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あれ食べたい第1話【小説】 ただ回転焼きが食べたくてたまらなくなった話

イライラする
何にもしていない自分にも
何にもできないこの体にも

朝起きるまで、私の体調はわからない
すこぶる元気で、なんでもできるくらい、普通の人と同じくらいの時もあれば、
一日中布団から起きれない日もある
体調を自分でどうにかしようと努力してみたが、
なかなかうまくいかなかった
ある人はこれを「体調ガチャ」と言っていた

そして、今日はガチャ最悪の日
昨日から、呼吸が上手くできなくて、ずっと苦しくて、しんどくて
なんなら「死」が少し私の周りをちらほら漂っているような感じをずっと感じていた
人はこれを精神的なものだという

朝起きて、まだ息が吸えている事を実感し、
少し安堵する

こうやって、不安でたまらなくしんどい時、
私はとんでもなく甘くて熱くておいしい物が食べたくなる
砂糖少なめのコーヒーと一緒に

【いや、ダメだ。私今体調悪いのに
そんなの食べたら、絶対この後もっと体調悪くなる】
そんなことを思い悩んでいたら
どんどん呼吸が浅くなって来た

慌てて、ネットで「息苦しい 対策」などと検索する
そしたら
「死にそうなくらい息ができなくなるときは、肺の病気の可能性がありますが、少し息苦しいや息が吸いにくいといった症状はストレスやパニックを起こしてなることが多いです。」
と書かれている文を発見した

あ、これストレスなのか
そう思ったら、なんだかストンと腑に落ちた

思えば、先週から体調悪くて
体にはいいけど、別に食べたくないものばかり食べていた

野菜、肉、ご飯、魚
小麦はお腹に溜まってガスがひどくなるから
お菓子は体調を崩すから
スナックは体に悪いから
揚げ物は体がしんどくなるから
お腹一杯食べたら、この後しんどくなるから

ずっと、からだのためを思って
心を殺して無理をしていた

しょうがない
私の体が動かないのが悪いんだから

そう思っていたけど、違う
体は良くても、心が死にかけていたみたい

よし、食べよう
温かいコーヒーとあんこたっぷりの回転焼きを

確か、母が買い置きしている冷凍の回転焼きがあるはず

ゴソゴソと冷凍庫を探れば
いつもの回転焼きがまだ一個残っていた

いそいそと取り出して、お皿に出して
レンジで一分チン
裏返してもう30秒チン

その間に電気ポットでお湯を沸かす
マグカップにマキシムのインスタントコーヒーとザラメをちょびっとパラリ

ちょうどお湯とレンジが一緒に終わったので、
先にカップにお湯を注ぐ
ぷわんとたつ湯気にいつものコーヒーの香りが鼻腔をくすぐり
なんだかそれだけでとっても幸せな気分になった

おっと、ぼぅーっとしてはいけない
レンジからメインを取り出すのを忘れるところだった

良かったまだアツアツである
湯気がたっているものというのは
何でこうにも美味しそうなのだろう

熱さでやられる手をフーフーしながら、とりあえず一口かぶりつく

アチッ、熱っ、痛っだ
あまりの熱さに口をやけどした
それも幸せになるのはたぶんこの熱さにも幸せを感じているからだと思う(断じてドMではない)

皮も餡も熱いけど上手い
皮のカリモチ感とあんこのガツンとした甘さに脳が震える

美味しい
ただ、それだけ

半分くらい食べ勧めたあと、
口がどんどん痛くなるのにまた気づき
しょうがなく、一回食べかけのコレをお皿におく

そして、まだ香りが続いているコーヒーを一口
うん、熱い
けど美味い
安心するそんな味
本当はここにクレマトップのコーヒーミルクを入れたいのだが、販売中止で売っていないので仕方ない
販売中止
お気に入りがなくなるのは、少し手に入れたアイテムをなくした喪失感がある

さて、カップをおいて、お皿の残りに向き合う
残り半分
もう悲しい
それでも、一口一口噛みしめる
あぁ、美味しい
ちょびっと冷えたのもまた美味い
さっきは、なかった皮の旨味とあんこのコクが口の中に広がる
一個の回転焼きで二度楽しめるなんて私は幸せだろう

美味しいものは偉大だ
食べるだけでその人を
笑顔にする
幸福にする
悲しみを減らす
不安を減らす
希望になる
目標になる

そんな世界で暮らせている私は幸せである

ふぅ、ごちそうさまでした

気がつけば、息苦しさなんて忘れていた
たぶん、がっついている間にそんな事は忘れてしまったらしい

あぁ、バカらしい
あんなに深刻に思っていた事が
たった一つの食べ物で変わるなんて

しょうがないか
私だし

そんなこんなで、今日も私は生きていく



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