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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

TOHO日本橋で鑑賞。約3か月ぶりの映画館です。自粛期間、長かった…!

南北戦争時代に力強く生きるマーチ家の4姉妹が織りなす物語を、作家志望の次女ジョーを主人公にみずみずしいタッチで描く。しっかり者の長女メグ、活発で信念を曲げない次女ジョー、内気で繊細な三女ベス、人懐っこく頑固な末っ子エイミー。女性が表現者として成功することが難しい時代に、ジョーは作家になる夢を一途に追い続けていた。映画.comより

「若草物語」はルイザ・メイ・オルコットの名著であり、幼いころに本好きの子どもとしては一度は通っている道。私も例にもれず、枕の下に置いて毎晩読み込むくらいの読者でした。

総評:グレタ・ガーヴィグ監督の芸の細かさの勝利

リメイク何度もしている作品なのでどうアップデートするんだろう…と思っていたけれど配役の妙、脚本のうまさ、少女時代と大人時代の対比、すべてがバランスよく描かれた映画でした。とにかくキャラクターデザインが唸らせられるほど。

①ローリー

幼馴染で裕福な家の子、セオドア・ローレンス。愛称はローリー、テディ。親を早くになくし、おじい様と二人暮らしな半分お貴族。でもクラゲのようにあっちをふらふら、こっちをふらふら、おじい様の跡継ぎから逃げているクソバカ放蕩野郎っぷりが原作に輪をかけていて素晴らしい!かっこつけのお坊ちゃま、でもジョーへの敬愛は誰にも負けない男ローリー。「君のためなら変われる、僕は変わった、認めてほしい」と求婚懇願する場面はシャラメの演技に胸が痛むと同時に「いや、無理でしょ」と一蹴するジョーに胸がすくというよくわからん感情に振り回されて大変でした。君だってひとりの女性として愛されるべきだ、嫁に行くべきだという考えは押し付けでしかないけれど、女性が身を立てて生きていくのは無理な時代。家庭教師ブルック先生に「座ってくれよ」と注意されども、かたくなに椅子に立ち続ける姿に笑ってしまった。シャラメローリーほんとよいね。

②メグ

生まれながらに苦労性の彼女が、殻を破ってブルック先生と徐々に恋に落ちていくのはよかったなぁ。手袋事件、劇場でのうぶい雰囲気、海辺の散歩で恋人関係に踏み出す二人、わがままを言えばプロポーズもやってほしかった(妄想)原作でマーチ伯母に「貧乏教師にお熱なんてみっともない、あんなのと一緒になっても1ペニーもあげないよ」と散々けなされて、ブチ切れて結婚きめるのは、おりこうメグが決めた最強のアッパーカットなんですよ。出向いたパーティーで身の丈にあわないオシャレしてお人形さんのようだ、と散々けなされる姿もいじましかった。没落する前の「やや裕福だったマーチ家」を聞きかじっている長女だからこそ。メグを「結婚を選んだフェミニスト」と評したエマ・ワトソンが超絶にキュートでした。

③ベス

「ベスは天使だった」というように、終始聖母マリアを彷彿とさせるお顔でしたね。ローレンスおじい様の豪邸のピアノを弾きに行く場面で感情が詰んだ(語彙力)ベスの演奏をやけに丁寧に描くな~と思っていたら、最後にベア先生に遺品のピアノを弾かせる演出で涙崩壊。ローリーについて協議する屋根裏部屋での「ピクウィック・クラブ」でローリーは男の子だけど怖くない、とちゃんと意志表示するところはベスだなぁ~と。4姉妹がわちゃわちゃしてるときに、落ち着いたベスの意見がふっと通るのがいいんですよね。猩紅熱で死にかける>療養>亡くなるまでのコンボは辛くて…ジョーと海辺の語りがはいってて大分救われた。

④エイミー

原作よりだいぶ掘り下げ、リアリスト一直線で描かれていたエイミー。いいね!「結婚は経済」と割り切る上昇志向、素敵です。彼女と夢見がちなローリーのパリでの会話もよいし、あんた本当に13歳か!?という少女時代編でジョーの小説を燃やす表情、フローレンス・ピューの底知れなさを感じさせて鳥肌がたちました。スケートもライムのくだりも、よくもあれだけのネタを同時進行で詰め込んだな…パリ後に結婚報告するエイミーとジョーが会う場面のピューの受けの演技がおっそろしいほど複雑かつ繊細で、ピュー、恐ろしい子‥!と真顔になってしまった。ジョーが姉として遅ればせながら成長見せてるぶん差が愛らしい。ジョーとエイミーはフェイスオフなんですよ…

