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一問一答式サイコサスペンス笑(2022年2月1日Twitterで開始)

【問い】
Aさんは金髪ミニスカートの若い女性の後をつけていました。それを偶然見たBさんが「やめた方がいい」と忠告しました。Aさんは「分かってる」と答えました。AさんとBさんは全くの初対面です。なぜでしょう?
 
【答え】
Bさんは「派手な女性は騒ぐからおとなしい女性を狙うべきだ」と忠告しました。Aさんは「それは分かっているが経験上、あの女性は見かけによらず大人しいはず」と思いました。
 
【問い】
Aさんは警官とすれ違う時、必ず警官の目を見ます。なぜでしょう?
 
【答え】
警官は目をそらす人間を怪しいと思います。
 
【問い】
Aさんは狭い店舗内の左側を歩いているとき、「わかってないなあ」と思いました。なぜでしょう?
 
【答え】
Aさんは左側通行を必ず守っています。店舗内で右側通行の人がいました。
 
【問い】
Aさんは自宅に帰るたびに玄関で「ただいま!」と大声を出します。一人暮らしでAさんしか住んでいません。なぜでしょう?
 
【答え】
強盗対策です。
 
【問い】
AさんのLINEは句読点があったり無かったり統一感がありません。なぜでしょう?
 
【答え】
文体の癖を消すためです。
 
【問い】
Aさんはカフェに入るとノートパソコンを開いている客がいないかを確認します。もしいたらその客の後方左右斜め上あたりが見渡せる位置の席に座ります。なぜでしょう?
 
【答え】
のぞき見防止フィルターでも見える位置です。
 
【問い】
カフェにいるAさんは、入店してきた女性の顔をしっかり見たいと思いました。しかし顔は見ず、レジの方を凝視しました。なぜでしょう?
 
【答え】
女性の動きに合わせて目で追ったら不審に思われます。目線をレジに固定していれば、不審がられずに女性の顔を凝視できます。
*応用編として「女性の動きを先読みして視線を固定する」があります。女性がトイレに向かうのであれば、その進行方向に視線を固定しておくのです。
 
【問い】
電車内で「もしもし!?」と大声で会話をはじめた若い女性がいました。それを見たAさんは、サッと顔を伏せて違う車両に移動しました。なぜでしょう?
 
【答え】
その若い女性の手にスマホは無く、ハンズフリーで会話しているわけでもありませんでした。面白がって誰かが撮影する可能性があります。映ってしまう可能性があるので移動しました。
 
【問い】
抜き足、差し足、忍び足。Aさんが大切にしていることはなんでしょう?
 
【答え】
抜き足。地面に足を着ける音より、地面から足を上げるときの音に注意します。
*この思考は全行動の原理原則です。ターゲットに近づくときより、ターゲットから「立ち去るとき」にこそ注意を払います。「家に帰るまでが遠足です」みたいなもんですかね~(*^^)
 
【問い】
Aさんは「らりるれろ」を書く練習を大切にしています。なぜでしょう?
 
【答え】
筆跡の癖が出やすいからです。右上がり左下がり、曲線や円の癖は「らりるれろ」に出ます。
 
【問い】
Aさんは太陽の光に10分以上当たらないように注意しています。なぜでしょう?
 
【答え】
太陽の匂いがつくのを避けるためです。意外に強い匂いで、香水でも消しにくいです。着衣の匂いは翌日まで残ることもあります。
 
【問い】
Aさんはこの動画を見て何を思うでしょうか?2つお答えください。
*険しい崖を登る小熊を、母熊が見守る映像です。


【答え】
・撮影者は安全だろうか?
・撮影者は炎上しないだろうか?
 
【問い】
Aさんは笑顔を大切にしています。なぜでしょう?
 
【答え】
比較的容易にできる表情だからです。
 
【問い】
Aさんは野良猫を手なずけるのが得意です。どんな猫ともすぐに仲良くなって優しく抱き上げます。なぜでしょう?
 
【答え】
猫を撫でながら家屋の様子を探ります。抱き上げれば家屋侵入にも使えます。
 
【問い】
Aさんはカフェなどで家電カタログを読むことが多いです。なぜでしょう?
 
【答え】
視線や表情を隠しつつ周りを確認できます。また入手店舗から印刷所の特定が難しく、追跡されにくい利点もあります。
 
【問い】
Aさんは前方から歩いてくる女性に強くひかれました。顔もスタイルも素晴らしく、ファッションも素敵です。しかしその女性とすれ違った瞬間、ガッカリした表情でうつむきました。なぜでしょう?
 
【答え】
匂いがダメでした。香水が強すぎます。匂いには人間のバランスが出ます。Aさんはターゲット女性のバランスを重視します。
 
【問い】
Aさんはデパートの化粧品売り場には近づかないようにしています。なぜでしょう?
 
【答え】
美容部員は瞬時に顔の細かい点を確認する習慣があるからです。
 
【問い】
Aさんはあえて汚れた靴を所有しています。なぜでしょう?
 
【答え】
靴で他人を判断する人間、の心理を利用するためです。
 
【問い】
Aさんは過去のあらゆる犯罪やテロを研究した結果、とある共通点を見つけました。なんでしょう?
 
【答え】
「成功する犯罪行為は事前に練習を重ねている」です。某テロ事件では小型航空機で練習しました。某毒ガス事件ではトイレで予行演習しました。
 
【問い】
Aさんはインターホンを全て録画して確認しています。なぜでしょう?
 
【答え】
ターゲットとすべき人間がいるかを確認するためです。
 
 
【参考資料】
Aさんが小学校三年の時に書いた作文抜粋です。
「今日は、お父さんとお母さんがとてもよくわらったので、私もわらいました」
 
 
【問い】
Aさんは防犯カメラを気にしたり気にしなかったり、行動にムラがあります。なぜでしょう?
 
【答え】
Aさんの目的は「行為を遂行すること」です。その後逮捕されても仕方ないと思っています。
証拠隠蔽に異常に執念を燃やすときもあれば、あっけなく証拠を残すこともあります。
 
【問い】
Aさんは防災グッズを大量購入しています。なぜでしょう?
 
【答え】
電気ガス水道が無い状況でも生活するためです。
 
【問い】
Aさんは口を閉じたまま笑うことはしません。なぜでしょう?
 
