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ハッシュタグ #女の嫌なところ の危うさ

 まさか2回連続でVtuber関係の記事を書くことになろうとは夢にも思わなんだ。


 先日Twitterで「 #女の嫌なところ 」というハッシュタグがトレンド入りした。女の嫌いなところ。実にド直球なミソジニーである。
なんとも不愉快極まりないこのタグだが、その実態は”にじさんじ”というVtuber集団の中の仲の良い4人のライバーが結成したグループ名だった。


言うまでもないがこのハッシュタグは配信用にしてはあまりに不適切だ。

ひとつ前の記事と併せ勘違いされそうなので一応言っておくが、私はVtuberのアンチではないしむしろ愛している。たぶん。


「配信用」は贖宥状にならない

 ”にじさんじ”自体人気のある集団であるが、その中でも特にファンの多い数名による配信だったため上記ハッシュタグは瞬く間にトレンド入り。結果的には荒れることとなった。

 さて、このタグで検索すると「このハッシュタグは配信用だから関係ないこと呟くな」「勘違いフェミ(※フェミニスト)湧きそうw」といったVtuberファンのツイートが多くヒットする。

「配信用」。なるほど。配信用ね。

配信用なら「これはVtuberの配信の実況をするためのハッシュタグですよー」と分かりやすいものにすればいい。大体、「女の嫌なところ」のどこにVtuber要素があるんだよ。それ単体では誤解されるようなハッシュタグをわざわざ設定しておいて、いざ指摘されたら逆ギレするその神経は天晴だ。

「女の嫌なところ」というハッシュタグがトレンド入りした時点で、いや、ツイートして世界中に発信した時点で言い逃れなぞできない。これは女性差別でありミソジニーだ。実際にこのタグを利用しているミソジニストが存在するのだ。

「配信用」なんて言葉は贖宥状にならない。言い訳をすれば何を言ってもいいと思っているとしたら、それこそ勘違いしているのはお前だ。もし今これを読んでいる君が「表現の自由」を持ち出して異論を唱えたいと思ったのなら、故・奥平康弘先生の著書「表現の自由とはなにか」を熟読してから出直してきてほしい。


困惑する真っ当なファンたち

 前回の記事ではヘイトスピーチを行ったVtuberとそれに追従するファンの歪んだ関係性を紹介した。今回大きく違うのは、恐らくこの”にじさんじ”のファンの中にも違和感を覚える真っ当な感覚の持ち主がそれなりに存在し、指摘しているという点だ。

「ネット初心者?Twitterのことわかってる?」と言いたくなる気持ちはよくわかる。インターネットで何かを発信するということは、基本的に全世界に向かって大声でそれを叫んでいるのと同義だ。どんなにVtuberやファンが「これは配信用で、”女の嫌なところ”という文字列に”女の嫌なところ”という意味はございません」と言ったところでそれがトレンド入りし不特定多数の目に留まったら御託にもならない御託は意味をなさないのである。

Twitterのことわかってる?相応しいか相応しくないかは君が決めるんじゃないんだよ。


Vtuber側にブレーキはいなかったのか

 御伽原江良、郡道美玲、椎名唯華、笹木咲。 
配信をおこなったにじさんじのライバーである。

 三人寄れば文殊の知恵、と言う。4人も集まって誰一人「このハッシュタグはマズいよ」と言い出さなかったこと自体もう意味が分からないレベルでぶっとんでいる。

 彼女らのYouTubeチャンネル登録者数の合計は160万人超。ツイッターのフォロワー合計は127万人以上と、のべ換算ではあるが決して少ない数字ではない。この規模のファンを抱えている配信者が、自身の設定したハッシュタグが悪用される・・・というかハッシュタグそのものが性差別を孕んでいるという点に気づかず、それこそ「意図しない」使われ方をされても未だに放置しているのだ。

 前回も書いた記憶があるが、規模の大きいVtuberはコンテンツホルダーだ。コンテンツホルダーに求められるものは、ファンの管理だ。ファンの質はコンテンツホルダーの質。幸い今回は指摘してくれるファンもそれなりに存在しているが、現状当該ハッシュタグについてくだんの4人からなんの反応もないのは気になるところだ。差別を助長してしまった責任を感じてないとしたら、残念ながらコンテンツホルダーとしての自覚があまりにも足りなさすぎるであろう。大方、ハッシュタグの性質を理解しないか勘違いしたまま配信を始めてしまい、終わってしまえば我関せず、と言ったところか。後味の悪い話だ。行動には責任が伴う。短期予測のできない近視は今後改めるべきである


差別に鈍感なVtuberたち

 バーチャルYouTuberのヤミクモケリン氏によるヘイトスピーチ。そして今回の女性差別。何故Vtuberはナチュラルに差別をしてしまうのか。

その根底には鈍感さがあるように思える。ケリン氏に関しては「中国に対しては憎悪を向けてもいい」というネット社会に蔓延るネット右翼的思想に基づいて、今回のにじさんじの4人に関しては「差別だと思わなかった(直球)」といったところか。どちらも好意的に捉えるならば鈍感、あえてキツく言うなら痴鈍で無知蒙昧だ。想像力が欠落しているならそれを正そうとするほかない。Vtuberとて日々勉強である。いつまでもフォロワーの少ない、チャンネル登録者数の少ない弱小だと思っているとしたらあまりに無責任だ。自身の発信力を正しく理解し、モラルと秩序を理解することがインフルエンサーには求められる。


終わりに

 「そういう界隈なのだから仕方ない」なんてことはない。「そういう界隈」にしたのは、紛れもなくモラルの欠如したVtuber自身とそれを許容してしまった低俗なファンである。それを指摘し、糾すこともまた、他のVtuberやファンの責任である。

 「ふぁっきゅふぁっきゅー」を開設したのが2017年末。それからというもの、私は幾度となくそのような「界隈の不健全さ」と闘ってきた。2017年末にはすでにネット右翼的思想やアンチフェミニズムを界隈として許容してしまう空気感のようなものが醸成されつつあり、それを危惧した私は「まとめサイト」という形を使い一定の発信力を維持することによって界隈の健全化を図ろうとした。サイトの概要欄に「ネット右翼は閲覧するな」と書いたのも、「バーチャル生理」のような言葉を公然と批判したのもその一環である。私のサイトの読者は、私がかなり話題を厳選していたのを知っているはずだ。バーチャルおばあちゃんに触れたことが一度も無いように。

 界隈の規模が大きくなり、個人勢が増え、Vtuberの中心が動画勢から生放送勢に変化し、キャラクターの維持より”中の人”の性格を重視するようになってVtuberやそのファンの性質は大きく変化したように思える。それ自体私の望んだ方向とは違っており、その変化についていけない自分はすでに過去に囚われた遺物と化している自覚がある。しかし、十年一日の如く2年前も今も変わらないのは、Vtuberに差別は不要だということだ。

 声を上げよう。疎まれることを恐れるな。大丈夫。私が連帯する。良きファンであろう。推しに顔向けできるように。


書いた人:FAQちゃん

サポートしていただくと私の酒代になります。酒を飲みながら記事を書くことが多いので、実質的に創造のサポートとなります。多分。