2021年にやってきたこと、考えてきたことの総まとめ(2021年12月29日、リンクなどちょっと追加しました)

今年これが最後のブログになります。例によって今年の自分の治療家としての反省をしていきます。

私は2021年初め頃にはコロナは収束し、東京オリンピックも多くの海外からの人達で賑わい、日本を中心に経済復興していくだろうと考えていたので、まさかこんな状況になっているとは思いもしませんでした。

日本の治療家の方々はコロナのせいで経営がうまく行かなかったというのはあったのでしょうか?私はモロに影響を受けていました(涙)

まあその御蔭でというか、勉強する時間もあったので今年もあいも変わらず(無駄な?)勉強をし続けました。(本当はもっと売上を上げるべくマーケティングに力を上げるべきだったのですが、コロナ渦の状況そうもいきませんでした。)

まず2021年の年明けにたまたまyoutubeで見たDr. Hallの「science-based medicine」シリーズがあまりにも面白かったので、ブログで詳細を紹介しました(リンク)。(実はそのブログ作成にはすごく時間がかかっているのですが、どうもブログ読者からの評判は良くなかったようです笑)。そのレクチャーを見た後から私は迂闊に「エビデンスでは〜・・・」とは言わないようにしました。理由は私には多くの論文を読んで、比較し、検討し、そして考える根気がないから(笑)。Facebookの鍼治療を正当化しようとする某グループの人たちは早く気づいたほうが良いと思います。鍼を刺すと脳内のどこどこがactiveになる、とか、鍼を刺すとなんとかホルモンの分泌が盛んになって・・・、とかはわかるのですが、鍼を刺す理由は痛みが減る(消える)か、病気が治る、からでしょう。ということは鍼の研究で最も重要なことは鍼治療が「効くかどうか」です。で、結論は・・・(笑)。多分、ここまで書いても意味がわからない日本の鍼灸師達が多くいると思うので、一つだけ例を。鍼を刺すとエンドルフィンが脳内で放出され、そのエンドルフィンは鎮痛効果があるので、鍼は痛みに効く!といいますが、エンドルフィンは例えば、(楽しい)運動をしても脳内ででます。じゃあ、鍼じゃなくても運動すれば良いんじゃないの?(笑)それだと患者さんの金銭的負担はゼロです。ではなぜ鍼じゃないといけないのでしょうか?仮に鍼じゃなく、爪楊枝では?経穴ではなく、適当な場所では?全てもう結論がでています。(これは過去のブログでも紹介しました)


余談が過ぎましたが、その後はBetter clinician project(リンク)を見たり、physio digest(リンク) を読んだりしてエビデンスベースの治療とマネジメントを常に勉強していましたが、去年一度ざっと読んでほったらかしにしてあったpainscience.comのPaul Ingrhamが書いたe-bookの、私が重要だと思った箇所を「小ネタ集」としてまとめました。かなりの情報量になり、またダラダラと書きなぐった形になったので、これもブログ読者から評判は良くなかったようです(笑)。来年はもっと読みやすく、また情報もまとめてみようとは思っています。そうすることで、「腰痛の考え方、腰痛に対してやってはいけない治療法、エビデンスで支持されている治療」をまとめあげられ、読者の方々も参照しやすいのでは?と思っています。

そのBetter clinician projectやphysio digestで必ず各骨格筋痛に対して述べられているのが「予後」。その予後については我々治療家は納得いかないのではないでしょうか?例えばあるリサーチでは肩峰下あたりの肩の痛みは、6週間たってもまだ痛みがある人は70%、半年後まだ痛い人が50%、1年後まだ痛みを感じている人が40%となっています。

それを聞いた日本人徒手療法家達ならおそらく

「その治療した奴らは無能だ。俺が治療したら1発、もしくは数回で治る!」

と断言することでしょう。でも、よーく患者さんの訴えを聞いてみると、多くの場合は一発や数回で治っていないはず。あるいは「治った」と患者さんが言っていたのが本当なのかどうかが疑わしいし、もしかしたらその時治療していなくても「治った」のかもしれません。もし本当に骨格筋痛や病気が徒手療法で1回から数回の治療で治るのならば、その手法を論文にして発表すればノーベル賞ものではないでしょうか?(笑)

