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成長していくスタジアム 虎本和也 #里山スタジアム誕生へ

新スタジアムの設計を担当している株式会社梓設計アーキテクト部門副主幹の虎本和也さんに、「里山スタジアム」にかける思いを聞きました。「成長するスタジアム」を提案した背景や、次世代の文化・交流拠点をどう作るか、さらにファンからの質問にも答えてもらいました。

Q:里山スタジアムの初期構想は「Grow Stadium(成長するスタジアム)」だったそうですが、何に着想を得たのでしょうか?

チームの成長とともに収容人数を増やせる設計に

日本のJリーグにはJ1、J2、J3とカテゴリー別に収容人数に関する規定があります。FC今治が今後J2、J1、さらに先へと駆け上がっていくにつれて成長するスタジアムになれればと思い提案しました。
着想のもとになっているのは、フランスのラグビーリーグ(TOP14)のスタジアムです。彼らはユニットスタンドを用いて、リーグのカテゴリーの進退に合わせてスタジアムのスタンドを多くしたり、少なくしたり、下部リーグに落ちたチームが、上がったチームにスタジアムごと売ったり貸したりしています。こうした思想を今回のスタジアムでも取り入れ、成長していくスタジアムを提案しました。

ほかのスタジアムと「里山スタジアム」では、成長を見据えて拡張可能という点が異なります。サイドスタンド、バックスタンドには「里山ボックス」というスペースがありますが、ここにスタンドの拡張が可能です。

社会情勢が激変する中で、可変性のあるスタジアムが時代のニーズに合う

スタジアムを小さくはじめることの利点は、時代やニーズに合わせた余剰が生まれることだと思います。コロナショックで社会情勢が激変しました。人を多く集めるスポーツやイベントの開催が困難になり、無観客試合や収容人数制限も続いています。この先、回復に向かうことを望みますが、また新たな脅威が訪れるかもしれません。そんな中で可変性と多様性を持ったスタジアムは時代のニーズにも合っています。

可変性があるというのは、たとえば観客席が5,000席から10,000席、15,000席までの増席が可能ということです。スタンド後方にある「里山ボックス」というスペースが拡張スペースになりますが、席の拡張以外にもそのスペースを活用して多彩な観戦環境も提供可能です。

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賑やかな風景を作り出す仕掛けのひとつが「里山ボックス」

「里山ボックス」は、パートナーとともに作り出す、可変性と多様性を生む特別な観覧席です。試合日以外にも日常的に店舗やホテルにする案も出ています。今はまだ言えませんがオープン当初も楽しい仕掛けを考えていますし、今後も変化、成長して行く場所です。
「里山ボックス」設計にあたっては、アメリカのボールパークやスタジアムも研究しました。メジャーリーグの中継を見ていると、スタンドの後ろに滝が流れていたり、子どもの遊び場があったり、お酒を楽しめるバーがついていたり、カメラ越しに見ていても楽しい賑やかな風景が広がっているんです。そうした賑やかな風景を「里山ボックス」でも取り入れようと計画しています。
「里山ボックス」はバックスタンドとサイドスタンドの後方に位置し、それぞれが思い思いの観戦スタイルで試合観戦を楽しむことができます。可変性があり、年を経るごとにどんどん変化していきます。テレビ越しに見た人が「なんか面白そうなスタジアムだな」と思ってもらえるような仕掛け、行ってみたくなるような仕掛けを計画しています。

Q:岡田会長発案で、設計段階で「ラ コリーナ」に見学に行かれたそうですが、何かヒントになりましたか?

