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Interview#52 プリンチ®︎創業者 ロッコ・プリンチさん

Jan24 2020

食の仕事に携わる人々の、パンとの関わり、その楽しみについて伺う企画、52回目はプリンチ®︎創業者のロッコ・プリンチさんです。ロッコさんはイタリア・ミラノでベーカリーを開業、日本では東京・中目黒のスターバックス リザーブ®︎ロースタリーへの出店のほか、代官山、銀座にオープンしています。

パンを食べられるのは有り難いこと。この価値観は揺るぎないもの。

豊かな自然のなかで育まれた味覚

わたしはイタリア南部カラブリア州の、人口500人くらいの小さな村で生まれ育ちました。電気も水道も通っておらず、パンづくりも電気を使わないやり方で学びました。薪です。現在でも可能な限り薪窯を用います。

子供の頃は貧しく、パンを買えなかったので、自分でつくりたいと思ったのが、パン職人になったきっかけです。13歳の頃、村の小さなパン屋さんで、最初の3年は給与の代わりにパンをもらって修業しました。お金はなかったけれど、そこら中に豊かな自然がありました。村では自生する果実がもぎ放題。トマトはよく育つし、オレンジ、杏、プラムなども豊富に実りました。農家も肥料を買うようなお金はないからそのまま、つまりオーガニック。本当に自然の味ということなんですね。それでわたしはトマトならトマトというものの本来の味をよく知っているんです。ミラノで店を始めてからは、自分で市場に足を運び、食材を買っています。

パンは食事のプリンス

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毎日のように食べるのはサワードーの「プリンチローフ」。朝はチョコレートを塗って、ミルクに浸します。同じ生地に上質なチョコチップを入れた「パンチョコラート」もよく食べます。トーストしてオレンジマーマレードをつけると、苦味と甘味のコントラストがとてもいいんです。ランチはフォカッチャにサラミやプロシュートコット(ハム)など、その日の気分で合わせます。夜も、もちろんパンを食べますよ。パンは食事のプリンス。王子様的な位置付けなんですね。

イタリア人にとってのパン

食卓にパンがないと寂しくて、気分が滅入ってしまう。それがイタリア人です。

食卓の真ん中にいつもパンをドンと置いて、ナイフではなく手で分けていただく。わたしたちにとってパンは、「キリストの身体」なんですね。カトリックでは日曜日のミサで、神父さんが信者に聖体拝領をしますよね。うちでも父がパンを自らの手で家族みんなに分けてくれたのです。だからわたしも今、息子たちにそのようにしています。これこそが私たちが持っている文化なんです。パンを食べられるというのはすごく有り難いこと。この価値観は揺るぎないものです。

情熱を込めたパンづくり

それゆえわたしは情熱を込めて、ちゃんとした方法でパンをつくっていきたい。本当にちゃんとしたパンというのは消化しやすく、健康にもいいものなんです。そういうパンをつくってきたからこそ、今があると思っています。

ミラノでは朝4時に起きて市場に行き、帰ってサンドイッチをつくります。昔からイタリア中を旅して、小規模生産者と出会いました。ドライトマト、タッジャスカオリーブなんて、絵画のようでしょう?色合いも考えてつくります。

東京でオープンする前に、食材の一つ一つを、こちらに持って来られるか、とことんリサーチしたんです。トレーサビリティが明確なものしか持ってきていないのです。

ミラノで成功した要因は、つくりたてのパンを一日中提供できるということです。

これはインスタグラム経由で伝言ゲームのように広がっていきました。わたしのパンを買うのに一時間以上の長い行列ができていたこともありました。ミラノは時間に追われてビジネスをする街とも言われていますが、うちはそういうのとは一線を画しています。伝統製法で時間をかけてつくる。顧客に対するリスペクトがあるから最高のものを提供する。

わたしが影響を受けたミラノのスピリットは、歴史、文化、ファッション、デザイン、ホスピタリティそして伝統。そうしたものをいっぱいミラノから吸収したし、ミラノに与えたと思っています。ミラノを愛しているんです。

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Rocco Princi(ロッコ・プリンチ) / プリンチ®︎創業者

イタリア・カラブリア州出身のパン職人。1980年代にミラノでベーカリーを開業。パン、コルネッティ 、ピッツァ、デザートなど、厳選された食材を用いて朝から夜のアペリティーボ(食前酒)の時間まで楽しめるメニューを備えた店が人気を呼び、スターバックスとコラボレートするなど、グローバルに展開。2019年現在はシアトル、上海、ミラノ、ニューヨーク、東京(中目黒)のスターバックス リザーブ®︎ロースタリーへの出店のほか、国内では代官山、銀座にオープンしている。

NKC Rader vol.85より転載

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