見出し画像

チームが勝利するために、しっかり失点ゼロに抑えていく #FC今治でプレーする  伊藤元太

愛媛県松山市出身の伊藤選手がJリーガーになったのは、今から4年前のこと。J1のヴィッセル神戸でもまれ、さらに去年はJ2のザスパクサツ群馬に期限付き移籍して経験を積み、今年、FC今治に完全移籍で加入しました。当初は試合のメンバーにも入れない我慢の時期がありながら、今治ゴールを守る強い覚悟は少しも揺らぐことはありませんでした。

松山工業高校からJ1のヴィッセル神戸に加入したのが2019年。今シーズン、完全移籍でFC今治の一員となりました。シーズンを折り返した今、充実の日々を送っているのではないでしょうか。

今治は全員で守る意識が強いチームです。僕が試合に出していただくようになったのはヴァンラーレ八戸戦(第9節○1-0)からですが、みんながゴール前で体を張ってくれる。枠内にシュートがほとんど飛んでこず、GKである自分は何もしなくてもいいというくらいの試合もありました。

今治のゴールを守るこだわり、意識するプレーは?

相手がゴール前に上げてきたクロスボールにしっかり対応することです。思い切って飛び出していくから、かぶってミスになる可能性もあります。でもミスは誰でもするものだし、ミスを恐れてプレーが消極的になることの方が良くない。男気を見せなければなりません。

それに、練習中から『クロスにGKが出てくれると助かる』という声をディフェンス陣から掛けられるんです。だったら、みんなを助けるしかないじゃないですか。試合中も『元太、クロスが来るから出てくれ!』という一声で、心も体も乗る。みんなで守る感覚でプレーすることができています。

移籍してきた当初は、試合メンバーに入らず、自分との戦いが続く期間もありました。

自分はとにかく、神戸のGK前川薫也選手の背中をずっと見てきました。日々、どれだけ努力しているかを僕は知っているから、『J1で試合に出ている人でさえ、あんなに練習している。今治で俺はそれ以上にやらないと、追いつくことすらできないじゃないか』と気づいたのが一つのきっかけです。それで中学、高校とお世話になっていたパーソナルトレーナーに、改めてお願いすることにしました。チームのトレーニングに加えて、僕のフィジカル、プレースタイルをよく分かっているトレーナーが、どこをどう強化するか考え抜いたメニューにも、今は取り組んでいます。

そしてめぐってきたチャンスを物にして、レギュラーGKの座をつかむことになりました。

今、FC岐阜でプレーしている田中順也さんは、僕がプロになったとき神戸で一緒だったんです。神戸って、すごいメンバーがそろっているじゃないですか。だから最初はビビっていたんですよ。ネガティブな考え方しかできませんでした。

だけどあるとき、順也さんに『ネガティブなやつのところには、誰も寄ってこないぞ』と言われたんです。『そうか』と思って。向き合い方を変えることにしました。

そうしたら、チームに佐々木大樹というポジティブの塊のような選手が加入してきて。まるで何も考えていないような男なんですが(笑)、彼からもポジティブであることの大切さを学びましたね。

それが今も生きてるのかな。今治でなかなか試合メンバーにも入れませんでしたが、『ネガティブに、変に考え込んでもよくないな』と考えていました。

プロサッカー選手は、常に競争の世界にいるじゃないですか。試合に出れば目の前の敵に勝たなければならないし、そもそもチーム内の競争を勝ち抜かないと試合には出られない。試合に絡めなかったころ、落ち込んだり悶々とするんじゃなく、あえてチームが遠征でいないタイミングでパーソナルトレーニングを入れたりもしていました。ボクサーのメイウェザーの「お前らが休んでいるとき、俺は練習している。お前らが寝ているとき、俺は練習している。お前らが練習しているときは、俺も練習している」という言葉をかみ締めながら。まあ、そんなスタンスでしたね。

今回、故郷である愛媛県のJクラブ、FC今治との縁はどのように生まれたのですか?

強化部の中野圭さんは中学(帝人SSジュニアユース)、高校の先輩で、プロになってからも僕のことをずっと見てくれていました。神戸と今治が練習試合をしたときも、『今は、どんな感じ?』と声を掛けてもらったし。ザスパクサツ群馬に期限付き移籍していた昨シーズンが終わったタイミングでも、熱心に誘っていただきました。それで、本当はまだ早いという思いもありましたが、腹をくくって地元の愛媛県に帰ってきました。

今、試合に出るようになって、これまでお世話になったみなさんに、少しは恩返しができるようになってきたかな。まだまだ全然、足りないですけど。

シーズンは後半戦に突入しましたが、変わらず混戦の昇格争いとなっています。

今治は、『あ、名前を知ってる』という選手が多いと思うんです。それだけ実績のある選手が多いし、試合のメンバーを見た人は、けっこうインパクトを受けるんじゃないでしょうか。やっているサッカーも、相手からすれば、すごくいやらしいものだし。

いやらしい?

前からどんどんプレッシャーに来るし、とにかく体の強いブラジル人選手はいるし、後ろはめっちゃボールをはじくし。それだけでも対戦するのが嫌なチームだと思います。だから選手それぞれがしっかり力を発揮すれば、混戦の昇格争いを勝ち上がっていけるはずです。

『残り全勝します』というのは、さすがに現実味に欠けます。もちろん、その意気込みで毎試合、臨みますよ。でも、もしもチームが止まったり、状態が落ちたとき、みんなでどういう方向に進んでいくのか。それが本当に大事です。だからこそ、試合を戦う意識で日々の練習から積み重ねて、信頼関係をさらに深めていきたいですね。

後半戦にかける思いを聞かせてください。

いいセーブをすることで拍手をもらえたりすることもありますが、応援してくださるみなさんが一番盛り上がるのは、チームが点を取ったときだというのはよく分かります。GKとしては、ちょっと複雑ですが(笑)。

ただ、GK目線で言わせていただくと、失点ゼロで抑えることがサッカーでは本当に大事だと思っていて。点を取られなければ、負けることは絶対にありません。 ディフェンス陣ががんばって無失点に抑えれば、ヴィニ(マルクス・ヴィニシウス)も(千葉)寛汰もJ3で屈指の爆発力がある選手ですから、しっかり点を取ってくれるはずです。勝利のために失点ゼロに抑えるので、これからもFC今治の応援をよろしくお願いします!

取材・構成 / 大中祐二

以下の動画は、伊藤選手がラジオ番組「FC今治のカナイがイカナイト」に出演した際の放送アーカイブです。ぜひご視聴ください。