自然と人々の営みが共存する世界観を見て「里山スタジアム」がイメージできた

滋賀にある「ラ コリーナ近江八幡」には、2018年の秋に設計チームで訪問しました。ロケーションもとてもいいのですが、建築と人々の営みと周囲の自然環境が一体になった世界観には驚きました。藤森照信さんの建築も素晴らしいのですが、作れるところは自分たちで作って、日々成長しているという点が印象的でした。運営会社「たねや」の従業員さんだけでなく地域の人たちまで巻き込んで、さらに地域の職人さんたちの力を借りながら、少しずつ大きくしていると聞きました。そのときに、地域も巻き込んだ交流の場になること、自然と人々の営みが共存する世界観を設計することは可能だと知り、「里山スタジアム」というコンセプトのイメージができました。

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2018年11月に「ラ コリーナ近江八幡」へ行ったときの写真

「里山スタジアム」は、次世代の文化・交流拠点を目指しています。そこは、子供から大人まで、試合がある日もない日も、365日楽しめる場所。「ラ コリーナ近江八幡」で里山と人々が共生していたように、それぞれが環境の中で学びや感動を得られる、得るだけではなく自分からほかの人に与えられる循環型の社会を目指しています。

借景を取り入れ、今治の町並みと海が美しく見える設計

「里山スタジアム」では、「ラ コリーナ近江八幡」と同様に周囲の自然環境を借景として生かしながら設計しています。いまの夢スタもそうですが、朝日がきれいに見えるという話をスタッフの方から聞き、早起きして朝日を見に行ったことがあります。瀬戸内海から上がってくる素晴らしい朝日を真正面から見ることができ、それからというもの、この敷地に関しては海に対する眺望は大事にしています。
「里山ボックス」の高さは、今治の町並みと海がきれいに見える高さを計算して設計しました。また敷地の南側は山に囲まれた敷地でもあるので、今治の植生を再現した「里山サロン」と周囲の山並みが連続して見えるような計画にもなっています。さらに、スポーツパークに面する北側にもゲートを設け、空間的な連続性や賑わいの相乗効果を狙っています。

Q:「里山スタジアム」の施設や設備について詳しく教えてください。

スタンドに一体化した選手ベンチで、選手とサポーターの一体感を高める

まず選手ベンチには、イングランドスタイルを導入しています。通常はスタンドの前方に選手ベンチが置かれていますが、イングランドスタイルではスタンドの中央に選手ベンチが置かれます。前方に選手ベンチがなくなることで、観客はなるべく近くで試合を見ることができます。さらにスタンドに一体化した選手ベンチを計画することで、選手とサポーターの一体感を高めることもできます。安全性には最大限配慮しながら、すぐ近くで選手を感じてもらえます。

クラブハウスは4階建てになります。1、2、4階は選手や試合運営、メディアのための部屋で、3階はまるまるワンフロアすべてがVIP用のボックスルームです。ビジネスの接待や商談、グループでの観戦に加え、飲食などの特別なホスピタリティサービスを考えています。
また、ホームチームのロッカーはトップチームと何度も話し合い、世界中のスタジアムのロッカールームも研究しながら、いくつもの案を提示し決めました。チームの一体感は大切にしながらも、それぞれの選手ごとに個別な空間も大切にしています。たとえばベンチは横にぐるっと繋がっていながらも、自分の居場所の仕切りはあるというイメージです。ほかにもスパイクが使いやすい位置に置けたり、携帯が充電できるといった機能もあります。効率的かつ機能的で、試合前に選手達の士気を高められる計画になっています。

また、自然環境や防災に対しての設備にも配慮しています。建設という行為はたくさんの資材や大きなエネルギーを伴いますので、気候変動や環境保全への影響が大きいという問題があります。そこで今回の計画では、太陽光発電、雨水利用、井水利用などの自然エネルギーを活用しています。さらにLEDや高断熱化による熱負荷の低減、里山空間での雨水流出抑制などを計画しています。
防災については周辺の防災施設(イオンモール今治新都市やスポーツパーク)と連携して地域防災の強化に役立てればと思っています。発災時における一時避難スペースの確保だけでなく、インフラの確保も計画しています

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Q:ファンやサポーターの皆さんから、設計について多くの質問が寄せられています。ぜひお答えください。

