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「木のウィリアム」ダグラス・ハイド訳

ダグラス・ハイド編集・翻訳のアイルランド民話集から。

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 むかしむかしのことだった、エリン(1)の国に王さまがいた。王さまにはうつくしいお妃がいたが、子どもはたったひとり、娘がいるだけだった。お妃は病気になり、もう長くは生きられないとわかった。お妃は、じぶんのお墓のうえに足ひとつ分の高さまで草がのびないうちは、ほかのひとと結婚してはいけないというギャサ(魔法の命令)を王さまにかけた。娘は利口者だったので、まい晩はさみを持って出て行っては、草を根本まで刈ってしまった。
 王さまは、ぜひともべつのお妃を迎えたいと思っていたが、どうしてお妃のお墓に草が生えないのか、わからなかった。「だれかがわしをだましているな」王さまはぶつぶつ言った。
 ある晩、王さまが墓場に行ってみると、娘がお墓に生えた草を刈っていた。王さまはたいそう腹をたてた。「どんなに年よりだろうと、若かろうと、はじめに見た女とわしは結婚するぞ」王さまが道に出ると鬼婆がいた。誓いを破るのはいやだったので、王さまは鬼婆を連れ帰ってお妃にした。
 鬼婆がお妃となってからというもの、娘はたいへんつらい目にあわされたあげく、王さまに言いつけてはいけない、どんなことが起こったのを見ても、洗礼をうけたことのない三人の者をのぞいては、だれにも言ってはならないと約束させられた。
 つぎの日の朝、王さまは狩りに出かけ、その留守中に、鬼婆は王さまのとびきりの猟犬を殺してしまった。帰ってきた王さまは鬼婆にたずねた。「わしの犬を殺したのはだれだ」
「殺したのはあなたの娘です」
「なぜわしの犬を殺したのだ」
「わたしは殺していません。でも、だれがやったのかは言えません」
「言わせてやろう」
 王さまは深い森に娘を連れてゆき、木に吊るして両手と両足を切りおとし、そのまま死んでしまうよう置き去りにした。王さまが森を出ようとしたとき、足にとげがささり、そこへ娘が言った。「わたしに手と足が生えて王さまを治すまで、けっしてよくなることがないように」
 王さまが戻ると、足から木が生えてきて、窓を開けて先を出しておかなければならなくなった。
 ある身分の高い男の人が森のそばをとおりかかって、王さまの娘が悲鳴をあげているのを耳にした。木のところへ行って娘のありさまを見ると、かわいそうに思って家に連れて帰り、娘のぐあいがよくなると、奥さんにした。
 一年の三分の二が過ぎて、王さまの娘はいちどに三人の男の子を産み、そこへグラーニャ・オーイ(2)がたずねてきて、娘に手と足を生やし、こう言った。「子どもたちが歩けるようになるまで、洗礼をうけさせてはいけませんよ。おまえのお父さんの足には木が生えて、いくら切り落としてもまた生えてくるが、これを治せるのがおまえです。おまえは、洗礼をうけていない三人の者以外には、継母がしたことを話してはならないという約束があるから、神さまがこの三人をさずけてくださったのです。この子たちが一歳になったらお父さんのもとへ連れてゆき、この子たちの前で話をして、それから木の根をこすれば、お父さんは生まれた日とおんなじによくなるでしょう」
 王さまの娘に手と足が生えたのを見た夫は、おおいにおどろいた。娘はグラーニャ・オーイが言ったことをすっかり話した。
 息子たちが一歳になると、娘は王さまの館へ連れていった。
 エリンじゅうから呼ばれた医者たちが、王さまにつきそっていたが、だれにもどうにもできなかった。
 娘が入ってきても、王さまはだれだか気がつかなかった。娘は腰をおろし、三人の息子をまわりに座らせて、いちぶしじゅうを話して聞かせ、王さまもそれを聞いていた。それから娘が王さまの足のうらに手をあてると、木がはがれ落ちた。
 つぎの日、王さまは鬼婆をしばり首にし、領地を娘とその夫にゆずった。

*1 アイルランド
*2 フェアリー・ゴッドマザー(妖精の名付け親)のような存在か。原注によれば、グラーニャ・オーイはおそらく「処女グラーニャ」の意。

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この話は、ダグラス・ハイド編 “Leabhar Sgeulaigheachta” (1889) にアイルランド語で収められ、”Beside the Fire” にハイドによる英訳が収められた。

主人公を助ける「グラーニャ・オーイ」について、ハイドは注釈で「何者だったのかわからない」と記している。
もうひとりの注釈者アルフレッド・ナットはグリム童話の「マリアの子ども」を例に挙げ、類似の禁じられた部屋に関する民話がアイルランドにもあったのかもしれない、そして聖母マリアの役割がグラーニャ(英雄フィン・マックールの妻の美女)に置き換わった、あるいは逆に、古い異教の女神が聖母マリアに置き換わったのかもしれないと示唆している。

WILLIAM OF THE TREE
ダグラス・ハイド Douglas Hyde 編・訳
Beside the Fire: A collection of Irish Gaelic folk stories より

館野浩美訳

Image: Gammelt knudret træ i landskab by Fritz Petzholdt