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「配車頭」開発秘話 - 産業廃棄物業界を支えるプロダクトの、誕生と成長の記録

ファンファーレ株式会社が提供する「配車頭」は、産業廃棄物業界に特化した配車管理サービスです。AIが廃棄物の収集運搬のための配車計画を作成することで、既存の乗務員で効率的に多くの配車を実現。複雑で手間だった配車計画作成に必要な作業時間を大幅に短縮します。

このプロダクトが生まれてからPMF(プロダクトマーケットフィット)するまでには、数多くの困難やメンバーのたゆまぬ努力がありました。今回はその歴史と開発秘話について、CEOの近藤志人とCTOの矢部顕大、営業の岡部貴史が解説します。

なぜ“配車業務”にフォーカスしたのか

――もともとファンファーレ創業前に、近藤さんは岡部さんに事業のことを相談していたと伺っています。その時代のエピソードをまずは聞かせてください。

近藤:岡部さんは前職時代に、産業廃棄物事業者向けの行政報告をサポートするシステムを提供する会社で営業として18年ほど働いていたんですよ。その会社のUXコンサルタントを私が務めていました。そして、その業務を通じて産業廃棄物業界の課題に気づいたことをきっかけに「なんとかして業界を変えたい」と思うようになりました。

産業廃棄物業界はITの活用によって労働環境がもっとよくなる白地の大きい業界です。そこで、まずは1年ほどをかけて全国の産業廃棄物事業者をリサーチしましたが、その際に岡部さんに相談に乗ってもらったんです。

岡部:オフィスから少し離れた場所にあるレストランなどで、仕事の後によく相談を受けていました。業者が使っている車の車種や現場で行われている業務、サービスをどれくらいの料金にすべきかなど、幅広いテーマで議論しましたね。

私も産業廃棄物業界をより良くしたいという思いが近藤さんと共通しており、なんとか力になりたいと思いました。日本各地にあるさまざまな業者にアポをとり、近藤さんと一緒に足を運びましたね。

営業・カスタマーサクセスの岡部貴史。栃木県在住のため、リモートで取材に参加しました。

近藤:岡部さんはこの業界で18年間も働いていますから、ノウハウや人脈がとにかく圧倒的で、相談に乗ってもらったことで効率のいいリサーチができました。それに、岡部さんは産業廃棄物業界に対して価値貢献したいという思いが人一倍に強いです。相談相手として、これ以上に適任な方はいませんでした。

岡部:近藤さんが言ってくれた通り、業界への思い入れは相当に強いですね。実を言うと、前職時代にも私は配車システムのPoC(Proof of Concept:概念実証)に携わった経験がありました。しかし、その会社では経営方針の都合上、産業廃棄物業界の方々を救うというよりも、事業の売上を優先する方針で意思決定が行われることが多かったんです。私にとっては、それがすごく残念でした。

そんな折に、業界にピュアに貢献しようとしている近藤さんと出会いました。前職で私が実現できなかったことをこの人に託したい、何でも協力しようという気持ちになりました。後にファンファーレへの入社を決めたのも、その思いが強く影響しています。

――業界の方々からリサーチを重ねた結果、“配車業務”にフォーカスしたプロダクトを作ると決めたのはなぜですか?

近藤:産業廃棄物事業者の業務フローのなかでも、配車は事業において特に重要度が高い業務ですし、配車に特化した産業廃棄物事業者向けサービスは世の中にありませんでした。さらに配車業務に入り込めば、産業廃棄物処理における最序盤のデータを把握できます。今後、他のサービスをリリースして後工程の業務改善を行う場合にも、この最序盤のデータを必ず活かせると考えました。

「開発をアウトソースしたら、高確率で失敗しますよ」

――プロダクトのコンセプトが定まった後は、矢部さんに相談したそうですね。

近藤:順を追って話すと、私が考えた事業が「始動 Next Innovator 2019*」に選抜されて、シリコンバレーに派遣されるメンバーの一人になったんですよ。その派遣メンバーのなかに、矢部さんの前職であるNECの社員がいました。私はテクノロジーの専門家ではないので、配車を最適化するサービスがそもそも実現可能かどうかの判断がつかず、相談するためにNECの方から矢部さんを紹介してもらいました。

*…安倍元総理が2015年4月30日に米国シリコンバレーで発表した「シリコンバレーと日本の架け橋プロジェクト」の一環として、ベンチャーに挑戦する人材、大企業で新事業に挑戦する人材等を広く募集・選抜し、シリコンバレーに派遣して、現地の投資家や起業家との交流を通じて、イノベーションのキーパーソンとして育成するプログラム。