●質問1:屋根はつきますか?
→竣工時はメインスタンドのみの予定ですが、今後サイドスタンド、バックスタンドの増席と合わせて屋根も拡張していく予定です。

●質問2:階段の多さは解消されますか?
→「里山スタジアム」は夢スタよりも低い土地にできるので、今よりも階段数は少なくなります。

●質問3:駐車場はどこにありますか?
→近い場所だと「里山スタジアム」計画地のすぐ下の敷地です。ほかにも、たとえばクリエイティブヒルズなどに駐車場を設けて、シャトルバスで輸送していくパークアンドライドを活用するなど、さらに多くの駐車場を計画しています。

●質問4:車椅子への配慮はありますか? 
→スタンドには車椅子席を準備しています。メインスタンドにいくつかの場所に分けて配置しており、選択できるようにしています。近くにバリアフリートイレも用意しているので安心して利用できると思います。

●質問5:トイレの数は増えますか?
→現状より多く、箇所も分散してより客席に近い位置に配置しています。目で見て場所が分かりやすいように、視認性や案内性も考慮した計画になっているので、利便性は向上すると思います。

●質問6:座席の幅は広くなりますか? 背もたれはつきますか?
→座席幅は夢スタと同等ですが、従来のベンチシートではなく、各席が独立した個席になるので観戦環境は向上すると思います。メインスタンドは背もたれつきを考えています。

●質問7:ピッチとの距離は遠くなってしまいますか?
→今の夢スタの近さをそのままにしながらも、メインスタンドはさらに急勾配になるので見やすいスタンドになると思います。

Q:最後に、FC今治のファンのみなさんにメッセージをお願いします。

たくさんの人に楽しんでもらえる、人々に愛されるスタジアムに!

「里山スタジアム」はプライベートスタジアムということもあり、たくさんの人の想いが乗っています。特にFC今治のスタッフを始め関係者のみなさんと一緒に作っているという感覚は大きく、実際にこのスタジアムを運用していく部署の方と直接お話ができたので、細かい要望まで設計に取り入れることもできました。
行政の仕事とはやっぱり違っていて、収容人数がいくらで、事業費がいくらかで、部屋をどのぐらい作ってほしい、というのが決まっていない段階から僕らのところにボンッと話が来たのも異例でした。プロジェクトの状況やクラブの経営状況や、社会の変化に応じて、使う人たちの考えも変わってきます。利用する人々が本当に喜ぶ、楽しんでいただけるためにどうしたらいいのかを模索しながら、たくさんの議論を重ね、何度も設計図を修正しましたし、時にはゼロから書き直すということもありました(笑)。

コロナ禍以降、ほとんどの会議をリモートで行っていましたが、離れた場所にいながらも密なコミュニケーションをリモート経由でできたことで、よりよい計画になりました。数年がかりのプロジェクトなので、状況や思想の変化に応じて臨機応変に変えられたのも良かったと思っています。

「里山スタジアム」プロジェクトについては、2020年の方針発表会で発表させていただきました。新型コロナの影響で1年遅れましたが、その間もたくさんの議論を重ねてきました。今治に住む方々、今治を訪れる方々、FC今治のサポーターの方々、選手、スタッフ、たくさんの人に楽しんでもらえるものが出来てきていると思います。ぜひ楽しみにしてください!

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●虎本和也 (Kazuya Toramoto)
株式会社梓設計 アーキテクト部門 
一級建築士
1986年福岡県生まれ。工学院大学工学部建築都市デザイン学科を卒業後、2011年より梓設計入社。公共施設、スポーツ施設を中心に建築設計に従事しつつ、国内・海外の100箇所以上のスポーツ施設についての研究し、全国各地のスタジアムやアリーナの企画提案及びデザイン提案等を行う。現在は、FC今治と共に里山スタジアムの建築設計を担当中。



取材・文/村上亜耶


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