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旅路はこれからもずっと続きそうな夕暮れ

最近とても久しぶりにフジファブリックをよく聴いている。
忘れもしない2009年からもうだいぶ時間が経ったけれど、今でもフジファブリックは楽しく、面白く、カッコよく、時に哀愁のある、柔らかで心地良い、まるで空が表情をコロコロ変えるように様々な音楽を鳴らしている。

出会いは確かラジオだった。
高校生の時、勉強のお供は専らラジオで、新しい音楽との出会いもラジオがきっかけになるものが多かった。
初めて聴いた曲はパッションフルーツという、確かその当時のリリースしたての新曲だったと思う。

正直、第一印象は気持ち悪いだった。
ねっとりしたボーカル(おまけに音程もフワフワしてる)、なんかこれまたねっとりした歌詞、シタールの音色が印象的で聴いていると遊園地にあるコーヒーカップに延々と揺られるような感覚に陥って思わず「うげぇ〜」って声に出したことまで覚えている。

でも、ここで面白かったのはまた聴きたくなったということ。
YouTubeで曲名を検索してMVを見た。
まず、そもそもラジオで一回しか聴いたことがない曲なのにタイトルを忘れていなかった時点でどれだけ私の頭に強烈なインパクトを与えたのかは想像し易いと思う。
MVを見ても気持ち悪い印象は変わらなかったけれど、なんだか癖になるそのサウンドにだんだんと魅せられて行ったのは違いない。

フジファブリックはパッションフルーツリリース後、次のシングルとして若者のすべてをリリースする。
あの志村さんが傑作ができたと珍しく自画自賛した曲がこの曲だ。
評価に付いては特にここで書く必要はないだろう。
リスナーにはもちろん、同業者であるたくさんのミュージシャンによるそれぞれ趣の違うcoverがたくさん残されており、たくさんの人に愛される曲がリリースされた。

ここに挙げた2曲を収録したアルバムTEENAGERは千変万化、変幻自在のフジファブリック サウンドを余す事なく楽しむことができるアルバムだと私は思っている。
確かこのアルバムは冬の定期テストの点数が良かったことをダシにして親におねだりして買ってもらったのを覚えている。
特に1曲目のペダルという曲が大好きで、志村さんが育った富士吉田の光景がありありと頭の中に想像できるような情景描写の美しさに富んだ歌詞と、どこかに刹那的寂しさや心の揺れ動きがよく表れているサウンドはいつ聴いても私の心を掴んで離さない。
またこの曲のテンポは志村さんの歩く速度と一緒、というのもまた堪らないポイントだ。
それから最後に収録されているTEENAGERという曲もめっちゃ好きで、特に聴いていた私自身が所謂ティーンエイジャーだったからなおさら響くものがあったんだと思うけれど、あの時感じた妙な胸の高鳴りは今でも再生すれば鮮明に蘇ってくる。

これはいいバンドを見つけたぞと胸が高鳴ったのもよく覚えている。
これからどんな音が聴けるんだろうとわくわくした。
でもその日は突然訪れてしまった。

フジファブリックのフロントマンである志村正彦の急死、2009年12月24日、クリスマスイヴのことだった。
たしかヤフーニュースかなんかで見たんだと思う、声も出ないぐらい、唐突で、悲しいとか寂しいとか、死んでしまったとか、想像が追い付かなくて。
思えば2009年は忌野清志郎、アベフトシと私が大好きなミュージシャンたちの訃報が続き、気持ち的にも非常に落ち込んだ年でもあり、その年末にこのニュースが飛び込んできたときは、もうなんと言えばいいのかわからなかった。
恐らく私の人生の中でもあまり良い意味ではなく記憶にも心にも刻み付けられた1年でもあった。

フジファブリックの残されたメンバーはその後志村正彦が残した楽曲を完成させ、ギターを担当していた山内総一郎がボーカルを務めた新曲会いに等を含めた10曲を収録したMUSICというアルバムを発売する。
たしかこのアルバムを聴くことができたのは高校も卒業して大学に入って、ふと耳が恋しくなって帰りの電車の中で再生したんじゃなかったかなと記憶している。
あー、こういう曲も書いてたのか、こんな音も鳴らしたかったのか、志村正彦が頭の中で思い描いていたこれからのフジファブリックの音楽が、未来への可能性がこれでもかと詰まった1枚だった。
最後に収録されている眠れぬ夜に関しては、平常心で聴けなくて途中下車して人気のないホームのベンチで座って聴いたのもよく覚えている。
そこで初めてもう志村正彦はこの世にいないのだと実感したと同時に、やるせない気持ちと、もうフジファブリックの新しい音楽は聴けないのかもしれないと、とても切ない気持ちに襲われた。

しかし、その後本格的に山内総一郎がボーカルを務めることとなり、バンドは再始動した。
再始動第1弾となるアルバムのタイトルはSTAR、新宿のタワレコに買いに行った。
CDの脇に置かれたノートにはファンのコメントがたくさん書いてあった。
待ってたよ、帰ってきてくれてありがとう、どれもこれもあったかいものだった。
私も一言添えて家路についたのを覚えている、なんとそこに書いたのかまでは思い出せないけど、たぶん同じようなことを書いたんじゃないかなと思う。
アルバムタイトルにもなっているリードトラックSTAR、印象的なギターリフから心拍数の高鳴りのようにテンポを上げて曲はスタートする。

その中の一節に私はとても心を揺り動かされた。

”君の声はこだましてる
頭の中離れないよ
巡る思いは置いといて
さあ行きますか”

…そりゃそうだよな、私のようなファンよりももっと近い目線で、時には喧嘩もして、同じ釜の飯を食って、お互いをリスペクトしてきたそんな人が急にこの世からいなくなってしまった現実を、そう簡単には切り捨てられないよな。
でもフジファブリックは前に進むという選択をした。
そしてそれを音楽にして私に届けてくれた。
胸が熱くなる、涙が流れる、それでも道は続く、歩みを止めない選択をしてくれたメンバーに深く深く感謝した。
変幻自在なサウンドは健在、山内総一郎のボーカルは志村正彦とはまた違った音色で、まっすぐで真摯な歌声は、時に甘く優しく、時にがなるようにのどを嗄らすように心を揺さぶる。
再始動1発目のアルバムはそれはそれはかっこよくて、まさしくフジファブリックのサウンドだった。


最近とても久しぶりにフジファブリックを良く聴いている。
昔も今も最高の音楽を鳴らしている。
強烈すぎるターニングポイントを経て、そのサウンドは今もなお一層その輝きを増していく。
これからもそのサウンドの行方を空の上のどこかにいる彼と一緒に聴いていこうと、そう思っている。

最後に、最近特に好きでよく聴いている曲を置いていこうと思う。
もう手の届かない場所にいる誰か、それはきっと志村であったり、そうでなかったり。
さよならを繰り返す人生、それでも道が続くなら歩いていこう。
早足でなくてもいい、時にはゆったり、歩いてみるのもいい。
そっと人の背中に寄り添うような優しい曲、これからもフジファブリックが奏でる曲を胸に、私も自分の道を自分なりに歩いてみようと、そう思う。

以上、お相手はふぁむでした。
またお会いできたら。

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