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02年5月19日 洞爺湖マラソン

 初のフルマラソン!洞爺湖に挑んだ38歳の春。
初めてレースに出てから9年経っていた。

 2ヵ月前の青梅マラソン30kmで3時間を切れなかったことが悔しい。どこかでリベンジしたいが30kmのレースってなかなかないのよ。で、フルを舞台に「30kmを3時間」という目標に挑むことにした。残りの12.195㎞は歩いてでも構わないという心積もり。

 9:40、小雨の中をスタート。いよいよ始まった。フルはスタートが違う。淡々と皆走り出す。ハーフだと最初からダッシュを仕掛ける奴がいるが、そんな場違いな選手はいない。スタートライン通過は1分を少し切る。2~3分は覚悟していたのだが「30㎞3時間」という目標には1分が貴重なので幸先よし。
 まずは温泉街を1周し(約7㎞)、そこから湖の周回道路を逆時計回りに挑むことになる。まわりも淡々と走るので、私もすぐに自分のペースを作れた。
 5㎞通過が28’36、@5’33。まずまず。
 温泉街1周が終わり、再度スタート付近を通り過ぎる頃、雨が上がった。8㎞付近で陽射しも覗く中、ステキなおばさまと並行する。顔を覗くわけには行かないから美人かどうかは分からない。髪と首の感じから40代半ば位で、身長が165位あって背筋がしゃきっと伸び、脚が長くスタイル抜群。半袖Tシャツにロングタイツで走る姿がとにかくカッコいいんだ。ちょっと登りになったらおばさまが遅れたので先行した。しばし進むと尿意を催す。スタート前に水分を摂りすぎたようだ。後3時間以上我慢するわけにもいかないから、しばし進んで用を足した。コースに戻ると50mくらい前におばさまが走っている。4分くらい掛けて追いついた。
 10㎞を56’41、この5㎞は@5’37。小用のロスを考慮すれば、引き続き安定したペース。
 薄日の12.5㎞地点でスポンジ供給。地元の高校生が大きな声で応援しつつスポンジを手渡してくれる。腕を拭き、頭から絞る。口に入る水が塩辛かった。この辺ではおばさまと前後へ行ったり来たり。ま、向こうは全く意識していないだろうが・・・
 14㎞地点の最高地点への登りも難なくクリア。最高地点といっても30m位の高低差しかない。この辺の登りでまたおばさまを引き離したようである。
 15㎞を1:24’44、この5㎞は@5’37。いまだにイーブンペースである。
 盲目ランナーと伴走者2名が抜いていく。伴走者はイーブンペースで走るはずだし、さらに大集団(伴走者に便乗しているのであろう)が抜いていく。「私のペースが落ちたのか?」と不安を感じるがそんなに身体も重くない。焦らずマイペースを貫く。17.5㎞で再度スポンジ。頭から絞る。こんな気持のいいスポンジは初めて。
 20㎞を1:52’41、この5㎞は@5’35。焦らなくて良かった。出来過ぎなくらいのペースである。
 中間点は1:58’42。半分だ!まだ気力も充実しているしペースも萎えていない。曇ってきたが22.5㎞でまたスポンジ。2個もらって思いきり頭から絞る。幸せ!
 25㎞を2:20’34、この5㎞@5’35。脚が重くなってくる。今までが順調すぎるくらいのイーブンペース。「完走のためにはペースを落とすべきか?」との思いが頭をよぎるが「いや、今日の目標は完走ではない。30㎞を3時間だ」と思い直し、そのままのペースで押す。
 28㎞になってペースが落ちるのを自覚。回転数が上がらない感じ。しかも雨が再び降り出す。
 待望の30㎞通過。2:50’11。目標の3時間を切った!小さくガッツポーズ。とりあえず今回フルに参加した最大の目標はクリアした。

