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クラウドやAIの活用から炭素税導入まで。マイクロソフトが推進するサステナビリティ変革

この記事は、当社の調査研究をまとめて刊行致します、「Sustainability in Japan 3: 再生型ビジネスへの道」から抜粋したものです。英語版はMediumで入手可能です。

はじめに

ITテクノロジーを活用したサステナビリティ・トランスフォメーション(SX)が世界中で加速する中、その可能性に魅せられた窪田彰子さん。現在、マイクロソフトのクラウド製品Microsoft Azure (マイクロソフト・アジュール)のマーケティングマネージャーおよび同社サステナビリティ・リードを兼任し、クラウド製品等を通じて国内企業のSXをサポートしています。

日本企業に変革をもたらす上で、気候変動対策をリードする自社のSX事例や直面する課題について訊ねました。

サステナビリティとビジネスの関係をどうご覧になっていますか?
 
今やサステナビリティはCSR的に取り組まないといけないものではなく、取り組まなければビジネスが成り立たないという流れになってきています。環境分野で多くの企業が苦戦しているのが、サプライチェーンで排出される温室効果ガスの中でも、スコープ3*の排出量の削減です。それは私たちも同じで、クラウドデータセンターを有し、多くの製品を抱えるためにスコープ3の排出量が約97%を占めています。ですから、私たちは自分たちの取り組みが順調ではなかったことも含め、年次のレポートやホワイトペーパー等で公開しています。互いに学び合いながら、産業全体の底上げをしていく必要があるのです。
 
* サプライチェーン排出量は、事業者自らによる直接排出(スコープ1)、他社から供給された電力や熱、蒸気の使用に伴う間接排出(スコープ2)、これら以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出、スコープ3)に分類される。

自社の事例や情報を公開することが、顧客企業のサステナビリティ変革の支援に繋がりますか?
 
そうです。弊社のオフィスをIoTでモニタリングし、無駄な電気を消すなどエネルギー消費を最適化して遠隔操作ができるようマネジメントしています。さらにそのモニタリング情報にAIを組み合わせることで、機器が故障しそうなタイミングを検知し、予防メンテナンスをすることもできます。

結果的に、弊社の米国本社では電力使用量を30%削減することに成功し、CO2の排出量やコストを削減できたという事例があります。他にも、海外出張をオンライン会議に切り替える、自社運用(オンプレミス)にあったアプリケーションをクラウドに移行するなど、このような社内の取り組みで温室効果ガスをどのくらい削減できたかを他企業に紹介しています。弊社はテクノロジーを活用して顧客企業をサポートすることがミッションなので、自分たちの事例は大事なモデルケースのひとつだと考えます。

マイクロソフトでは、なぜそこまでSXを進められたと感じますか?
 
「サステナビリティはビジネスに組み込むもの」という姿勢をトップが示し、社員のマインドセットを変えたことが一番大きいと思います。マインドセットを変えるための仕組みも有効です。2012年には社内の各部門ごとのCO2排出量に従って税金がコストとして課される、新たな社内制度として炭素税を導入したため、排出削減を目指す方向で物事を考えるようになりました。クラウドデータセンターや製品開発部門は排出量が多いので、デザインを工夫したり、新しいテクノロジーを開発するなどしてイノベーションが生まれています。そして炭素税の税収は、気候変動対策の革新的な技術開発に取り組むスタートアップへの投資など、サステナビリティを更に加速させるために使われています。こうしたトップダウンで決定された構造改革が、サステナビリティ変革の推進力になりました。

SXが進まない原因となっているものとは?
 
弊社の取り組みに興味を持つ企業は多いですが、まだ多くの企業がサステナビリティをコストだと考えているのも事実です。SXは、DX同様にビジネスとしては必要不可欠で、本質的には企業価値を高めビジネスチャンスをさらに生み出すものだという認識が、企業の上層部に未だに浸透してはいないように感じます。

テクノロジーが温室効果ガス排出量のレポーティングプロセスを簡素化することや、会社全体の電力消費を削減できることなど、SXの具体的なイメージを広く伝えていく必要があると感じています。

欧米と日本の認識の違いはどのようなものですか?
 
私が感じているところですが、日本でも20代の若い層の多くは、サステナビリティに貢献することを当然の価値観として持ち、パッションを持って活動しているようです。ですが、やはりミドル層以上になってくると社内でも考え方に差があり、緊急性や危機感を持って向き合っている人はまだ少ないように思います。
 
一方で、マイクロソフトの米国HQを起点として2018年にサステナビリティのグローバルコミュニティを有志が立ち上げ、現在は世界中から8000人ほどの従業員が参加しています。社内の製品について活発に情報共有をし、環境NGOと協業して、4月22日のアースデイには毎年グローバルの社内イベントを開催、社会向けの活動も展開しています。

特にヨーロッパでは企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が発効されるなど、法律分野からのアプローチが背景としてあるために気候変動に対する緊迫感が全く異なります。グローバルの顧客企業の熱量は高く、SXに取り組むことが当たり前になっていると感じています。

気候変動対策の緊急性が高まっている今、サステナビリティ変革に対する欧米の動きと、日本とでは大きな差が生じています。サステナビリティに取り組むことはコストではなくビジネスチャンスであるということを、SXにいち早く取り組んできたマイクロソフト社は自社での取り組みで証明しています。世界の緊迫感を感じ取り、サステナビリティを経営戦略の主要な柱のひとつにし、日本企業が一丸となってSXを推進することが今求められています。


ファブリックは、企業がより革新的で持続可能な未来に向かって進むことを支援し、戦略的デザインの構築やサステナビリティ活動が直面する、様々な課題の解決を支援するコンサルティング企業です。2004年の設立以来、東京を拠点にグローバル企業や地元企業に対してデザイン思考、サステナビリティに関する知見、深い人間洞察力を結集し、優れた戦略をクライアントに提供しています。

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