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市民と育てるスタジアム 宮地創 #里山スタジアム誕生へ

新スタジアムのランドスケープを担当した、高野ランドスケーププランニングの宮地創さんに、「里山スタジアム」にかける思いを聞きました。今治の環境的利点をランドスケープでどう生かしたか。さらに外構エリアで私たちがどう楽しめるかについても答えてもらいました。

Qランドスケープというのは、そもそもどんなお仕事ですか?

オープンスペースを作って街づくりに貢献するのが我々の仕事

私たちは造園業の中で、設計とコンサルティングを担当している会社です。本社は札幌にあります。ランドスケープというのは、対象としているのが公園やリゾート施設の開発、ガーデンの設計や広場、オープンスペースなどの空間設計がメインになります。そういったオープンスペースを作ることで街づくりに貢献したり、施主様や企業様の庭を使って市民に開放するといったこともしています。

これまでにスタジアムの仕事としては、「北海道ボールパーク」(北海道日本ハムファイターズの新球場)のランドスケープに弊社は関わっています。
ただスタジアムの設計では、ランドスケープが関わらないことのほうが多いんです。土地の余裕がなくて駐車場を整備するだけで精一杯といったケースが多く、その周りの「人が集える空間」というところまで、手を掛けられるスタジアムは少ないのが現状です。「里山のようなスタジアムに」をコンセプトに掲げてランドスケープまで意識されているFC今治さんは、そう言った意味ではレアな事例にあたります。

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QなぜFC今治のスタジアム建設に関わることになったのですか?

「今治.夢スポーツ」のスタッフとの古いご縁で、ランドスケープを担うことに

今から30年ぐらい前に、北海道で物作りワークショップを一緒にやっていたのが、弊社の代表と、現在は「今治.夢スポーツ」でしまなみ野外学校を担当されている木名瀬さんだったんです。今回、FC今治さんが「里山スタジアム」を建てるにあたって、木名瀬さんが弊社を紹介してくださったんです。正式にランドスケープの仕事をさせていただくことが決まったのが、2020年の3月頃でした。

「里山スタジアム」については、設計事務所の梓設計さんと、弊社の協業で進めています。クラブハウスとスタジアムの観客席などのメインの建築設計は梓設計さん、その周りの外構部分の設計は弊社が担当しています。今回、協業させていただく中で感じたのは「里山をコンセプトにしたスタジアムを作る」という大きなビジョンが梓設計さんも我々も一致しているということ。そのため、設計事務所、ランドスケープ会社といった垣根を越えて、いろんなアイディアを共有することができました。たとえば365日賑わいのある場所を作るのにはどうしたらいいか? というアイディアをお互い出し合いながら、フラットな関係を作ることができています。

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365日賑わいを作るには、試合日以外にどんな活動ができるかが重要

365日賑わいを作る工夫としては、試合日以外にどのような活動ができるのか、というのが重要になります。たとえばスタンド裏の斜面をみんなで耕せる畑にしておこうとか、物作りの拠点となるような施設を配置して、その物作り拠点を中心にみなさんに集ってもらえるような場所にしたいなとか。ほかには市民参加型という言葉があるのですが、市民のみなさんに空間作りにも関わってほしいなと思っています。建設時から市民参加も交えた整備ができる工夫をしております。

Q建設予定地にテント泊をして、現場を下見したと聞きました。この地の環境的利点は感じましたか?

瀬戸内海から朝日が昇り、街が照らし出される東側の風景が素晴らしい

これまでに建設予定地には2回テントを張って宿泊したんですが(笑)、朝方と夕方がとてもいいなと思いました。東側の瀬戸内海の方から朝日が昇ってきて、街が照らされている風景が広がっていたんです。建設予定地にランニングや犬の散歩に来ていらっしゃる方もいて、朝の活動の風景も気持ちのいい場所だなと感じました。夕方は、日が沈んでいく街の様子が見えたり。敷地から見て東側に抜けた空間はすごく価値があるなと思っていて、それは斜面上にある「里山ボックス」から東側に臨む景観にも生かしています。

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FC今治が地元で作ってこられた信頼関係は、僕らにとっても財産

今治に来たときに、飲食店などに行って「FC今治さんの新しいスタジアムを一緒に作っているんです」とお話しすると、ウェルカムな雰囲気で接してくださることがとても多いんです。FC今治さんと市民のみなさんとの信頼感が強いなと感じていて、その関係者ということで受け入れてもらえたり、一緒にすぐ話ができるように感じています。
FC今治さんが地元で作ってこられた関係性は財産だなと思っていて、たとえば「こういうことをしたいんです」と提案すると、「じゃあ、あの人に聞いてみよう」という答えがすぐに返ってくる。やはり信頼関係があると、いろいろなことが始めやすいなと思っています。