【答え】
眉に本音が出てしまうからです。
 
【問い】
AさんはシークレットタブでTwitterをします。なぜでしょう?
 
【答え】
ログインしなくてもある程度の機能が使えます。
 
【問い】
Aさんは整形ダウンタイムの画像をたくさん集めています。なぜでしょう?
 
【答え】
人体の回復能力を学ぶためです。
 
【問い】
サスペンスドラマで女性が背後から襲われるシーンを見て、Aさんは「わかってないな~」と思いました。なぜでしょう?
 
【答え】
人を襲うときは、その人の前方に出るべきです。ターゲットの警戒心も薄れてチャンスが広がります。スマホを利用すれば後方の状況も分かります。
 
【問い】
空港で窃盗を働くとします。
・警戒心が強く手荷物をしっかり握っている若い男性。
・旅行気分に浮かれて手荷物から目を離している中年女性。
Aさんはどちらをターゲットにするでしょう?
 
【答え】
若い男性。警戒心のある人ほど一瞬の隙が生まれます。
【補足】
路上で人を襲うときは「警戒心を解く」ことが大事で、空港で窃盗するときは「警戒心を利用する」ことが大事。緩急ですね。
 
 
【参考資料】
精神科医によるAさんの診断メモ。
(プライバシー保護のため具体的な薬名などは避ける)
 
・解離性同一症(いわゆる多重人格)の症状は認められず。
・Aさん発言「興奮すると頭が早口になる」
・受容体遮断薬とサイコセラピーで経過を見るとする。
 
 
【問い】
Aさんは自宅に帰るたびに玄関で「ただいま!」と大声を出します。一人暮らしでAさんしか住んでいません。なぜでしょう?
 
【答え】
誰かがいると思いました。
 
【問い】
Aさんは他人のスマホに関して、とあることに常に着目しています。なんでしょう?
 
【答え】
スマホをどこから出してどこにしまうか、です。
毎回同じ場所にしまう人間と、いつも違う場所に出し入れする人間とでは、だいぶ性格のタイプが異なります。
 
【問い】
Aさんはサスペンスドラマで田舎の廃屋に人質を監禁するのを見て、「分かってないな~」と思いました。なぜでしょう?
 
【答え】
田舎は近所づきあいが密にあるので不審な行動が目立ちやすいです。スーツケースを転がしているだけで相当目立ちます。また防犯カメラを見つけにくいです
都市部は他人に無関心で、スーツケースも目立ちません。また防犯カメラの位置を把握しやすく「死角」を見つけやすいです。競売物件など「わけありの空き家」も多く、様々なアイデアを実行できる環境がそろっています。
 
【問い】
Aさんはやむを得ず背後から女性を襲おうとしました。しかしその女性は警戒心が強くAさんの方をチラチラと振り向きます。Aさんはどうしたでしょう?
 
【答え】
靴紐を結ぶふりをしてしゃがみました。女性が前方を向いた瞬間に一気に距離を詰めました。ドラゴンボールで遠方にいるキャラが一瞬で背後に迫るのと同じ感じです。「ドン!」ていうやつですね(*^^)
 
【問い】
AさんはSMプレイの縄縛りを研究しています。なぜでしょう?
 
【答え】
生かさず殺さず人間を拘束する合理的な方法が多様にあるからです。
 
 
【参考資料】
Aさんが小学校五年の時に書いた作文抜粋です。
 
「わたしの夢は、ふ通の家族を作ることです。ときにはけんかしたり、いやなことがあっても、話し合って仲直りできる家族を作りたいです。」
 
 
【問い】
Aさんは図書館によく行きます。なぜでしょう?
 
【答え】
ネットには出ていないことを研究するためです。
 
【問い】
Aさんは推理漫画で少女が狭く汚れた部屋に監禁されるのを見て、「わかってないな~」と思いました。なぜでしょう?
 
【答え】
人を監禁するということは、その人の基本的人権を保障することです。監禁した時点で「生かす」ことが目的になるので。適切な食事、衛生的なトイレ、十分な寝具などを用意しなければなりません。不用意な自殺を避けるため、心のケアも必要です。できるだけ快適な部屋を用意すべきです。
子供のころ野良猫を家に持って帰って飼いたいって言ったら「ちゃんと育てられるの?責任取れるの?」て言われた事ありません?それと似たようなものです。(=^..^=)ミャー
 
【問い】
Aさんは個人パスワードとともに法人パスワードも収集しています。なぜでしょう?
 
【答え】
法人にしか販売しないものを購入するためです。
 
 
【参考資料】
Aさんが小学校六年の時にクラスで行ったスピーチ(同級生の記憶を元に再現)
 
「6年2組の『カワイイ人ランキング』1位になれてうれしいです。選んでくれてありがとうございました。『将来アイドルになりそうランキング』も1位でうれしいです。『なりたい顔ランキング』も『付き合いたい人ランキング』も1位でありがとうございます。自信の無い私ですが、これからもよろしくお願いします」
 
Aさんはスピーチに乗り気では無かったが、クラスのみんなが囃し立てたため壇上に立たされたという。担任は学期途中から代わった若手の臨時教員だったため、困った顔で見ているだけだったという。
 
 
【参考資料】
Aさんが小学校六年の時に書いたメモ。
 
「クラスのアザは家族に見つからないように。家族のアザはクラスに見つからないように。防御態勢を工夫してなるべく同じ部分で受ける。楽しい学校で優しい家族だから」
 
 
【参考資料】
Aさんが中学校一年の時に書いたメモ抜粋。
 
「目をそらすタイミングが重要。すぐにそらしても長く見てもダメ」
「お酒の匂いで察知。腹にグーか顔にパーかは酒量で決まるから事前に防御できる」
「テレビは直視しない。横目で見る」
 
 
【参考資料】
Aさんが中学校二年の時に書いたメモ抜粋。
 
「休み時間のトイレは毎回変える。誰がどこにいるかを把握する」
「後ろ姿で名前を覚える」
「視界に入らなければ見つからない。見つからなければ痛くない」
「笑顔を工夫する」
「気配を消せば見つからない。見つからなければ痛くない」
「ゲームと思えば楽」
「昨日は45ダメージだけど今日は20ダメージ」
 
 
【問い】
Aさんは「低圧電気取扱」という資格を取りました。なぜでしょう?
 
