見出し画像

【第二話】言っていいの?


さあさあ、遡ったのは2人の出会い、
結局わからん「魔法」の由来。
まだまだ続くのノロケた話?今回そんなの一切無し、不思議な力の本当の話、ぜひぜひ笑って読んでほしい。

っということで想像以上に多くの方に第一話を読んでいただけたようなので急いで第二話を仕上げました。それではどうぞ。


出会ってから交際をスタートするまでは早かった2人だったが、結婚するまでは約5年がかかった。この5年の出来事についてこの二話の冒頭で少し語ろうかと思ったが、とてつもないボリュームのある話になってしまうので割愛することにした。

結婚するまでの5年間で同居はしなかった、婚約を機に2人暮らしを始めた。
ちなみにこの5年間は旅行はおろか2人でお泊まりというのをしたことが無かった、というよりお泊りは婚約するまで禁止をされていた。(こんなネタばかりなので割愛することに、書く機会があればいつかどこかで)

2人暮らしを始めて生活習慣の違いから起こると言われるような大きなトラブルや問題は起きなかったが、一緒にいるようになり知った妻の一面があった。
妻には「霊感」があるという話だ。
付き合っていた時にもその話をしたかもしれないが、そこまで深掘りをしなかったのは「ホラーNG」の妻に対して怖い話をしないようにしてきた配慮からだったかもしれない。

ある時、妻に「なぜホラー映画がNGなのか?」聞いたことがあった。
妻は「不謹慎だから」と答えた。
これもその時は「ふーん」くらいのリアクションで終わってしまったと思う。

しかしよく考えると、一般的になぜホラーがNGなのかという答えを想像すると、
「怖いのが嫌」
「ビックリするのが嫌」 
「気持ち悪いのが嫌」

といったものがほとんどだと思う。

もちろん妻も「怖い」、「ビックリする」、「気持ち悪い」この3点セットは得意ではない。
ただ妻はそれ以上にどんな作品でも人の生死は描かれるが「怖い」という感情を満たす為に描かれる人の生死、そして「霊」の存在をエンタメとするもの、茶化すものに対して「不謹慎」と言っていたのだ。最近では少なくなったがTVの心霊特番などもまさにそれだろう。
「ホラー」というジャンルで一括りにしてしまい気付くのに時間が掛かったが、妻が本当にNGだったのは俗にいう「心霊」と呼ばれるものを面白おかしく扱う姿勢に対して。
かつて同じように生きていた者達への「冒涜」する行為がなにより嫌だったのだ。

この考え方は僕も間違っていないと思うが今の時代では決してポピュラーではないとも思う。
このような考え方ができるのは「神仏」を信じる精神性が高い人、もしくは「霊感」により人とは違う体験をしてきた人ではないだろうか。
僕が思うに妻はその両方だと思っている。

ちなみに僕の方は「霊感」は持っていない。
若い頃は好んで「おわかりいただけただろうか?」のフレーズでお馴染みの「本当にあった呪いのビデオ」シリーズのヘビーユーザーであったのだから、妻からすれば「不謹慎の極み」だろう。

とはいえ一緒に暮らすようになって妻がその「霊感」を発揮させるような場面はほとんど無かった。
たまに家のすみっこに新聞紙を敷き、中央に塩で山を盛り、そのてっぺんに水晶を置く。
そして「絶対に触れないで」と注意をしてくるのだ。
この行いは不定期で実施されていた。
一夜明けると塩の山を中心として放射状に新聞紙が濡れていたりすることがあった、妻は満足そうにその山を片付ける。
これは毎回濡れる訳ではなく、不思議な事に全く濡れていないことももちろんある。
新聞紙が濡れている時は家にいた「悪い何か」が取れた証らしい。

僕自身は妻には「霊感」があると信じている。
それは信じざるを得ない出来事を一緒に体験してきたからだ。

新婚旅行は京都だった。
僕の母方の曽祖父と祖父は住職だった。京都のお寺で修行をしていたといい、それが一番の理由ではなかったがゆっくりしたいという2人の希望が行き先を京都に決めさせた。

京都に着き僕の曽祖父と祖父が修行をしていたというお寺へ観光に行った時だった。
そのお寺は敷地が大変広く案内をしてもらうことができた。有名な本堂を訪れ別にもう1つ名物とされる場所を案内された。
そこは「浴室」だった。
案内をされるが妻の様子は少しおかしかった。
気分でも悪いのだろうか?その浴室から出ると妻は案内をしてくれた人に質問をした。
 
 「あの、置いてあったお位牌というのは?」

お位牌?確かにその浴室の中にいくつかのお位牌が並んでいたのを僕も気付いたが、特に気になることはなかった。
なんせここはお寺なのだから。
しかし、そもそもなぜお寺に「浴室」があるのか?その案内をされた「浴室」というのは「とある歴史上の人物」を弔う為に建てられたものだという。
案内をしてくれた人の話を聞き終わると妻は突然泣き出した。
突然の事で僕は驚いてしまったが、声をあげてワンワンなくというわけではなく、ただただ涙が止まらないという感じだった。
妻はこの「浴室」に入った時から嫌な感じを察していたようだがお位牌について聞いた時に涙が勝手に流れ出したのだと言った。
こういった体験は妻を除いても初めてだった。
心霊番組では嫌と言うほど見てきたようなシーンだったが、妻の持っている霊感というのは実は強力なのでは?と思った経験だった。

