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【第六話】その世界に待ってる人がいる

価値観が変わった時を超えた旅。次第に迫る「自分の使命」に向きあう時。それは誰しもが持っていたはずの忘却の大義。

話が進むにつれて内容が複雑になっていき書き起こすのが難しくなってきております。皆さんにちゃんと伝えられていたらいいのですが。物語も終盤に差し掛かっています、もうしばらくお付き合い下さいませ。
それではぜひご覧ください。


僕と妻が初めて行った海外が「バリ島」だった。

愛ちゃんが連れて行ってくれたバリ島旅行。
このバリ島での出来事はどれも日本で体験できないものばかりだった。

「クタ」のビーチ沿いのホテルではまるでセレブ気分で2人で大きなプールで大はしゃぎをした。
「ウルワツ寺院」でケチャを踊るおじさん達は一見コミカルだが何度も見たくなる。
「ジンバラン」のビーチでのディナーはロマンチックの一言に尽きる。
街を歩く時は暑さでミネラルウォーターは手放せないが、今の日本の夏より何倍も気持ちが良い。
食事の種類も豊富で何を食べようか迷うほどだった。
愛ちゃんは現地の人が顔を歪めるほどのディスカウント交渉を笑顔で仕掛ける。
街中に点在する寺院や石像一つ一つに目を奪われる「ここで石でも削って生活ができたら」なんて考え本気で日本に帰りたくなくなっていた。
「ウブド」には可愛いお土産屋さんが沢山並び街を歩いてるだけで楽しかった。

そのウブドで宿泊したホテルの近くにアイスクリーム屋があった。
妻がそのお店の前でアイスクリームを右手に持って立っている。
そして反対の左手は僕が繋いでいた。

すると、妻が僕に聞く。

「案内してくれるの?」

僕はうなずくと妻の手を引き歩き始める。
お土産さんの並ぶウブドの街を2人で歩く。
たしかこの先を行くと「モンキーフォレスト」が見えてくるはず。
しかし、モンキーフォレストには到着せずにいつのまにか暗闇の中を1人で歩いていることに気付き妻は暗闇の中で立ち止まった。

前回の過去世の旅から約半年。
妻は再び愛ちゃんと「過去世」へ来ていた。


暗闇に入ったことを妻は愛ちゃんに伝えた。
そして、慣れたように案内役を探しながら再び暗闇の中を歩きはじめた。

しばらく歩くと、暗闇から白っぽい何かがこちらへと宙を舞いながら近づいて来る。
目の前まで来てそれが「妖精」だとわかった。
手の平サイズで透明な羽が4枚、肌も白く着ている服も白だった。

妖精は妻の周りをグルグルと飛び回っている。
妻は妖精に過去世に来た目的を伝える。

「愛ちゃんとの過去世に連れて行ってほしい」

そう、今回の過去世の旅の目的は「愛ちゃんとの過去世を見る為」だった。
「愛ちゃんの過去世」ではなくて、
「愛ちゃんとの過去世」だ。
もしかしたら2人は過去世で出会っていないかもしれない。
そしたらそんな過去は存在しないかもしれない。
それでも2人が過去世へと旅に出たのは、単なる
「好奇心」からだったかもしれない。

妖精は案内をする素振りなく、妻の周りグルグルと飛び続けているだけだった。
妻は妖精に何度かお願いをしてみるが、結果は同じ。これは遊ばれているのか、、、。
妻が困っていると暗闇から何者かスッと女性が現れた。

プラチナブランドの綺麗なロングなヘアーだ。
白い肌は人間というよりファンタジー作品に出てくる「エルフ」に例えるのがもっとも近いだろうか。
とにかく「神秘的な存在感」だった。
その女性が妻の元へ歩み寄ってくると妻の頭の中に言葉が伝わってくる。