【答え】
感電の仕組みを研究するためです。
 
 
【練習】
Aさんはナンパで知り合った人を用意した場所に連れて行きました。
 
1日目:ダメでした。
2日目:ダメでした。
3日目:ダメでした。
 
その人の様子を見た後、解放しました。
 
 
【練習】
Aさんは路上で襲った人を用意した場所に連れて行きました。
 
1日目:ダメでした。
2日目:ダメでした。
3日目:ダメでした。
4日目:ダメでした。
5日目:ダメでした。
 
その人で練習した後、解放しました。
 
 
【練習】
AさんはSNSなりすましで知り合った人を用意した場所に連れて行きました。
 
1日目:ダメでした。
2日目:ダメでした。
3日目:ダメでした。
4日目:ダメでした。
5日目:ダメでした。
6日目:ダメでした。
 
その人を開いた後、解放しました。
Aさんは日々練習を重ねました。
 
 
【参考資料】
精神科医とAさんの会話録音書き起こし抜粋。
 
「『頭が早口になる』について詳しく教えてください。どういう状況でなりますか?」
 
「興奮してる時や不安になった時、焦った時とか。仕事に集中してる時にもなります」
 
「もう少し具体的に?」
 
「電車の中で大声を出してる人がいた時とか・・・。あ、ここ最近で一番酷かったのは、大学病院に行ったときですね。精神科に行ったんですけど、控え室にたくさん人がいて全くプライバシーが無くて。診てもらった先生も若くて経験不足な感じで、会話が噛み合わなくて。すごい焦ってパニック状態になりました」
 
「大学病院は医師の教育も兼ねてますからね。若い先生が当たることもある。私も指導医として行くことがありますが、控え室など改善すべき点は多いなと思っています。今は大丈夫ですか?私と落ち着いて会話できていますか?」
 
「はい。大丈夫です。ここのクリニックを紹介されて良かったです」
 
「症状が起きるきっかけは分かりました。次に、具体的な症状内容を教えてください。『頭が早口になる』とは、どういうことでしょうか?」
 
「私以外の“声”がたくさん聞こえてきて、その“声”と“会話”する感じです。相手は男性だったり女性だったり、年齢もばらばらです」
 
「どのような会話をしますか?」
 
「大学病院でパニックになった時は、『周りの視線が気になるよね?』『この先生で大丈夫かな?』とかを“声”が言ってきて、私が相づちを打つ感じです。電車で大声出した人がいた時は、『この人怖いね』『他の車両の移動しようよ』とかを、私含めて複数人で会話しました」
 
「“声”と会話した時の、記憶は残っているのですね?」
 
「記憶はあります。曖昧な時もありますが、基本覚えてます。すみません、質問いいですか?」
 
「どうぞ」
 
「漫画とかの影響受けすぎって思われたら恥ずかしいんですけど・・・私は多重人格ってやつでしょうか?」
 
「それは違います。解離性同一症、いわゆる多重人格の人は、記憶喪失の症状が出ます。“違う人格”の発言を覚えていません。しかしあなたは“声”の内容を覚えている。記憶が曖昧な時があるとは言え、基本覚えています。あなたは多重人格ではありません」
 
「そうですか・・・。ではこの“声”はなんでしょう?」
 
「『イマジナリーフレンド』と思われます。架空の友人知人。空想の中だけで存在する架空の人物と会話をしています」
 
「それは病気ですか?治療した方がいいのですか?」
 
「程度と状況によります。そもそもイマジナリーフレンドは病気ではありません。幼少期に、人形との『ごっこ遊び』の延長で現れることもあります。人形との架空の会話は多くの人が経験あるでしょう。大人が『自問自答』することや、『自分会議』も広義のイマジナリーフレンドです。一流アスリートが「落ち着け自分」「頑張れ自分」とメンタルコントロールするのも、イマジナリーフレンドの一種と言ってもいいかもしれません」
 
「では、私は病気ではないのですか?」
 
「あなたの場合、イマジナリーフレンドの問題というよりは、パニック症状に対処する必要があります。興奮しそうになったら、深呼吸してみてください。月並みな方法ですがけっこう効果がありますよ」
 
「はい・・・」
 
「お薬もお出しします。パニックになりそうになったら飲んでください。『お守り』として常に持っておいてくださいね」
 
「わかりました」
 
「あとはボランティアやサークル活動をしてみる。これも月並みな方法ですが、案外効果があります。いくつかご紹介できますよ」
 
「えっと・・・新たな人間関係を作るんですか?ちょっと怖いです」
 
「あなたの場合、多少無理してでも多くの人と話した方がいいと思います。もしきつくなったらいつでも辞められますし」
 
「そうですか・・・考えてみます」
 
 
【参考資料】
 
Aさんは精神科医のすすめで老人ホームのボランティアを始めた。週に一回、ホームの高齢者を公園に連れて行き、歌など簡単なレクリエーションを行う。10人程度のボランティアがいた。当初、Aさんは対人関係も含めて不安があった。しかし1ヶ月も経つとだいぶ慣れてきて、いくつかの気づきがあった。
 
ボランティアは人間関係が楽だった。お互いに干渉し過ぎず、心地がよい。精神科医がAさんに適したボランティアサークルを選んだのだろう。
 
高齢者は、当然だが動きがゆっくりしている。車椅子の人も多い。Aさんにとってはこれが良かった。いつも「他人の目線」を気にして、「他人の動き」を警戒して暮らしてきた。そんなAさんにとって、高齢者のスローな動きは「他人に慣れる」きっかけになった。
 
Aさんの最大の気づきは「感謝されること」だ。Aさんは当初戸惑った。人生で感謝されたことなど一度も無い。高齢者を公園まで誘導するだけで深く感謝される。驚きと戸惑いがあったが、胸が熱くなるものがあった。「うれしい」という感情かもしれない。
 
 
【参考資料】
精神科医とAさんの会話録音書き起こし抜粋。
 
「ボランティアはどうですか?」
 
「いまのところ、特に問題なくできています」
 
「それは良かったです。体調はいかがですか?」
 
「まずまず安定していると思います・・・すみません、ちょっと話してもいいでしょうか?」
 
「どうぞ」
 
「映画とかで、小さい頃に虐待されたキャラが大人になって犯罪者になる、とかってありあますよね?虐待のトラウマゆえに罪を犯す、みたいな」
 
「ありますね」
 
「あれ、わかってないな~、て思うんです。悲劇のヒーロー・ヒロインキャラになってる。犯罪者なのに同情を集めてる。でも、現実はそうじゃない…。誰からも同情されない。もし犯罪をしたら逮捕されるだけ。現実は、過去が淡々と存在するだけなんです。逃げることも闘うこともできない。身体と心を抑えつけるような、淡々とした重しが、ただ存在するだけなんです」
 
