか? みたいな所作で動き、口を開けばどんな不機嫌な教授もニコニコになる巧みな話術とトークスキル。専門の話はもちろんのこと、休日の過ごし方の話とか、趣味トークとか、話題の幅も教養も段違いです。しかもチームプレイ。大体ひとりリーダー格のロマンスグレーがいて、それを若手が囲んでいるというチームです。たまに若手のペア二人組とかもいましたね。で、2~5人が息ピッタリでわっとその場を盛り上げたり、かと思うと真剣な顔にパリッと切り替わって仕事の話をしたりする。もちろん、昼間の教授室、業務時間中の出来事なので酒などは一滴も入ってません。
 なんやこれ、以外の言葉が出ませんでした。
 あれは、まごうことなき接待のプロです。教授専属のホストか? いやでも多分、ホストなんかと比べちゃいかんくらい鍛え抜かれてんな……とお口あんぐりあけて眺めてました。いや本物のホストのことよく知らんので、一晩で一億稼いだりするすごい男らしい、程度の知識なんですが、しかし「○○教室の教授が頷けばもしかすると何十億の手術用ロボットが大学病院に導入され…」って思うとMRの方が動かしてる金額的な意味でも余裕で格上なんでしょうね。しかも素面だし。色恋営業とかかけられるわけでもないし。

 もちろん、業務上で有能な人がプライベートでもいい人かっていうと別問題ではあるんですが、今でもイケメンといえばMRを連想します。イケメンの最高峰はMR。異論は認めない。
 つまり、最高の男達に囲まれて接待されるためには、まず東大の理3に行き(うちの大学院にいる助教授以上の人はみんな理3だったのでこれは必須なんだと思います)博士になって大学病院で研鑽を積み出世を重ね、教授となり、首振り一つで億単位のお金を動かせるパワーを手に入れればいいんだ、そういうことなんだ! と、悟りました。私には一生ムリだわ。
 あれは、なんというか、七色の夢広がりワールドとしか言えなかったです。あの頃の秘書机の奥から垣間見た記憶が脳裏に焼き付いているので、私は生涯ホストクラブに行くことはないと思います。たぶん、「なーんだ」って思っちゃうと思うので。
 なんかちょっと脱線したけど、顔とスタイルとトークに自信があって、高級スーツでバシッと決めて日本一スマートに振舞って、自分の身一つで億を動かす野望がある人間は是非MRを目指してくれよな。ほんとにかっこいいぞ。あとそういう最高のイケメンにちやほやされたかったら理3に行くんだ。慶應なんかじゃだめだからね。理科三類だよ。

 うーん、そろそろネタが尽きました。
 まだアラサー程度の身の上なので人生経験がそこまで豊富だとは思ってないんですが、底辺から上澄みまで、私なりにいろんな界隈を覗いてきたので、ある程度はいろいろ書けた気がします。だから友達に「業界の話書いて~」って言われたんだしな……。読み物として面白いのか全然自信はないんですが。
 ちょっとでも娯楽になったら幸いです。高校生くらいの若い子の進路選択の参考にはあんまりならないと思いますが、孫を薬学部に入れたがる世間知らずの祖父母とかに困ってる人がいたら参考にしてください(?)

 おしまい!

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