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連載:人とお寺のあたらしいディスタンス Vol.8「誠実に、自然体でいれば大丈夫」我妻俊道さん

こんにちは。未来の住職塾の遠藤卓也です。

「ポスト・コロナのお寺の場づくり」をキーワードに、全国各地の僧侶にお話しを伺っていく連載「人とお寺のあたらしいディスタンス」。第8回は宮城県仙台市 曹洞宗 江巖寺 我妻俊道さんにインタビューしました。

2019年、未来の住職塾NEXT R-1にて初めてお会いした我妻さん。物静かな佇まいで姿勢も美しく「禅宗のお坊さんだな〜」という印象でした。学びを深めていく過程で、自坊の創建の由来に着目してこれからのお寺の方向性を定めておられたので、そこにどのような気付きがあったのかお聞きしてみたいとお話しを伺ってみました。

インタビュー:我妻俊道さん(宮城県・曹洞宗 江巖寺)「誠実に、自然体でいれば大丈夫」

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プロフィール:我妻俊道(わがつましゅんどう)
1989(平成元)年、宮城県仙台市生まれ。東北大学文学部哲学科卒業後、福井県永平寺にて二年間修行。仙台市江巖寺住職。未来の住職塾NEXT R-1修了生。有志僧侶と「SENDAI ZEN Lab」というグループで禅を学び発信する活動を行っています。

遠藤 我妻さんが住職をつとめる江巖寺(こうがんじ)は仙台市にある曹洞宗のお寺です。7歳で夭折した伊達政宗の三男 竹松丸をご供養するために建立されたのですよね。

我妻 1615年に竹松丸が亡くなって、2015年が400年目でした。その時に霊屋(たまや)を建ててご位牌を安置して、お彼岸やお盆のときに御開帳してお参りいただいています。

遠藤 とても悲しい由来ですが、我妻さんは2019年に「未来の住職塾 NEXT R-1」を受講された際に、その由来を大切なことと捉えなおして “お子さんを亡くされた方に寄り添うお寺を目指していきたい” という方針を定められことが印象に残っています。それでもっとお話しを聞いてみたいと思い、今回のインタビューをお願いしました。

自然体で誠実にやっていれば相手が感じてくれる

遠藤 そもそもなぜ、未来の住職塾を受講されたのですか?

我妻 松本紹圭塾長が本やWebサイトに書いている文章がすごく面白くて、ためになって、励まされると感じていました。例えば「本来は、住職(という役割)は最高の学びの場であるはずです」と仰っていました。私は住職としてプレッシャーを感じることが多かったのですが、松本塾長の「もし何かうまくいかないことがあっても学びと捉えれば前向きに取り組んでこれた」という言葉に励まされて、いつか未来の住職塾を受けてみたいと思っていました。

遠藤 我妻さんは、若くして住職になられていますよね。特に若いうちはプレッシャーも大きいと想像します。ご先代が早くに亡くなられたのですか?

我妻 はい。平成20年に先代である父が亡くなりました。心筋梗塞で突然のことでした。私が高校3年生の時ですね。大学は4年間行かせてもらって、それから永平寺へ修行に行きました。

遠藤 そのタイミングで、、、大変なことでしたね。修行から戻ってきてからは、すぐに住職となられたのですか?

我妻 半年くらいは、代務で住職をしてくださっていた方と一緒に法務などを行ない、色々と教えてもらいました。25才のときに住職辞令をいただいて、江巖寺の住職になりました。

遠藤 その年令で住職になるというのは、大変なことですよね。自分の25才の頃を思い出すと、恥ずかしながら住職になる自分が想像できません、、、。

我妻 私も中身がまだ追いついてなかったので、その分不安が大きかったというか、勝手にプレッシャーを感じてしまっていたのでしょうね。自信がない、というか。

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遠藤 段々と自信はついてきているのですか?

我妻 私が未来の住職塾NEXTを受講している際に、プログラムの中で「布薩(ふさつ)」をやりましたよね?