「確かに、映画やドラマと現実は違いますね」
 
「私、『家族を作りたい』ってずっと思ってるんです。自分の家庭環境があんまりよくなかったから…。だからこそ、普通の家族を作りたい。普通って難しいかもしれないけど。子供がいて親がいて。喧嘩をしても話し合って仲直りできるような。そんな家族を作りたい。それが夢なんです。私、おかしいですか?」
 
「おかしくはないです。夢を持つのは良いことです。ただ…。くれぐれも無理はなさらずに…」
 
 
【問い】
Aさんは自宅に帰るたびに玄関で「ただいま!」と大声を出します。一人暮らしでAさんしか住んでいません。なぜでしょう?
 
【答え】
誰かにいて欲しいと思いました。
 
 
【メモ】
利用しがいはある。
願わくば正義にならんことを。
 
 
【警察捜査資料】
連続強盗殺人事件。4ヶ月で9人の被害者。いずれの現場でも同一の体液が残り、DNAも全てが一致する。現場で発見された犯人自筆と思われるメモ。「ありがちな設定だけどね、僕は死刑を前提に動いてる。早く見つけてね、逮捕頼むよ、飽きました。」
現場には複数の名刺。コンサル会社、福祉施設、IT会社など。
 
 
【近況】
クリニックでのカウンセリングと週一のボランティアで、Aさんの心は安定していきました。
まだパニックになることもあります。そんな時は医師のアドバイス通り深呼吸。渡された薬も服用します。薬はとてもいい香りがしました。
Aさんは「これは偽薬ではないか?」と疑いました。薬の過剰摂取を避けるためのプラセボ。でも、それでもいいと思いました。心が落ち着くのには変わりありません。
 
 
【メモ】
・特定条件下で眼球が左右に大きく素早く動く?
・背後に人が立つと顔つきが変わる?
 
 
【出会い】
それは、チープな言い方ですが「運命の出会い」でした。一目見ただけで顔とスタイルにひかれ、声にも香りにも魅了されて。思い切ってAさんの方から声をかけました。名前はJさん、と言いました。
 
声をかけられたJさんは驚きました。でも、偶然同じキーホルダーを持っていたのでそれをきっかけに打ち解けました。連絡先を交換して軽くお茶をし、また会う約束をしました。
 
会うたびにAさんはJさんにひかれていきます。だけど、会話はぎこちないままです。どのように関係を深めればいいのか分かりません。そこで、思っていることを素直にさらけだすことにしました。「家族を作りたい」という夢を話したのです。
 
Jさんは戸惑いました。会って間もないのに将来の深い話を聞いて、どう返せばいいかわかりません。でも決して否定はせず、Aさんの話をきちんと聞きました。
 
JさんはAさんの話をよく聞いてくれました。AさんはJさんの事をもっと知りたいと思いました。でも会話は不自然なままです。
 
「好きな食べ物はなんですか?」
「どんな本を読みますか?」
 
二人の会話はまるで面接のようでした。それでも少しずつ、自己紹介するように、お互いのことを知っていきました。
 
Aさんは人生の不安も素直に話しました。家族を作りたい夢がある、だけど自信が無い。辛い過去が怖い・・・。
 
JさんはAさんの目をきちんと見て、話を聞いてくれました。すぐに解決方法が見つかるわけではないけれど、しっかり寄り添ってくれました。Aさんはあたたかい気持ちになって、少し安心しました。
 
二人は毎日のように会いました。慣れてくると、不満も出てきます。
言いたいことがきちんと伝わらず、イライラすることも。でも、我慢はしないようにしました。何に怒っているのかを具体的に伝える。きちんと話をする。
また、相手に完璧を求めないようにしました。全部伝わらなくても「人間同士だからしょうがない」と。
 
Aさんの表情は日々明るくなっていきました。心の重荷が取れていくようでした。
 
「ストックホルムに旅行したい」「静電気でビックリした」「生ゴミ出し忘れた」
そんな他愛の会話が毎日楽しくて、「私はひょっとして幸せなのでは?」と思うほどでした。
 
それは、三日月よりやや欠けた夜の日でした。
「あれは上弦の月?」「いや下弦の・・・」
そんな会話をしていたら、ふいにJさんがAさんを抱きしめました。Aさんは戸惑いました。Aさんに性的な経験は全く無く、それはJさんにも伝えてあります。
 
Jさんは「ごめんなさい」と言って体を離しました。
Aさんは「ごめんなさい」と言ってJさんに体を寄せました。
 
月の呼び名を知ったのは翌日の朝でした。
 
生きることは可も無く不可も無く。淡々と日常が続いていくのだな、とAさんは思いました。それはとても幸せなことでした。過去から縛られる重い鎖が溶けていくようです。人生を変えてくれたJさんには感謝の気持ちでいっぱいです。
 

その日の出来事はなんと描写すればよいのでしょう。どんな感情を持てばいいのでしょう。泣けばいいのか笑えばいいのか。安心と緊張と、喜びも不安も。
JさんはAさんの手を取った後、優しくAさんを抱きしめました。Aさんはうつむきながら涙を流した後、Jさんの顔を見上げて微笑みました。
 
その日の月は「小望月」と言いました。二人は笑いました。「こもちづき」と読みます。命を授かった日にぴったりの呼び名でした。
 
 
【問い】
Aさんは警官とすれ違う時、必ず警官の目を見ます。なぜでしょう?
 
【答え】
安心するためです。最近治安が悪いので、警官がいたらほっとします。
 
【問い】
Aさんは狭い店舗内の左側を歩いているとき、「わかってないなあ」と思いました。なぜでしょう?
 
【答え】
前方から左側通行でベビーカーを押す女性がいました。しかし強引に右側通行で女性を妨害する若い男性がいました。
 
【問い】
AさんのLINEは句読点があったり無かったり統一感がありません。なぜでしょう?
 
