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“制裁ありき”の駄文判決 岡口基一判事弾劾裁判「多数決で罷免」の異常 取材・文◉浅野健一(紙の爆弾2024年6月号掲載)

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判決公判後の記者会見で階猛議員

 社会的弱者に寄り添い、市民の司法参加を促す発信をSNSで続けてきたキャリア30年の裁判官から法曹資格を強奪する判決文を書いたのは「立憲主義」を掲げ、国会で自公政権の腐敗を追及する立憲民主党の有力議員だった。その内容は文明国ではあり得ない、「忸怩たる思いというより、呆気にとられた」(大賀浩一弁護士)駄文だ。
 衆参両院の国会議員14人で構成される裁判官弾劾裁判所(船田元裁判長=衆・自民)は4月3日の第16回公判で、罷免訴追されていた仙台高裁民事第3部の岡口基一判事(2021年6月の罷免訴追で職務停止中)を「罷免する」との判決を言い渡した。判決に不服を申し立てることは認められていない。
 岡口氏は東京大学法学部を卒業後1994年に任官し、水戸地裁・大阪高裁などで主に民事訴訟を担当。知的財産権に精通し、ベストセラーの『要件事実入門』(創耕舎)、『要件事実マニュアル』(ぎょうせい)など著書も多い。
 岡口氏は昨年7月、3回目の裁判官任官(10年ごとに更新)を求めないと最高裁に通知し、その任期は4月12日までだった。再審もないため全員一致で判断すべきだが、任期の内に評議がまとまらなければ審議未了で罷免を免れるため、弾劾裁判所はあえて多数決とすることで判決を急いだ。
 裁判官としての“死刑”判決に等しい判決を起案したのは階猛主任裁判員(第2代理裁判長=衆・立憲)である。岡口氏と同じ東大法学部卒の階氏は弁護士資格を持っている。
 弾劾裁判所は参議院第2別館の9階にある。私は2022年3月から開かれてきた岡口氏を被訴追人とする公判を、第2回公判から記者席で取材してきた。キシャクラブメディア以外では、「週刊金曜日」の佐藤和雄記者と「弁護士ドットコム」の園田昌也記者(元熊本日日新聞記者)と私の3人の取材が認められた。
 私はこの弾劾裁判について本誌1月号に「『もの言う裁判官』岡口基一判事を罷免訴追した『弾劾裁判』の異常」というタイトルで書いている。経緯についてはそちらも参照してほしい。
 岡口氏は法曹仲間や法学者との意見交換の目的でブログを開設。その後、一般市民にも司法への関心を持ってもらおうとツイッター(現X)、フェイスブックでの投稿を始めた。
 岡口氏は、担当外の事件の関係者を傷つける投稿をSNSなどで計13回にわたって行なったことが「非行」に当たるとして、2021年6月に弾劾裁判の検事役である裁判官訴追委員会(委員長・新藤義孝衆院議員=安倍派)から罷免訴追された。

裁判日程に透ける岡口氏攻撃の狙い

 判決言渡しは、一週間前の3月27日のはずだったが、3月11日に、一週間延びて4月3日に変更になったという連絡があった。
 弁護団によると、岡口氏は罷免判決に唖然とし、言葉もなかったという。岡口氏は会見せず、フェイスブックに判決要旨の1ページの写真を添えて、「裁判ダメでした(笑顔の顔文字)」と投稿。同日深夜には、「今まで弁護団と飲んでいました(同)。みんな、大笑いして、楽しく、この5年間の思い出を振り返りました。弁護団はみんなボランティアです。これだけの方々に支援していただいた俺は本当に幸せ者です」などと書き込んだ。
 資格試験予備校「伊藤塾」は4月4日朝、Xで「伊藤塾専任講師として、民事実務、要件事実等の講義や書籍執筆で活躍します」と発表した。塾長の伊藤真弁護士は岡口氏の弁護団の1人で、弁護側の最終弁論を行なった。
 裁判員14人は、全員が衆参の国会議員(自民・公明・立憲・維新)。出廷をさぼる裁判員が目立ち、10人前後しかいないことがほとんどだった。予備員がいるのに出てこない。普通の裁判ではあり得ないことだ。

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