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自由に、自分を出してサッカーをする#FC今治でプレーする 松本雄真

選手として成長するために、プロ2年目にして移籍する決断をした松本雄真選手。サイドを何度も上下動し、球際で勇敢に戦うプレーで、チームに大きなエネルギーを与えてくれています。プレシーズン中のけがや、思うように試合に絡めない時期もある中で、新天地で自分としっかり向き合いながら、そのチャレンジは始まったばかりです。

大学3年、4年と特別指定選手となったカターレ富山に加入したのが昨シーズン。そしてプロ2年目の今シーズン、完全移籍でFC今治に加入しました。

オファーは素直にうれしかったですね。今治は昨シーズン、富山を含めた昇格争いを繰り広げて、富山は最終的に失速してしまいましたが、今治はあと一歩の5位。“今年こそ昇格を”と意気込むチームから、声をかけていただいたわけですから。

もちろん、富山も昇格を目標に掲げているのは一緒です。ただ自分の中に、何かモヤモヤする気持ちがありました。大学3年から富山で3シーズンを過ごし、いつの間にか慣れてしまっている自分がいたんです。

確かに去年、リーグ戦26試合に出場しました。でも、いまだにゴールがないし、アシストもほとんどない。「選手として成長するために、何かを変えなければ」という思いが、次第に強くなっていきました。

そういうタイミングでの、今治からのオファーでした。「環境を変えるのも、一つの方法かもしれない」と、新しいチャレンジのために移籍を決断しました。

今治ではどういうプレー、特徴を発揮していきたいですか?

上下動する運動量ですね。大学まではボランチでしたが、富山ではサイドバックでプレーすることが多くなりました。そして今治では、サイドバックやウイングバックで、自分の特徴を出すことが求められていると思います。

開幕からしばらくは、試合になかなか絡めない時期が続きました。

チームが始動してすぐに、右太ももの肉離れになってしまったんです。それ自体は軽かったのですが、開幕前の愛媛FCとの練習試合でジャンプして着地した際に、右足首を捻挫してしまって。

これまで、リハビリをしなければならないようなけがをしたことがなかったんですよ。そこで焦りのようなものが出てしまいました。今治に移籍してきて、大事なキャンプも別メニュー。出遅れてしまったと感じていました。

状況を受け止め、乗り越えていくために、吹っ切れたきっかけはありましたか?

今治の先輩と話す機会が自然と増えていったんですね。その中で、修さん(修行智仁選手)や拓郎さん(上原拓郎選手)に、「こういうときこそ、腐らずにやることが大事だよ」と言われて。

何か、特別かしこまって話したわけではないんです。ロッカールームで一緒になったときとか、トレーニングに行く途中とか。本当にちょっとした、いつもの会話でのことでした。そのうちに『自分のペースで、少しずつやっていけばいいのかな』と思えるようになりましたね。

ピッチを離れた時間の過ごし方も、パフォーマンスに大きな影響があると思います。今治で過ごす好きな時間はありますか?

今治は自然が豊かじゃないですか。海も山も川もあって。それで、滝を見に行ったりしてますね。

滝! パワースポット的な?

そうです。鈍川の方とか、菊間の歌仙の滝とか。けっこう、あるんですよ。いい滝が。

滝を見に行くと、季節ごとに良さ、楽しさがあって。春はいろいろな虫が出てきて、寒い冬が終わったのを実感できるし、新緑もきれいです。夏の暑い時期は涼しくて。これからは紅葉が楽しみですね。

プロサッカー選手って、意外とたくさんの自由な時間があるんです。毎日の練習は午前中ですからね。だからといって、ずっと家にいたら、ちょっと息も詰まってしまいます。外に出て、気分転換がてら滝を見に行ってます。

サッカー以外でも充実の時間を過ごせているのですね。さて、今治デビューとなったのは、第9節・ヴァンラーレ八戸戦(○1-0八戸)で、初めてのメンバー入り、そして右サイドバックとして先発フル出場しました。

戦う部分は、チームとしても特に求められる試合でした。その前の節、Y.S.C.C.横浜戦で前半2点リードしながら、ヴィニ(マルクス・ヴィニシウス選手)とドゥドゥ(現ジェフユナイテッド市原・千葉)が退場して逆転負け。悪い流れを、何としても断ち切らなければならなかったですから。

八戸戦に向けて準備が始まる中で、「次は2人が出場停止だから、もしかすると自分にもチャンスがあるかもしれない」と、より気合が入りました。そして、実際に出番が来て。あとは思い切ってプレーするだけでした。

両サイドでプレーできるところも松本選手の強みです。ファン・サポーターのみなさんには、どういうプレーに注目してもらいたいですか?

僕は、決してうまいプレーヤーではありません。何か特別なことができるわけでもない。ですが、楽しくサッカーをすることを心掛けていて、そこを見ていただければ。

楽しくサッカーをしようと意識するようになったのは、実は最近のことです。それこそ、この夏、監督が交代したあたりの話で。「やっている自分が楽しくなければ、見ている人も楽しいはずないよな」と、ふと思ったんです。

試合に出る時期もあれば、メンバー外になる時期もあって、どうしてもいろいろ考えてしまいました。そのうちに、「今の自分はサッカーを楽しんでいないんじゃないか?」と思うようになったんです。ミスを恐れ、いつの間にか窮屈なプレーになっていました。

当然、チームとしてやるべきこと、求められることがあります。だからといって、自分の良さまで消えてしまっては、僕が今治でサッカーをする意味はない。だから今は、ちょっとチームに迷惑をかけるくらいでもいいから、自由に、自分を出してプレーしようと割り切っています。

そして第21節、アウェイの富山戦で先発しました。

古巣が相手だから力が入るというよりも、対戦する時点で勝てば2位の富山に勝点1差に迫る重要な試合だったので、『絶対に勝つ』という気持ちがありました。個人としても、結果を出したいという思いが強くて。

それが空回りしたというか、悪い方向に出て、思うようなプレーができませんでした。結果、前半だけで交代となってしまいました。

チームとしても、一度は逆転しながら最後に追いつかれ、引き分け。まだまだ勝負強さが足りないと思い知らされた試合でした。勝ち切るためには、個人としても、チームとしても、やらなければならないことがたくさんあります。

勝ち切る強さを身につけることが、J2昇格を達成する大きなカギとなります。

チームがこれまでやってきたことに、選手それぞれ何をプラスアルファできるかだと思います。自分が試合に出て、結果を出してチームの勝利につながれば、最高の気分なのは間違いないです。でも、一番はチームが勝利することです。

今治が勝つために、誰がゴールを決めてもいい。そのために一人一人がやれることはたくさんあります。試合に出るかどうか以前に、普段のトレーニングから競争の質を高める役割が、まずある。

勝つことでチームは調子を上げ、勢いづきます。試合に絡んで結果を出すことにこだわりつつ、楽しみながら、今治の流れをつくり出すようなプレーをやっていきたいです。

取材・構成/大中祐二