【答え】
Aさんのなんとなくの癖です。長文では句読点を付けて、短文では付けない癖があります。
 
【問い】
Aさんはカフェに入るとノートパソコンを開いている客がいないかを確認します。もしいたらその客の後方左右斜め上あたりが見渡せる位置の席に座ります。なぜでしょう?
 
【答え】
タイピングの音がうるさいからです。後方左右斜め上あたり、まで離れればAさん的にベスポジですが、その席が無い場合はできるだけ遠くに離れます。
 
【問い】
カフェにいるAさんは、入店してきた女性の顔をしっかり見たいと思いました。しかし顔は見ず、レジの方を凝視しました。なぜでしょう?
 
【答え】
人の顔をジロジロ見るのはよくないと思ったからです(笑)
 
【問い】
電車内で「もしもし!?」と大声で会話をはじめた若い女性がいました。それを見たAさんは、サッと顔を伏せて違う車両に移動しました。なぜでしょう?
 
【答え】
その女性が怖かったからです。
 
【問い】
抜き足、差し足、忍び足。Aさんが大切にしていることはなんでしょう?
 
【答え】
忍び足。Jさんが寝てたりTV見てる時に邪魔にならないように。でも最近は遠慮せずドタバタと歩いてます(≧▽≦)
 
【問い】
Aさんは「らりるれろ」を書く練習を大切にしています。なぜでしょう?
 
【答え】
子供の名前を「ら行」にしようと思っているからです。
 
【問い】
Aさんは太陽の光に10分以上当たらないように注意しています。なぜでしょう?
 
【答え】
皮膚が弱いからです。外出時は帽子や日傘が必須。
 
【問い】
Aさんはこの動画を見て何を思うでしょうか?2つお答えください。
*険しい崖を登る小熊を、母熊が見守る映像です。


【答え】
・小熊が助かって良かった!
・今度は気をつけるんだぞ~!
 
【問い】
Aさんは笑顔を大切にしています。なぜでしょう?
 
【答え】
笑顔があふれる家庭にしたいからです。
 
【問い】
Aさんは野良猫を手なずけるのが得意です。どんな猫ともすぐに仲良くなって優しく抱き上げます。なぜでしょう?
 
【答え】
単純に猫が好きだからです。
 
【問い】
Aさんはカフェなどで家電カタログを読むことが多いです。なぜでしょう?
 
【答え】
子供が生まれたら家電を一新する予定だからです。
 
【問い】
Aさんは前方から歩いてくる女性に強くひかれました。顔もスタイルも素晴らしく、ファッションも素敵です。しかしその女性とすれ違った瞬間、ガッカリした表情でうつむきました。なぜでしょう?
 
【答え】
ゴミをポイ捨てしたからです。
 
【問い】
Aさんはデパートの化粧品売り場には近づかないようにしています。なぜでしょう?
 
【答え】
高いからです。節約大事。プチプラで十分です。
 
【問い】
Aさんはあえて汚れた靴を所有しています。なぜでしょう?
 
【答え】
掃除の時や、雨の日に近場に行く時に使えるからです。
 
【問い】
Aさんは過去のあらゆる犯罪やテロを研究した結果、とある共通点を見つけました。なんでしょう?
 
【答え】
「犯罪はよくない!」です(笑)
 
【問い】
Aさんはインターホンを全て録画して確認しています。なぜでしょう?
 
【答え】
防犯のためです。
 
 
【ある日のこと】
お腹の命は日々大きくなっていきます。そんなある日、やや大きな地震が起きました。二人は「もし出産当日に大地震が起きたらいやだね」と話しました。心配しすぎなのは分かっていますが、万が一に備えて自宅出産の方法を学び、準備をしました。
 
【問い】
Aさんは防犯カメラを気にしたり気にしなかったり、行動にムラがあります。なぜでしょう?
 
【答え】
防犯カメラがあったら安心します。特に夜道などでは。でも、いちいち全部を気にしてたら疲れてしまいます(笑)
 
【問い】
Aさんは防災グッズを大量購入しています。なぜでしょう?
 
【答え】
前回地震について話し合ったとき、「防災グッズがあった方が安心だね」ということになりました。
 
【問い】
Aさんは口を閉じたまま笑うことはしません。なぜでしょう?
 
【答え】
変な顔になってしまって恥ずかしいからです。Jさんは「その笑顔好きだよ」と言ってくれますが・・・それはそれで恥ずかしいです。
 
【問い】
Aさんは自宅に帰るたびに玄関で「ただいま!」と大声を出します。なぜでしょう?
 
【答え】
防音のしっかりした広い家に引っ越したからです。声を張り上げるたびに幸せな気持ちになります。Jさんからは「そんな大声出さなくてもいいよ~」て言われてますけどね。
 
 
【その日のこと】
記憶はとびとびです。「めっちゃ疲れた~!」という印象しかありません。Aさん的にはもっと感動する予定でした。涙涙でドラマチックになる予定でした。でも現実は、ひたすらにドタバタでした。
 
今となっては二人の定番の笑い話になっていますが。
うわごとのように「星が落ちる、星が落ちる」と叫んでいたそうです。
呼吸をしていたらなぜかそうなってしまい。
落ち着くために、AさんとJさんは強く手を握り合いました。
 
気がついたときには、途切れ途切れに聞き慣れない泣き声が聞こえていました。やがてその声は大きくなっていき、Aさんの耳に心地よく響きました。
Aさんは小さな手を握りました。握るというか、包む感じでした。ああ愛しいな、と。「愛しい」なんていう言葉を使うとは思っていませんでした。自分の人生には無縁な言葉だと思っていました。その状況を記す言葉は、それしかありませんでした。
 
我が子の小さな瞳に、Aさんの表情が映し出されました。まだ呼吸が整っていないので、口を開けたままの不細工な顔です。でも、とても良い笑顔でした。
「この子を一生守る。絶対に幸せにする」
強く誓いました。
 
疲労なのか、急な睡魔が襲ってきました。Aさんは眠りに落ちながら「ありがとう」と何度もつぶやきました。Jさんへの感謝、我が子への感謝・・・。他にもいろいろな感謝があります。命そのものへの感謝も。「ずいぶん大袈裟なこと考えてるなあ」と、Aさんはおかしくなりました。幸せな気持ちのまま、ゆるやかに眠りへと落ちていきました。
 