矢部:近藤さんの作った事業計画を見たときは、「確かに事業内容は素晴らしいけれど、実現可能かどうかを本当に全く把握できていないじゃないか!」というのが正直な感想でした(笑)。近藤さんは配車最適化機能の開発をアウトソースすることも考えていたそうですが、相当に技術的難易度が高いタスクなので「アウトソースしたら高確率で失敗しますよ」と強く反対しました。「専門知識を持った人間が責任ある社員として開発に携わらなければダメですよ」と。

その後、自分のスキルならば実現できるかもしれないと思い、試しに1週間くらいで簡易的なプログラムを書いてみたんですよ。そして、近藤さんと岡部さんが参加する飲み会で、サンプルをお披露目しました。現在の「配車頭」と比較すればオモチャのようなプログラムでしたが、2人がそれを見て「すごい!」と驚いてくれたことが印象深いです。

近藤:その頃には完全に矢部さんのスキルを信頼していて、ぜひ開発に加わってほしいと思いました。

矢部:当時の私はNECで、研究者としてのキャリアを突き詰めるか、新規事業という形で技術の社会実装に取り組むか、どっちつかずの状態だったんです。そんなタイミングで、自分のスキルをフルに活かして社会実装をやりきれそうな機会が舞い込んできました。とはいえ、難易度が高く開発がかなりの長期戦になることも見えていたので、近藤さんとその認識を合わせ、大変なことがあっても絶対に乗り越える覚悟のうえで私は入社を決めました。

CTOの矢部顕大

――単刀直入に聞きたいのですが、収入やキャリアの安定性という観点から見ればNECは相当に優れています。なぜ、スタートアップに飛び込む決断ができたのですか?

矢部:私は正直なところ、高収入を得ることや安定したキャリアを送ることにそれほど興味がないんですよ。自分が満足のいく結果を出せないまま、特定の場所で働き続けることのほうがリスクだと思っています。それに「他の人には難しいかもしれないけれど、自分ならば解決できる」と確信できる課題があるならば、やらない選択肢はないだろうと判断しました。

近藤:矢部さん、あの1,000万円の話をぜひしてくださいよ。

矢部:あの話ですか。NECの研究所では、2019年から研究職の新卒人材を対象として年収1,000万円を支給する人事制度を導入したんですよ。私はその一期生に選抜されました。でも、その最初のボーナスをもらう前に私はNECを辞めてしまいました(笑)。

近藤:矢部さんはそのくらい、収入やキャリアの安定性よりも、研究者としての自己研鑽や世の中への価値提供を大切にしている人なんです。矢部さんがファンファーレに参画して開発が本格的にスタートしてからは、岡部さんに紹介してもらった会社から配車計画のサンプルをもらい、私と矢部さんとで分担してデータを入力していきました。

矢部:でも、お客さまからいただいたデータには「どの順番でどの場所に行くか」くらいしか記載されていなかったんですよ。社内の人だけがわかる書き方になっていて、果たして廃棄物を収集に行ったのか、処分する場所に行ったのか、はたまた駐車場に行ったのか全くわからない状態でした。苦労して内容を解釈するのは大変でしたが、振り返ってみれば必要な工程だったと思います。この作業があったからこそ、産業廃棄物事業者の業務プロセスを深く理解し、その後の機能開発に活かすことができました。

近藤:データを使って矢部さんが研究開発をして、協力してくれる業者の方に結果を見せて、ひたすらプロダクトを改善する毎日でした。この時期を振り返ってみると、岡部さんと矢部さん、そして私の3人がバランスよく役割分担できたことが大きかったです。

岡部さんは業界に長くいた方なので、さまざまな業者とのつながりや業界知識があります。私はUXデザイン出身の人間なので、UIやワイヤーフレームの作成ができます。矢部さんはアルゴリズムの研究開発ができます。この3人がいたので、PoCを進められたんですよ。

このプロダクトを求めている人々が世の中にたくさんいる

――プロダクト開発し、リリースするまでのことを教えてください。

近藤:ひとまず動く状態のものが2020年9月にできました。最初はあまり顧客からの問い合わせがないでしょうから、アウトバウンドの営業を頑張ろうと考えていました。でも、プロダクトのランディングページを作ったところ、大量の問い合わせが来たんですよ。「え、どうしてこんなに来るの!?」とびっくりしました。当時はまだPoC段階で、商用化はほど遠いという状態でした。

――なぜ、それほどの問い合わせが?