その各骨格筋痛の予後(治るまでの平均的期間)は患者教育に重要なはず。患者さんにその痛みについての正しい情報を知ってもらい、そしてどのような経過をたどるかを認識してもらい、それを受け入れつつリハ(エクササイズ)や痛みの一時的な緩和のために徒手療法を利用してもらう。多分、このことを理解していない日本人治療家がほとんどではないでしょうか?

で、12月に入ってふと思い立って昔読んだドクターサーノの「ヒーリング・バックペイン」を今読んだらどう思うのかと思い探してみました。しかし残念がらkindle版の販売はなく、また同種の本「腰痛は怒りである」(長谷川淳史著)もkindle版がなかったので、たまたまアマゾンでいろいろ見てたら題名が面白そうだった「腰痛探検家」(高野秀行著)、大昔に買って読んだかどうか記憶がない「椅子がこわい」(夏樹静子著)、そして以前買ったままほとんど読んでいなかった「人生を変える幸せの腰痛学校」(伊藤かよこ著)を続けて読んでみました。David ButlerとLorimer Moseleyの「Explain pain」と「Explain pain supercharge」で痛みの科学を勉強した今、めちゃくちゃそれらの本は腑に落ちました。おそらく日本人治療家の9割がそれらの本を読んで、

「で、何?そんなんで治るわけないやろが!◯◯を矯正(治療)せんと治るわけないやろ!アホばっかりやな!」

って思うでしょう(笑)そういう人たちに私から一言

「じゃあリサーチして論文書けよ(笑)」

最後にもちろんファシアのことも忘れてません(笑)。数週間前フェイスブックでシェアされていたのを発見し、以下の動画を見ました。過去にこのブログで紹介したことばかりだったので、詳細は控えます。興味のある方はyoutubeで字幕翻訳機能があるので、それを使って見てみるといいかもです。



そしてもうひとつファシア関連でいうと、3年前にスタートしたファシアのプラスティネーション解剖プロジェクトがついに完成したとのことで、その動画がシェアされていました。日本でも過去に何度も「人体の不思議展」として公開されたことがあると思います。動画は英語ですが、まあ体の各器官がつながっているという部分だけ飛ばし見しても面白いと思います。


私自身はますます「ワシが(患者さんの)◯◯を1発から数回で治したる!」という意識が薄くなり、あくまでも気持ちの良いマッサージと痛みの科学に基づいたアドバイスをしていこうという意識が強くなった年でもありました。そして気持ちの良いマッサージ(リラックス効果のみを宣伝)にもっと人々が来てくれるようなマーケティングはないだろうか?とも考えるようになりました。

しかし治療家のみなさんはおわかりのように、我々の仕事から「治療」の部分をとってしまって果たして生活していけるのかと不安にならないでしょうか?そもそも鍼灸院、整体院に来る患者さんのほとんどは◯◯を”治してほしい”と思っているはずだからです。果たして患者さんが「鍼灸マッサージ整体などの手技は痛みを一時的に和らげるもの」そして「QOLが良くなるだけのものかもしれないもの」との認識が広まってしまった時、果たして1回の治療に3千円から6千円ものお金を使ってくれるのだろうか?と不安になります。そしてこの業界自体が自然淘汰されるのではないかとも思ってしまいます。

このブログを書いている最中に思い出した今年の出来事として、イタリア人の患者さんが1週間前にいわゆるギックリ腰になり、全く動けなくて辛かったケースがありました。私が施術をした日にはもう痛みは殆ど消えており、多少の動きとともに痛みがあったものの、次の週からホリデーに行くので不安で仕方がない、という方でした。私はその方がGP(イギリスのドクター)の診断も受けていて、筋肉の炎症だろうという診断があったこと、その時点での痛みもスパズムもなく、持病や過去の怪我もなかったことから、痛みの科学に基づくアドバイスと気持ちの良いマッサージをしました。その「アドバイス」をしている最中にふと思ったのが

