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どうすればより多くの人に健康管理アプリを使ってもらえるのか?

こんにちはキムカツです。
最近あるきっかけがあり、マーケティング周りの勉強を始めました。(私の進路については改めて別の機会に報告したいと思います。)
ついこの間までマーケティングのマの字も知らなかった素人の私が言うのは恐縮なんですが、公衆衛生学を学んだ立場から健康管理アプリのマーケティングについて、ちょっと考察してみたいと思います。
そもそもどうしてこのテーマに関心を持ったのかというと、MPH在学中にeHealthに関心を持ち、自分の研究テーマをモバイルヘルス(mHealth)にしたことがきっかけです。先行研究を調べていくと、世の中には数多くのヘルスアプリが存在する割に(Statistaによれば2019年時点で4万4千個以上)、あまり広がっていないな〜という印象を持ちました。ここ数年ホットな分野であり、健康課題解決への期待値の高いヘルスアプリが個人レベルでなぜ広がっていかないのか、そこに関心を持ってます。

ビジネスの世界ではどのように顧客の行動を促してきたか?

より多くの人にmHealthアプリを使ってもらうためには、マーケティングの手法が参考になりそうです。健康や病気を扱うと言えどもビジネスであることに変わりはありません。mHealth領域もこの点において一般的なアプリ同様、より多くのユーザーに選ばれる必要があります。古くからビジネスにおいては、潜在顧客を顧客に変えるプロセスにおいてマーケティング・ファネルが用いられてきました。

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   マーケティング・ファネル

これは行動心理学で言うステージ理論に基づいており、AIDMAやAISASもベースは同じです。

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     ステージ理論

私の理解が間違っていなければ、マーケティングの目的は潜在顧客をゲットし見込み顧客へ、そして見込み顧客を顧客に導くことです。マーケティングを行うことで、サービスや商品が認知され、興味を持たれ、他と比較され、利用されるプロセスにターゲットを組み込むことができます。
しかしながら、従来のマーケティングにおけるペルソナ設定→ターゲティングだけでは健康アプリを使ってもらうところまでたどり着くことは至難の技だと思います。理由は、人は基本的に「健康な状態では、健康に意識が向かない」からです。この点は後ほど詳しく説明します。

健康ビジネスという”特殊性”

ではどのようにマーケティングしていけば良いのか、を説明する前に、健康に関わるビジネスの特殊性について触れておきたいと思います。
私は元々医療現場に居た人間なので、健康関連ビジネスの特殊性を知っています。私が健康に関わるビジネスが特殊だと言う理由はこれです。

医療的ニーズが高いほど参入しづらく、ニーズが低いと参入しやすい

これは、医療というものは基本的に、規制だらけだということに他なりません。医療サービスは診療報酬制度によって、国が認めた医療行為にのみ、保険が使えるようにすることで質の担保を行っています。
健康に関わるニーズが高いということは、重症度・緊急度が上がることです。だとすれば、顧客が第一に求めるのは診断・治療の正確さだということです。つまり、この点において保険適応サービスを受ける(=病院に受診する)ことの右に出る者は無いのです。ニーズが高いと病院という強すぎる競合が立ちはだかるだけでなく、規制もかかるため新規参入は苦難の道となります。国内で成功しているヘルステック企業を見れば、既存の医療システムの中で、その業務の一端を担うものであることが多いです。

一方で健康な人を対象とした予防領域では、規制に囚われない新規ビジネスが参入しやすいです。なので、今回は治療ではなく「予防」を目的とした健康管理アプリを想定し、その利用率を上げるために工夫すべきだと思うことを書いていきます。
この領域は参入しやすい代わりに、成功するのが難しいセグメントであるという側面があります。この理由が、最初に言ったこと(人は基本的に「健康な状態では、健康に意識が向かない」)と関わってきます。
つまり、ニーズが低いと人はそもそも動こうとしません。

これをカスタマージャーニーマップを使って説明したいと思います。
例えば、腰痛を持つ中年男性が健康相談アプリを使い始めるまでを想定してみます。

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腰痛を持つ人のカスタマージャーニーマップ

表にある通り、人が行動を起こすための最初の段階として、まず腰痛を自覚する必要があります。それから対処手段を模索する中で健康相談アプリに出会います。つまり、そもそも人が症状を自覚して、これはやばいと思わなければ、いくら腰痛アプリが存在していても、興味を持たれないのです。ステージ分類で言えば、「認知」はされても「興味・関心」の段階に入ってこない状態です。
多くの人は病気は自分とは無関係だと思って生きています。これは症状が軽いor目に見えづらいものほどその傾向が強いのです。生活習慣病の予防といったものはまさにそれであり、健康管理においては深刻さを本人が感じづらいため動機づけが難しくなります。

