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【超・超・短編小説 】 F

「東京銘菓、草加せんべいでございます」狭い通路を、裸にふざけたピンク色のエプロンをつけたのぞみが通り過ぎた。だいだい色の柿の形をした饅頭に、鳩サブレーという名前がついていることにさえ気づかずに生きていくこと。ホーラ、もうあんなに紅葉していますよ、あの人たちは。 赤いほっぺたのヒステリーの子供の黄色い声が響き渡るたびに、ピクッピクッと痙攣しながら眠り続ける年老いた若い男はセーターを着ているけれどサラリーマンとわかる姿でこれから先、列車が走り続ける限り、いっそ目を開かずに。片道なら14,720円。「うちが決めた値段とちゃうから」最終は21時24分。壁にかかった白い乾いた草の絵の額縁がやや左に傾いて斜線になる。マンガ家、舞台中央よりやや下手。愛妻家、舞台中央よりやや上。そのままずっと上へ上へ上へ、退場。
 もう若いとは言えない、口がさけたように大きいコンシェルジュに「黙ってお飲みなさい」と言われて、紙コップに入った生ぬるいニベアスキンミルクを渡される。だからこんな蒸し暑い夏の終わりには 「のぞみ、のぞみ、やんな。のぞみやんな」と、やたら馴れ馴れしいもの言いでギター弾きの指があらわれる。どこまでも追いかけてきて、Fだけ代わりに弾いてくれるって言ったのに。Fだけ代わりに弾いてくれるって約束したのに。嘘つき。

 新幹線で、ねむりこけた。


(おわり)

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