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レポート:宗教者のためのエンバーミング勉強会(木村共宏講師によるまとめ)
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レポート:宗教者のためのエンバーミング勉強会(木村共宏講師によるまとめ)

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2020年6月3日に「宗教者のためのエンバーミング勉強会」を開催しました。
99%の遺体が火葬されている日本において「エンバーミング」という、遺体保存処理技術の認知はあまり高くはありませんでした。しかし近年、処置件数は年々増加傾向にあります。「後悔のない葬儀」の為に、葬儀に関わる宗教者がエンバーミングに関する知識を持つことは重要です。
そこで遺体のエンバーミングや海外搬送を手掛けるフューネラルサポートサービス社のロバート・ホーイ氏と加藤里沙氏にご登壇いただき、エンバーミングの概要や国内の状況、そして宗教者とのシナジーや可能性についてお話ししていただきました。
お二人のおかげで、エンバーミングに関する正しい知識を得られる素晴らしい機会となりました。せっかくの学びを一度のオンライン勉強会だけにとどめてしまうのは勿体ないということで、未来の住職塾NEXTの木村共宏講師が学びの内容をまとめてくれました。
ご葬儀に関わる多くの方のご参考となれば幸いです。
(以下、木村講師によるまとめ記事です。)

先日フューネラスサポートサービス様のご協力を得て、オンラインにてエンバーミングの勉強会を行いました。非常に大きな学びの場となり、僧侶としてもエンバーミングに関しては基本知識として装備しておくべきと感じました。勉強会の内容を踏まえて、簡単にエンバーミングについてまとめました。

エンバーミングとの出会い

私自身は2006年ごろにエンバーミングに立ち会ったことがあります。当時勤めていた商社のお客さんが日本で突然お亡くなりになりました。この方(Sさんとします)はトルコから、1年ほどの少し長い滞在予定で、岡山の造船所にて現場監督をされていました。

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Sさんは大変柔和で気配りを欠かさない方でした。亡くなる2、3週間前にも、「いい寿司屋を見つけたんだ」と、出張で岡山を訪れた私にご馳走してくれたばかりでした。突然の訃報に、知らせを受けたときは、にわかには信じられませんでした。

Sさんのご遺体を本国に送るにあたり、何もかもが初めてで手探りの状態でしたが、生前のご恩に少しでも報いようと、自分なりに必死に走り回ったことを思い出します。

当時はエンバーミングのエの字も知りませんでしたが、航空機にご遺体を乗せるには必要不可欠とのことでした。ご遺体は岡山から夜通し車で運んで頂き、東京のとあるエンバーミングセンターにお願いしました。このとき、私もご対面させて頂き、立ち会わせて頂きました。

同時にトルコ航空の貨物室を抑え、大使館で死亡手続きを行い、各種証明書を揃えて、輸出手続き(ご遺体は「貨物」になります)を行いました。一連のプロセスにおいては幸いトラブルもなく、無事に予定の便にてご遺体を本国にお返しすることができました。この時の経験は、Sさんを失った悲しさと共に今でもはっきりと思い出されます。

エンバーミングの歴史

ご遺体搬送の事例からもわかるとおり、エンバーミングの目的の一つは、ご遺体の腐敗を止めることにあります。
こういった技術が生まれ、進化するに至った背景を理解するために、少し歴史を振り返ってみたいと思います。

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● エジプトのミイラ
エンバーミングの起源は古代エジプトのミイラにあります。古代エジプト人は、魂は不滅であり、いずれよみがえると信じていました。そのため、戻るべき肉体を維持する必要から、遺体の保存の技術を培い、結果として多くのミイラを残しました。

近世ヨーロッパ
ルネッサンス期以降のヨーロッパでは解剖学が進化しました。イタリアのボローニャ大学では1500年代に入ると体系立てた解剖学の研究が始められ、これがヨーロッパにおける近代的な解剖学研究の先駆けとなりました。
この流れはヨーロッパ各地に広がり、18世紀にはパリ大学やウィーン大学でも解剖の講義が実施されていました。解剖学研究の進化に伴い、人体保存の技術も進化したと考えられています。

