第十章 孤立無援

ダラス.パーペン視点


C-17戦略ステルス輸送機内


「間もなく作戦空域に入ります!」
空中輸送員が叫ぶ。

(間もなくか)

任務は至って簡単
”サーチアンドデストロイ”
作戦参加人数は5人
上司のロン,ダン,ヤーテ,ワグ,そして私だ。

連合評議場にて、ミリヤを殺害(可能なら確保)する事が目標だ。

「準備出来てるか?」

ロンが皆の顔を見回しながら確認する。
全員が無言で頷き、立ち上がる。

「敵機接近!」

パイロットが叫ぶ。

(馬鹿な!ステルスだぞ?)

しかし空挺投下口から見える景色の遥か後方に黒い点が見えた。

コックピットの方からアラートが聞こえる。

「ミサイルが飛んでくるぞ!」

機体が激しく揺れる。

「フレアを炊く!」

同時にランプが赤から青に変わり、ブザーが鳴り響く。

「皆、行くぞ!」

ロンが叫ぶ。

ほぼ同時に皆が輸送機から飛び出す。

すぐ近くで爆発が起こる。
チラリと輸送機の方を見る。
ミサイルがフレアに直撃するのが見えた。破片が頬を掠める。
衝撃波でバランスを崩す。
直ぐに姿勢を立て直すが、皆が見えない。
はぐれてしまった。しかし今はどうでもいい。身体を槍のようにして高速で降下する。

雲を抜け、地面が見えてくる。

だが景色が変だ。連合評議会場周辺ではない。

辺りを見回すが、それっぽい建物は無い。

取り敢えず近くの高層ビル群の1つの屋上に狙いを定めて降下する。
ラッキーだ。その建物の屋上には一人しか見えない。その一人に向かって肘を突き出し、そいつに向かって空中からタックルする様に突っ込む。

ドォォォォン!!

そいつに全体重をかけると共に肘を体の内側に収納しながら体をアルマジロのように丸くし、前に転がる。

ガシャァァン!!

勢いを殺しきれず建物の反対のフェンスにぶつかる。
即座に立ち上がり、周囲を索敵する。
他に誰もいないことを確認した後、フェンスから身を乗り出し、下の様子を伺う。

”さっきの音は何だ?!”

”どこからだ!?”


誰も正確な位置は掴めてないらしい。
だが、どこかおかしい。軍隊にしては統率が執れてなさすぎる。

(まず、ここはどこだ?)

自分が置かれている状況を把握しようとする。

「カ、カハッ、ゲブッ。」


空中からタックルをかました奴の口からなんとも言えない音が漏れる。
内臓が破裂したんだろう。もうすぐ死ぬ。
無意識のうちに出ていたアドレナリンが切れてきたのか、肘が痛みだす。
倒した奴の装備の中から使えそうなものがあるかどうかそいつに近寄る。
思いっきり曲がったアサルトライフル。
(こいつに肘が当たったのか。道理で肘が痛む訳だ。だが骨は折れちゃいない。大丈夫だ。)
一人言い聞かせるように納得しながら使えなくなったソレを近くに放る。
腰のホルスターにしまってあった拳銃を取り上げ、予備弾倉をリグに仕舞う。
(腰だから多分大丈夫だと思うが....。)
動作チェックを行う。

問題無い。

万が一の為、マズルにストライクウォーリアーコンペンセイターを装着する。

互換性があるかどうか、一抹の不安があったが意外とすんなり装着できた事に安堵しながら銃を構える。

”C.A.Rシステム” 

近接戦に特化した構え方だ。

だが、彼は左利きだ。少し異なる構え方だ。リロードのやり方も独自だ。だが、彼は”自分がやられなければ良い”の精神でテストをパスした、実力主義者だ。


扉を開け室内に入ろうとした時、丁度遠くから車両のエンジン音が聞こえてきた。

何事かと屋上から様子を伺う。

数台の軍用兵員輸送車を引き連れた軍用車両が近づいてくる。

”皆、ご苦労。”

続々と他の建物から人々が集まってくる。

”これでこの国に巣食うスパイ共を掃除できただろう。”

先頭の車両から降りてきた彼は、フロントライトの前に立ってそう言った。

「私は宣伝局所属、オクストンだ。」

(スパイ?高層ビルの数からしてここは国家間技術協力経済特別区か?)

彼は話を続ける。

「君等はこれからいろんな形で国のために尽くしてもらう。農業や、鉱山、石油などだ。1つ!留意してもらいたい事は、君等は軍隊に戻ってもらうことは決して無い。戦争は現役の彼らが遂行してくれるだろう。君達は国のために心置き無く新たなる己の職務を全うしてくれ!」

(皆が彼に対して敬礼し、兵員輸送車へ続々と乗り込む。)

そうして車両群が去っていくと辺には静寂が残された。


一応周辺を警戒しながら建物の中へ入る。
中は凄惨な状況だった。
スーツを着た人々がそこら中に散らばっていた。

(この状況からして恐らくここは経済特別区で間違いなさそうだな。)

一応彼らも抵抗しようとバリケードを貼った後が見られたが、濁流のように押し寄せたのだろう。民衆達にはただの時間稼ぎにしかならなかったのだろう事は容易に推測できた。


何分経っただろうか。ようやく外に出た時には夜は更け、月が高く登っていた。

そういえば支給品に短距離GPSと小型無線機があったことを思い出し、身体を漁る。小型無線機は着地の衝撃で破壊されてしまっていたが、GPSは稼働しているようだった。しかし案の定、といったところか、他の4人はGPSの端っこに見切れるように表示されていた。

(これは見切れた方向に彼らが居るのか?
それとも探知範囲外に自分が居るのか?)

今の私には見当もつかなかった。

取り敢えず使えそうな乗り物を探す。
だが、ほとんどがバットなどの近接武器でボコボコに破壊され、とても乗れる状態にはなかった。

駐車場を5つ程探し回った頃、ようやく使えそうな車を見つけた。

2000年代のモデルだろう、多少ガラスが割れていたり凹みが有るもののそこまでリンチにはあっていない。

板キーの車両が未だに残っていた事に安堵しながら、割れたサイドガラスから車の内側に手を伸ばし、ドアロックを外し車に乗り込む。

”カシュッ”

ICPOから支給されたサプ付きハンドガンでキーシリンダーを破壊し、コードを繋げ、エンジンをかける。

数秒のエンジンの深呼吸の後、低い唸り声が辺りの暗闇に響き渡る。

「よーしよしよし。良い子だ。」

誰の物かも分からない車に言い聞かせるようにぼやく。目指すは評議会場。GPSが反応する近くまで。

ダッシュボードにGPSを立て掛けて、運転中も見えるように固定する。

いざとなった時のためにシートベルトはあえてしない。

ヒビだらけのフロントガラスをバリバリと内側から外にフレームごと引っ剥がす。
とても長い時間を無駄にした気がするが、ようやく準備完了だ。

アクセルを踏む。

深い闇の中、機械の心臓の鼓動を響かせながらソレは勢いよく建物群を抜ける。

目指すは味方の近くだ。

(一刻も早く合流しなければ。)

急ぐ心を抑えるようにアクセルを踏み込んだ。

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