遠藤 我妻さんが受講された2019年はまだ全国のお寺を会場にした対面の講義だったので、希望者は講義の翌朝に会場寺院の境内に集まって、掃き掃除をしてから「布薩」と称した自己のふりかえりの会をやっていました。

我妻 あの時たしか「自分の内面と向き合ってほしい」というお話しがあったのと、松本先生はじめ未来の住職塾のスタッフの皆さんが、すごく自然体でいらしたのが印象的だったんですね。それと同じで、私のお寺でのご供養や様々な活動も、自然体でやればあとは檀家さんがご自身で感じてくださるというか。相手に任せるというか。「何かになる」必要はなくって誠実にやればいいんだなと、力を抜くことができるようになってきて、良かったなと思っています。
住職としての自分に不安があると、そのあとの法話で何かを伝えなければいけないのでは?と気負って空回りしちゃうという(笑)今まで、自分自身はそうだったんだなと思って。
なので、ご法事でも何でも、直接顔をあわせて何かを感じてもらうという、コミュニケーションを大切にしたいなと思っています。
そういう変化は住職塾に行ったことやコロナ禍における生活の影響が大きく、自分としては「良い方向に向かってきているのかな?」と勝手に思っているところですね。

遠藤 その感じ、よくわかります。何かを持ち帰って頂かなければならないという気負いってあると思うんです。以前、とあるお坊さんとのお話の中で、葬儀や法事などの場面で自分のことをほとんど知らない人たちにむかって、何か話さなければいけないということが、若い頃はすごく嫌だった(笑)と仰っていました。確かに、お坊さんって特殊ですよね。人間関係も文化的背景もほぼ共有できていない人たちの前で突然喋らなければいけない。若いうちは、話す相手の大半が自分より倍ぐらい年上の方々だったりもしますよね。そのハンディキャップの中で「うまいこと言う」のを期待されているっていう。そんな過酷な状況、自分には到底無理って思います。
それでも何度も場を重ねる中で、いつしか自然体の自分に近くなっていくのでしょうね。

我妻 その方は、今は自然体になれたのですか?

遠藤 今は加減の調整ができるようになっていらっしゃるようでした。
想像ですが、きっと皆さん最初は覚えたことを話されたり、師匠の見様見真似でそれらしくなろうとして、偽るわけではないですけど「お坊さんとしての自分」を作るのではないかと。でもそれは自然体ではないので、ギャップに違和感を感じながらある種演じている部分もあるような気がして。
我妻さんが仰った「自然体で誠実にやれば相手が感じてくれるとわかった」ということは、若い頃の「それらしくしたい」というところから、素の我妻さんに近づいてきていることなのかなあと感じました。バランスのとり方がわかってきたということでもあるのかな。

我妻 やはり今まで「住職らしい自分を作ろう」という方向性だったと思うのですが、そっちじゃなくて自然体でいるという方向性に変わってきたと思います。住職塾など色々なことがきっかけとなって、少しずつそちらにシフトできているような気がします。そこが、住職塾に行って本当によかったなあと思うことですね。

同じ悲しみを抱えている方のために

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遠藤 住職塾は、日々のお寺での生活とはちょっと違う非日常の場ですよね。特に我妻さんは仙台から東京まで5回通って来られていたわけですし。そこで講師の他にも全国から集う仲間たちがいる中で、お寺のことだけを考える日を過ごすっていうことじゃないですか。打ち上げの飲み会でもお寺のことばっかり話しているっていう(笑)そういう場って他にないですもんね。

我妻 そうですね。稀有な場だと思います。

遠藤 受講後の感想として、視野が広がったと言って頂くことが多いです。「今まで何事も真面目に考えすぎていた自分に気づいた」とか。同時に「自分は考えてなさすぎでした」と仰る方もあったり。どちらも結局、視野が広がったということですよね。
他の塾生とFacebookで繋がれば様々な活動事例が目に入ってくるので「これもありなんだ」と参考にしてみたり、具体的な活動の幅も広がります。それまでは想像の及ばなかったことや諦めてしまっていたこと、それぞれが自分でつくっていた壁を壊すきっかけにもなるようですね。

我妻 私も色んな事例を参考にさせてもらいながら、自分のお寺の状況に合うような形で活動していけたらいいなと思っています。まだ具体的にやれているわけではないのですが。

遠藤 今後はどんなことをやっていきたいですか?

