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鳥肌が立つほどすばらしい。昇格という経験を、ぜひこの今治でも #FC今治でプレーする セランテス

最後尾から大きな声で仲間を鼓舞し、チームが一つになって戦う空気を作り出す。スペイン人GKセランテス選手の存在感は抜群です。再び日本に戻ってプレーしたいという願いがかなったセランテス選手は、自身の経験を生かしつつ、FC今治のJ2昇格のために全力を尽くしています。

今シーズン、FC今治に加入し、アビスパ福岡に所属していたとき以来、3年ぶりの日本でのプレーとなっています。

オファーを受けたときは、ただただうれしかったですね。僕も奥さんのサンドラも、日本に戻りたい気持ちが、ずっとあったので。クラブと重ねたミーティングもとても順調で、今、こうして今治でプレーすることができています。

今治の街に暮らし、サッカーをする毎日はいかがですか?

充実しています。今治の街は自然が豊かで、落ち着いているのでとてもいい。毎日、サンドラと1時間ほど散歩をするんです。途中でカフェに入ったり、港や海、川のあたりを歩いたり。今治城に行くこともありますよ。会話しながらのんびり歩くだけですが、とても大切な時間です。

家にいるときは、勉強もしています。この間、CT検査やMRI検査の医療機器を扱う資格を取ったんです。今は、英語の勉強を始めたところです。散歩をしたり勉強することで、サッカーのことで頭がいっぱいにならないようにしています。

CT検査やMRI検査の機械を扱う資格ですか!?

父に、よく言われたんですよ。プロサッカー選手のキャリアは短い。他のことも、しっかり勉強しておくように、と。

修さん(修行智仁選手)が体現していますが、ゴールキーパーはフィールドプレーヤーに比べれば長くプレーできるポジションだと思います。だけど、せいぜい35歳くらいまでかな、と僕は思っていて。修さんは例外です。普通じゃないんですよ(笑)。39歳だなんて、とても信じられない。本当にすごい人です。

いずれにしても、僕にも現役を引退するときがやってきます。そこからいろいろな職業に就く可能性を広げていくためにも、現役中の今から資格を取ったり、勉強をしているんです。

8月に工藤直人監督が就任して、セランテス選手は再び先発を続けて今治のゴールを守っています。工藤監督は、よりボールを大切にして前進することをチームに求めていますが、セランテス選手も前線にボールを送るときのフィードなど、プレーに変更を加えたところはありますか?

チームで大事にすること、やろうとすることは、基本的には理己さん(髙木理己前監督、現AC長野パルセイロ監督)のときから変わってはいません。ただ、直さんが監督になったタイミングで、直さんと、GKコーチの(水谷)雄一さんと、3人であらためて話をして、どういうタイミングで、どういうボールを前に付けるか整理したんです。そのおかげで、今はよりスムーズにスペースを見つけられるようになったし、自分にとって新たなチャレンジがスタートした感覚でいます。

直さんには、本当に良い機会を与えてもらっています。開幕から試合に絡んだ後、しばらくゲームから遠ざかった時期もありましたが、トレーニングから100%でやっていたので、準備不足ということはあり得ません。感謝の気持ちをこめて、FC今治が良い方向に進むためにがんばっています。

工藤監督が就任後、連敗して迎えた第24節の松本山雅FC戦。ラストプレーで相手選手に抜け出され、1対1の大ピンチになりましたが、セランテス選手がファインセーブでシュートを止めて、1-1で引き分けました。チームにとっても、セランテス選手自身にとっても、本当に大きなプレーだったのではないでしょうか。

FC今治には、本当に良い選手が揃っています。ただ、自信とちょっとした幸運が足りなくて、なかなか勝つことができなかったと思います。まさに松本戦の最後の瞬間、足りていなかった部分を変えられたのだと感じます。

直さんもその後のミーティングで、『ここでジョン(セランテス選手)が止めてくれて引き分けたことを、先につなげていこう』と言ってくれました。実際、次のギラヴァンツ北九州戦では最後の最後、自分たちがゴールを奪って勝利することができた。サッカーというのは、自信や幸運が本当に重要な意味を持ってくるものなんです。

北九州戦の後半アディショナルタイム、ラルフ・セウントイェンス選手のヘディングシュートが決まった瞬間、どういうリアクションを取りましたか?

