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連載:人とお寺のあたらしいディスタンス Vol.10「お寺はいっときのお休みの場」岩田親靜さん

こんにちは。未来の住職塾の遠藤卓也です。

「ポスト・コロナのお寺の場づくり」をキーワードに、全国各地の僧侶にお話しを伺っていく連載「人とお寺のあたらしいディスタンス」。第10回は千葉県千葉市 日蓮宗 本休寺 岩田親靜さんにインタビューしました。

岩田さんは友人・知人限定のオンライン読書会を開催されています。私も自身が主催する「音巡り講」というnoteサークルの仲間たちとともに、岩田さんの読書会に参加させていただきました。自分と岩田さんの繋がりがなければ有り得ないような多様なメンバーでしたが、本を介してお互いを知るという体験が面白く、はじめましての方もいる中で和気あいあいと楽しい時間を過ごしました。

オンラインであればどんな人ともすぐに読書会が開けますが、岩田さんがなぜ「友人・知人限定」の会にしているのか?疑問に思い突っ込んでみたところ、まさにこの連載タイトルに相応しい「人とお寺のあたらしいコミュニケーションのあり方」についてお聞きすることができました。

インタビュー:岩田親靜さん(千葉県・日蓮宗 本休寺)「お寺はいっときのお休みの場」

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プロフィール:岩田親靜(いわたしんじょう)
1972(昭和47)年東京都日野市生まれ。立正大学大学生博士課程満期中退。平成10年本休寺住職就任。寺院でリトミック、写経会、ヨガ教室、子供会、子育てサークルなど行う。

遠藤 岩田さんはコロナ以降、オンラインの読書会を定期的に開催していますよね。

岩田 僕の友人・知人限定のオンライン読書会をやっています。

遠藤 参加者の範囲を限定しているのはなぜでしょうか?

岩田 インターネットは場所が離れた状態でのコミュニケーションになるので、少し制限をかけないと言いたい放題の場になってしまいます。
学びのためにオンラインの「デスカフェ」や「哲学カフェ」のような場に参加してみたのですが「実名をださなくても参加できます」という形式は難しいと感じました。そのルールで実施してしまうと、無責任な発言が出てくる危険性があります。相手を傷つけてしまうような発言が出るんです。それが怖くて、オンラインの場は僕と面識のある方だけに集まって頂いています。参加者が傷つくことのないように。自分も傷つきたくないですし。大事なことですよね。

遠藤 これまでの「お寺に集まるコミュニケーション」とはかなり異なりますよね。

岩田 お寺に来てくださるならば顔や名前がわかりますからね。「場に参加する」という意志がはっきりしていて、責任感が発生するから大丈夫です。同じ場にいれば相手の温度感も伝わるので、お互いにひどいことを言い合うような事態にはなりません。
また、オンラインのプラットフォームを利用して参加費を取ることで責任感をはかることもできますが、お金が欲しくてやっているわけではないので、僕の場合は無料にして知り合いだけにお声がけするようにしました。勿論、お金もあって悪いものではありませんが、お寺にとってお金よりもっと大事なのは「信用」だと思っています。

遠藤 コロナ禍において、人とお寺のコミュニケーションにどのような影響が表れていると感じていますか?

岩田 オンラインでのコミュニケーションが当たり前になってきたことで、お寺としてどういうコミュニケーションができるのだろうかと考えます。例えば「都心在住・菩提寺は遠方の地方」という方がいたとします。今までだったら、その方とお寺の住職のコミュニケーションは手紙のやり取りくらいしかできなかったわけです。ご自宅へのお経参りもできません。でもオンラインを活用すれば、墓前での読経を動画で見せてあげることができます。既にやっているお寺もありますが、そういう対応ができるようになってきました。
また、都心に住んでいる檀家さんにとって「都心に住み続ける価値があるのか?」ということも、これから問われていくでしょう。

そう考えると今までのお寺のあり方や既成概念が大きく変わる、言わば「ゲームチェンジ」が起ころうとしていることは確かだと感じています。

遠藤 なるほど。地方にあるお寺もコミュニケーションの工夫次第では、ご縁を維持したり、広げていく可能性が増えたということですね。

岩田 一方で、今の世界はもう以前のように戻せないところまできてしまっている可能性もあると思うんです。自分たちの子や孫たちに「なぜこの世に生んだんだ?」と恨まれるような社会に、もう既になっているのかもしれません。自分は生んでしまった人間ですから、彼らにあまりひどい環境を残したくないという思いもあります。

遠藤 お寺としても社会にむけてやれることが色々ありそうですね。

岩田 お寺のあり方も、全体構想を大きく変えなければいけない時が来ているのだと思いますよ。

コロナ禍におけるオンライン活用の鍵は「ガス抜き」

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遠藤 岩田さんのお寺での活動において、具体的にコミュニケーションの変化の兆候を感じていることはありますか?