我妻 コロナ禍で夜に外食するとか宗派の集まり等に出かけることがなくなり、早く就寝するようになりました。それで朝のお勤めや坐禅の時間が以前より気持ちよく過ごせるようになったんです。私としてはお寺の朝の時間はすごく良いと思っているので、何らかの形でお寺の朝の時間を誰かと共有したいですね。

遠藤 それはいいですね!ぜひ「テンプルモーニング」も参考になさってみてください。

我妻 また今回、未来の住職塾の先生がたとお話ししている中で、江巖寺は幼い子のご供養のために創建されたお寺であるというストーリーにあらためて気付かされたんですね。そのことは大切に捉えて、お寺としてももっと発信していきたいです。
木村共宏講師から、周産期喪失(流産・死産・新生児死亡の体験をした両親の悲嘆)について教えていただきましたが、私の友人がお子さんを亡くしてお勤めさせていただいたことがあります。その時、どういう言葉をかけたらいいのかわからなかったり、もっと何かできなかったかな、という思いが残っています。実は私自身も周産期喪失の経験が2回あり、同じ悲しみを抱えた方の力になれることがあるのではないかなと考えています。例えば、お子さんをなくした方のための集まりの場ですとか、縁があればそういう活動をしていきたいです。

遠藤 仙台は都会ですし様々な悩みをもつ方がいると思うので、何か力になってあげられることがありそうですね。特にお寺の創建の物語を地域の中でも認知していただけるような活動としても、グリーフケアの集いの場はあっていますよね。固有の歴史を持つ江巖寺ならではのご活動に期待しています!

お寺のこと

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名称:江巖寺(こうがんじ)
宗派:曹洞宗(曹洞宗)
住所:宮城県仙台市青葉区柏木3丁目7−40
HP:http://kouganji.or.jp

未来の住職塾NEXT R-3 オンライン体験会のおしらせ

2021年6月より開講となる「未来の住職塾 NEXT R-3」は、宗教・宗派を超えた宗教者達が共に学び、変化の激しい社会において持続可能な寺院(および伝統仏教寺院に準ずる運営形態を持つ宗教施設)の姿を描き、計画・実践するためのオンラインの塾です。

今回はオンライン体験会ということで「未来の住職塾 NEXT R-3」での学びの内容や進め方についての説明&ミニ講義や、昨年の受講生による感想シェアリングなど、まさに塾の雰囲気を体験していただける内容になっています。

オンライン化の他にも「フェロー/奨学生」としての受講といった新しい要素があるため、これから初めて受講を検討している方のみならず、過去に旧プログラムを受講された方にもご参考になるかと思います。
無料のオンライン体験会ですので、ぜひ気軽にお誘い合わせの上ご参加ください!

未来の住職塾NEXT R-3 オンライン説明会
日時:2021年5月6日(木) 13:00-14:30
出演:松本紹圭塾長、木村共宏講師
方法:Zoomミーティング
参加費:無料
申し込み:下記のリンク先Peatixにてお申し込み

インタビュアープロフィール

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遠藤卓也:未来の住職塾 講師。共著書に『地域とともに未来をひらく お寺という場のつくりかた(学芸出版社)』。「お寺の場づくり」をテーマに、IT・広報・イベント制作の分野でお寺をサポートする。また「音の巡礼」というプロジェクトでは「音がつなぐ、あたらしい巡礼の旅路。」をコンセプトに、お経からはじまる新しいご縁のあり方を探求中。
note|https://note.com/taso_jp
Twitter|https://twitter.com/tasogarecords

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