「もし何か病気が潜んでいたら私は責任がとれるのだろうか?」

でした。なんとかその場では自分とその患者さんを騙して(騙した形にして)、あたかも「それは痛みに敏感になっているからだ」「心配せずどんどん動いていけばいい」というようなアドバイスをしました。その後も特に変わった様子はなかったので事なきを得ましたが、イチ鍼灸マッサージ師である私がそのような「診断ごとき」のような事を発言していいのか?という思いがずっとありました。

他にはあるイギリス人女性から甲状腺疾患の手術後に頭部の脱毛が起こり、それを指圧で治せないか?との問い合わせや、運動ニューロン障害と診断され、指圧でなんとかできないか?という問い合わせもあり、双方の方々に「指圧は特別何かの病気を治せるものではない。あくまでもBPSモデル(←もちろんもっとわかりやすい言葉で説明しています)に基づくアドバイスと心地の良いマッサージによって不安や痛みを和らげることしかできない」と言い、そして「もし魔法や奇跡のような治療を求めるのであれば、他の指圧師に相談してみるといい。彼らはきっと魅力的なアドバイスをしてくれますよ」と伝えました。もちろんそのお二人とも私の施術を受けることはありませんでした。

日本の鍼灸師整体師マッサージ師の中には加茂整形外科の加茂先生の受け売りで、骨格筋痛はなんでもかんでもトリガーポイントが原因だ!と説明している人も多いと思います。実はそれは危険かもしれないということは、過去のブログで何度も触れてきました。例えば加茂先生は自身のブログやウェブサイトで堂々と「坐骨神経痛は手術が必要ない!」と断言しておられます。たしかに大部分はそうであろうし、患者さんを下手に恐怖に陥れないという意味ではそう言い切ってしまっていいのでしょう。しかしリサーチでは少数のケースでは手術適応の場合があると世界の理学療法界では認識されています。それを考慮した上で、患者さんに「◯◯に手術は必要ない」と言ってもいいのかもしれませんが、それは医者だからです。イチ鍼灸師、整体師、マッサージ師がそこまで断言してもいいのでしょうか?それは一種の診断にはならないのでしょうか?他の骨格筋痛も、場合によっては手術が早い時期に適応になるケースはあります。そこまで知っていて、そして理学テストをしっかりできる徒手療法家なら加茂先生のように言い切ってしまってのいいのかもしれませんが。ちなみに理学テストのほとんどは当てにならないと言われていますが(笑)。(下の写真はフェイスブックで多くシェアされているやつです。世界の”意識高い系”理学療法士達はいろいろな理学テストを組み合わせて可能性を絞っていくというやり方をしているようです。)

(2021年12月29日追記)
上に書いた「徒手療法家はなんでもかんでもトリガーポイントが原因だ!で痛みの治療に携わるのは危険」に関してひとつ興味深いブログがあったので紹介します(リンク)。ブログは英語ですので、deepl.comなどで翻訳して読むと良いと思います。それを読むとさらに「腰痛、坐骨神経痛、椎間板ヘルニア」をトリガーポイント療法一択で治療するのは危険だということもわかると思うし、今年更新したブログ「安静の重要性」と過去に紹介した「痛みの治療にはBPSモデル、運動が重要」との兼ね合いも考慮に入れないといけないとわかると思います。まあ、私はそういう勉強をこれからもしていきつつも、あくまでも「気持ちのいいマッサージの提供」のビジネスの一点突破でいくつもりです。これからも”徒手療法家”としてやっていく方々は私以上に勉強しつづけなければならないと思いますよ(笑)そしてあなたが患者さんの前で言うことに全責任を負うことになりますよ。頑張ってください!


最後、大きく脱線してしまいましたが、今年もこのブログを読んで頂きありがとうございました。

それではみなさま、よいお年を!

そしてくれぐれも健康には留意を!

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