 しかしこの5㎞は@5’55と落ち込む。
 30㎞地点でゼッケンを外す選手が何名もいる。「この人達も30㎞を目標にしていたのかな?!オレもこれでいいんじゃねえかぁ?」と思わなくもなかったがそのまま進む。
 ここからは未知の世界である。雨の中の残り12㎞!
 このコースは距離表示が充実している。5㎞毎に大きな掲示板と時計、ほかにも小さな看板程度だが1㎞毎に何カ所か掲示があったようである(気がつかない所も多かったから、全てに出ていたわけではないと思うし、最初の10㎞まではなかったと思う)。で、32㎞の表示に到達したのが14分後。@7分かかっている。「ここでリズムを立て直さないと!」と意識して腰を上げるようにし手を大きく振る。なんとなくまたペースを上げられた。32.5㎞でまたスポンジ供給所があったが雨が降り出すとさすがに要らなかった。
 35㎞は3:23’26、この5㎞は@6’39。むう~・・・・
 これを過ぎたら急にガックリ来た。雨も相当ひどくなる。回転数も一段と落ちるし、ストライドも伸びない。足を前に運べない感じである。辛い。さっきのように立て直しを図ろうとするが無駄なあがき。腰も上がらないし手も振れない。
 盲目ランナーと伴走者が抜いていく。あれ?2時間前にも抜かれたのに、いつ抜き返したんだろう。給水所ででも抜いたのだろうか・・・・不思議なことに伴走者が一人になっていた。そこからちょっとしたらもう一人の伴走者が単独で走って抜いていく。これは翌日理由が判明した。あとで触れよう。
 「残り5㎞」の表示を見て時計を覗くとこの2.195㎞に16分くらいかかっている。「今年の青梅でも残り5㎞は歩いたんだなぁ~二の舞はやだな~」とか頭をよぎる。「歩くのはいつでも歩ける。とりあえず走れ!」と自らを鼓舞。でも本当に身体がいうことを利かない。意志に反し足の回転が止まる。「くっそぉ~」と再度回転数をあげるが10歩くらいで再度回転が止まる。「こういうのは世間では『歩いている』と言うのだろうな~」と自覚した。
 歩き出した。歩き出したら身体のいろんな所が痛い。足じゃない。まず痛みを感じたのが「腋」。股ずれは覚悟していたのだが、同じ症状が腕でも起こっている。シャツと擦れる二の腕とアバラ横の双方が左右とも痛い。見ると真っ赤、出血寸前といった感じ。あと腰が痛い。鈍痛というか固まっている感じ。首も痛い。首から腰まで1本の鉛の棒のような気がする。
 大股で歩こうと思っても歩けない。過去青梅で何度か歩いているが、今日のように大股で歩けないのは初体験。
 39㎞地点くらいでさっきのおばさまが抜いていく。「置いていかないで!」と心で祈り、走って付いていってみる。間違いなくおばさまも㎞7分以上のペースに落ちている。でも明らかにまだ走っている。夢中で食い下がってみるが150mくらいで諦めざるを得なかった。とにかく膝が前に出ない。おばさまの綺麗なフォームが遠くに行ってしまった。
 雨は続くし、寒くて仕方がない。「風邪を引くから200歩だけ走ろう」と何度か走ったが続けては無理。40㎞は4:07’30、この5㎞の av 実に8’49。掲示及び給水の係員が力強く応援してくれるが、返す笑顔に無理がある。
 ラスト1㎞で走り出すがやはり200m位しか続かない。結局最後の300mだけは走ってゴール!!制限時間内の4:25’5○で戻ってきたとて、この瞬間に喜びはない。疲労困憊。

 雨が降っているのでゴールエリアに座り込む訳にもいかない。「早く車に戻ろう」と思ってバリケードを跨いだら「チップの回収はもっと先だよ」と声を掛けられた。死ぬ思いでバリケードを越えたのに・・・もう一度エリアに戻って、ドリンクを受け取り、我慢できずに歩道の段差に座り込む。シューズの紐をほどいてチップを外さなくてはいけないが大儀。すると女子高生(あとからわかったが北海道立虻田高校陸上部)が「チップ、外してあげましょうか?」と声を掛けてくれる。甘えようかと思ったけど、女子高生に間近で素足を見せるほどの自信はない。丁重にお断りして自分で外した。
 車に戻るのがまた大儀。駐車場までは舗装されていないところを通る。今日の雨で有珠山火山灰の土壌はかなりの粘着質。まだ数回しか履いていないシューズの下に厚さ3㎝くらいの土が付いて剥がれない。高下駄のように歩くが重くてしょうがない。ほとんどおニューのシューズは雨中のレースと火山灰でベチャベチャになってしまった。
 車に戻って水分補給。寒いのにスポーツドリンクを1リットルは一気した。雨もまだ強いので荷台で体を拭く。その時点でまだ14:20。「無料入浴券も間に合うな」と思ったが「温泉に浸かってくつろいでしまったらもう運転は無理かも・・・」と朦朧としながらも冷静な判断をし、そのまま帰ることを決断する。アイシングもできず(というか雨の中の5㎞の遠足で身体は冷え切っていて「冷やす」という発想は起きなかった)ストレッチも殆どしないまま帰途につく。雨の中なのでエアコンはつけたまま室内温度は25度に設定。家に着いたのが18:00。帰りは正味3時間のドライブであった。
 帰宅してまずシャワー。頭から浴びる。頭からのお湯が肩・胸・腹を伝い下半身へ。「ぎょえ!!」身体に付着していた塩を含んだお湯が股ずれを激しく刺激する。ある程度の股ずれは覚悟していたのだが、さすがに過去最長距離は過去最悪の症状をもたらしたようである。ハーフタイツで走ればクリアできる問題であるのはわかっていたが、今回はどうしてもタイツの圧迫感を一切排除して走りたかったからやむを得ない。
 シャワーを終え、丁度夕食。ビールがうまい!!

 朝4:30に起きて往復5時間の単独運転、そして約4時間半の苦闘と、ものすごい1日であった。「30㎞3時間。残り12㎞は這ってでも制限時間の5時間でgoalする」という目標はクリアできて充実感は強い。一方で「あと5㎞を走れきれなかったものか?」という思いが残るのもまた事実である。25㎞で重くなったときに意識して少しペースダウンしていれば、あるいは前半からおばさま(私よりちょっとペースが遅いくらいだった)に付いていれば、とも思うが、贅沢な悩みと片付けることにする。
 翌朝どんな痛みが身体を襲うかとおもえば、たいしたことはない。左足首と右足太股裏が張っている程度。

 そうそう余談であるが、翌月曜日のラジオ。パーソナリティの黄瀬というアナウンサーは市民ランナー。「洞爺湖マラソンにも出たかったが仕事で出られなかった」とか言い訳の後「出場したランナーからこんな電話が入っています」と紹介。「初めて目の不自由な方の伴走をした。男性の方を、男女2人で伴走したのだが、目の不自由な方は自分より走力のある人だったので、途中から自分は遅れてしまった。なんのための伴走だったのかと思うと情けなくてね。でも次回も頑張るわ」との主旨。「あ~なるほど、あの人か」と、「伴走者」というゼッケンで単独で走っていた謎が解けた。

 あと残念だったこと。雨でガスった洞爺湖では「日本一の景観」とはわからなかった。
                                以上

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