岩田 コロナの影響で、特にお年寄りとのコミュニケーションは難しくなってきています。感染を恐れて篭もっていると、フラストレーションがたまっているのであろうことも感じます。
緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出ているのに人が密になってしまうというのは、人間の欲望のあらわれですよね。その対局にあるのは理性です。欲望と理性の狭間を人間は生きています。人間は誰しも欲がありますが、お寺側に制御力はありません。

遠藤 お寺がやれることとしては感染対策を万全にして、来てくださる方をお迎えすることですよね。

岩田 そのような中で、お寺が提供すべきなのは「いっときのお休み」だと思います。
僕がやっているオンライン読書会は二時間かけてやるのですが、終わったあとに東京に住む50代のビジネスマンが「これだけが俺のガス抜きだよ」と言ってくれるんですね。公務員の方も「コロナのせいで仕事が大変なんですよ」と愚痴っていますが「だけど読書会を二時間やると、本当にスッキリできるんです。」と言ってくださるんです。今は限られたメンバーとしかできていませんが、こういう取組みがお寺の標準的な活動に変わる時がくると感じています。
松本紹圭さんがオフィスワーカーに対してオンラインで一対一のおしゃべりの場を設けている「モンクマネージャー」も、まさに同じ方向性の取り組みだと思います。

これからの時代は、オンラインでガス抜きができる活動を見つけることは大事です。

遠藤 岩田さんの場合は読書会ですが、お坊さんの個性次第でそれぞれのやり方がありそうですね。

岩田 そうそう、僕のやり方がベストというわけではないです。その時に大事なのは、地位や肩書などの無い関係性の中で集まってくることなんです。丸裸の人間同士の関係性をオンラインでつくり出すことができれば、ガス抜きがしやすいのです。

遠藤 「お坊さん」という、社会でも少し特殊な立場の人が媒介になることが大事なのかなと思いました。

岩田 縦横の関係を取っ払ってフラットな関係になれる場所、というのがお寺という場の特徴なのではないかと思います。

遠藤 それはよくわかります。

コロナ以降も「不可欠な場所」になるために

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岩田 お寺でやっている子供会も同じです。年中さんから小学生まで年齢も男女も関係なく一緒にゲームをやって遊んで、みんなでお題目を少しお唱えして、それだけで子どもたちは仲良くなれるんです。
僕としては、集まってくる子どもたちが家でゴロゴロしているよりは、お寺で走り回って遊んで疲れて帰ってくれたほうがいいなと思うことが一つ。もう一つはその子たちの親御さんたちの「ガス抜き」にもなります。お寺に行っている間は、少なくとも子どもたちが手離れるわけです。それって結構大事なことだと思っています。親としては、お寺に行ってるということにも安心感があると思うんですね。

遠藤 近所に本休寺さんがあったら、うちの子も通わせたいです(笑)

岩田 お寺で遊んだ記憶があれば、その子たちは少なくともお寺に対して悪いイメージはもたない。親御さんたちからしても「あそこのお寺は、子ども会をしてくれている」と、好感をもってもらえるわけです。その積み重ねが「信用」になるんです。
今の時代はそこまで考えて活動したほうがいいと思っています。遠回りに見えるかもしれませんが、何事も速度が求められる今の時代にお寺ぐらいは時間をかけてじっくり関係性をつくることを恐れないようにしたいのです。

遠藤 岩田さんがオンライン読書会で提供している「いっときのお休み」のオフライン版が、子ども会ということですよね。お子さんにとっても、親御さんにとっても。

岩田 松本紹圭さんが東京の光明寺ではじめたお寺カフェ「神谷町オープンテラス」も同じです。カフェと言いながら、お茶代をいただくのではなくお気持ちを賽銭してもらう形式でやっていますよね。料金制をしいていないことは大事です。そして、その場所で木原祐健さんというお坊さんが傾聴活動をおこなっている。お茶を出してお話しを聴くというのはお寺の本来の機能です。「お寺カフェ」と名前を変えただけですが、それによってより多くの人が訪れて「いっときのお休み」を味わっています。社会から少し離れた場所で、肩書の関係ないコミュニケーションができる。お寺カフェは地域密着型の寺院を描いていく時に、大事な要素なのだと思います。

遠藤 光明寺ではコロナ禍に入る少し前から「テンプルライブラリー」というお寺のコワーキング活動もはじめていて、僕も毎週利用しています。

岩田 お寺に毎日きてもらうにはライフスタイルの中で不可欠になることが重要です。お寺がサテライトオフィスになるとか、テレワークの場になれるかとは考えていましたが、結局「在宅ワーク」が一般的になりましたよね。そうするとやっぱりお寺ならではの価値としては「いっとき」であり、「縦横関係がない場」ということなのかなと。

