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地方でデザイン活動のススメ

今でこそ、ネットの普及で起業とかフリーランスの情報が沢山あるけれど、私が始めた28年前は殆ど情報はありませんでした。今は良い時代ですよね。以前であれば、仕事を受ける為には「人の繋がり」しか頼れるものはありませんでした。地方だからかもしれませんが、何処の誰かもわからない人物に、自社の商品開発を頼もうなんて奇特な人はおりません。誰かの紹介にはじまり、それまでの実績とか経験とか共通点が有って初めて仕事を依頼されるという感じです。人の繋がりが無くては仕事も探せませんでした。

当時の私は、燕や三条の問屋やメーカーから依頼をうけ「受託」でデザインをする方法しか思いつきません。企業から依頼されたものを具体的には絵にするという「作業」で対価を受け取るというやり方です。クライアントの意見や関わる複数の意見と背景を読み取り、実現可能なカタチにして表現する作業です。専門的な知識は、全て職人から教わりました。本や教科書に書いてある事は古くて役に立ちません。私の場合は言われたことを素直には聞き入れられない性格で、「だったらこうしたほうが良いのに」を絵や図にしていきました。こうしたスタイルが合うクライアントからは依頼を受けるという形です。営業活動みたいな事はほとんどやっていません。これが良いのだろうかと不安に思っても、周りに相談できる人もいません。

当時に比べると現代は情報が沢山有り、デザイナーの仕事は地方でも随分やり易いのではないでしょうか。自社製品を作りたいという工場は沢山あります。製造数量が少ないと思いますが、流通を作るまで一緒に取組むデザイナーであれば歓迎されるでしょう。作るだけではなく、できた商品のマーケティングも行うのです。逆に昔の様な販路を持つ誰かのアイデアを形にするだけのデザインワークだけだと逆に営業力が必要かもしれません。形にするだけの作業であれば、人件費の安い海外で事足りるからです。現在は作るべきものと、その情報も発信して行ける人がデザイナーとして求められるのでしょう。

少量から中量くらいのものづくりのチームは、当然コンパクトでないとビジネスとして成立出来ません。逆の言い方をすれば、デザイナーと工場で良いチームを組むことが出来れば、日本のものづくりはこれからも続いていく事でしょう。具体的な方法としては最小限のイニシャルコストと製品ロイヤリティでビジネスを組み立てる事です。はじめはきついでしょうが、全てをイニシャルでは結果的に稼げ無いし、マーケティングに参加する意味もありません。

ヨーロッパは当然日本より進んでいます。電気製品や通信機器や自動車産業の様にグローバルに展開する産業と別に、生活文化に関連した産業はしっかり残っています。私も3年前からパリで開催されるメゾン・エ・オブジェに毎年出展していますが、ヨーロッパ全体で生活文化に関連したものづくりは今も盛んです。もちろん、安いアジア製の道具も沢山あります。デザイン製の高い製品は確実にマーケットがあり支持されています。日本の食文化は世界でも認められるものです。全てでは無くても、日本の調理用品は十分に世界に認められるものです。単に日本製であるという事では無く、そこに文化を感じるからです。実際に新潟の工場にもヨーロッパの若いデザイナーが直接工場に売込みに来るのを見かけます。日本の若いデザイナーもそうするべきです。

新潟県の燕三条エリアは今でこそ産地として知られていますが、私がフリーランスで活動を始めた30年近く前は「安物の産地」や「モノマネの産地」とされていました。古くは大阪辺りが家庭日用品の生産地であったと思います。例えば刃物なら大阪の堺から岐阜に移り、更に燕三条へと伝わったのだと思います。大阪の問屋がコストを求めて産地を広げて行ったのでしょう。しかし、今日になるとモノを実際に作れるという事が強みになっています。生活に密着し、同じ物が大量には必要で無いもの、家具や生活雑貨はヨーロッパがそうである様に地域の工場が見直される時代になって来たのです。しかし、求めに応じてモノを作って来た工場の中には何を作れば良いか分からないという所がほとんどです。もちろん大きな投資をして回収出来る工場はありません。作りたい意欲のある工場は沢山有ります。若いデザイナーにはチャンスでしょう。何を作れば良いか、どの様にそれを知らしめて行くのか、少なくともこの2つを自分で手掛ける事が出来れば良いのです。

工業製品に限らず、一次産業全般にも言える事です。工業製品や工芸はよりコントロールしやすいと思います。生産者の多くがITの活用が遅れているのです。プロダクトデザインという技術が無くてはやり難いという点も有ります。地方にも広告や印刷の仕事はあるので、グラフィックデザイナーは意外と多いのです。出来ればプロダクトデザインの知識に加えてマーケティングの知識が有ればより仕事がし易いと思います。私は東京で働いた事が無いので分かりませんが、製造現場や作り手と十分にコミュニケーションを持たずデザインワークを行うって面白いのでしょうか。東京でも充実した生活環境に居られれば別でしょうが、そうでも無い環境から豊かさの提案を行うのは別の難しさがあるのでしょう。ITの進歩で必ずしも消費地にいる事が優位で無い様に思います。アメリカを見ても進んでいる企業はNYでは無く、西海岸の方である様に思います。

日本の産業はこれからも日本の文化と共に続いて行くと思います。デザイナーの様なクリエイティブワークは地方どころか、アジアの時差の少ない所で時には移動しながらも行う事ができるでしょう。実際にモノを作るという一点に置いては、産地で作り手と行う事が必要あると思います。新潟に限らず地場産業にはデザイナーの活躍できる場所と可能性はどんどん広がって行くと感じています。個人的には工場と信頼関係ができれば、よりアート寄りな個性的な製品に可能性を感じます。時代はドンドン変わっています。プロダクトデザイナーももちろん大企業で活動するのも良いですが、個人で活躍出来る環境へと変わって来ているしその先にはアジアの工場で作って日本で売るのも普通になる事でしょう。大変な時代では無く良い時代だと思います。

この記事を読んで新潟でのものづくりに興味のある方、質問などあればお応えしますのでお気軽に問い合わせ下さい。


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