[読書]嘘の木 フランシス・ハーティング

久々の出張で九州の某市へ行った。
今回は、金曜日までびっちりと仕事をし、土曜日に帰京する、という余裕がある日程だった。

町本屋が好きで、地方に行っても、できる限り地元の本屋さんを探していく。今回もいい本屋さんがあるな、と思い、そこで一冊の文庫本を買ったあと、市の中心部にある大手本屋さんに立ち寄ったときに、そこで平置きにして売っていた本である。

出張の帰りの飛行機で読む、ということと、仕事を終えて翌日も日曜日、ということで、久々に、「どっぷりと小説世界に漬かりたい」と考えていたのだろう、やや厚めのこの本(470頁程ある)から目が離せなくなってしまった。

この年になると、食事も忘れて小説を読みふける、という経験もなかなかできない。どこか醒めていたり、そもそも自由になる時間もそれほどとれるわけではない。一人の週末で、誰にも邪魔されることなく小説世界に浸るには、「他にすることがない移動時間」という自分への言い訳も必要なのだ。

この本は、コスタ賞大賞・児童部門のダブル受賞ということである。小説世界に浸りたい身としては、児童部門の受賞ということに弾かれてしまった。子供を惹きつける小説、ということであれば、今の自分のように、かつての小説体験を思い出したいという身には相応しいのではないか、と思った次第。

19世紀のイギリスが舞台で、ちょうど進化論が登場した後、という時代設定。主人公は少女である。父親が高名な博物学者だが、世間を逃れるようにある島に移住する。そこで父親が死んでしまい、少女は父の名誉の回復や死の真相を解明するために密かに調査を開始する、という話。

少女の視点で描かれる世界。没入できる小説だった。

興味深いのは、女性の位置づけに関する当時のしきたりや世界観であり、また、キリスト教における自殺の位置づけ。自殺者はまともな埋葬もしてもらえない、ということであり、その未亡人となる母親は、自殺ではないという主張をするために並々ならぬ苦労をする。

つい150年前だというのに、現代との違いに驚く。現代でもまだそうかも知れないが、女性が生きていくためには、色々な知恵を使わないといけないのだ。


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