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こんな世の中が好きだよという一票

February 9、2019

土曜日は店舗を持たずに営業しているひとのところへ行く。行くというより、近くまで来てくれるので会いに行く日。元気な野菜を売るひととか、昔ながらの一本焼きの鯛焼きをつくるひととか。

雪が降ってきて、材木店の庭先を借りて営業している鯛焼き屋さんには、お客が絶えない。一本焼きのため、いくつも頼んだひとがあると、10分や15分待つのはざらで、その間、材木店をひやかす。きょうは子供が何人も入って遊べるトンネルのような、栃の木の巨大な瘤が置かれていた。木の瘤は幹に傷がついたときに、自己修復作用としてできるという。この栃に、どんな傷の記憶があるのだろう。流れ着いた何かの骨のようにすべすべした白い木肌を撫でてみる。雪の日の冷たい倉庫には、檜や杉や、木の匂いが漂う。ようやく出来上がった鯛焼きから、湯気が煙のように立った。

夕方から、福岡から来た陶芸家の個展があり、オープニングで友人が料理を担当するというので会いに行き、お皿を買った。つくり手の話を聞いて買うのは嬉しい。

これは消費でなく投資だ。ささやかすぎて、投資というには大げさか。投票にしておこう。こういう美しい生活雑貨をつくるひとに一票、紹介するひとに一票、そういう町に一票、どうか、消えないで、こんな世の中が好きだよ、という一票。わたしの、ごくささやかな一票。

陶芸家が茶事における亭主なら、個展を開催する雑貨店は正客の立場だ。そのひとがいて、他の客は、器の良さをより深く知るきっかけをもらえる。それを手伝う友人は半東か。しかしその友人もまた、わたしに菅原硝子工芸や小鹿田焼を教えてくれたひとであり、素晴らしくおいしいオリーブオイルを教えてくれたひとでもある。



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