「この子がごめんなさいね」

その女性の言葉に反応するように妖精は女性の元へと戻っていった。

妻はその女性が案内人かと思い愛ちゃんとの過去世へ案内してもらえるか尋ねてみた。

女性は笑顔でうなずくと手を差し出す。
妻が彼女の手を取ると女性はやさしく手を握り妻を引くように暗闇の中を歩き始めた。

しばらく歩いていると扉が見えてきた。
丸型の木造の扉。
映画『ロード・オブ・ザ・リング』に登場するホビット達の住む家の扉そのままだった。
前回の過去世の旅で訪れた「剣と魔法の世界」も『ロード・オブ・ザ・リング』に似た世界だったが今回は似てるというよりも限りなく同じように感じた。

扉を押し開けると目の前には眩しいくらいの鮮やかな緑が広がる。
この光景もまさしくホビットの住む村「ホビット庄」そのままだった。
大地に埋め込まれるように建てられた丸い扉の家。
少し開けた広場のような場所で子供達が手を繋いで遊んでいるのが見える。
その中で遊ぶ1人の女の子がこちらに気付き走ってくる。
茶色の髪を三つ編みのおさげにした、赤いギンガムチェックのワンピースを着た女の子だった。

その女の子は妻の目の前に来ると笑顔で妻の手を引っ張り始める。
どこかに連れて行きたいようだ。

「愛ちゃんの所に案内してくれる?」

と妻がお願いすると嬉しそうに手を引き歩き始めた。

砂利が敷き詰められた道を2人で歩き進む。
大きな湖が見えてくる、そこが目的地のようだ。
遠くに見える対岸まで雑木林で囲まれている。
湖の背景には雪を被った大きな山がそびえ立つ。
湖に近づくとほとりが芝生になっていて一本の丸太が横たわっているのが見える。
丸太のそばに「車椅子に座った女性」がいることに気づいた。
だんだん近づいていくと後ろ姿だったがその女性が「白髪を後頭部でお団子にしている老婆」だとわかった。
その瞬間に妻は直感で理解する。

「あ、この人が愛ちゃんだ」

すると、会えた嬉しさからか自然と涙が溢れ出てきた。
老婆の元へ辿り着くとゆっくりと老婆の顔が見える位置まで移動する。
そして妻は涙ながらに声を掛けた。

「愛ちゃん?」

老婆は妻の顔を見て微笑み言った。

「待ってたよ」

老婆は妻の手をやさしく取る。
その姿は海外のお婆さんといった感じだった。
妻がこの世界での2人の関係について質問をする。

「この世界で愛ちゃんと私の繋がりは?」

過去世の愛ちゃんが答える。

「姉妹だよ」

実は、この答えは過去世に来る前に愛ちゃんと2人で「もしかしたら」なんて予想をしていた。

「今、過去世の私はどうしてるの?」

過去世の愛ちゃんが対岸の雪山を見て言った。

「妹は山にモンスターを退治しに行ってる。
いつもはもう帰ってくる頃なんだけど、今日はなかなか帰って来ないから心配してここにいる。でも、もう帰ってくると思うよ」


雪山を見る表情は少し心配そうだった。

「愛ちゃんはこの世界で何をしているの?」

「薬を作ったり人を癒したりしてるよ」

過去世の愛ちゃんがそう話すと、頭の中に窓辺に薬草を吊り下げて乾かしているような部屋の映像が浮かぶ。
部屋には薬草をすり潰す道具である薬研や、薬を煮出す大鍋など色々な道具が置いてあった。

そんな話をしていると、雪山から人影が宙を舞いこちらに近づいてくるのに気付いた。
空を飛ぶというか空中をスーっと浮遊している。
雪山からこのほとりまで相当な距離があるようにみえたが、かなりのスピードなのかあっという間にほとりに到着してみせた。

宙を舞って登場したのは女性だった。
黒髪のロングのポニーテール。
その姿はどう見ても20代。
過去世の妻だった。
妻は、過去世の自分が思った以上に若くてビックリする。
さっき、過去世の愛ちゃんから姉妹と聞いていたので歳の差を疑問に思い質問をしてみる。

