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【テレビコラム】「浦沢直樹の漫勉」はやっぱり面白い

―1粒で何度もおいしい番組

昨日(10月1日)より、Eテレで3年ぶりに「浦沢直樹の漫勉」の新シリーズが開始された。

番組名は「浦沢直樹の漫勉neo」にマイナーチェンジされたが、充実ぶりは旧シリーズと何ら変わりがなかった。

浦沢さんは、「YAWARA」や「20世紀少年」で知られる超人気マンガ家である。

その浦沢さんが案内役を務め、いろんなマンガ家さんの作画風景を、ご本人とVTRを見ながら対談する番組。


■浦沢直樹さんのキャラクター

―NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」浦沢さんの回が衝撃的だった

とにかく、カメラとの距離感が近い。それは、物理的にはもちろんのこと、心理的な意味においても。テレビ側がいい画を撮りたいのは当たり前だが、人間としての遠慮はあるし、取材対象を怒らせてしまってはいけない。だから、いい距離感を探っていく。

ところが、浦沢さん側にその距離感がまったくない。多くのマンガ家さんたちがネーム作業(小説で言うところのプロットに近い?)が、マンガを描くより大変だと吐露される。浦沢さんご自身もネーム作業が大変だと言う。

ネーム作業に七転八倒する浦沢さんの顔がアップになる。今は遠慮して下さいと言われても、仕方のない状況である。明らかにズームじゃなく、カメラが寄っている。もちろん、ネーム作業をする手元も写している。これは、カメラが突っ込み過ぎじゃないか、怒られるんじゃないかとヒヤヒヤしながら見ていた。

すると、普通に「今、こう考えてやってみたんですが…うーん、違うなと思って…」みたいな感じで、その状況を浦沢さんご自身が丁寧に説明するのである。ネーム作業以外もずっとカメラとの距離感が近い。

そんな、人との距離感が近い浦沢さんだからこそ、「漫勉」を成立させることができるのだろう。何とマンガ家さんへの出演交渉は、局ではなく浦沢さんご自身がやっているそうである。

だから、大御所が出演して下さる。新シリーズは初回から、ちばてつや先生である。

浦沢さんがデビューよりずっと前に模写した、ちば先生の作品をご本人に見せる。ちば先生は目を細めて喜んでいた。

現在、ちば先生が連載されている「ひねもすのたり日記」のとある場面について、浦沢さんがちば先生にこう問いかける。

『あしたのジョー』とか描いているころの、1番脂が乗って描いてらっしゃるころのあの感じが、フワって戻ってきたように見えたんですよ。

すると、ちば先生は鋭い眼光で、「いつも脂乗ってるんですけどね」と答えた。言い終わると、ニコっと笑われたが、見ていてヒヤッとした。

いろいろな意味で、浦沢さんの特徴である距離感のなさが出ていた。

■「浦沢直樹の漫勉」の魅力

マンガ家を志している方や、マンガ好きの方なら、もちろん垂涎モノの番組である。

筆者は何らの絵心もなく、マンガをたくさん読んでいるわけでもないため、細かいことはよくわからない。本好きを公言することはできても、マンガ好きを公言できるほどの知識は持ち合わせていない。

ただ、そんな筆者が見てもスゴさがよくわかる番組構成となっている。また、これは視聴者に説明が必要と浦沢さんが感じられた部分は、丁寧に解説をして下さる。これが、実にわかりやすく面白い。

そして、プロのマンガ家さんがペンを走らせる様子は、非常に小気味よく、いわばASMR的な癒やし効果もある。

また、筆者が毎回注目しているのが道具である。どんな鉛筆を使っているのか、どんなペンを使っているのか、どんな道具を使って工夫されているのか。ちば先生は、鉛筆やインクの擦れを防ぐため、キッチンペーパーを使用されている。ティッシュでは、すぐにダメになるとおっしゃる。この方法は、浦沢さんもすぐにマネするようになったという。

以前の回では、白く薄い手袋のうち、ペンを握る親指・人差し指・中指のみを切って使用されている先生もいた。最近はキーボードが多くなり、万年筆を握る機会は減ったが、原稿用紙に万年筆で執筆すると、インク擦れが起こり困っていた。ちば先生のやり方は、マンガ以外でも、様々な場面で利用できる方法だと思う。

さらに、マンガのテクニックというだけではなく、クリエイティブのフィロソフィや仕事への向き合い方など、マンガ以外のことにも活用できる学びが多い。

1粒で2度どころか、何度もおいしい番組である。

毎週木曜日、22時からの放送となる。昨日放送された、ちば先生の回は10月17日14時から再放送の予定となっている。興味のある方は是非。

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