弊社の中で「このプロジェクトには、人をちゃんと投じよう!」というケースには、現地にひとり担当者を住まわせて、現地の方々と一緒に場所を作っていくことがあります。今回の「里山スタジアム」も、会社の意向を背負っているプロジェクトのひとつ。ですので、これから僕も実際に今治に家を借りて住む予定でいます。今治に住むことで、その土地にある自然素材が見つけやすくなり、ランドスケープの素材として取り入れることもできます。

Q新スタジアムを「里山」のように見せる工夫として、ランドスケープではどんな仕掛けを施しましたか?

ひとつの空間の中で、今治在来種の植物を使いながら里山を表現する

「里山」のように見せる工夫として、空間的な観点でお話をすると、今治の植物(在来の種)を使った庭をひとつの空間で作ろうとしています。一般的に植木屋さんなどで流通している植物ではなく、山に実際に苗木を取りに行って、その苗木を植えるということも計画しています。
あとは里山というのを空間ではなく行為と捉えた場合に、自然環境に人が手を加えるというという行為も、里山の概念のひとつだと思っています。敷地内に畑を作って耕すことや、今治の山に木を取りに行く行為もそうです。今治という地域の中で横断的な動きをこれからもできたらなと考えています。

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建設時やオープン後も、人の手をかけて更新する市民型整備をしたい

「里山スタジアム」は自然豊かな環境面はもちろんのこと、「次世代の文化・交流拠点を目指す場所」というのもコンセプトに掲げています。交流を生み出すためには、人の手をかけていくことが重要。先ほども言った市民型整備のような、建設時から人の手をかけて工事をしていくのもひとつ。さらに、オープン後も人の手をかけて更新をしていくような営みができたらと思います。
たとえば、「里山ボックス」と言われているコンテナ型の宿泊施設に泊まった人が、斜面に植えられている野菜畑から野菜を採ってバーバキューができたり。あるいは果樹エリアから柑橘をもぎ取って、もぎ取った柑橘をバーで絞って飲めたり。そういったワクワクするような案も、現在提案しているところです。
このスタジアムの利点のひとつは、バーベキューや焚き火といった火が使えること。通常の都市公園とは違って、民間の施設になるので火の使用に制限がないんです。あとは夜間の営業も運営者次第で可能で、自由度が高いのも魅力ですね。

Q「里山スタジアム」の外構エリアについて詳しく教えてください。

試合がない日も賑わいを演出できる、敷地全体を活用した計画

「里山スタジアム」の外構エリアは、大きく分けて4つあります。
まず1つ目が、敷地南側にある「里山サロン」のエリア。土を盛って、囲われた空間の中に、今治の在来種を主体とした植物を用いた庭を作る予定です。
雨水を活用した「流れ」を作る計画もあり、この場所で落ち着いた時間を過ごしてもらえたら良いなと思います。

2つ目が北東側にある「里山アトリエ」エリア。ここには物作りの拠点施設を作る予定です。畑もこのエリアにあたるのですが、ここを中心に制作活動ができたり、人の手で物を作っている風景が広がればいいなと思っています。個人的には薪小屋みたいなものを作って、集まった人が夜な夜な焚き火をしながら語り合えるような場所ができればなと(笑)。

3つ目が東側にある「里山プラザ」エリア。ここは瀬戸内海が臨める、東側に向けたビューが一望できる開放的な場所です。少し大きめなイベントも開催できるように、広がりのある芝生広場を計画しています。芝生広場のまわりには、木がある程度まとまって植わっていて、お母さんやお子さんが木陰の下で休めるようになっています。試合がない日もたとえばピクニックができたり、子どもたちが裸足で駆けまわれるような場所です。

4つ目がスタンド〜裏手の斜面にある「里山ボックス〜畑」のエリア。
試合日には多様な観戦や出店がある里山ボックスとして使い、日常的には里山ボックスの裏の(ピッチと反対側の)斜面を活用して作られる予定の畑と一体的に利用してもらえるような場所です。野菜もそうですし、果樹を含め、エディブルな植物を植えたいと考えています。

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他にも、エントランス部分では、試合日の賑わいを演出するために、アート作品などが展示できるような場所にしたり、イベント時にキッチンカーが出せて、日常的にはランニングができるようスタジアムを周回できる園路を付けていたり、試合日にも日常的にも楽しめる空間になっています。