近藤:産業廃棄物産業は多くの業者が1960~1970年代くらいに立ち上がり、現在は先代社長の息子や孫が経営に携わっているケースが多いです。そうした方々の多くは裕福な家庭で育ち、十分な教育を受けていて、先進的なものにも興味があります。そういった業界をより良いものにしたいと考えている、イノベーター気質の方々が問い合わせをしてくれました。自分たちのプロダクトは、世の中からこんなに必要とされているんだと感動しましたね。

CEOの近藤志人

岡部:ただ、初期の頃の「配車頭」は現在のバージョンほど使い勝手や精度が良くなくて、お客さまから厳しい声をいただくことも多かったです。毎日ネガティブな声が届くような状況で、私がお客さまとコミュニケーションを取って要望を拾い上げ、その声をもとに矢部さんを中心とした開発者たちがプロダクトの改善を地道に行うという日々が続きました。

矢部:しばらくはプロダクトの停滞期でした。契約していただいたお客さまの声に向き合うことで精いっぱいで、新しい次のお客さまに対応する余力もない。ご期待にもなかなか沿えない。「このプロダクトなら自信を持ってお客さまに勧められる」と思えるようになるまでは、それなりに時間がかかりました。

――「プロダクトの利便性が明確に向上した」と思える転機のようなエピソードはありますか?

岡部:私はいま栃木県に住んでいますが、地元に前職でお世話になった産業廃棄物事業者があります。その業者のもとに当時「配車頭」の営業に行きましたが、部長から「ウチには配車担当者がいるし、AIで配車なんてできるわけないから、要らないよ」と門前払いをされてしまいました。

導入してもらうのは厳しいかなと思っていたところ、数カ月後くらいにその事業者から連絡があったんですよ。なんと、配車業務の精神的な負荷が大きく配車担当者が鬱になって、体調を崩して働けなくなり、代わりに部長が毎日泊まり込みで配車計画を作っていたのだそうです。

急いで私が駆けつけて、システムのセットアップをしました。「配車頭」では企業の業務内容に合わせて各種のパラメーターをチューニングしていく必要があるんですが、部長と顔を突き合わせながら、試行錯誤して調整を続けました。その結果、その会社の業務にそのまま利用できる配車表を、自動で作れるようになりました。

導入後しばらく経って、その部長に「使い勝手はどうですか?」と聞いてみると、冗談交じりの口調で「まあ言いたかないけれど、導入して良かったよ。これがないと困る」と言ってもらえたんです。

また、配車担当だった方の鬱が回復して職場復帰されたのですが、もう配車業務をする必要がなくなって、より気楽に働けるドライバー業務を担当して今では元気に働いています。その状況を見たときに、「『配車頭』は本当にPMFしたんだ。これは、世の中になくてはならないプロダクトなんだ」と実感しましたね。

「配車頭」によって業界の方々が幸せになってくれる

――「配車頭」に携わっていて、仕事のやりがいを覚えるのはどのような瞬間ですか?

岡部:何よりもお客さまが喜んでくださいますし、さらに口コミで他のお客さまを紹介していただくことが多いんですよね。ある企業の配車担当者なんて、「ファンファーレに入社したい」と言ってくれましたから。それくらい、多くの方から愛されているプロダクトです。それから、セッティングをした後に最初の配車表を出力した瞬間は嬉しいですね。お客さまの感動した顔を見るのが、本当にやりがいになっています。

矢部:お客さまが喜んでくれる瞬間は嬉しいですよね。それから、先日ある企業のデータをチェックしていたところ、過去と比較して案件の受注件数が1.2倍くらいに増えていました。企業のドライバーの数は増えておらず、むしろ減っているのにです。

「配車頭」によって業務効率が劇的に改善していることが実感できて、最適化アルゴリズムを担当する者として誇らしかったです。とはいえ、まだまだ最適化アルゴリズムは思い描いている理想にほど遠いと思っているので、これからも改善を続けたいです。

近藤:「配車頭」に携わる仲間が着実に増えており、それによってできることの幅も広がっています。それに、業界団体の方々からも「DX推進のために力を貸してほしい」とお声がけいただくことが増えてきました。私たちが目指しているのは産業廃棄物業界そのものを変えていくことなので、その目標に近づいている実感を持てるのが楽しいです。

――最後に、今後ファンファーレに転職して「配車頭」の開発に携わる未来の仲間にコメントをお願いします。

岡部:ファンファーレの開発者たちのスキルは驚異的だと私は思っています。開発スピードもクオリティもとにかくすごい。それからファンファーレには、お客さまと真摯に向き合って、一生懸命仕事に取り組む文化があります。私はこの会社に来てからかなり成長したので、これから入社するみなさんも、きっとそういう体験ができると思います。

矢部:「配車頭」は、誇りを持って開発できるプロダクトです。このプロダクトが良くなることで、社会インフラそのものが改善していきます。ぜひ、一緒に開発に取り組んでいただけたら嬉しいです。

近藤:私からは一言。みんなで、できることを一歩一歩増やしていきましょう!

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