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☆0kgになりました

つい先月のこと。生々しい体重の話をしようと思う。
本文中では、肥満体型の人を卑下する表現が出てくるため、苦手な方はご注意ください。



確か、中学3年の頃だったか。初めて体重が60kgに到達した。
当時は1年に5kg弱のペースで体重が増加していたため、概ね予想していたことではあったが、当時は精神が未熟だったこともあり、今ほど楽観的には受け止められなかった。
大してウケないのに、必死に自虐ネタに走ったりもした。

大学入学以降は増加が落ち着き、60kg台をゆるやかに変動し続けた。
この頃になると、SNSのIDに「Fatness」なんぞ入れて”リア垢”として堂々と使っていくぐらいには、自らの有様を受け入れていた。
よく食べ・よく飲み・よく肥える人間として、特に苦もなく生きていけた。

言ってしまえば、自分の外見にさして興味がないのだ。



あれから歳月は過ぎ、とある日の職場の飲み会の翌日。
二日酔いに苦しみながら一日の仕事に耐え、就寝前に体重計に乗った。
体重の記録だけは、何年も前から定期的につけていたのだ。


…まさか、嘘だろ。
また十の位を更新することになるとは。
今までならどんなに爆食いした後でも、一の位が9で辛うじて持ちこたえていたのに。

身長157cm、体重☆0kg
あーあ。一線を超えてしまったような感覚だ。
外見への興味のなさゆえ、怒りや悲しみこそ感じなかったが、何だか行く先が暗いような、漠然とした不安が脳内をかすめた。

自分は、肥えて醜くなることについて、何か恐れているのだろうか?



そのまた翌日。特に予定のない土曜日だった。

前回実家に帰省した時、親から「ズボンくたびれてるで」と指摘を受けたので、重い腰を持ち上げてジーンズを買いに行こうと考えた。
自分でも気が重くならず行ける服屋はユニクロかワークマンぐらいだが、ユニクロのジーンズは細身で伸縮性があるものが多く、この体型で履くとスパッツのようになるのでいただけない。
ワークマンでジーンズを探したことはこれまで無かったので、とりあえず試しに行ってみることにした。

…残念ながら、「ワークマン」なるアイデンティティを揺るがすことはなかった。
いくらここ近年でアパレル色を強めたとはいえ、そこで扱われるジーンズは実に機能性に長けたものであった。
保温性が高く、軽量で履き心地がよい…こぞって、伸縮性に富んでいた
先述の通り、この自分が伸縮性に長けたジーンズを履くと、某大陸の観光客軍団を彷彿とさせるムチムチスパッツへと成り下がるのである。

ジーンズは一旦諦め、数の内ということで、ひとまず外に履いて行けそうな服を探すことにした。
さすがワークマン、ジーンズに限らず動きやすそうな服が色々と取り揃えられていた。
レディースには目ぼしいものがなかったので、メンズのMサイズを数種類手に取って試着してみた。


…かなりキツい。
腰まで上げるのに苦労したのみならず、ファスナーとボタンを閉めてみれば、醜く突き出た腹が布地を極限まで引き伸ばすかのようだった。
売り物に対して、このような痛めつけを続けるわけにはいかない。
身長面での不安はあったが、Mサイズは諦めてLサイズで同様に試してみることにした。


…まあまあキツい。
布地に対する拷問感はなくなったものの、この自分を☆0kgに至らしめた皮下脂肪はありありと型取られた。

いっそのこと、サイズを3Lぐらいまで上げて、裾上げ無料サービスに甘えてみればよかったのかもしれない。
しかし、これも変なプライドなのだろうか。虚しい足掻きなのだろうか。
「標準体型±ある程度」に対して作られた服を着られない自分というものを、頑として受け入れたくない思いがあった。

結局、「ゆったりサイズ」と札のついた1900円のチノパンで、Mサイズでも難なく着られるものがあり、数の内としてこちらを買うことにした。



会計を終えて店を出る頃、人間の形を失いかけた中年女性とすれ違った。

この人は、この作業着屋風アパレルショップに、何を遊びに来たのだろう。
「あんたの体型でも着られるものがあればいいね、まあ手袋とか靴下ぐらいじゃないかな」と心の中で嘲り笑ったが、その嘲笑は自らの心から出ていくばかりではなく、胸の内で幾度となく反響した。

これは、自分の未来…末路、なのだろうか?

不安、虚無、得体の知れない恐怖感。
そういったものを胸に抱いたまま、買ったものをリュックに突っ込み、すぐさま帰路についた。

帰宅するやいなや、スマホのブラウザを立ち上げた。
有酸素運動や筋トレを苦痛としか思えない自分が、ただ知っている単語を呟くかのように、検索ボックスに「パーソナルジム」と打ち込んでいた。

さては、流行っているのかな。思った以上に件数がある。
どこもかしこも結構なお値段だ。辛うじて手の届きそうな店舗があったので、もう少し掘り下げて調べてみた。店の公式SNSだったり、体験コースや入会手続きの流れだったり。

それらを読み進める中で、心に引っ掛かる一文があった。

「初めてお越し頂く際には、まずお客様の目標や、なりたい姿についてヒアリングします」

目標?そんなものはない。

もしも、喉元に刃物を突きつけられて「はよ目標言えやゴルァ!」と脅されるとすれば、「ユニクロとかワークマンで売ってる身長相応のジーンズを履いたら某大陸観光客軍団みたいなムチムチスパッツになるのはもう嫌で!あとこれ以上肥えて(☆+1)×10kgとかになるのは怖いですヒイィ!!」とでも喚くだろう。

…「なりたくないもの」しか思い浮かばないのだ。

いや、これはこれで「下半身を標準体型レベルに持って行く」と言い換えれば、目標としてアリなのではないか?
しかし、モチベーションとしてはあまりに低過ぎやしないだろうか。


自分の外見に、一貫して興味がないこと。
一方で、人外と化すことへの恐怖

ジレンマを抱え続ける中で、特に一歩踏み出すこともなく。

スマホのブラウザで開きっぱなしになった、パーソナルジムの公式HPのタブを、何日も何日も閉じられずにいた。



話は、以上になります。

ここまでの文章は、前半を1ヶ月少し前に書いており、長らく放置したのち、今のタイミングで後半を仕上げました。

実情を述べると、前半を書いた少し後に、仕事が原因で心身の不調が出始めました。
一時期食べ物がほとんど喉を通らなかったこともあり、心療内科を受診した上で、11月一杯は休職期間をもらうことになったという…

このいきさつについては、別記事として投稿したいと考えています。
本記事よりも面白く(?)書きたいと思っているので、ここまでお読みいただいた方がいらっしゃるなら、是非ともまた覗きにきてください。

お察しかもしれませんが、「食べ物が喉を通らなかった」時期の影響で、体重は66kgぐらいまで落ちました。
「良かったやん」とか言わないでください。でも、リバウンドも願わないでください。

ちょっと体重のことは後回しにして、まずは心の健康を取り戻す方に注力しようと思います。


ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

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