Qご高齢の方に配慮した点、また子どもたちが楽しめる場所があれば教えてください。

勾配や段差を少なくしつつ、子どもたちが遊べる雨水利用の小川も整備予定

ご高齢や車椅子の方については、道の舗装や段差の面で配慮しています。車椅子の方でも通行しやすいように、舗装材料については FC今治さんともかなり詰めた議論をしています。例えば、一部導入しようとしている砂利舗装は、ただの砂利ではなく、砂利を固定できる材料を導入する予定です。空間になじむ自然素材の砂利を使いながらも、デコボコしなくて通行しやすいという点が特徴。段差や勾配については、周回園路の縦断勾配はゆるくしており、どうしても急になる場所でも2%程度にしています。当然ですが、観客席のすべての車椅子席に接続できるようにスロープを配置しています。

子どもたちが楽しめる場所としては、緑溝の案があります。スタジアムの1周をグルッと囲むように排水の溝を予定していて、この排水溝は雨水利用をして、雨が降ったときに水が流れる、子供たちが遊べる小川のような機能を持たせる予定です。これはまだ構想中ですが、ピッチに散水した水も緑溝に流して二次利用できればと考えています。
昨今、グリーンインフラという概念があって、「里山スタジアム」ではそのグリーンインフラを採用予定です。これまではグレーインフラと言われる、いわゆるコンクリートなどの水路がメジャーでしたが、今は自然の素材でインフラを作っていこうという動きがあり、これがグリーンインフラにあたります。特徴としては、排水溝が緑や木に置き換わることで、生き物のすみかができるだけではなくて、子どもたちが遊べる場所になったり、水を貯めて畑に散水したりなど、人の活動を誘発させる機能を持つものです。

Q「里山プレート」「里山ユニット」というアイディアがあるそうですが、教えてください。

「里山プレート」は菊間瓦のネームプレート。「里山ユニット」は今治在来種の植物プランター

現在の夢スタにもあるような、支援してくれる寄付者や応援者の名前を刻んだネームプレートを、「里山スタジアム」では菊間瓦を使って行いたいと思っています。これが「里山プレート」です。具体的にはスタジアムの舗装された園路の一部に、名前が刻まれた菊間瓦を埋め込む予定でいます。耐久性も問題がなく、事例を見ていても20年は持つと言われており、今回採用する計画でいます。

もうひとつ、こういうことをやれたら良いなとFC今治の方々と一緒に構想していることが「里山ユニット」です。これは簡単にいうと植物プランターのことです。実際に今治の山に入って植物を採り、その苗木をプランターの中に入れて、そのプランターを「里山スタジアム」に設置して育てるといったイメージです。育てる段階から市民参加型を採用して、みんなで育てていけたらと考えています。そして今後、FC今治さんがJ2、J1と駆け上がっていくごとに、このプランターの植物も一緒に成長していき、市民が成長を楽しみに見守ることができます。
また、成長したものを街に配って、緑の力で街に賑わいを作るといったようなことも思案中です。商店街や小中学校、医療機関のエントランスに置いていただければ、街と「里山スタジアム」の交流にもつながると思っています。

Q最後に、FC今治のファンに向けてメッセージをお願いします。

趣味を通して出会いが生まれたり、日常的に使われる場所になってほしい

個人的な考えでいうと、「里山スタジアム」はキラキラしたイベントが常時開催されるようなイメージではなくて、子育てサークルや老人会、町内会、学校の授業でこの場所を日常的に使えるようになったらいいなと思っています。今、ワイン用のぶどうを建設予定地の畑で育てているのですが、ワイン好きの人が集まってそこで何か活動をするとか。または制作活動が好きな人同士の出会いがそこで生まれたり、焚き火やバーベキューを好きな人が集ったりなど、日常的に使われる場所になってくれたらと思います。

「里山スタジアム」は、ただ誰かがボンッと作るようなスタジアムではなくて、市民のみなさんと関わり合いながら作っていく、人の手をかけながら成長していく場所になってほしいと考えています。なので、ぜひみなさんと一緒に作っていけたらなと思っています! あと、今治に住んでいる間は仲良くしてもらえたら嬉しいです(笑)。

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●宮地 創 (So Miyaji)
高野ランドスケーププランニング株式会社
技師
1994年北海道十勝生まれ。実家は45haの自然放牧酪農。
室蘭工業大学大学院修了後、2018年に高野ランドスケープに入社。
2020年まで主に北海道内の公園やガーデン、リゾート等のプロジェクトに関与。その後、FC今治里山スタジアムの担当に。


取材・文/村上亜耶


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