南北戦争
近代においては、南北戦争において、エンバーミングが盛んに行われたとのことです。多数の戦死者の遺体を故郷の地に運搬する必要がありました。防腐処理をするとともに、なるべく生前に近い状態にして遺族の元に送り届けるために、エンバーミングの技術も一層発達しました。

エンバーミングの果たす3つの役割

エンバーミングは遺体の腐敗を防止する効果以外にも重要な役割があります。それは防疫と修復です。ここで改めて3つの役割を整理します。

役割1:防腐
血管に衛生保全液(防腐液)を注入することで遺体の腐敗が進行することを防止します。遺体の劣化を遅くすることにより、ゆとりをもってお別れができます。

役割2:防疫
感染症に罹患して亡くなった遺体の場合、遺体からの2次感染のリスクがあります。そのような遺体を消毒・滅菌し、感染症リスクを排除することで、遺体との対面を可能にすることができます。

役割3:修復
闘病生活によるやつれを始め、事故による遺体の損傷など、生前の元気だった状態と比較すると、遺体には見た目上ダメージがあることも多いものです。損傷部分の修復や、見た目の改善(化粧を含む)により、生前の元気だった頃の表情に近づけることができます。これにより、遺体に対面する遺族の心理的な負担を軽減することができます。

エンバーミングとグリーフケア

上記の内容からもわかるように、エンバーミングにはグリーフケアの要素があります。遺体の腐敗を遅らせることができるため、(1)時間的にゆとりをもってきちんとお別れをすることで、心の整理につながります。

また、遺体の外観による遺族への心の負担を軽減し、(2)心理的に余計な負荷を避けることもできます。亡くなった直後に外観に問題がなさそうな場合でも、僅かな時間で見た目の変化が大きく現れる場合もあります。そういったものも遺族にとっては心理的な負荷となります。

以上のように、エンバーミングはグリーフケアの観点からもメリットがある場合が多いと言えるでしょう。

海外の現状

エジプトのミイラから始まったとされるエンバーミングですが、現在海外での普及状況についてどうなっているのか、簡単にまとめてみました。

カナダ
今回勉強会にご協力いただいたフューネラルサポートサービスの2名のうち、カナダご出身であるロバート・ホーイさんによると、そもそもカナダでは、エンバーミングされていない遺体に遺族が対面することはない、とのことです。
カナダは火葬の比率も高いようですが(一説には50%近く)、それでもほとんどの遺体にエンバーミングがなされているとのことです。

アメリカ
南北戦争の事例にもある通り、アメリカはエンバーミングの中心地の一つです。もともと土葬が主流ということもあり、根強い需要がありました。近年火葬の割合も徐々に増え、2019年の NFDAのレポートでは火葬率が推定54.8%と過半数を超えてきてはいるものの、ほとんどの遺体にエンバーミングがなされている模様です。

イギリス
イギリスの火葬率はおよそ8割ですが、エンバーミングが徐々に普及してきており、現在では推定50〜55%の遺体が何らかの防腐処理を施されているとBBCは報じています。斎場でも遺族にエンバーミングを勧めているそうです。

欧米各国を中心に、エンバーミングは故人を送るプロセスの一部として、かなり組み込まれている模様です。

日本におけるエンバーミング

では日本におけるエンバーミングの現状についてです。日本ではまだ十分認知されているとは言えないエンバーミングですが、近年、伸び率で見ればかなりの勢いで普及してきています。

1988年に埼玉県に日本初のエンバーミングセンターが開設されてからおよそ30年になります。1990年には656件だった施術数は1995年に8,415件を数え、直近の2019年では51,034件を数えるまでになりました。この数は全死亡者数137万6千人の3.7%に相当します。

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また、近年の増加割合は年率約10.8%の上昇幅を示しており、この比率そのものも増加傾向にあります。仮に今後10.8%の増加率が続くとすると、25年後の2045年には73万件以上の施術数となり、全死者の半数程度がエンバーミングを施されることになります。

