見出し画像

黄泉の探索者-番外編「粒子αに関するレポート」

惑星ベガe2に存在し、吸引することで無自覚の依存症を引き起こす物質を仮に『粒子α』と呼ぶことにする。

αは通常、肉眼では確認できない気体として存在するが、濃度が高くなると霧のように見えることがあるらしい。らしいというのは地上勤務の科学者から聞いた話である。通常の写真には映らないが、X線を照射すると僅かに映ることが分かった。この結果、ベガe2における人類の活動範囲ほぼすべてにαが存在していることが判明した。人類の活動圏外については調査困難なため、不明である。

αがいつからベガe2に充満していたのかについて、現在調査中である。ベガe2の大気は窒素約50.38%、酸素30.59%、アルゴン 10%、二酸化炭素2%と地球と親しい環境である。発見当初から我々がここで文明を気づいてきた約300年間、人体に有害な物質は検出されていなかった。

人類にとって有害な、といえば、ベガe2には捕食動物のようなものも存在しない。この灰色の惑星には植物しか存在しない。昔わたしも一度だけ地上に降りたことがあったが、不気味なほど静かなのだ。それでも移民が作り上げた街に近づくと人々の活動音がきこえ、少し安堵した記憶がある。……思い出語りはここまでにしよう。

とにかく、αはあるとき突然発生したように思える。そして、もっとも重要なことだが、αに汚染(仮にこう呼称する)した人間は12時間以内に50%が死亡する。ベガe2の大気から隔離した場合は12時間以上生き延びる確率が高いが、後に離脱症状を発症し衰弱死、あるいは抑うつによる自殺という結果になる場合がほとんどだ。

我々に今できる最善の方法は、ベガe2の大気を吸い込まないことなのだが、ご存知の通り船の物資は有限ではない。このままベガ星系にとどまるか地球に帰還するか選択する時期なのかもしれない。


---

各話リスト↓

https://note.com/fe2o3/m/m4b55c6af5123

小説のストックがなくなったので、短いですが設定的なものを……よかったらスキやフォローお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?