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非常時の檀家コミュニケーションを考える - インタビュー:渡邉元浄住職(静岡県伊豆の国市・正蓮寺)

未来の住職塾NEXT クラス担任の遠藤卓也です。
先日、このnoteに寄稿した「寺院活動はどこまで「オンライン化」すべきか?」という記事は多くの方に読んでいただけているようです。やはり寺院における新型コロナウイルス感染症の対応策について、関心が高いことがわります。

前回は「オンライン化」というテーマから「ツール活用」の話が主となりましたが、そもそも論に立ち返るとやはり「いかにこの状況で檀信徒とのコミュニケーションを維持継続できるか?」という点が何よりも重要です。
会うこと・集まることが難しい中で、全檀家さんに電話をかけて一人づつお話ししているという、静岡県伊豆の国市・正蓮寺の渡邉元浄住職にお話しを聴かせてもらいました。
※ 本インタビューはZOOMを使いリモートにて実施いたしました

用もないのに電話してくれてありがとう

遠藤 いつ頃から電話を始めたのですか?

渡邉 正蓮寺では地域がら月参りがないため、お檀家さんや有縁の方に祖父の代から毎月「伝道はがき」を出しています。今月で543号になるんですが、そこで法事のYoutube配信や、お寺の公式LINEアカウントについてお知らせしようと思いました。

遠藤 先日、写真で送って見せていただいたはがきですね。

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渡邉 はがきを作ったあと「待てよ」と思ったんですね。私は認定こども園も経営していて、非常事態宣言のこともあり感染拡大防止など、正直なところ最近はこども園のことで頭がいっぱいになっていました。しかしふと立ち止まってよく考えてみたら、長年お寺を支えてきてくれた方たちへの対応も丁寧にやらないと、と気付きました。

遠藤 それで「電話をかけよう」と思われたのですね。

渡邉 実はこういうお見舞いの電話を檀家さんにかけるのはこれが初めてではないんです。昨年10月、台風19号の被害が大きかった時も、罹災された可能性のあるお檀家さんに電話をしました。とても喜んでくださって、後からわざわざお菓子を持ってお礼にきてくれた方もありました。その後、お寺の催しにも積極的に参加してくれるようになったり。

遠藤 心細い時に誰かが電話をかけてくれると安心しますよね。特に独居でご高齢のお檀家さんには、安否確認という意味合いもありますし、必要なサポートだと思います。
今回、全ての檀家さんにかけてみようと思ったのは何故でしょうか?

渡邉 お檀家さんとの距離感も様々ですから、年に一度くらいしか会わないような方とは話が弾まないことも予想できます。しかし普段ご無沙汰しているお檀家さんとも話せるきっかけになると思いました。
以前、少しだけ縁のあった園芸店さんから突然電話をいただいたことがあったんですね。「これといった用事はないのですが、ご愛顧いただいているお客さまに電話しております。」と言ってわざわざ電話をしてくれました。その時に「そういえば聞きたいことがあったんだ!」と思い出して、蓮に関しての質問をしたのですが、そこから話しが盛り上がって一緒に「蓮まつり」という大きなイベントを開催するまでに仲が深まったんですね。わざわざ会いに行って聞くほどのことではないけれど、それだけで電話をするのは申し訳ないとも思っていたので、「用もないのに電話してくれてありがとう」って思いました。自分がしてもらって嬉しかったことは、真似してみようと。

遠藤 確かに、この状況で檀家さんたちはお寺に行くことが出来ないですし、かといって電話をしてもお寺にご迷惑かな?と遠慮している可能性がありますよね。私だったら、控えてしまいますね。そして電話をしてもらえたとしたら、嬉しい。

渡邉 だから、こちらからかけるんです (笑)

業務はITで効率化。コミュニケーションは思いっきりアナログに

遠藤 とはいえ、全てのお檀家さんに電話をかけるって、大変そうだなと思います。もちろん、そんなことを言っている事態ではないのもわかりますが。何か工夫はされていますか?

渡邉 はい、そこはさすがにITを使っています。まずお檀家さんの名簿はオリジナルの顧客管理ソフトに登録してあり、iPhoneでタップするだけで電話がかけられるようになっていて、Bluetoothのヘッドセットで通話します。ちなみにスマホからかけても不在の場合はお寺の番号が着信されるようなサービスを利用していますし、留守電は必ず入れます。

遠藤 まるで一人コールセンターですね (笑)

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渡邉 ノートPCを開いて、話した内容や通話時間をメモしておきます。あとで見返した時に、通話時間が短いと「この人には苦手意識を持っているなあ」など、データから客観的に関係性が見えてくるんです。

遠藤 そこまで分析されているとはすごいですね。どんな風に喋るんですか?

