第五章 クーデター

グルント連合会議室

(会議終了後 約1時間後)

連合書記長が窓の外を見る。丁度、報道官が会見台に立つのが見える。

ワインを片手に思考を巡らす。

(我々の立ち振舞で世界情勢は大きく変わってしまうだろう。ノーヴェスの軍拡は間違いなく国際緊張度を上げている。しかしここで引き下がる訳には...。)

そんなことを考えながら丁度、ワイングラスをテーブルに置くと同時に突如、乱雑に会議室の扉が開かれた。

雑音に近い話し声がピタリと止んだ。

緩みきっていた空気が一気に張り詰める。

何事かと扉の方を見ると、白い長髪姿の軍服姿、ミリヤ.ノーヴェスが3人の兵士を従えて立っていた。その中で誰よりも早く動いたのは他でもないSPだった。

「貴様ッ!」

言い終わるが早いか1発の銃声が鳴り響く。

(ガァン!)

生暖かいものが顔にかかる。それが血であることは嫌でも理解した。

それとほぼ同時にSPが立っていた方から
(ビシッ)
と鈍い何かが突き刺さるような音が耳に入る。

視界の端で黒い何かが落ちていくのが見えた。

(ドサリ)

鈍い音と共に、書記長はSPが負けた事を理解した。

3人のうち1人の兵士の構える銃から煙が立ち昇る。

1発の空薬莢がバレリーナの様に宙を舞う。

(カラン、カラン、カラン)

大理石の床に空薬莢が落ち、小気味よい音を奏でる。

「遅い。」
兵士のうち一人が吐き捨てるように口を開く。

やがて空薬莢の演奏が小さく、早くなるにつれ状況を飲み込んだ大臣たちが
キッと彼女を睨みつける。

彼女が口を開く。

「皆さん、理解が早くて何よりです。貴方達が私に危害を加えない限り、そこのSPだったようなものにはならないと約束しましょう。」

経済大臣のが口を開く。

「貴様!一体どういうつもりだ!?この売国d」

(ガァン!)

再び銃声が部屋に鳴り響き、口を開いた経済大臣が地面に倒れ込む。

ノーヴェスが吐き捨てるように口を開く。

「売国奴?笑わせるな。私は愛国者だ。貴様こそ敵国に最新技術を売り渡したスパイだろう!」

彼女は尚も畳み掛ける

「貴様ら腰抜け上層部のせいでこの国は泥舟の様に沈みかけている!私はこの国の救世主(メシア)となる!政治家の皮を被った始末されるべき売国奴は、今頃別働隊が捕まえて回ってるだろう!」

「ムーアか。」

大臣の1人がため息混じりに呟いた。

「私の責任だ。」

書記長が口を開く。

「ムーアとお前の最近の行動を制御できなかったのは私だ。私を撃て。」

「書記長。それはできかねます。」

ノーヴェスがさっきまでの態度が嘘のように優しく答える。

「貴方の愛国心はとても慈悲深い。故に、スパイや売国奴の台頭を許したのは事実ですが、バラバラだったこの国をまとめ上げ、短い間でしたが安寧を、平和をこの国に享受させたのです。
.....ですから、撃てません。」

そういい終わると彼女はまたゴミをみるような顔に戻り、大臣たちに告げた。

「これから貴様らは軟禁状態に置く。
裏切り者やスパイは公開処刑する!
では、後は頼みましたよ。」

ムーア局長が20人程の軍人を連れて入室する。

「こ...こちらへ。
あっ!書…書記長、こちらでお顔を拭いて下さい。」

ムーアが書記長に黒いハンカチを手渡す。

「今は”元”書記長の方が相応しいかもな。」
そう皮肉交じりに笑う書記長の顔は哀愁にも、憂鬱にも見えた。
だが、ムーアが彼の心情を探るより早く、黒い布が彼の視線を遮った。

暫くの後、再び書記長の顔が見えた時、彼の顔には哀愁も憂鬱も見られなかった。

「ハンカチ、ありがとう。」

そう言ってムーアにハンカチを手渡す書記長の姿は威厳に満ちていた。

「………。」
軽く頭を下げ、ムーアはハンカチを受け取り、兵士達に目配せをする。

書記長と大臣たちは兵士と共に部屋を去り、残されたのは頭を撃ち抜かれたSPだったものと経済大臣だったものだけだった。

ムーアに連れられ、部屋を後にする書記長達を廊下の突き当りで見届けた後、ノーヴェスはゆっくりと、だが力強く会見広場に向かった。(1章へ)


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