より加速度的な普及を示す場合はこの数はもっと大きくなるでしょう。

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現在では、エンバーミングセンターは24都道府県に設置され、23社が66のセンターを運営しています。エンバーミングに注目する葬儀会社も増えていて、葬儀会社の社員には、エンバーマーの資格を取得する方も出てきているようです。

問題提起

世界的な流れを見ても、日本国内におけるこれまでの伸び、現状の伸び率を見ても、今後とも日本においてエンバーミングは一層普及していくものと思われます。

しかし、現状まだ3.7%の普及率とはいえ、年間5万件を超える施術がなされるようになった昨今、いろいろと考えるべきところもあるようです。それはエンバーミングを否定するものではなく、エンバーミングをより良く故人あるいは遺族の方々にフィットさせるために我々はどうするべきか、という問いそのものでもあります。

エンバーミングしないといけない?

遺族がエンバーミングというオプションの提示を受けた時、エンバーミングという言葉自体が初めて聞くものである可能性があります。よくわからないものに対し、するべきかせざるべきか、した方がよいのかしない方が良いのか、なかなか判断できるものではありません。逆に、エンバーミングしないことがよくない、と、ある種の強迫観念に駆られてしまって、納得感の乏しいまま、選択してしまうこともあるかもしれません。

こういった事態はエンバーマーにとっても遺族にとっても大変不幸なことです。間に立って、中立的な立場でエンバーミングがどういうものであるか、遺族の気持ちに立ってどういう選択が好ましいかをサポートできる存在が必要だと思います。

これは本人じゃない!?

エンバーミングはやつれた表情を生前元気だったころに戻す施術も行います。闘病の苦痛が現れた故人の顔を見るのは辛いことでもあります。ですが、一概に元気な頃の表情にすれば良いというわけではありません。

故人の闘病生活を見守ってきた遺族にとっては、お亡くなりになるまでの一連の流れを受け止めていることも多いでしょう。苦痛の表情も含め故人である、と感じている遺族にとっては、元気な頃の表情には違和感を感じるケースもあります。

お見送りに際して、どの時点の表情に戻して差し上げるかは、遺族の意向をよくよく聞く必要があります。遺族の感情・意向を十分に汲み取らずに表情を直してしまうと、せっかくの施術が違和感を生んでしまいます。葬儀準備等で大変な時期でもありますが、こういったボタンの掛け違いは起こさないようにしたいものです。

僧侶が果たすべき役割

日本において、エンバーミングという技術が故人を送るプロセスに入るようになって約30年。近年いよいよ普及期に入ってきたように思われます。一般には認知度がまだ高くないことから、今後しばらく、「問題提起」のところで指摘したような事態が少なからず発生することでしょう。

新しいものが普及するときに混乱があるのはやむを得ないことですが、故人を送る場においては、やはり可能な限り理想的なお別れができるようにしたいものです。

そう考えると僧侶は、エンバーミングに関して、檀信徒・遺族の相談に乗れる存在になるべきだと思います。現状、僧侶もエンバーミングについての知識が十分ではありません。まずは正しい知識を備え、また、実務上起きうる問題についてケースを学ぶ必要があります。

多死社会を迎え、首都圏などでは火葬場も逼迫し、遺体を安置する日数が伸びる傾向にもあることから、実務上もエンバーミングの必要性は高まりつつあります。

また、昨今のコロナウィルス感染症の問題にあるように、防疫の観点からもエンバーミングが注目される時期にきています。

こういった外部環境の変化も捉え、欧米では古くから普及しているエンバーミングが日本においても加速度的に受け入れられる可能性は十分にあるでしょう。
エンバーミングを取り巻く環境においても、諸行無常を捉え、人々の抜苦与楽に寄与できる僧侶が増えることを期待します。

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講義映像(フルバージョン・80分)

未来の住職塾NEXT木村講師による「エンバーミング勉強会」まとめ記事はいかがでしたでしょうか?この記事を読んでさらに詳細を知りたいと思った方のために、勉強会当日の講義映像リンク(フルバージョン・80分)を下記に掲載いたします。

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