「2人は姉妹なんだよね?何か歳が離れ過ぎじゃ?」

その妻の言葉を聞くと2人はお互いを見てクスッと笑った。

過去世の愛ちゃんは車椅子から立ち上がり、老婆の姿からスルスルと変わっていく。

見覚えのある姿だった。
それは、さっき暗闇の中を案内してくれた女性だった。

妻が驚いていると、過去世の妻の姿も同じようにスルスルと変わる。
黒髪からプラチナブロンドのウェーブがかったロングヘアの姿に変わった。

寄り添うように2人は立っている。
2人の姿は姉妹と言われて納得するものだった。
妻が過去世の愛ちゃんに向かって言う。

「あれ?さっき案内してくれた、、」

「さっきは妖精がイタズラしてごめんなさいね」


宙を舞い、姿が変わるのを目の当たりにして妻は
2人が「魔法」が使えるのではないかと考えた。

「2人は魔法が使えるの?」

「もちろん使える」


普通ではないと感じていたが、その答えを聞き今いる世界がますます映画で観るようなファンタジーの世界だと感じてしまう。

「過去世の愛ちゃんには旦那さんはいるの?」

「もちろんいるわ、今頃木を切ってるんじゃないかしら。良ければ呼ぶわ。」


そう言うと、過去世の愛ちゃんの後ろから木こり風の大柄の男性が近づいてくる。
その男性が過去世の愛ちゃんのすぐ後ろに立つと、ブロンドの髪のキレイな男性へと姿が変わる。
肌の色は白く過去世の愛ちゃん達のようにやはりどこか人間とは違う神秘的な雰囲気を放っている。

ここで、同じ場面を見ている愛ちゃんから質問があった。

今世のお父さんとお母さんもここにいるか?」

という内容だった。
つまり僕の父と母のことでもある。

この質問を過去世愛ちゃんに聞いてみると、過去世の愛ちゃんは自分の旦那さんが今世のお父さんだと答えた。
そして今世のお母さんに関してはこう答えた。

「あなたがさっき会った子よ」

すると、さきほど道案内をしてくれた三つ編みの女の子が笑顔で過去世の愛ちゃんの元へ駆け寄ってくる。
その女の子も、またしてもプラチナブロンドの髪色へと姿が変わる。

ここまでくると聞きたいことが止まらない。
思い出したかのように妻は質問を続ける。

「じゃあ、過去世の私には旦那さんはいるの?」

「いるわよ。ほら、あなたの隣に。」


そう言われると、妻は誰かと手を繋いでいることに気づく。
横を見ると、湖のほとりに横たわっていた丸太に座っている男性に気がついた。男性は黒髪で青い瞳を持ち、腕を伸ばしてニコニコと笑顔で妻の手を握っていた。

妻はその男性が過去世の僕だとわかった。
すると、過去世の妻が呆れながら過去世の僕に向かってに声を掛ける。

「ほら、私が困ってるでしょ。
こっちへ来なさい。」


過去世の僕は、名残惜しそうに手を離して過去世の妻の元へと歩いて行く。
過去世の僕だけ騎士のような格好で、腰には剣を携えていた。
またしても『ロード・オブ・ザ・リング』の例えとなってしまうが、妻の目の前に並ぶ皆はさながら劇中に出てくるエルフの一族のようだった。
そのどこか神秘的な風貌に魔法を使うということで、もしかして映画のように何処からか来たのかな?と思い、過去世の愛ちゃんに聞いてみることにした。

「愛ちゃん達は最初からここにいるの?