A. 深刻度が高い場合 → 法制度の範囲内で新しい付加価値が必要
B. 深刻度が低い場合 → 個人レベルでの認識の変化が必要

Aについては、どうしても緊急度が高いほど既存の医療サービスが優位になるため、既存サービスと抱き合わせの形で組み込むか、付加価値をブランディングしていくマーケティング戦略が必要です。サービスのブランディングは、特に重症患者向けのアプリを提供する場合には重要度が増すでしょう。
Bについては、個人の認識を変えるマーケティングが必要になります。その個人の認識には、環境や社会因子が複雑に影響しているので、一般的なペルソナを設定してターゲティングしていくだけでは、不十分なのです。
これに関して、Health Psychology分野で議論されてきたことが参考になるのではないかと思います。それは行動変容理論として発展し、公衆衛生の分野では健康増進プログラムや疾病予防施策の中で考慮されてきたものです。

行動変容モデルから個の認識を変え、サービス利用の検討へ

これまでの所をまとめますと、私は健康アプリユーザーを増やすには3つの段階があると考えます。それを図にしたのがこれです。

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第一段階として、個人のステージ理論の中で、無関心状態から関心状態に育てる必要があります。第二段階として、マーケティング・ファネルの中で潜在顧客を顧客に育てます。そして第三段階で、顧客を維持し、そのデータを第一段階、第二段階にフィードバックしていくものです。

役割として第一段階では行動変容モデル、第二段階ではマーケティング、第三段階ではCSの役割が大きくなりますが、これらは相互に補完し合う関係です。第一段階として行動変容モデルを用いて行動意思を刺激することで、アクションに繋がることがわかっています。

先ほど示したカスタマージャーニーマップを基にして行動変容理論の一つであるHealth Belief Model (HBM)を用いて考えてみます。

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まず、カスタマージャーニーとして、痛みを自覚した人が次にとることを期待される行動は、対処法を調べ、実行することです。まずはその痛みを脅威であると感じる必要があります。HBMの図にあるように、脅威は「状況の深刻さ」と「リスクへの感受性」によって規定されます。「状況の深刻さ」と「リスクへの感受性」は個人の知識と経験に依存します。また、赤字の社会心理学的要素とは年齢や性別、文化の違いなど所属コミュニティによる影響であり、これも脅威レベルに関与しています。個人にとっての脅威レベルを上げれば、無関心から興味・関心に引き上げることができます。では脅威レベルを高めるために、HBMを用いて脅威レベルが低い人と高い人の違いを表にまとめてみます。

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脅威への感受性が低い人を高い人にするには、表の右側をゴールに設定すればいいでしょう。その仮説を基に、例えば以下の様なマーケティング施策が考えられます。

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このように、個人の認識のレベルでアプローチすることで、結果的に認知→興味・関心→行動のプロセスにスムーズに巻き込むことが可能なのではないでしょうか。

同じことを行動につながる他の要素でもやります。
利益v.s障壁は、自社サービスが選択肢として認識される段階に重要であり、顧客にとっての利益を最大化し、障壁を最小化するための伝え方を考えます。
自己効力感行動へのきっかけは、例えばターゲット本人だけでなく、家族や友人、医師などの第三者からの影響をコントロールするアプローチをとります。

おわりに

長文になってしまったので今回はこのへんで終わりますが、
私がこの記事で伝えたかったのは、個人の健康に関する認識は自分が育った環境だとか、教育や経済状況などの社会因子に強い影響を受けているのであり、そこまで掘り下げたマーケティング施策を打つ必要があるのでは?ということです。もしかしたら、そのフレームワークとして行動変容理論が役に立つかもしれないなと、行動変容理論を学んだ身として考えています。
行動変容理論にも様々なものが存在し、良し悪しがあるので、自社の事業内容によって適合するモデルを探すと良いと思います。機会があれば、それぞれのモデルをわかりやすく分類して紹介したいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

*1 SaaS業界レポート2019販売開始 - 国内市場は2023年8,200億円規模へ (https://boxil.jp/mag/a6562/)



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