「切り替えろ!」と日本語で指示を出していました(笑)。まだ、試合時間は残っていましたからね。

もちろん、ゴールの瞬間は僕も感情が爆発しましたよ。テル(照山颯人選手)と抱き合って喜んだあと、勝ち切るためにすぐに切り替えました。

本当にうれしいゴール、勝利でしたね。今治は昇格のために、北九州は残留のために、どちらも勝点3が必要な試合で、僕たちは勝ちたい気持ちが強すぎて、たびたびミスをしていました。

それで難しくなった試合を、ああいう劇的な形で勝つことができた。この勝利によって、チームはとても落ち着くことができたと感じています。

セランテス選手自身は、しばらく試合から遠ざかる時期もありました。

開幕からしばらくは先発出場を続けていましたが、サッカーがうまく機能した試合もあれば、そうではない試合もありました。それで勝ったり、負けたりという状態が続くと、GKが変わることも起こり得ます。そして、自分もメンバー外になりました。

人間ですから悲しくなったり、イライラすることもありました。ですが、スタッフともしっかり話をして、次にチャンスが来たときのために準備することに集中していました。そして幸運にも、シーズン中に再び試合でプレーする機会が与えられ、新たな気持ちで試合に臨むことができています。

チームは今、昇格に向かってとても良いムード、リズムで毎日トレーニングしています。自分もそれにしっかり合わせて、全力で取り組んでいます。せっかく与えられたチャンスを、自分の努力不足で手放したくはありませんからね。

僕には一つの信念があります。人間性のレベルが整っていないと、プロフェッショナルとしてやっていけないと思うんです。

福岡に行く前、僕はスペインで思うように行かない難しいシーズンを過ごしていました。それが福岡に行って、本当にポジティブな気持ちでサッカーができるようになった。そしてそれを、ピッチの中で表現できたと思います。

だから福岡で良い成績を残せたし、今治でのチャンスにつながっているんです。クラブが目標達成できるように全力を尽くすのは、僕にとっては当然のことなんですよ。

今シーズンは引き分けることが多かったFC今治ですが、しっかり勝ち切る力を発揮して、J2昇格を果たしたいですね。

引き分けは、決してネガティブな結果ではないというのが僕の考えです。それこそアウェイの松本戦は、あわや勝点ゼロに終わるところでした。もし、あそこで松本に逆転負けして3連敗していたら、間違いなく北九州戦にはものすごいプレッシャーが掛かっていました。

だから、引き分けという結果で納得していい試合もある。もちろん勝てれば最高です。でも、勝点ゼロに終わることなく、ポイントを積み上げてきたからこそ、今、昇格のチャンスを引き寄せることができているんです。

このチャンスを、絶対につかみ取らなければなりません。そのためには、少なくとも今シーズン残りの今治里山スタジアムでのホームゲームは、すべて勝たないといけない。

僕は福岡でJ1昇格を経験しました。もう、本当に鳥肌が立つ思いでしたよ。昇格することが、いかにすばらしいか。その経験を、今治のみんなにも伝えたいんですよ。

選手、スタッフ、サポーターも含めて、僕たちはただの“関係者”ではないんです。FC今治という家族です。ここまで苦しい時期もありました。それを一緒に乗り越えて、あともう少しというところまで来ています。みんなで昇格をつかみ取りましょう。それは、言葉にできないほど価値あるものです。僕は自分の経験を生かし、しっかり貢献したいと思っています。

取材・構成/大中祐二

以下の動画は、セランテス選手がラジオ番組「FC今治のカナイがイカナイト」に出演した際の放送アーカイブです。ぜひご視聴ください。