「いいえ、
私達は違う世界からこの世界に来たの。
この世界の人達を手助けする為に。
彼は私たちを守る騎士よ」


過去世の僕は、誇らしげに腰に携えている剣の束に手を添えてみせる。

「この世界には魔法があるの?」

「魔法はある。妖精もいるよ。
魔法は皆んなが使えるわけではないけど。」


過去世の愛ちゃんが、今いる湖のほとりから村の方に目線を移すと、村の至る所に咲いている花達の陰から小さな妖精達が顔を出すのが映像が見える。

「この世界は本当にあった世界なの?」

「本当にあったよ」

情報量が多く、あまりにも現実離れした出来事に
確認するような質問が続く。

「ここが私の過去世ならこの世界は地球ってこと?なら、何で今は魔法や妖精がいないの?」

過去世の愛ちゃんが寂しそうな表情を浮かべて言う。

「みんなが信じなくなったから、見えなくなってしまった。」

この時以前、愛ちゃんから聞いた話をふと思いだした。
愛ちゃんが以前とある霊能力者に自分の過去世について聞いたことがあるらしく、愛ちゃんは過去世で火炙りにされたという話だった。
そしてその霊能力者は、妻も火炙りにされたと言っていたらしい。
その過去世について詳しくは聞いていないが、2人が過去世で火炙りにあった共通点が、今回の2人の過去世を見に来た理由の1つではあった。

妻はそんな話を思い出し、そのことを聞く事にしてみた。

「今世の私と愛ちゃんの過去世で火炙りになったことがあると言われたんだけど、、、」

すると、過去世の全員が怯えたような表情を浮かべ、お互いを守るように体を寄せ合う。
過去世の僕は、皆んなを護るように剣の柄に手を掛けてこちらを威嚇した。
さっきまで穏やかに話していたのに、ザワッと急に空気感が変わったことに、これは触れてはいけない話題なんだと察した。

愛ちゃんが霊能力者から聞いた火炙りの話は、この世界での出来事かもしれないと思った。
皆が姿を変えているのはこの世界に紛れる為であり、守る騎士の役割があることも、皆が何かしらの危険と背中合わせで生活しているのだと察した。
皆の怯え具合から深堀りする話ではないと思い、空気を変えるために過去世の自分に違う質問をしてみた。


「私は今世で何をしたらいいの?」

その問いかけに、過去世の妻は少し呆れたように答る。

「何を言ってるのよ」

「あなたには【チカラ】があるでしょう。」

過去世の妻は少しイライラした感じで答える。

「【チカラ】って魔法ってこと?」

「あなたは私。
私にこれだけのチカラがあるのだからあなたにもある。
今は本当の自分が何者なのか思い出すために、一枚一枚ベールを取っているところ。」


「じゃあ、私もあなたみたいなれるってこと?」

「だからそう言ってるでしょ。」


ここまでの口調でわかる通り、過去世の妻は相当強めの人だった。
いつもモンスターを退治しているだけのことはある。
それに、過去世の僕が名残惜しそうに手を離したのも、過去世での私が結構強めの人だから。今世の妻が遠慮がちにしてる姿に新鮮さを感じていたのだと、何となく察した。

最後に皆の名前を聞いた。

マリエッタ
ルイザ
カイザール
ジョナサン
リール

過去世の愛ちゃんは「マリエッタ」。
過去世の妻は「ルイザ」だった。

そして、過去世から愛ちゃんと戻ってきた。
愛ちゃんと興奮気味に今見た出来事を話込んだ。

この過去世ではいくつか例えとして『ロード・オブ・ザ・リング』の物語が出てきたが、映画好きの妻なのでそれが的を得ている表現だということは良くわかった。
本当にそのままの世界だったのだろう。

もちろん作品は僕も好きだし、2人の結婚式を思い出した。
結婚式の参考にしたのがまさに「ホビット庄」だった。
妻の手作りのガーランドを飾り付け、白を基調とする式場には緑が生える装飾をした。
会場のBGMには映画のサントラから「ホビット庄の社会秩序」という曲を流し、皆が自由でにぎやかな結婚式にしたかった。

過去世で起きたことを、愛ちゃんと話をしていた時のことだった。
妻は何か意識が一本の線で繋がってる気がした。
不思議な感覚だったが、その線を意識の中で辿って行くことができた。

その線の先で繋がっていたのは、過去世の愛ちゃん「マリエッタ」だった。

過去世から戻った。
瞑想からも目覚めている。
部屋の電気も付いて愛ちゃんと話をしてる。
なのに意識が繋がってる感覚。

頭の中で問い掛けてみると、マリエッタが応えてくるのがわかった。

妻が「チャネリング能力」を取得した瞬間だった。

『奥様は魔法使い』第6話 完

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