―完―
 
答え合わせの時間です。
 
 
 
【出会い】
それは、チープな言い方ですが「運命の出会い」でした。一目見ただけで顔とスタイルにひかれ、声にも香りにも魅了されて。思い切ってAさんは、その男性を前方から振り向きざまに襲いました。亜酸化窒素をかがせた後、胸部を軽く殴り、手早くスーツケースに詰め込みました。
 
そのスーツケースはAさんが改造を施したもので、サイズも大きく、小型カメラを通して内部を把握できるようになっています。吸入口や酸素濃度計、簡易サーモグラフィーなどもあり、安全を確認しながら人体を運べます。映像や各種データをチェックしたところ、男性は正常範囲の睡眠でした。
 
Aさんはスーツケースを自宅の部屋まで運び、睡眠中の男性を取り出しました。
 
その部屋には50分前に拉致した女性がいて、同じように眠っていました。
Aさんは女性の横に男性を寝かせ、二人が目を覚ますまで待ちました。
 
二人はほぼ同時に目を覚ましました。寝起きで意識もぼんやりとしています。
(ここはどこだろう・・・?なぜここへ・・・?)
そんな表情です。
 
そこは1LDK程度のきれいな部屋でした。テーブルや椅子など家具もあり、キッチンもあります。
 
「おはようございます。聞こえますか?」
Aさんの声が響きました。どこかにスピーカーがあるようです。二人にAさんの姿は見えません。
 
「この部屋の生活環境は整っています。バス、トイレ、キッチン。全て揃っています。白い扉を見てください。二重扉になっています。ゴミや不要品はそちらに出してください。食料や日常品も、その扉から私が差し入れます」
 
男性と女性は頭がぼんやりとしたまま、Aさんの一方的な声を聞いています。説明のあった白い扉を見ましたが、状況がよく理解できません。
 
「あなた達には、家族を作っていただきます。作る、というか、なる、というか。普通の家族です。子供がいて親がいて。喧嘩をしても話し合って仲直りできるような。まずは二人で子供を作ってください。性交渉して、妊娠してください。自宅出産の準備も整っています」
 
男性も女性もきょとんとした表情で声を聞くだけです。理解が追いつきません。
 
「さあ性交渉してください。妊娠するまで、何度でも」
 
Aさんの声が響きました。
 
「は?」「え?」
男性も女性も混乱しつつ周りを見渡しているうちに、意識がはっきりとしてきました。「監禁された」ことも認識したようです。
 
二人は慌ててスマホを取り出し110番しました。しかし電波は全く入りません。LINEもTwitterも全部ダメです。
電波が入る場所を探そうと、スマホ片手に部屋中を駆けずり回りました。しかし駄目でした。
 
小さな窓があったので開けてみましたが、コンクリートが隙間無くあるだけでした。白い二重扉も、外鍵になっているようで開きません。
 
二人は壁を叩きながら叫びました。
「誰か!助けてください!監禁されてます!」
「聞こえますか!?助けて!」
 
「無駄ですよ」
Aさんの声が響きました。
「防音も電波も対策は完璧です」
 
「本日の夕飯をご用意してあります。白い扉をあけてください」
 
Aさんの声が響くやいなや、男性は白い二重扉へとダッシュしました。鍵は外れており扉は開きました。玄関ほどのスペースがあり食料らしきビニール袋が置いてありますが、男性はそれには目もくれず、二重扉の奥の扉を開けようとしました。しかし開きません。ノブをガチャガチャしても扉をドンドン叩いてもびくともしません。
 
「無駄です。部屋にお戻りください」
Aさんの声がしました。が、男性はあきらめません。「誰か!聞こえますか!助けてください!」大声で叫びました。
 
しばらく経った後、
「うぁ!痛い!いたたた!痛い!」
男性が声を出して膝から崩れ落ちました。
 
「電流レベル3です。床、壁、あらゆる場所から流れます。言うことを聞かないとビリビリします」
 
男性は息も絶え絶えに、その場でうずくまりました。
 
「『電流レベル』とかダサくてすみません。いい表現が思いつかなくて。さあ部屋にお戻りください」
 
「うぅ・・・ぐ・・・」
男性は這うようにして部屋へ戻りました。
 
☆本日の夕食★
幕の内弁当(さばの照り焼き、鶏の唐揚げ、卵焼き、筑前煮、ソーセージ、エビフライ、ポテサラ、きんぴらごぼう、白米、梅干し、ひじき)
サラダ(プチトマト、レタス、きゅうり、赤パプリカ、刻みねぎ、青じそドレッシング)
しじみのインスタントみそ汁
皮むきりんご
あったかいほうじ茶
常温軟水
 
 
二人は全く会話をしません。
女性は部屋の片隅に体育座りのようにうずくまり、男性はダイニングテーブルに突っ伏すように座っています。時折思い返したようにスマホをいじりますが、電波は入りません。
 