遠藤 僕も基本的には在宅ワークですが、週一回でも家を出て別の場所で仕事ができる機会が大事です。みんな違う職種なので仕事の話はしませんが雑談ができるし、お菓子どうぞとか。家で仕事をしていると、そういう息抜きができないですからね。

岩田 効率性だけでは人間は生きてないですから。非効率なものも必要なんです。

遠藤 自宅から光明寺まで片道1時間かかるのですが(笑)、週一でもコワーキングがなければまいっちゃうと思います。

岩田 効率だけ考えたら家でずっとやってたほうがいいかもしれません。それでも割り切れないところを、お寺が担う意味があるんです。やはり、いっときのガス抜きは大事ですよ。

遠藤 そういう面で、お寺が生活の中で不可欠になる可能性はありますよね。

”学ぶべき環境”において「長期思考」を得る

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岩田 松本紹圭さんと遠藤さんのお二人で平日毎朝配信なさっているポッドキャスト「Temple Morning Radio」も、生活の中で不可欠なものになっていますよ。横田南嶺老師のYoutubeチャンネルも、僕は毎朝聴いてすごく助けられています。

遠藤 岩田さんのモーニングルーチンなのですね(笑)やっててよかった!

岩田 ポッドキャストや読書の時間がないと、精神的に安定しませんから。僕にとって不可欠なガス抜きです。

遠藤 ちょうど最近、松本さんとも「発信の前に受信するべし」という話をしていました。

岩田 きっとコロナが明けたら、みんな円覚寺に南嶺老師のお説教を聴きにいくと思いますよ。

遠藤 毎日Youtubeを見ていたら、生で聴きたくなりますもんね。生で受信しないと(笑)

岩田 一介の僧侶としてこのコロナ禍を捉えるならば、“学ぶべき環境” とも言えます。お坊さんとしては、とても良い僧堂の中にいると捉えられます。住職として寺院経営のことを考えるときには、決して良い環境とは言えませんが、、、。
でも「先の計算がたたないからやらない」ということでは何も始まりません。とにかくやってみて失敗を恐れない。リスクがそこまで大きくない活動はまずやってみるべきです。

遠藤 特にオンラインの活動は始めやすいですよね。

岩田 そう。僕のようにオンライン読書会だってできるし、松本紹圭さんのようにポッドキャストをはじめてもいい。
二日に一回noteを更新していますが、それはお説教や人前で話す時のネタを忘れないように文章化しているんです。この状況下で自分を育てるための方法のひとつとして書いています。

遠藤 自分の中に取り入れるために文章化しておくのはいいですよね。

岩田 様々なチャレンジは自分の力量を知ることにもつながります。オンラインで自分ができることは何か?と考えて、リーディングファシリテーターの資格をとりました。そして松本紹圭さんのモンクマネージャーの取組みを見て、自分もとオンライン読書会を始めたんです。

遠藤 なるほど。岩田さんの読書会は、本を媒介としたモンクマネージャー的活動とみることもできますね。

岩田 そういったチャレンジを通じて今まさに、自分を丸裸にしていくような経験を味わっています。自分の実力不足について「やってみることで知る」。全てはそこからはじまるのだと思うんです。

遠藤 何事もトライ&エラーですよね。

岩田 横田南嶺老師や松本紹圭さんの活動における姿勢を見ていると、今一瞬の成功の価値をあまり考えないようになります。寺院の経営としては時代にあわせていくことも考える必要がありますが、お坊さんとしての自分は、このコロナ禍において一段大きな目線で物事をとらえる視点を得られました。これはチャンスをもらったと感じています。

遠藤 それはよくわかります。お寺だけでなくどんな分野でも、この大きな環境変化の中で「長期思考」の必要性を皆が感じていますよね。そして先が見えないからこそ、やってみるしかない。

岩田 日蓮宗の僕が言うのも変だけど、現成公案(げんじょうこうあん:現象界のすべてが活きた仏道だという意味)なんだと思う。今この場所に、僕らは問われている。

今日の話はなんだかぐるぐると巡っているようだけど、そんな感じ、、、ですかね!(笑)

※ 岩田さんのお寺での子ども会の活動は、書籍『地域とともに未来をひらく お寺という場のつくりかた』にて詳しく取り上げています。

お寺のこと

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名称:本休寺(ほんきゅうじ)
宗派:日蓮宗(にちれんしゅう)
住所:千葉県千葉市緑区高津戸町450
HP:https://honkyuji.net

インタビュアープロフィール

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遠藤卓也:未来の住職塾 講師。共著書に『地域とともに未来をひらく お寺という場のつくりかた(学芸出版社)』。「お寺の場づくり」をテーマに、IT・広報・イベント制作の分野でお寺をサポートする。また「音の巡礼」というプロジェクトでは「音がつなぐ、あたらしい巡礼の旅路。」をコンセプトに、お経からはじまる新しいご縁のあり方を探求中。
note|https://note.com/taso_jp
Twitter|https://twitter.com/tasogarecords

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