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僕たちが結果を出して、この街を盛り上げたい#FC今治でプレーする 阪野豊史

J2に昇格するという、クラブの本気に動かされ、この夏、経験豊富で頼もしいストライカーがチームに加わりました。ゴールを奪うためだけではなく、守備でも労を惜しまず走り続ける阪野豊史選手。妥協を知らないチームプレーは、勝負の終盤戦に臨む今治の大きな力になります。

この夏、東京ヴェルディから完全移籍で加入して、FC今治で背負うのは99番という大きな数字です。

娘の誕生日が9月9日で、99番にしました。11番が好きなんですけど、今治ではラルフ(セウントイェンス)が着けているので、だったら、(加入が決まった時点で)もうすぐ1歳になる娘の誕生日にしようと思って選びました。

夏の移籍ということで、オファーを受けた後、即決しなければならないシチュエーションだったのでは?

今シーズン、ヴェルディで試合にも出ていたし、チームも優勝争いをしている中で、今治からお話をいただきました。33歳という自分の年齢を考えたとき、『あと何年、サッカーができるだろう?』という現実があって。より僕の力を必要としてくれるチームがあるのであれば、そこで自分の持っているものすべてを出したいという考えに至りました。

そうすることが、後悔のない選択になるはずだという思いがありました。それで、何チームか興味を持ってくださった中で、今治に移籍することを決断したんです。

長くプロサッカー選手をやってきて、これまでいろいろな選択をしてきました。今回、初めて「やりがい」で選びましたね。

選択するとき、決め手はいろいろあります。選手としての成長や、プレーするカテゴリー、あるいはお金もそうです。

なぜ今回、やりがいを選んだのか。理由はシンプルで、FC今治が本気でJ2昇格を目指していることが伝わってきたからです。今治里山スタジアムという、立派な新スタジアムをつくり、強力な選手も集まっています。

愛媛FCでプレーしていたとき(2016年)、FC今治と練習試合をすることがたびたびありました。当時のFC今治は四国リーグで、JFLを目指すクラブでした。それがこの7年でJ3に入り、サッカー専用スタジアムを完成させ、J2に昇格しようと戦っている。間違いなく、さらに魅力的なクラブになっていくでしょうし、そこに自分も加わりたいんですよ。

夏の補強ですからね。シンプルに、J2昇格の力になるために呼んでいただいたと思います。そのために、自分は結果を残すだけです。

7年ぶりに愛媛のJクラブでプレーすることになりました。

前回、愛媛FCに所属していたときは、松山市の中心部ではなく、北条に住んでいたんですよ。海が見える家に。

練習場もスタジアムも結構遠いですよね?

スタッフには、「北条に住む選手はクラブ史上初だ」と言われました(笑)。自分は浦和レッズでプロになって、以来、栃木SC、モンテディオ山形、松本山雅FC、東京Vでもプレーしましたが、いずれも海のない街で。これまでは愛媛FC時代が唯一、海の見える家に住んでいたんですよ。

だから瀬戸内海の美しさ、自然の豊かさ、食べ物のおいしさ、暖かい気候を含めた暮らしやすさは知っているつもりです。今回、今治でも海が見える家にしました。

海が近い生活を満喫していますか?

愛媛FC時代は、毎日、砂浜に行って焚火をしたり、バーベキューをしていましたね。当時は独身だったので、かなり自由でした(笑)。今治でも砂浜を家族で散歩したり、ときにはバーベキューをやっています。

それから今治に来て、釣りを始めたんです。夕方の1時間ほどですが、けっこう行っていますよ。近くで釣りをしている人の中にはFC今治のサポーターの方もいらっしゃるようで、『あれ、阪野選手? 応援しています』と、全然、釣れていない自分の姿を目撃されています(笑)。

ただ、サッカーに関していうと、愛媛県ではまだまだ人気のあるスポーツとはいえないですよね。浦和や山形、松本といった、サッカーが根付いた街でプレーした経験があるだけに、もっともっと自分たちの頑張りで活気づけなければならないと感じます。

今シーズン、FC今治、愛媛FCの2チームがJ2に昇格すれば、県内での見られ方も当然、変わるでしょう。もっといえば、四国全体のサッカー人気を高めることにつなげられると思うんです。

戦うステージがJ2に上がれば、さらに多くの方が応援に来てくださるはずです。FC今治はもちろん、相手チームにも『この選手のプレーを見てみたいな』という有名選手、有力選手も増えるでしょう。何とか僕たちが結果を出して、今治の街を盛り上げたいですね。

FC今治デビューとなった第22節・FC岐阜戦の後、阪野選手の「昇格するためには、チームにまだまだ厳しさが足りない」という言葉が響きました。

ちょっと説明するのが難しいのですが……。技術、うまさは、プロ選手としてやっていく上で重要ですが、長い時間をかけて養っていくものですよね。身体能力に関しては、がんばりだけではどうしようもないことだってある。

でもピッチで戦う、仲間とコミュニケーションを取りながら協力してプレーする部分は、今すぐにでも変えることができます。このチームは、そういったところをさらに良くしていけると感じて、『厳しさ』という言葉になったのだと思います。

試合だけではないんですよ。毎日の練習にもいえることです。『プロの世界で生き残っていくんだ』という気持ちは、必ずプレーに表れます。このチームに来て最初に感じたのが、『上のレベルでサッカーをしたい!』という熱量を、もっと持てるはずだということでした。

FC今治での初ゴールが、かつて所属した松本戦というのもめぐり合わせですね。

もちろん個人的に気持ちが入っていたし、チームとしても工藤直人監督になって連敗していたので、非常に重要な試合でした。ゴールに関しては、しっかり駆け引きできたと思います。強いシュートを突き刺すのではなく、ディフェンダーやGKと駆け引きして、『どこを狙えばいいか』というのをしっかり見極めて決めることができました。

ボールを持ち込んで、最後、ちょっと右に持ち出したところでGKが反応し、目の前のディフェンダーが股を閉じるのが分かったんです。それでニアにシュートを打ちました。

駆け引きは、ヴィニ(マルクス・ヴィニシウス選手)がボールをしっかり収めてくれたところから始まっていて。パスを受けた僕がドリブルしている間も、ヴィニはゴール前まで走ってくれていました。だから、『パスを返してもいいな』という選択肢を持ちながら最後の自分のシュートまで持ち込めました。僕一人の力で決めたのではなく、周りの選手がプレーし続けてくれたからこそ生まれたゴールでもあるんですよ。

いよいよ、勝負の終盤戦に突入します。J2昇格を果たすカギは何でしょうか?

流れに乗ることが、やはり大事だと思います。そのためにも連勝して、流れをつかみたいですね。

とはいえ、連勝は一度にできるものではなく、あくまでも目の前の試合を一つずつ勝っていった結果です。そして、次の試合に勝つためにどのような準備をするのかは、監督やコーチングスタッフが考えてくれます。

僕たち選手は、しっかりコミュニケーションを取りながら、求められることを遂行するために全力を尽くす。それを続けることが、目標の達成につながるはずです。

取材・構成/大中祐二