「何か話しましょうよ」
Aさんの声がしましたが、二人の反応は無いままです。
 
「自己紹介から始めてはいかかでしょうか?名前、年齢、趣味とか。お互いを知りましょう」
二人に動く気配はありません。
 
「う!」
「きゃ!」
二人は同時に声を出しました。床からの電流でした。
 
「電流レベル2です。さあ自己紹介を」
 
女性はAさんの声を無視して、ソファーの上へと逃れました。その瞬間、
「あっ!!ぎゃあああ!熱っ!熱っ!熱い!うぁあああ!」
女性は絶叫しました。
 
「ソファーは電流レベル4からなんですよ。調整が難しくて。『痛い』ではなく『熱い』なんですね」
 
女性はソファーから転げ落ちました。背中から落ちたので床に仰向けに寝る形になりました。
 
「うぁあ!!痛い!!いっ!!痛い!!痛い!」
 
「床は電流レベル2でも全身で受け止めたら何倍もの威力に。今度は『痛い』んですね」
 
女性は仰向けのまま、全身をくねらせもがき苦しみ絶叫しています。起き上がることができません。
 
男性はその様子を見て後ずさりするようにテーブルから離れ、壁に手つきました。
その瞬間、「うわ!うわああ!あああ!!」
 
「壁の電流レベルは3なんですが、床との相乗効果で強めに感じます」
 
女性は泣き叫び、男性は吐くように咆哮しています。
 
「さあ早く自己紹介を」
 
「わかった!自己紹介するから!するから!だから!電流を!電流をぉ!止めて!止めて!止めてくれぇぇえ!!」
男性が大声で叫ぶと、電流は止まりました。
 
二人とも肩で息をして呼吸が整いません。それでも男性は、苦しげな声で自己紹介を始めました。電流の恐怖から、とにかく声を出そうと必死でした。
 
「名前は・・・F。28才。職業は小学校の教員。えっと、あとは何だ・・・趣味は、そうだな・・・読書?あとは・・・好きな食べ物?ラーメン、かな・・・?」
 
「ふむふむ。さあ、女性も自己紹介を」
Aさんは女性を促しました。
 
嗚咽の止まらない女性は、左手で胸をおさえ、必死で声を出そうとしています。何度か浅い深呼吸をした後、
 
「わ、私は・・・21才で、学生です・・・名前は・・Nでぇ・・・うぅ」
 
嗚咽を止められない女性は過呼吸のようになりました。
男性がペットボトルの水を冷蔵庫から取り出し、女性の左側に無言で置きました。しかし女性はそれを手には取らず、より一層激しく泣き出しました。
 
「ああ・・・!ああ、あああ・・・!!」
しばらくそのような発音をした後、激しく咳き込み、やがて言葉が出なくなりました。絞り出すような呼吸音のみが、部屋の中に響きます。顔を覆う女性の両手は、小刻みに震えていました。
 
☆本日の夕食★
欧風ビーフカレー
福神漬け
熟成らっきょう
半熟たまご
スティック野菜(きゅうり、にんじん、大根、キャベツ、味噌マヨディップ)
水菜スープ
ハーフボトル赤ワイン
チョコレートケーキ
カットオレンジ
ホットコーヒーまたは紅茶
常温軟水
 

【開業40年の精神科医、証言】
Aさん?ウチにも来たよ!ああいうのはね、『病的虚言症』っていうんだよ!虚言癖のひどいやつ。ビョーキだよ、ビョーキ!あること無いこと適当にしゃべるから。まともに相手したらいかんよ。こっちも暇じゃないから!面倒なのに関わってる時間はないんだ。他の患者で稼がないといかんし!
 
 
【メモ】
「虐待されて育った、だから心が歪んでいる・・・」
そんなありがちな“設定”ではない。
Aさんの過去は一通り聞いた。家庭での虐待も、学校でのいじめも。どれも「虚仮」だ。親から殴られた?学校で叩かれた?そんなヤワな話じゃない。真実は、もっと深い闇の中にある。虐待やいじめは、真実を隠すためのカモフラージュに過ぎない。これは漫画でもドラマでも無い。「愛を知らずに育ったから心が歪んだ~」なんて単純な話じゃない。扱いきれない。行き着く先が見えない・・・。


【続、監禁部屋】
男性が意を決した表情で、天井に向かって声を出しました。
「僕の声が聞こえるか?」
緊張した面持ちで反応を待ちます。女性は不安な顔つきで男性を見ています。
 
「はい。聞こえてますよ」
Aさんが答えました。
 
「君と冷静に話しがしたい、いいか?」
 
「いいですよ」
 
男性は大きくうなずきました。
「話の途中で君を不用意に怒らせてしまうかもしれない。先に謝っておく。だから電流はやめて欲しい」
 
「分かりました」
 
男性は少し安堵した表情になりました。
 
「まず話を整理したい。『僕がこの女性と性交渉して子供を産むこと』。それが君の要望か?」
 
「はい。幸せな、普通の家族を作って頂きたいのです」
 
「OK。理解した。怒らずに聞いて欲しいのだが・・・それを実行するには、いくつかハードルがあると思う」
 
男性は慎重に言葉を続けます。
 
「まず、僕たちは世間的には行方不明になっている。捜索願も出ているはずだ。なので、女性だけ自宅に帰すのはどうだろうか?僕が人質としてここに残る」
 
「それはできません」
 
「しかし、それでは誘拐事件になってしまう」
 
「それはあなた達次第です。ここで普通に暮らせば誘拐にはならない。でも、大騒ぎしたら事件化してしまう。静かに言うことを聞けばいいのです」
 
男性はぐっと言葉をこらえて、つとめて冷静に言いました。
 
「分かった。君の言う通りここで大人しく暮らすとしよう。そして、仮に、仮にだ。この女性が妊娠したとする。無事に出産できるだろうか?仮に出産できても健康に育つか?予防注射も必要だし、風邪をひくこともある。外出の必要性が出る」
 
「それもあなた達次第です。普通の夫婦になればいいのです。まずは出産してください。外出の事は後で考えましょう」
 
男性はしばらく考えた後、言いました。
「君が結婚してはどうだ?・・・君が結婚して、妊娠して、出産する。それはダメなのかな?」
 
「私は・・・自信がありません」
 
「自信?」
 
「はい・・・結婚をして出産をする自信が無い。だから私はムリです」
 
「しかし、だからと言って他人を監禁していいわけではないだろう。女性だって怖がってる」
 
男性は言いながら女性の左肩に手をかけようとしました。その途端、
 
「さわんないでください!」
 
「すまない・・・」
 
「ごめんなさい!でも、怖くて怖くてしょうがないんです!あなが怖くて怖くて!!」
 
女性は泣き叫びました。
 
「限界です!限界です!家に帰らせてください!!家に帰らせてください!!もう家に帰らせてください!!お願いします!お願いですから!本当にお願いします!」
 
☆本日の夕食★
野菜たっぷり豚餃子
エビチリ(ソース別添)
油淋鶏
きゅうりともやしの白ごまサラダ
トマト(マヨネーズ別添)
玉子スープ
白米(コシヒカリ)
小鉢ラーメン(ミニチャーシュー、メンマ、のり、しょうゆ味)
350ml缶ビール
チーズケーキ
アイスコーヒーまたはティー
常温軟水
 
