見出し画像

産業観光の話

工場の祭典を知ってますか?三条市が行っているオープンファクトリーを中心にしたイベントです。大勢の人が燕や三条の工場を見に来るのです。実際に工場を見て楽しんで帰られるのかは分かりません。私から見ると主な工場が参加していはいません。産業観光は歴史的・文化的に価値ある工場や機械などの産業文化財や産業製品を通じて、ものづくりの心にふれることを目的とした観光をいうそうです。歴史的・文化的な価値という所とイベントの要素を合わせる難しさが有るのでしょう。

ただ実際に多くの方が三条市や周辺に来ていただけることは、遅れている新潟県内の産業観光には良い事だと思います。工場の祭典で初めて来られる方は是非、燕の玉川堂に立ち寄られることをお勧めします。燕は元々キセルに代表される銅製品の産地でした。銅は錆にくく加工しやすい金属として知られ船等にも使われます。他の産地と違い銅を鋳造するのではなく、銅の薄板を叩いてカタチにするのが燕の特徴でしょう。歴史的に見ればその後、鉄にクロムを合わせたステンレスが作られ、錆びに強い金属といえばステンレス鋼となり現在の燕の産業につながります。玉川堂さんで見て欲しいのは金属を叩くと硬化する事、硬化した金属を熱でなますと再び柔らかくなり更に加工が出来る事、そして形にになった後で表面に施す酸化処理です。金槌でたたく鎚起銅器の加工作業に目が奪われますが、モノづくりの視点で見ると金属の加工はストレスがかかると硬化しストレスから解放する「なまし」という工程が有るという事は現代の金属製品全般に使われる知識です。さらに表面処理。玉川堂さんの銅を青く見せる技術や赤や金色に見せる技術は凄いです。二百年続くだけの事はあります。銅製品を銅の色のまま製品化し「自分で育ててください」というのも、またクリア塗装してしまうのも簡単ですが、独自の技術で魅せる過程は他では見られないのではないでしょうか。ちなみに玉川堂さんは工場の祭典期間でなくても工場見学が可能です。ですが、先に玉川堂を見て、その後にステンレスの工場を見学する方が文脈が伝わると思います。

三条市は和釘に代表される鍛冶の街です。本来鍛冶屋は鉄を熱しそこに別の金属をまぶしながら叩く事で鋼をつくります。真っ赤に熱した鉄に炭素とかマンガンとかまぶすと花火の様に光って奇麗だから職人になったと教えてもらったことが有ります。現在はそのような作り方はしていません。刃物用鋼を加工しています。安来鋼「ヤスキハガネ」は現在日立金属のブランドですが優れた刃物の元になっています。三条は利器工匠具の街といえるでしょう。そうした流れからすればやはり諏訪田製作所さんを見ておくべきでしょう。鍛造とは金属をハンマー等で叩いて圧力を加える事で、金属内部の空隙をつぶし、結晶を微細化し、結晶の方向を整えて強度を高めると共に目的の形状に成形する。古くから刃物や武具、金物などの製造技法として用いられてきた製造方法です。

燕と三条では金属加工という共通点はありますが、起点が違います。お城が有り古くから鍛冶が必要で歴史のある三条と新しい素材であるステンレスをプレス加工する燕は文脈が違います。ちょっと意識して工場見学を行う方が楽しくみられると思います。現代においては共通点も多いけれど、鍛冶屋というのは熱を使います。ステンレスの工場では熱はあまり使いません。熱を加えると酸化により発色してしまう事も理由の一つです。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?