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若いということ、美しいということ

岡崎京子さんの漫画『ヘルタースケルター』を初めて読んだ時の衝撃は今でも忘れられません。当時高校生、温室育ちだった私には刺激が強過ぎるくらいの世界観でした。だけど、女の子の欲望、孤独、悲哀というものが時に禍々しくも丁寧に描かれていて、きっと誰もが抱くであろう感情だからこそリアルで怖ろしくて、胸がヒリヒリ痛むような感じ。沢尻エリカさん主演で映画にもなりましたね。


作中で、私が印象に残った台詞を紹介します。

「若いことは美しいけれども、美しさは若さではないよ。美はもっとあらゆるものを豊かに含んでいるんだ」

主人公・りりこをある事件の重要な関係者として調査しながら、りりこに対して個人的にも強い興味を抱く男性検事・麻田の台詞です。この台詞を女性ではなく男性に言わせるあたりもいいなぁと思います。

今回はこの台詞を取っかかりに書いてみます。

若さの特権

若さは美しい。若いということは、それだけで価値のあるものだと思います。自分自身が若い頃は全く気付きませんでしたが…。

お肌はピチピチでハリがあって、みずみずしい。ニキビはできても、シワやシミやたるみの心配なんてすることもない。私の時代の女の子ならば、制服のスカート丈は短くてナンボ。「箸が転んでもおかしい年頃」という言葉どおり、今だったら何でもないような事でもいちいちゲラゲラ笑う。

エネルギーもあり余っている。そのエネルギーを上手くコントロールできない時もある。思いもよらない鋭さや繊細さも持ち合わせている。どこへどう転ぶか分からない危うさもあったりする。だけど、だからこその、無限の可能性も秘めている。

そして、若い時期というのは一瞬で、とても短くて、過ぎてしまったら二度と戻ることはできない。儚いからこその美しさってありますよね。

人は、若いということに価値を見出し、多くのことを期待します。企業は新卒の社員を大切にしますし、転職市場でも若さが有利に働くケースが多くあると思います。女性にとっては出産のリミットもあるので、婚活や妊活にも影響してきます。まだ染まっていないという若さだとか、体力的な若さだとか、色々あると思います。

自分が30を過ぎて

自分自身が30代に突入して、まず最初に直面したのは体力的な衰えでした。何だか疲れやすい。学生や20代の頃のように、終電ギリギリまで遊んだりオールしたりという無理が利かなくなってくる。翌日の事を考慮して早目に解散したりする。

外見的な変化も出てきます。シミや目尻のシワ、ほうれい線が増えた気がする。肌も乾燥しがちになった。以前と同じ食生活なのに、痩せにくくなった。アザや切り傷の治りが遅くなった。確実にピークは過ぎて、下り坂に突入しているのだと実感しました。

反面、人生における経験値は(少しずつですが)増えていってると感じます。社会人経験もある程度長くなり、仕事の辛さや大変さ、仕事に対するやりがいなどを、それなりに一通り経験する。仕事やプライベートを通じての様々な人との出会いや別れの中で、嬉しいことも悲しいことも経験し、時には修羅場をくぐり抜けることもある。

そういう積み重ねの結果、いい意味での「抜け感」が自分の中に出てきた気がします。20代の頃は色んな事にとにかく必死で、生きるのに精一杯だったけれど、自分がそんな思いを経験したからこそ、少し力を抜ける部分があるというか。他の誰かの気持ちを理解できる時もある。些細な事で悩みに悩んだ日もいっぱいあったけど、それがあったからこそ、自分なりの対処法もだんだん身に付いてくる。自分に余裕が生まれることで、ちょっとずつ周りも見えるようになっているのかも…と思います。

内面から出る美しさ

そんな自分自身の変化を踏まえて、周囲の30代以上の方々を見て思うのは「内面って外見に出るんだなあ」ということです。

写真に映ったワンカットの表情だけでは分からなくても、実際に会うと声のトーンや話し方や表情筋の動き方などから、写真とは違った印象を受けることって多々あります。写真では派手そうだけど、喋ってみたら意外と落ち着いた人なのかな…とか。逆のパターンも然り。年相応な顔だけど、話した感じはとっても元気で若々しいな、とか。一見チャラそうだけど実は超真面目だった、とか。

「人は見た目じゃない」とはよく言いますが、この年齢になると見た目要素は結構重要になってくると思います。というか、顔はもちろんのこと、体型やファッションや指先ひとつまで全部含めて、その人の内面が見た目に表れることが多いと思います。その人自身の人生経験から培われた気品とか、教養とか、知性とか、聡明さとか、心の余裕とか。

これから、どう年を取るか

私はこれからますます年を取っていく一方です。もう、若さを武器にすることはできません。加齢による身体の衰えは正直言って恐くもあります。化粧品の広告にアンチエイジングという言葉があれば、ついつい見てしまいます。

若さを失う代わりに、これからは教養や知識やあらゆる経験などを積み重ねて、冒頭で触れた麻田検事の台詞のように「あらゆるものを豊かに含んだ」美しい大人になれたらいいなぁ…と思います。ミルフィーユのように、何十層も積み重なってるような感じの。スルメみたいに、歯応えがあって噛めば噛むほど味が出るような感じの。

身近だと、80歳を過ぎている私の祖母は美しい人だなと思います。見た目がとびきり美人というわけではないけれど、明朗快活で社交的という若々しい面もあるのと同時に、年相応の落ち着きもあり、多少のことでは動じないくらいどっしりと構えている感もあります。様々な経験をしてきたからこその祖母の優しさや思いやりを、祖母との会話の中から感じられます。泰然自若、という言葉がしっくり来るような、見上げるほど高くて幹がしっかりとした巨樹のような、そんな「美しさ」がある気がします。私も、祖母をはじめ周りにいる素敵な大人の方々を見習って、自身を成長させていきたいです。