 
二人は無言でぐったりとしています。女性は部屋の片隅に体育座り、男性はダイニングテーブルに突っ伏して。そこが指定席のようになっています。
 
「一向に親交が深まりませんね」
Aさんの声が部屋に響きました。
 
「もっと打ち解けてください。どんどん会話しましょうよ。そうだ、将来の夢とか語ってみては?」
 
二人は動きません。
 
「将来の夢はなんですか?」
Aさんのやや強い声が響きました。
 
「・・・。夢か、そうだな」
電流を怖れた男性がやる気無く声を出しました。
「学校を作りたい」
 
「ほう。どんな学校ですか?」
 
「・・・。生徒の才能を伸ばせるような学校?」
 
「いいですね。Nさんの夢は?」
 
女性は黙ってうつむいていましたが、やはり、電流の怖さから声を発しました。
「私は・・・夢はまだ分かりません・・・。今就活中で・・・」
 
「それでリクルートスーツなんですね。サイズは合ってます?窮屈そうに見えます」
 
女性は答えません。
 
「そう言えばお二人のスーツの色が同じですね」
 
しばらく2人の沈黙が続きました。
 
ややあって、女性が天井に向かって声を出しました。
「すみません、ちょっといいですか?」
 
「はい。どうぞ」
 
Aさんに促され、女性は話します。
 
「私は・・・異性と付き合ったことがありません。性的なことも無いです。だから妊娠とか出産とかは・・・ちょっと、難しいと思います・・・」
 
「大丈夫です。処女でも性交渉して受精すれば妊娠します」
Aさんは間髪入れず答えました。
 
女性は何度目かのあきらめの表情になりました。両手で顔を覆ってかぶりを振り、大きなため息をつく。これも幾度となく繰り返される仕草です。
 
「あ、そうだ」
Aさんが言いました。
「服を脱いでください」
 
男性も女性も動きません。聞こえないふりをして、下を向いたままです。
 
「服を脱いだら性的に興奮するでしょ」
 
二人は動きません。
 
「まずはNさんから脱いではいかがでしょうか?そのスーツ、きついでしょ?」
 
女性はビクッと怯え、身を固くしました。
 
「さあ脱いでください」
 
体育座りのまま女性は全く動きません。
 
「電流やりますよ?」
 
脅迫されて、女性はよろよろと立ち上がりました。覚束ない手つきで、紺スーツジャケットのボタンを外していきます。
 
男性は机に視線を落としたまま、女性を見ません。
 
ボタンを外し終えた女性は、ジャケットを脱ぎソファーの上に置きました。
 
白のブラウスに紺のスカートとなった女性は、うつむいて両手を強く握ったまま、直立しています。
 
「どうしました?全部脱いでください」
 
「うぐ…!」
女性が小さな悲鳴をあげてよろめきました。弱い電流が床に流れたようです。
 
「さあ、早く脱いで」
 
やむを得ず、女性はブラウスのボタンに手をかけました。震える手で、一つ一つボタンを外していきます。
 
男性は女性に視線を一切向けません。
 
女性の浅く震える呼吸音と、ボタンを外す際の衣擦れの音だけが部屋に響きます。
 
全てのボタンを外し終えた女性は、ブラウスを押さえこむように両腕で自身の身体を抱きかかえました。
 
「うぐ・・・!」
ブラウスを脱ぐことを促す電流が流れます。
「うぁ・・・」
弱い電流が続きすが、女性は耐えています。
 
男性は視線を落としたまま、険しい表情でいます。
 
「ブラウスを脱いで!」
 
「ぅあああ!!」
一段と強い電流に女性は悲鳴をあげました。その後も断続的に電流が続きます。
 
「はい・・・!はい・・・!分かりましたから・・・!止めてください・・・!」
 
切実な訴えで電流は止まりました。女性は必死に息を整えます。悲壮な決意で深呼吸を一つした後、ブラウスを脱ぎ始めました。
 
男性は顔を隠すように机に深く突っ伏しています。
 
ブラウスを脱ぎ終えた女性はそれを固く握り、バスタオルのようにして素肌を隠しました。
「あぁぁ…」
弱い電流に促され、やむを得ずブラウスから手を離しました。
 
上半身下着一枚となり、白い肌が露わになります。
再度、両腕で自分の身体を強く抱きかかえました。
 
「いやです・・・いやだ・・・いやだ・・・」
 
恐怖と羞恥で小刻みに震えています。肌が紅潮して赤みがかっていきました。
 
やがて女性は、息を殺すように泣き始めました。
「う゛…ぐす…あ゛ぅ…あぁ…」
 
両腕で胸をかばいながら泣いています。
露出した腹部が、嗚咽のたびにへこみます。
涙が頬を伝わり、手の甲から肘へと流れ、床へと落ちていきます。
 
男性は目を閉じて顔を伏せたままです。
 
「しっかり見てください」
 
女性はより一層身を固くし、左手で右腕を、右手で左肩を、強く押える姿勢になりました。
肩に爪が食い込んで、少し出血しています。
 
男性は顔を上げ女性を一瞥しましたが、血を見た途端「うわ・・・」と声をあげ、再び目をつぶりました。
 
「目を開けてください」
 
「こんな状態じゃムリだ・・・!」
男性は声を発しました。
「できない・・・!その・・・たたない・・・」
 
「勃起しないということですか?」
 
「そうだ。だからもうこんなことは止めてくれ・・・!」
 
「もう一度言うが・・・。君自身が結婚して家庭を持つのはどうだ?こんなことやっても、幸せな家族は作れない・・・!」
 
天井からプロジェクターの大画面が降りてきました。
 
「画面を見てください」
 
ピンクや茶色のモザイク模様が映し出されました。
映像はゆっくりズームアウトされ、徐々に全体像が見えてきます。やがて、ピンク色を大陸とした世界地図のようなものが見えてきました。茶色い線は川のようです。さらにズームアウトされると、それは人間の腹部であることが分かりました。
 
ピンク色はアザで、茶色い線は傷でした。
ミミズ腫れのような傷が無数にあり、まだら模様のアザが広がる腹部。
 
男性は歪んだ表情で画面から顔をそらし、女性は涙目で映像を見ています。
 
「これは今の私です」
 
「こんな身体で、子供が作れると思いますか?」
Aさんは低い声で静かに言いました。
 
☆本日の夕食★
半熟ふわとろオムライス(ビーフシチューソース)
宮城県産超高糖度ミニトマト
最高級秩父きゅうり
長野県産高原レタス
自家製ドライパセリ
お好みでマヨネーズ、青じそドレッシング、タルタルソース
コーンポタージュ
ボルドー赤ワイン
洋梨タルト
ホットコーヒーまたは紅茶
常温軟水
 

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