僕は「ホラー」や「心霊」といったものに抵抗はなく、むしろ好奇心は強い方だったので何気なく妻に聞いた事があった。 

「たまにさ、塩で山作ったりしてるけどさ、霊感はあるけど特になにも言わないじゃん?べつにこの家で何かあったりとかするわけじゃないんだよね?」

少し考えてから妻は言った。

「言っていいの?」

見た事のない真顔に僕は

「、、、いや、、、言わないでいいや」

その言葉で妻だけが体験している何かがあることを知るには十分だった。
そしてシンプルにメッチャ怖かった。

長男が生まれた事をきっかけに引っ越しをした。
そして幼い長男を連れて「競馬場」へ行った事がある。
最近の競馬場は家族連れや若い人、カップルなどの集客を狙い、イベントや動物との触れ合いエリアなどを展開し、ギャンブルをやらない人でも訪れやすい場所になっていると聞いていた。
ギャンブルはやった事がないので興味本位で3人で行ったことがあった。
間近で見る馬は迫力があったし、子供も馬と触れ合う事はできたし想像以上に楽しめたつもりだった。
また行くのもありかなと思い妻に遊びにいくことを提案したことがあった。
妻曰く、競馬場は人生を賭けた人間達が集まる場所で、その必死の人間の執念というか凄まじい何かが渦巻いていたのだろうと言う。
「なんか色々ついてくるから、もう2度と行きたくない」と妻は嫌そうな顔で言った。
何も知らずに子供と一緒にはしゃいでしまった自分が情けない。

経験として1番強烈だったのはTV番組で心霊写真を見てしまった時だった。
普段から心霊番組などは見ないように注意していた。
不意にそのような心霊特集が始まった時などは番組を変えるなどしていた。
ただその時は心霊映画の番宣という事で油断していた。
番組の中で映画のモデルとなったお笑い芸人が持ち物の中で1番ヤバイ心霊写真というのを公開したのだった、それが映し出された瞬間妻が突然言った。

「これ、ダメなヤツだ」

次の瞬間

「うおぉーん、おぉーんっ!」

妻は両手で顔を隠し、うずくまって大泣きし始めた。
僕も京都の時の比ではないくらいヤバイやつだとすぐにわかったが、どう対処すればいいのかわからない。

僕が名前を呼んでも妻は泣き続けるだけだった。
子供達も呆然と見ていた。
もう、母親としての本能でなんとかしてもらおうと思った。

「子供が心配するぞ!しっかりしろ!!」

そう言って背中を思いっきり平手打ちした。

バチーンッ!!

背中を平手打ちしたのは、除霊する時はだいたい霊媒師みたいのが背中叩いているからマネをしただけである。

「しっかりしろっ!!」
バチーンッ!!

すると妻が苦しそうに言った。

「ち、違う、、、私じゃない、、」

恐らく泣き叫んでるのは自分の意思じゃないということらしいがそんなの見ればわかる。
ただそれよりも「もう叩いてくれるな」という意味が込められているのだと感じ取った。
なぜなら少し妻がキレているように思えた。
これ以上叩いて怒らせるのも嫌だし、すでに自我で話を始めているのでもう大丈夫だろうと思い、
「大丈夫?しっかり」
と介抱モードへと切り替えた。
必死で背中をさする。
妻もだんだんと落ち着きを取り戻していった。

一瞬だった。
TV画面に映った瞬間の出来事だった。
あれが子供達だけだったらと思うと今でもゾッとする。
1番ヤバイ心霊写真というだけあって、今のところこれを超える経験はない。

ちなみにいつからか僕も「心霊写真」や「動画」を全く受け付けない体質になってしまったのだ。
SNSなどで不意に見てしまうとクラクラして気持ち悪くなるのだ。
僕はこれを妻と一緒にいることによる影響の一つだと考えている。

さんざん妻とは「感性」や「価値観」、考えが同じだと話をしてきたが、唯一この「能力」の部分だけは僕が共有してあげられないところであった。
妻には霊感が確かにあるが「何か」が視えているだけで、それ以外の特別な力を使えるということはなかった。
そうこれは妻の持っている「霊感」に関する話であって「魔法」ではない。
妻はまだ「魔法使い」ではないのだ。
しかし、妻はこの後もう少しで魔法使いになる。
まさか魔法使いになるきっかけをつくる人物が身近にいてその人物が、

 僕の「姉」だったとは。

『奥様は魔法使い』第二話 完

空想をカタチにするチャレンジを続けるオモチャ屋さんです。サポートしていただけると大変嬉しいです!