渡邉 「もしもしー○○さーん住職です~。特に用事はないんですけどね~、お加減いかがかなと、お電話でお見舞いしようと思いましてね~」と切り出すと「あら~わざわざ申し訳ありません」なんて掛け合いから始まります。
基本的には安否確認と世間話ですかね。「調子はどう?眠れてる?」「息子さん東京だったよね?」「お孫さんの食事の準備大変だよねえ」とか。10軒もかけた頃には、今の檀家さんの生活ぶりもわかってきて、やりやすくなりました。
こんな時期だから相手も在宅していることが多いです。夕飯時だと、ご家族が揃っていることがあって、次々に電話を代わることもあります。正蓮寺は「檀家さん」を家単位で数えず、人数で数えていますから、一口にいっても、それぞれ一人の人間なので、できれば全員と話すことを心がけていますね。

遠藤 ご家族の皆さんに「住職と話した」と安心してもらえるといいですよね。時間はかかるかと思いますが。

渡邉 こども園の仕事をやりながらですが、土日や隙間時間に1日に20〜30件くらいかけて、3日で70件かけました。一週間も続ければ終わると思います。

遠藤 住職一人でやられているんですね。

渡邉 手分けはしていません。肉声が大事かなと。規模にもよりますが檀家名簿のデジタル化など、環境はどんどん便利に使いやすくしていったほうがいいと思っています。コミュニケーションはなるべくアナログがいいです。ITを使えない人にあわせておくのが大事だと考えています。

檀家さん一人ひとりとの「出逢いなおし」

遠藤 お電話の中で法事の話題にもなりますか?

渡邉 そうですね、もうすぐ法事の方は「家族で話します」と言って、あとでまた連絡をくれたりしますね。

遠藤 「オンラインでも法事できますよ」と提案されていますか?

渡邉 若い檀家さんには話していますね。
あともうすぐ、先程お見せしたコロナ対応に関するはがきが届くはずなので、「はがき届きました?」というコミュニケーションができますね。そこから、オンラインの法事のことやお寺の公式LINEアカウントについての質問をしてもらえるかなと。

遠藤 なるほど。紙で送った内容に補足説明ができるのも、電話の良さですね。

渡邉 中には、これまで打ち明けにくかったという心の不調を告白してくださった方もあります。精神的に不安定で、周囲から浮いてしまっていることもご本人は自分で気づいていて。誰かと話したい時があっても、無責任に励まされて会話が終わってしまうことが寂しいようなんですね。

遠藤 どのようにお話しされたんですか?

渡邉 「そうですよねぇ。そうですよねえ。いいときもあるしねえ、わるい時もありますよねぇ」って言葉をかけると「そうなんだよ!お医者さんもそう言ってくれるんだよ!」と、少しご安心された様子で「今度はこっちから電話してもいい?なんでもいいから話したい時もあるんだ」と言ってくれました。打ち明けてもらえて、うれしかったです。

遠藤 そうですね。その方にとっても「電話をかけられる相手」が増えて良かったと思います。

渡邉 こうやって檀家さん一人ひとりと電話をしていると「出逢いなおし」をさせてもらっているような感じです。
お話しを「聴く」ことは決して容易なことではないですが、だからこそ価値があると思って、やっています。

遠藤 貴重なお話しをありがとうございました。お忙しい中でも「今すべきこと」を着実に実行されていると感じました。

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お話しをお聴きしながら、気付かされることの多いインタビューでした。この時期にお寺として何をすればいいのか?悩んでいるご住職は多いことと思います。「オンライン化」はあくまでも手段を増やすことであり、これからの時代を考えて備えておくことは重要です。しかし、そこからどのように檀家さんとコミュニケーションをとっていくのか?については、今回の渡邉住職のお話しの中に参考になる点が多かったと思います。
お寺の仕事環境はITをうまく活用して効率化し、捻出された時間をつかって思いっきりアナログに檀家さんとコミュニケーションする未来の住職塾としても、ITによる寺院活動の効率化に関しては、引き続き学びの場や事例共有の機会を設けていきます。

正蓮寺の渡邉元浄住職、ありがとうございました!

[Written by]

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