⑤ジョー

本作の主人公格、ジョー・マーチ。著者オルコットの分身です。シアーシャがOPで街を走りぬけるカットは完全にグレタ主演「フランシス・ハ」でしたね。"Little Women"タイトル差込みもドストライクだったな…彼女は男勝りでマーチ家の長男でこの時代には女性に許されない「自立」を目指していました。マーチ伯母様いわく「女優になるか、売春宿の女将をやるか、それとも結婚してまともな人生をおくるか」と押し付けられた当時の既成概念から飛び出すように。

女性が物書きをする、金を稼ぐ、交渉する、走る、髪をまとめず男勝りな格好をするなんぞ論外だった1870年。「若草物語」はそのすべてを打ち破ってきたオルコット自身の物語でもあるのでジョーの生き方に非常に説得力があるし、オルコットは女性参政権の主張者で、コンコードで初めての投票権を獲得したひとです。政治にもきちんと声をあげてたのでしょう。ジョーがローレンスおじい様やベア先生と意見交換するのが目に浮かぶなぁ。

ローリーとなぜくっつかないのか?問題。これはわかるー!と膝を打ってしまった。ベスを見送った後、屋根裏で「どうしたって寂しい」と気持ちを吐露するジョーに「ローリーへの気持ちは愛じゃないでしょう」と諭すママ・マーチ。ここにすべてが詰まっている。しかも、エイミーのおかげでローリーとジョーは魂の双子ではなく敬愛する相手として向かい合えるのですよ。

1点だけ気になったジョーの台詞、鑑賞2回目で字幕がニュアンス違うな~と確信したのはジョーがベア先生に自作批評され「シェイクスピアだって大衆小説を書いた」と言い返すところ。シェイクスピアは小説ではなく大衆に向けた作品(戯曲)を書きました。Playという単語はないけれど、小説という言い方はちょっと違うし、なによりジョーはそれを100も承知のはず。

 “But Shakespeare wrote for the masses!,” Jo protests.
 “Shakespeare was a poet. He smuggled his genius through his work,” Frederich replies.   
 Reflection on a  Silver screenより

ニューヨーク下宿で出逢うベア先生、原作では20歳ちかく年上の設定なので本来40代男性でもおかしくないんですが、ルイス・ガレルさん似合ってましたね。初登場で「燃えてるね」の声がけ、ドレスの背中をすぐ焦がしちゃうジョーだ!っていう側面も出ていてツボすぎた。最後の恋に落ちる「傘の下で」は完全にフィクションの匂いがするのでオルコットの希望通り、ジョーは未婚にしたんだろうなって思っている。脚本にも「THE PRESENT IS NOW THE PAST. OR MAYBE FICTION」とありました笑。

⑥ママ・マーチ

ローラ・ダーン最高です。最高です。大事なことなので2回言いました。

⑦マーチ伯母

隔離中のエイミーを呼びつけ「いい子にしてたらこれをあげますよ」とみせる宝石、ガーネットのような?社交界デビュー向けですかね。エイミーが舞踏会で嵌めていたかは定かではないです(原作ではお勤めの最終日に空色のトルコ石をもらう設定だったはず) また、神経質なマーチ伯母が眼鏡をずっと指先でいじくるくせも細かい!メリル・ストリープ最強説。

エイミー画伯がローリーに「結婚とは」を語るスピーチはメリルが提案し、急に脚本に差し込まれた…なんてトリビアがIMDbにありました。事実なら素敵。

総括

エンディングに本の装丁を仕上げていく演出、顔を輝かせて工程を見つめているジョーと家族と学園のオーバーラップ。「天国遍路遊び」も「ピックウィック・クラブ」も幼いころからやってたよ、という少女時代の四姉妹。130分にここまで詰め込んでくれるのかグレタ!ありがとう!

オルコットへの愛、女性への愛があふれている映画でした。
はやく円盤がほしいです!

映画脚本(英語)はこちら

おまけ

メグが嘆いてた「50ドルの生地」っていまなら幾らの価値になるんだろう?と疑問がわいたのでInflation Calculatorで計算してみました。

南北戦争が1861年~1865年、メグの結婚~出産を考えると大人時代を1870年と仮定します。

なんと、1024ドル!

What cost $50 in 1870 would cost $1024.02 in 2019.
Also, if you were to buy exactly the same products in 2019 and 1870,
they would cost you $50 and $2.62 respectively.

1ドル=108円為替で計算すると11万円。
お、おぅ。これはブルック先生もびびるわな。

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